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輝く男性インタビュー

日本ボクシングは進化の途中!?大橋ボクシングジム大橋会長にこれまでのボクシングとこれからのボクシングについてインタビューして聞いてきました!

大橋ボクシングジムの大橋秀行会長

大橋ボクシングジムのキッズボクサーと大橋秀行会長

元ボクシング世界チャンピオンの大橋秀行会長が1994年に横浜で開設された大橋ボクシングジム。ご自身もさることながら、すでに4名の世界チャンピオンを送り出すなど輝かしい実績を誇る大橋ボクシングジムで、ボクシングの魅力や世界チャンピオンにまで上り詰めるボクサーとはどんな人なのか、そして日本ボクシングのこれからなど、ふだんお聞きできないようなお話を聞いてきました!

所属する井上尚弥選手によるWorld Boxing Super Series(以下、WBSS)の試合で英国に出発される前日のお忙しい合間に、笑顔でわかりやすくボクシングについてお話しいただきました。そんな会長のお人柄も伝わるようなインタビュー記事になるとうれしいです。

それではお楽しみください。

聞き手:たいせつじかん編集部

■ボクシングを始めて世界チャンピオンになるまで

ボクシングの現役時代を語る大橋会長

現役時代を笑顔で語る大橋会長

ー会長がボクシングを始めたきっかけを教えてください。

大橋さん:5歳違いの兄がいるのですが、兄の影響でボクシングを始めました。最初は、子ども同士の遊びなので、相撲や柔道などもありましたけどね(笑)

そして、中学生のころに横浜にあったボクシングジムに入会し、正式にボクシングを習い始めました。

その後は、横浜高校と専修大学のボクシング部へと進み、ヨネクラジムに所属し世界チャンピオンになりました。

ー会長が中学生のころは、ボクシングをする環境も今とは大きく違ったのではないでしょうか?

大橋さん:そうですね。今のように、健康促進を目的とした方や、女性、子どもの会員はほとんどいませんでしたし、そういった方は歓迎されていないような雰囲気がありましたね。

いうなれば、あしたのジョーの世界観がそのままという感じでしたから今とは大違いでしたね。

ーそのようなご経歴の中で、「あれっ、これは世界チャンピオンになれそうだぞ」とご自身でお考えになられたのはいつ頃なんですか?

大橋さん:そう思ったのは、中学3年生の頃ですかね。そのころから、日本チャンピオンのプロボクサーに勝つこともあったので、いけるかもしれないなと思いましたね。

実際は、そう簡単ではなかったですね。中学3年生から思い始めて24歳までかかりましたから(笑)

ーご自身で振り返られて、世界チャンピオンになる過程で印象に残っていることはどんなことですか?

大橋さん:もう30年近く前の話なので、ボクシングも大きく変わりましたね。私が現役のころは、試合前の減量中は水を飲んではいけませんでした。そのため、試合当日は熱が上がってしまって大変でしたね。さらに当時は当日計量で試合でしたからそのままの状態で試合に臨んでいました。

ーなるほど、減量方法も含めてボクシングは変わったんですね。

大橋さん:今では、水を飲みながら減量をします。練習をすれば汗で出ていくのであまり変わらないんです。さらに、水がからだの熱を下げてくれる役割をするのでからだが熱をもってしまうということもありませんからね。

ーでは、ご自身の試合で印象的な試合はありますか?

現役時代のライバルを語る大橋会長

張選手との写真に微笑む大橋会長

大橋さん:世界戦挑戦の1戦目と2戦目の相手選手が、韓国の張正九(チャン・ジョング)選手なんですが、彼との試合はとても印象に残っています。結局、彼には勝てなかったのですが、彼との試合に臨むうえで、常に彼を頭の中でイメージし続けていたので、試合で対峙したときに他人の感じがしなかったですね(笑)

自分でいうのもなんですが、倒し倒されのとても良い試合をしました。彼との2試合を通じて、自分はとても成長できましたし、この敗北があったので私は世界チャンピオンになれたと思っています。

ボクシングは、荒々しいスポーツですが選手同士はお互いにしっかりとリスペクトしあっています。ですから、彼とは今でも親交があります。週に1度は電話がかかってきますからね(笑)

■努力をしない選手は世界チャンピオンにはなれない

大橋ボクシングジムの世界チャンピンの写真

ジムに飾られている世界チャンピオンの井上選手、八重樫選手の写真

ーご自身も世界チャンピオンになられて、大橋ジムからは4名(川嶋勝重・八重樫東・井上尚弥・井上 拓真)の世界チャンピオンを送り出されているご経験から世界チャンピオンになる選手の特徴はありますか?

大橋さん:ボクシングは、身体能力が重要なスポーツだと思われがちです。しかし、世界チャンピオンになる選手は、見えない目標に向かって来る日も来る日も練習し続けることができるメンタルをもっているかどうかがとても大切です。

井上尚弥の同世代の選手に、身体的な才能では彼を超えると思われる選手がふたりいました。しかし、続けられたのは井上だけでした。

ー見えない目標に向かって愚直に練習を積むということは、とても大変なことなんですね。

大橋さん:井上のように世界チャンピオンになっている状態であれば、日々の練習にも目標を見出しやすいですが、そのほかの多くの選手は世界チャンピオンになる権利はあってもなれる保証はいっさいない状態で来る日も来る日も練習をするんですから大変です。

努力が必ず報われるわけではない厳しい世界ですが、努力をしなければ絶対に世界チャンピオンにはなれないんです。

努力をせずに世界チャンピオンになった選手は聞いたことも見たこともありませんが、努力が才能を凌駕して世界チャンピオンになった選手はたくさんいます。

その最たる例が、川嶋勝重です。彼がボクシングを始めたときは既に21歳でした。きっかけもうちのジムに通っている友人の試合を見たことでした。

最初から、ボクシングの才能はないと言ってもいい状態でしたので、趣味程度に続けることを進めたのですが、勤めていた超有名企業を退職して来てしまったのでしかたなく受け入れた感じでした。

その後も、プロテストを受けることを3回も止めましたからね。

ーそれは、プロテストを受けても合格できないことがわかっていたからですか?

大橋さん:いいえ、そうではなく危ないと思ったからです。プロになりたての選手とスパーリングをさせても、過呼吸で倒れてしまったりしていたので、誰がどう見てもボクシングには向いていませんでした。

あと、今の選手はほとんどが学生時代にアマチュアボクシングを経験しています。そのため、プロになるまでに実戦経験を積んでいるんです。うちのほかの世界チャンピオンの八重樫、井上兄弟もアマチュアボクシングの経験があります。彼らは世界チャンピオンになって当たり前だと思っていました。

ーでは、会長はいつごろから川嶋選手が世界チャンピオンになれるぞと確信を持たれたんですか?

大橋さん:世界チャンピオンになるまで確信は持てませんでした。

でもね、川嶋がほかの選手よりもすぐれていたことがふたつあるんです。

ひとつは、練習に対する集中力です。3分のスパーリングに集中し続けるちからを川嶋は持っていました。練習にあそこまで集中できる選手はなかなかいません。

ボクシングの練習でもそれ以外の練習でもそうですが、練習は手を抜こうと思えば抜くことができるので、突き詰めると自分との戦いなんですね。その戦いに勝ち続ける才能とも言えますね。

もうひとつは、からだの耐久力です。仮に10日間の合宿をしたとします。川嶋は、最初の5日間はロードワークでは負けてしまいますが、6日目以降は川嶋が勝ちます。これもすごいことです。とにかくからだが強かったですね。

そうこうしているうちに、27歳で世界チャンピオンになりましたら彼は本当にすごいです。

ー川嶋選手のお話はボクシング以外のことに挑戦されている方にもとても勇気をもらえるお話ですね。

■ボクシングはもっと多くの人に楽しんでもらえるとずっと思っていた

大橋ジムでボクシングをするキッズボクサー

大橋ボクシングジムのキッズボクサー

ー今日もたくさんのちびっこボクサーが練習されていますが、ボクシングをやるお子さんは増えていますか?

大橋さん:ほかのスポーツと比べてボクシングは全体的な母数は多くはありませんが、子どものボクシング人口は増えています。

ボクシングは痛みを知ることができ、さらに自分との戦いを続けるスポーツですから子どもの成長過程においてとても良いスポーツだと思います。

ー大橋会長が現役でいらしたころと比べてボクシングをスポーツとして楽しむ方が増えていると思いますが、その理由はどういうところにあるとお考えですか?

大橋さん:ボクシングはとてもシンプルなスポーツですし、さらにストレス解消にもなります。また、続けているときれいにからだが締まってダイエットになります。これらの点を考えても現役のころから、もっとたくさんの人に楽しんでもらえるスポーツだと思っていました。

しかし、当時のボクシングジムは、プロボクサーが練習をし、それ以外はおじさんボクサーが目標もなくサンドバックをたたき続けるだけでした。

この状況を変えようと私は現役引退後にふたつのボクシングを提案して主導して始めました。

①キッズボクシング大会の開催:子ども向けボクシング大会です。最近の世界チャンピオンの多くはこのキッズボクシングを経験しています。これにより、日本ボクシングのすそ野を広げることができると考えました。第2回のチャンピオンは井上尚弥ですね。

②エアーボクシング:実際のリングを使い、選手同士が向かい合いノーコンタクトでシャドーボクシングをします。選手は自分のエリアが決められておりこのエリア内しか動くことができません。こちらは、子どもから女性、シニアまでたくさんの方にボクシングを楽しんでいただけるように考えました。

このふたつのボクシングも通常のボクシング同様にチャンピオンをめざすことができ、ボクシングをやるうえで誰でも目標が持てるようになっています。

最終的には後楽園ホールで、実際にリングアナウンサーのもとで試合が行われ、世界、東洋、日本チャンピオン経験者が審判となって判定をします。日常にはない、緊張感の中で試合をしてもらいます。

ー引退された後は、ボクシング界の繁栄にちからを注がれているんですね。

大橋さん:私は、子どもがやらないスポーツに未来はないと思っていますので、もっと子どもたちにボクシングをやってもらえる環境を作りたいなと思っております。欧米では、キッズ・ジュニア世代のボクシング大会は昔から行われていましたが、日本では高校生からボクシングを始める人がほとんどでした。当然ですが、技術的に見ても欧米の選手に比べて日本の選手は劣るところが多かったです。

でも、今はそうではありません。欧米と同じように小さいころからボクシングの試合を経験している選手が多いですから、技術的に見ても見劣りすることはありません。

ー大橋会長から見ても日本のボクシング界は底上げされているんですね!

大橋さん:そうですね。全然違います。昔と今を比べてどうこうという話ではなくて、今の選手は欧米の選手に技術で負けることがないという事実があるということが大切ですね。

ー井上選手のようなスーパースターが登場したということもこういった積み重ねの結果なんですね。

大橋さん:そうですね。やはり20年くらいかかって積み上げたものは、大きいと思いますね。

ー大橋会長、今日はどうもありがとうございました。

番外編:興味本位で世界チャンピオンに質問しました!

大橋ジムに飾られているベルト

たくさんのチャンピオンベルトが飾ってありました。
質問1:減量ってどのくらいの期間で目標体重に合わせるんですか?

大橋会長:人によって違いますが、1カ月から2週間くらいかけて徐々に体重を落としていきます。最近では、水抜きという方法があって1日で5キロも落としたりする選手がいますが、これも技術が必要なので見様見真似でやると失敗します(笑)

質問2:試合中のことって覚えていますか?

大橋会長:すべて覚えていますね。ああすればよかった、こうすればよかったと試合後に思い返します。ですから、負けた試合のほうが私は成長した気がしますね。

質問3:対戦相手のことは事前に研究をされると思いますが、実際に試合に入ると違うものですか?

大橋会長:強い選手ほどイメージと違いますよね。強い選手ほど、実際のゴングが鳴るまでは目を合わせません。ゴングが鳴った瞬間に目にちからが入りにらまれたときはビビッときますよ。

質問4:井上尚弥選手は元世界チャンピオンの目から見てもモンスターですか?

大橋会長:最初から別格でした。身体的にずば抜けたものを持ちながら努力をし続けられる選手なんです。世界中どこでやっても負ける気がしません。

日本ボクシングの世界チャンピオンの歴史は、白井義男さんから始まって70年以上たっていますが、過去に類を見ない選手です。

 

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

日本中が注目する井上尚弥選手のWBSS準決勝の地、イギリスに渡航される前日のお忙しい中でのインタビューにも快くおこたえいただいた大橋会長は、とても物腰柔らかに私の質問にお答えいただきました。

選手として日本ボクシングを支え、引退後も日本ボクシングの繁栄にちからを注がれている大橋会長のお話は希望に満ちていました。キッズボクサーの育成にちからを注ぎ、第二第三の井上選手を育ててくれると思います。

ますます、日本ボクシングから目が離せません!まずは、井上選手のWBSS決勝戦が楽しみですね。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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