たいせつじかん ?ほっと一息。少し休憩。幸せな時間?

輝く女性インタビュー

【前編】横浜市金沢区にある金沢シーサイドタウンにある「並木ラボ」。ラボがこの地でどのように機能しているのか、横浜市立大学准教授 三輪律江さんインタビュー

横浜市立大学准教授 三輪律江さん

横浜市金沢区・金沢シーサイドタウンは、横浜市6大事業のひとつとして、金沢区の埋め立て地に開発された郊外団地。この一角の並木町1丁目に【並木ラボ】はあります。ここは、平成25年横浜市立大学が文部科学省「地(知)の拠点整備事業(以降COC事業)」の採択を受け、地域、大学、行政が協働して地域課題に取り組んでいくに際し、大学と地域をつなぐまちづくり拠点として設置されました。

金沢シーサイドタウンの開発から40年以上が経ち、このまちも、全国のニュータウンと同様に、急速な高齢化、担い手不足など多くの課題を抱えています。少子高齢化がますます深まり、行政や地縁組織だけで地域課題を対策することに限界が見えるなかでは、住人が当事者として課題をとらえ、取り組むための「きっかけ」が必要となっています。

【並木ラボ】はこの「きっかけ」をどのように創ってきたのか、そして現在、まちづくり拠点として並木ラボはどのように機能しているのか―並木ラボの創始である[UCDN並木ラボ]の創設・運営に携わり、COC事業終了後も、新たな体制での並木ラボ運営に携わる横浜市立大学 三輪律江准教授にお話をうかがってきました。

聞き手:たいせつじかん編集部

■アーバンデザインのさきがけ―色あせないまち[金沢シーサイドタウン]

金沢シーサイドタウンにあるふなだまり

金沢シーサイドタウンにあるふなだまり。まちの中に海の景色が溶け込み、ひとはゆったりと時をすごしていました。UDCN並木ラボFacebookより

-本日はよろしくお願いします。金沢シ-サイドタウンと聞いて、八景島やアウトレットモ-ルなどのショッピングや観光スポットを思い起こしていたのですが、ここ並木町はそのイメ-ジはまったくない閑静な居住地区なのですね。でも、このまちは、非常に特徴的な構造をしている気がしましたが。

三輪准教授:金沢シ-サイドタウンは、横浜市6大事業のひとつとして、金沢区の埋め立て地に開発された郊外団地です。コンパクトなのだけどいろいろ実験的なこともしていて、この地区開発で得たノウハウなどを、横浜市都筑区の港北ニュ-タウン開発に適応したりしています。たとえば、団地内の通過交通を遮断して歩行者専用道路に沿って建物を計画的に配置する施策によって、まちのひとびとは、遊歩道を通れば、ス-パ-や学校などへ向かえるようになっています。

-特徴的だと感じたのは、遊歩道などを活かした“計画的なまちの配置”だったのですね!確かに、港北ニュ-タウンにも同じような街並みがありますね。人気のまち・港北ニュ-タウンのモデルになったまちですから、このまちにも子育て世代の住みやすさが詰め込まれているのでしょうね。そうすると、このまちでは、子育て世代の増加やそれに伴う高齢化率の低下も期待できるのではないですか?

三輪准教授:高齢化率は3割を超え。横浜市の平均より高く、このまちの高齢化問題も、全国のニュ-タウンの深刻度合とかわりはありません。新しい世帯は一定数いますが、残念ながら高齢化を解消するほどの数ではありません。しかし、わたしたちの調査研究では、ここで育ったことに価値をもち、「ここで子育てしたいな」と戻って来られる方が、住み戻りやご両親との近居を実現されたり、タウン内での住み替えも頻繁に行われていることがわかっています。

-住み替えや住み戻りをしてでもこのまちに住む価値を感じている方が多いというのは、やはりこのまちに大きな魅力があるのですね。

三輪准教授:このまちは、約40年前、「職住近接」「定住型」を念頭に置き、横浜市の積極的な都市デザイン行政のもと、建築家の槇文彦氏や大高正人氏らが「まち」そのものを設計してきました。当時日本ではこのような手法の前例がなく、このまちがア-バンデザインのさきがけともいわれています。

このまちは、まちのシンボルであるふなだまりに沿って高い団地がありますが、庭付きの低層の集合住宅やテラスハウスなども多く、さまざまな住まい方ができるのは魅力のひとつでしょう。たとえば、住み戻りなどの時に、いったん賃貸に入って、それから中古を購入したり、親が施設に入ることで、賃貸に住んでいた子世帯が親の住居に入ったり、高層住宅に住んでいた人が、歳をとって住みやすい低層住宅へ移ったりと、さまざまな住み替えや住み戻りが行える要素があります。また、当時の高度成長期のニュ-タウンの世の中の潮流に比べれば、かなり低密度。足元が豊かで、緑が多いのも魅力といえるでしょうね。

並木町のふなだまり

並木町のシンボルふなだまり。団地の中の並木道を抜け、大型ス-パ-の角をまがると突然現れるこの海は、生活の中に溶け込み、初めてみる人には不思議な光景に映ります。

■「住みやすさ」から「地域への愛着」は育まれるのか!?

金沢シ-サイドタウンサマ-フェスタの風景

金沢シ-サイドタウンサマ-フェスタの風景2018年7月並木ラボFacebookより
-みなさんはこのまちに「住みやすさ」という価値を感じていらっしゃるということですね。では「地域に対する愛着」という面はいかがでしょう?まちの行事や歴史、地縁組織など、コミュニティ参加への関心も高いのでしょうか?

三輪准教授: このまちでは、金沢シ-サイドタウンサマ-フェスタというお祭りを開催していますが、近年は2日間で1万数千人規模の来場者があり、町内会で寄付を募って打ち上げ花火があげられる規模のイベントになっています。注目すべきは、この来場者のほとんどがこの地域にゆかりのある人であること。このまちに住む人はもちろん、以前住んでいた人がこのイベントのために、このまちへ帰ってきます。しかし、このサマ-フェスタの持続も、町内会役員の高齢化などにともない課題はあります。この地域も、ほかの多くの地域と同じように、担い手不足の課題は抱えています。

一方で、大学で行った「このまちのいいところはどんなところですか?」という調査の結果、「このまちの価値」が共通のキ-ワ-ドで共有されていることが確認できています。「フラットで移動しやすい」「緑が多い」「海がある」という面は、おとなも子どもも関係なく、このまちの価値として挙げられました。またこれは、このまちの開発当初に住み始めた人、近年住み始めた人など、このまちに住まっている期間でも違いなく、このキ-ワ-ドが挙がりました。

 

-個々の住まい方、住まってからの歴史、年齢層などが異なっても、このまちに同じ価値を感じているということですね。これはシンプルなようですが、すごいことです!自分が住んでいる地域を考えてみても、住民全体で同じ価値を共有するなんて、とても難しいことだと思います。

三輪准教授:問題は、その価値を持続可能なものとすることや、この価値を継承していくことについて、自分ごとへのしづらさがあること。また、世代や住まっている期間によっても、この感覚は少しずつ違っています。このまちは、いちばん古い人でも40年ほどしか経っていないので、ほかの地域と比べると、住人同士の歴史の差は小さいですが、最近住まい始めた第三世代の人にとっては、いろいろなものがすでにできあがっているところに移り住んできているため、それらを作ってきてくれた人やその歴史のことを理解するというのはなかなかむずかしい。住民全体が、共通キ-ワ-ドでまちの価値をもち、ぼんやりとした地域への愛着はみんな感じているが、それを持続可能なものとなるようにマネ-ジメントしていくという体制は必要だということでしょう。

■5年の歳月がつくりあげた「拠点」としての信頼感

並木ラボ入口の様子

並木ラボ入口。ガラス張りの明るくオ-プンな外観。中で誰かが手を振って招き入れてくれる-そんな雰囲気。「あしたタウンプロジェクト金沢シ-サイドタウンホ-ムペ-ジ」より

-これまでのお話で出てきた地域課題の解消を念頭に、横浜市立大学がまちづくり拠点として「UDCN並木ラボ」を設置し、現在「あしたタウンプロジェクト」という活動にシフトチェンジしているということなのですが、「並木ラボ」と「あしたタウンプロジェクト」の関係性やそれぞれの役割、また、それらがうまれた背景や経緯を教えていただけますか?

三輪准教授:「UDCN並木ラボ(以降ラボ)」は、横浜市立大学が文部科学省の外部資金であるCOC事業を採択されたのを機に、大学と地域をつなぐまちづくり拠点として設置しました。ラボはCOC事業の一環として、金沢シ-サイドタウンの「コミュニティ活性化」や「健康に暮らせるまちづくり」の役割を担い、キッズスペ-スなどを備えたオ-プンスペ-スの提供や、イベント・セミナ-を行い、住民交流の場として発展してきました。ラボは開所当初から、特定の世代、特定の層をタ-ゲットにせず、さまざまな個人や組織が、ゆるやかに集い連携する関係性の構築をめざしてきました。その結果、これまで町内会などの地縁組織とつながりをもってこなかった新たな人との出会いや、既存の団体に属している人が、異なる軸でつながる新たな交流のきっかけが生まれ育ちました。

このCOC事業活動を通して、コミュニティの活性化や地域課題の解決には、地域内外の情報収集や発信体制と、地域住民同士の交流促進には、拠点となる場が必要だということを確認し、そこから、大学、地元企業、行政、横浜市住宅供給公社(市住宅供給公社)、地域住民の方々とともにエリアマネジメント検討会を発足して、将来の金沢シ-サイドタウンがめざす姿やビジョン、それを実現するための取り組みについて話し合ってきました。そして、2018年5月、この活動を具体的なアクションへ進化させるために、この検討会は、「エリアマネジメント協議会」という形にシフトチェンジしました。この協議会が始動させたのが「あしたタウンプロジェクト」です。

「あしたタウンプロジェクト」の名前には、 「このまちの豊かな毎日をあしたにつないでいこう」という思いが込められています。このタイミングで、「UDCN並木ラボ」は、運営主体が大学から協議会へ移り、昨年7月にあしたタウンプロジェクトの活動拠点として移転・機能拡充し、新たな「並木ラボ」として生まれ変わりました。

-大学主体であった「UDCN並木ラボ」が、この地域の社会資源-必要な場所-として迎えられたということですね!並木ラボが、まちづくりの拠点として地域から信頼された結果といえますね。

■ゆるやかなつながり広げる「集い方の多層化」

並木ラボ正面の様子

UDCN並木ラボの正面。UDCN並木ラボFacebookより

-はじめからラボの目的や、ラボが住民にとってどんな存在になるのかを、住民の皆さんには理解し、受け入れられていたのですか?

三輪准教授:「こういうことをするよ」というのはお知らせしていたので、ラボが開設されると関心がある人はみずから入って来られました。そこでいろいろ説明していると、「そういう意味で大学が入ってきてくれるのはいいことだよね」と言ってくれたり、思いのほか反応は悪くありませんでした。これからやろうとしていることに対して、対話が成立する人たちがたくさんいるんだなと思いました。しかし、実際にラボってこういうところよとわかってもらうのには1年半くらい時間をかけたと思います。

-その1年半、どういうことをしてきたのでしょうか?

三輪准教授:こんなことができるといいなという話の積み重ねをしましたね。何をしていこうか、どういう風にもっていこうか、できること、できないことは何か。とにかく話をしていくと、コミュニティカフェをしたい人がやって来たり、リタイアしたばかりで地域とのつながりがない人が訪れたりと、人と人とがつながり始めました。

とても印象的なことがあります。つれあいをなくされた男性が、ラボのオ-プンの日に来られて、「大学が来ていろいろしようとしてくれてるの、すごい楽しみにしてたんだ」とおっしゃって、わたしたちも「いつでも来てください」とまちのおばちゃん状態で話をしていました。ある夜、その方がラボに来られて、「カレ-作ったんだけど、息子も遅いし、ひとりで食べてもつまらないし。先生たちいっしょに食べないかな」と、カレ-を持ってきてくれたんです。わたしたちはカレ-をいただきながら、どんなまちになったらいいかしら、何があったらいいかしら、なんていろいろ話をしたのですが、大学が何かをしてくれるという期待とは別に、「だれか話し相手が来てくれることがうれしい」という人もいらっしゃるのだな、こういう方たちの求めもラボにはあるのだなと思いました。

-ふらっと寄った時に、そこにだれかがいてくれる、だれかが話を聞いてくれるという安心感ですよね。

三輪准教授:ほかにもこんな方がいました。毎日ラボに来ては、ご自分が作成したHPをチェックしている男性の方。しかし、ある日大きな転機が訪れます。当時、わたしたちが大学教員だからか、パソコンの相談されることがとても多くて、どうしようかと悩んでいました。そこで、パソコンが非常に詳しい彼に、「ここでパソコンの相談室みたいなことやってみませんか?」ともちかけてみたところ、「やってみようかな」ということに。それが、いまでは仲間が仲間を呼んで、その方以外にも先生的な方が増えて、ラボでの名物コ-ナ-になりました。そこでは、問題が解決して、相談が終わっても、まだおしゃべりを楽しんでいる姿がみえるのです。

-パソコンの質問がきっかけで出会った、教える人、教えてもらう人同士で、とりとめのないおしゃべりを楽しむゆるいつながりが生まれ、そこから小さな新しいコミュニティができ上がったということですね。

ラボに来る人たちの中には、町内会活動をやっている人、やっていない人、どちらもいます。つまり、町内会では出会えなかった人がつながれる場所ということです。ラボは、意識的に、町内会などの既存の地縁組織とは別のレイア-で住民のみなさんと関わっています。サ-クル系の集まりやテ-マ型のボランティア活動などに参加している方も、それとはまったく別の目的や枠組みで関わる場面をラボが作り、人の集い方を多層にしているのです。もちろんそこには、どの組織にも属していない人もいて、ラボはそういう人が集える場所にもなっています。

ラボに集う人の中には、この町のことをなんとかしたいという方がふつふつ存在していて、その方たちは従来の町内会ではみえづらい人たちでしたが、我々を通して、その人たちがまちの中の存在として見えてくることは、並木ラボのひとつの価値といえます。

前編はここまで!後編をお楽しみに!

編集部のひとこと

編集長

かなさん

日本の多くの地域が抱える少子高齢化などの地域課題の解消に、大学が主体となって取り組んでいる非常に興味深いまち-金沢シ-サイドタウン。まちの名前「並木」をとった地域活動拠点「並木ラボ」が、まちの人とどのようにつながっていったかを知る前編でした。後編では、このつながりが、まちを超え、周辺エリアへと広がっていく様子をインタビュ-します。
今、日本のいろいろな地域において、さまざまな組織が運営する地域活動団体がありますが、この大学が手掛ける地域づくりのノウハウが、全国の地域活動団体の課題解消のためのアイデアやヒントになればと思いました。後編もどうぞお楽しみに!

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

あわせて読みたい