輝く女性インタビュー
- 全国の犬猫を救いたい!おーあみ避難所 大網直子さんインタビュー
おーあみ避難所 大網直子さん
横浜市青葉区にあるさまざまな理由で保護された犬猫のためのシェルター「おーあみ避難所」。自宅を解放し、おーあみ避難所を運営している大網直子さんへのインタビュー。約60名いるボランティアの協力のもとに運営されているおーあみ避難所の現状や、犬猫を取り巻く飼育環境の変化のお話、さらにおーあみ避難所を本格的に始めるきっかけとなった福島原発20キロ圏内 犬・猫救出プロジェクトのお話などをお聞きしました。
全国で1,800万頭を超えるといわれるペットとして飼育されている犬猫が、必ずしも幸せな一生を過ごせるわけではないという現実に取り組むことは、私の役割なんだと思うと語る、彼女の力強いメッセージをお聞きください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■犬や猫の声がよく聞こえる
犬猫について語る大網さん
ー犬や猫は小さいころからお好きで飼っていたんですか?
大網さん:小さいころからよく犬や猫を保護して飼っていたんです。私は、ほかの人よりも犬や猫の声がよく聞こえるのかもしれませんが、犬や猫を見つけることが多かったんですね。その時は、可愛いと思うよりも先になぜこの子たちはここにいるのかと心配になってしまうんですね。そうするとみんなついてきちゃうんです。
そんなこんなでずっと犬や猫に囲まれた生活をしていて、結婚するときには8匹の猫を嫁入り道具に嫁ぎましたね(笑)
ーなかなかめずらしい嫁入り道具ですね!では、ずっと犬猫に囲まれた生活なんですね。
大網さん:そうなんです、でもどんどん増えていくんですよ。
ー犬猫を見つけてしまうからですか?
大網さん:そうですよね。どんどん拾ってきてしまうので、これは困ったなと思っていたところに、インターネットで里親募集ができることを友人に教えてもらったんです。
最初は見ず知らずの方に預けるのは嫌だなと思っていたのですが、何名か里親希望の方とお会いしていくうちに、そのような不安もなくなって行きました。その後、これを私が続けていくと救える命が増えるのではないかと思って、趣味程度に続けていたんです。
この里親探しを始めたことが、今の活動を始めるきっかけだと思います。
ー最初は、趣味程度の規模だったんですね。
大網さん:当時は、今のような大型のシェルターをやるつもりはありませんでしたし、そもそもできると思っていませんでした。だって、自宅を解放してたくさんの犬猫を飼うわけですから、お正月も含めてお休みはありませんし、プライベートがいっさいありません。そして、いちばんは生き物を扱うというのは責任が伴いますから中途半端な気持ちではできません。
ーでも、お仕事を辞められてからかなり変わられたんですよね?
大網さん:そうなんです。それまでアパレル企業で働いていたのですが、かなり仕事人間でした。しかし、40歳をきっかけに夫とも相談をして退職したんです。退職した時は、主婦生活を満喫してやるぞと思っていました。でも、時間ができると自然と犬猫の情報が入ってきてしまうんですよね。そうなると、無視していられないですから少しずつ数が増えていきました。そのころからは本格的に犬猫の保護をして里親探しをするようになりました。
■福島原発20キロ圏内 犬・猫救出プロジェクトへの参加は偶然の積み重ねだった
福島での救出活動中の様子
ー東日本大震災が起こり、ジャーナリスト山路 徹さんの呼びかけに応じて福島に犬猫の救出に行かれることになった経緯を教えてください。
大網さん:小学校まで福島で育ったということもあり、震災後、すぐに福島の犬猫の状況についてインターネットで調べはじめました。その中で、原発事故の影響で住民が避難してしまった街に残された犬猫の救出を呼びかける山路さんの投稿を見つけたんです。
でも、まさか自分が福島に犬猫の救出に行くとは思っていなかったですし、そもそも一般人の私が福島に行けるとは思えない状況でしたからね。
ーでも、実際は福島に犬猫の救出に行かれるわけですが、その理由を教えてください。
大網さん:3月30日の夜に山路さんが「4月1日から原発避難区域に指定されている街が完全に封鎖されてしまうからいっしょに救出に行ってくれる人の募集」という救出活動を実行するという投稿をしたんです。
それを読んでもう行くしかないと思い、山路さんに連絡を入れ、そのまま翌朝の4時に東京で山路さんたちと集合して福島に向かいました。
ーかなりタイトなスケジュールだったんですね!
大網さん:夜の10時に連絡がついて翌朝4時集合だったのでかなりタイトですよね。
犬猫の保護をする活動をしていますから、車も大きいですし、ケージもリードもありますから、詰めるだけ積みました。あと、不思議なことですが震災とは関係なく、ペットフードを段ボールひと箱分寄付してくれた方がいて、ペットフードも手元にあったんですよね。
ーその状況ですと、大網さんほど適任者はいないですね!かなりの人数が集まっていたのですか?
大網さん:私もすごい集団がいるはずだと思っていたんですが、東京には私を含めて4名で、福島についたら2名が合流したので合計6名でした。
福島に向かう途中で山路さんが「専門家が加わってくれました」という投稿をしていたのですが、これは私のことでしたし、その他のスタッフの方から、どうやったら犬と仲良くできますかって聞かれたのでちょっとだけ不安になりましたね(笑)
あとは、警戒区域に入る前に、山路さんからこの活動は自己責任ですがよろしいですね?と聞かれたことが印象的ですね。私は行く気満々で鼻息が荒くなっていますから「当然です!」とこたえましたね(笑)
ー「なにを今更」という感じだったんですね!警戒区域内では、どのような順番で犬猫を探しにいったのですか?
大網さん:この救出活動を事前にご存じであった一部の飼い主さんから、山路さんに直接救出の依頼があったので、そのお宅から回りました。
忘れもしませんが、1匹目はプリンちゃんという犬(キャバリア)でした。住民の避難からかなりの日数が経過していたので、最悪生きていない可能性もあるわけなんですね。ですから、はじめはとても緊張したことを覚えています。
幸いにも、この子は生きていましたので救出ができました。
ー緊張感が伝わってくるお話ですね。
大網さん:そうですね。さらに印象的なのは、私たちが車で走っていると飢えと人恋しさから、犬たちが寄ってくるんですね。
その犬たちを次から次へと避難区域の外に出していきました。ラジオに出て一時的にでも犬を預かってくれる方を募集していたので、そういった方たちの協力も得ながらできる限り救出活動を続けました。
ー封鎖までに1日で、できるだけ救出をしたんですね?
大網さん:そうなんです。しかし、実際は4月1日で完全封鎖はできなかったので、救出を続けることができました。
たくさんの犬猫がいることを知っていながら見過ごすことはできないですから。私は、このまま救出を続けたいと思いました。
ですので、その日は自宅での用事だけを済ませるために帰宅し、4月1日にまた福島へ戻って救出活動を続けました。それが「福島原発20キロ圏内 犬・猫救出プロジェクト」のスタートです。
ーそこからどのくらいの期間、福島へ通うようになるのですか?
大網さん:おそらく2年半くらいだと思います。
ー2年半も通い続けたんですね。その間どのくらいの数の救出ができたんですか?
大網さん:開始当初は、とにかく必死だったので数を正確に数えられていないんですが、おそらく200匹以上だと思います。
しかし、すべての犬を救出できたわけではなく、安全に連れてこられる子だけが救出できました。
私たちが怪我をしたら救出活動に支障をきたすので、それは絶対に避けなければいけなかったのです。おびえたり、攻撃的な子はエサだけ置いてくるしかありませんでした。
救出できた子は、安心するのか車の中でぐっすり眠っていたことが印象に残っています。
ずっと人に飼われていた犬が、急に自然に放り出されてさまよっていたわけですから、疲れていたんでしょうね。
ーそうなんですね、犬も極度の緊張状態から解放されて安心したということなんでしょうね。
大網さん:そうですね、この救出活動はこれまでに経験したことのない救出活動になるなと実感しました。
■おじいさんの涙を忘れない
ーこの活動を通して保護した犬猫は、無事に飼い主のもとに戻れたのでしょうか?
大網さん:保護した子たちの多くが飼い主のもとに戻れませんでした。避難された飼い主さん側が飼い続けられる状況になかったということが大きな要因です。
ー仮設住宅であったり、親戚の家に身を寄せたりされている状況では、受け入れることが難しかったんですね。
大網さん:原発事故が起きたことにより、多くの飼い主と犬猫がいっしょに生活することができなくなってしまった現実があります。
しかし、飼い主のもとに戻れた子もいます。そのときの飼い主さんの笑顔を見たときに、犬猫の救出は間接的に飼い主さんを助けることにもなるんだと気が付きました。
警戒区域内の飼い主さんは、犬猫を残してきたという罪悪感にさいなまれていた方がたくさんいらっしゃったんです。
ー住民の避難から時間がたてばたつほど救出できる可能性が低くなりますから、どんどん難しくなりますよね。
大網さん:当然、亡くなっていたというケースもあります。
飼い主さんのお話では、避難用のバスの集合場所にやむを得ず柴犬を繋いできたということでしたので、そこに向かいました。避難されてから1カ月近く経っていたので心配ではありました。
現地に到着すると、繋がれた状態のまま亡くなっている柴犬がいました。
最後は飼い主さんに会わせてあげたいと思いましたが、生きている犬猫を優先するべきだとチームのみんなに説得されて、首輪だけを飼い主さんにお渡ししました。
-生き物の生死を目の当たりにするということは、心身ともに厳しい活動ですよね。
大網さん:そうですね。人を笑顔にする活動でもありましたし、悪夢のような現実を目の当たりにする活動でもありましたね。
最後にどうしても忘れられないおじいさんのお話をさせてください。
私たちが、いつものように救出活動をしていると、ひとりのおじいさんが隠れて犬にエサをあげていました。警戒区域内ですから、危険をおかしておじいさんがエサをあげに来ているということは聞かなくてもわかりました。話かけようとすると、おじいさんは家に隠れてしまいました。
「この状態のまま飼い続けることはむずかしい。この子を私たちに託して、警戒区域内から出してあげましょう」と説得をしたんです。
それを聞いたおじいさんは必死に涙をこらえながらしぼりだすように「しかたねぇ。こいつのためだ」とつぶやいたんです。
ふだんなら、泣くことなんてないだろうと思うおじいさんが泣かなければいけない現実が目の前にあったんです。
-とても胸が痛いお話です。震災と原発事故についてはさまざまな側面が語られていますが、犬猫という視点で見ることはありませんでした。とても、考えさせられるお話ですね。
■ペットの殺処分問題とボランティア活動の課題
ぐっすりと眠るおーあみ避難所の猫
ー現在のおーあみ避難所について教えていただきたいのですが、実際に運営はどのようになされているんですか?
大網さん:今は、約60名のボランティアさんとともに犬猫を100匹以上保護しています(一時預かりボランティアさん宅での保護も含む)。運営は、フードや猫砂などお世話に必要な品物でのご支援、募金やご寄附、犬猫を里親さんへお渡しするまでの必要経費としていただく譲渡費用などで賄っている状態です。保護した犬猫は必ずしも健康体ではありませんから、動物病院に通院するなど日々の医療費も少なからずかかっています。
ーボランティアさんやご支援品などはどのように募っているんですか?
大網さん:ボランティアは、SNSやチラシなどで募集しています。ご支援品についてはAmazonの欲しいものリストなどを利用しています。里親会会場での募金箱設置やホームページでの支援金振込口座の告知もしています。
ー現在では、さまざまなところから保護の依頼があるそうですね。
大網さん:保護のご依頼はさまざまなところからありますよ。個人的に犬猫を見つけて連絡をくれる方もいらっしゃいますし、多頭飼育崩壊が起きた現場からの連絡、あとは、地方の同じような活動をされているボランティアさんなどですね。
ー多頭飼育崩壊について詳しく教えてください。
大網さん:多頭飼育崩壊は、大きく分けてふたつです。去勢避妊手術をせぬまま、あれよあれよという間に数が増えて飼うことができなくなってしまった個人の飼い主さんの場合と、私たちと同じようなシェルターの崩壊です。
大網さん宅の一室の様子。たくさんの猫たちが生活をしています。
-シェルターの崩壊は大網さんにも当てはまる話ということですね。
大網さん:そうなんです。生き物を相手にする活動なので、心身ともに疲れてしまうという方も多いんです。
私もシェルターを続けるうえで、淡々とやるべきところはやると決めています。どうしても個々の犬猫への思い入れが強くなってしまいますので、疲れることの方が多いです。しかし、私たちが倒れてしまっては元も子もありませんからね。
また、私も永久に活動を続けられるわけではありませんから、後継者を探すか徐々に縮小をしていくことが必要になってくるということを認識しています。
ー地方からの保護依頼もあるとのことですが、それはなぜなんでしょうか?
大網さん:栃木県、沖縄県、香川県などから引き受けているのですが、とくに今年になって香川県からの依頼が多いです。香川県は、犬の殺処分数が8年連続でワースト1位なんです。理由は、温暖な気候で犬が繁殖しやすいということ、あとは、高齢化で空き家が多く犬が隠れやすい環境にあることなど、さまざまな要因が重なりあってのことだと聞きました。香川県には野良猫と同じように野犬がいるそうです。
一方、都会では野犬を見ることはほとんどありませんし、野犬の子犬が保護されることはありません。子犬が欲しい人は、ブリーダーかペットショップを探しに行きます。
そこで、私たちは香川県で保護された子犬を空輸で送ってもらって、こちらで里親を探しているんです。
ーなるほど、この空輸費用などもみなさんが負担されているんですか?
大網さん:そうですね、だから譲渡費用をいただいているんです。保護してから里親さんにお渡しするまでにも、かなり費用が掛かりますから。
ー最後に、大網さんの犬猫の殺処分の問題についてどうお考えか教えてください。
大網さん:犬猫の殺処分ゼロというスローガンをよく聞くようになりましたが、そのしくみの多くは、私たちのようなボランティアに保護を頼っている現状があります。これが多頭飼育崩壊の一因にもつながっていると思います。保護することには限界がありますから、供給を制限する必要があると思います。
たとえば、生体販売(生きた犬猫を展示して販売する方法)は、日本だけのようですね。では、外国ではどうやって犬猫を手に入れるかというと、シェルターに行くか、ブリーダーに予約をしておいて産まれてから引き取りに行くという方法が通常です。
ー犬猫が在庫として存在してしまっている状況を変えるべきだということですね。
大網さん:そうですね。私も犬猫が大好きですから、飼ってはいけないということではなく、ペットショップ以外にも犬猫を引き取る方法があるということをたくさんの方に知っていただきたいですね。
ー今日はありがとうございました。
編集部のひとこと

編集長
かなさん
日本全国で約1,860万頭の犬猫がペットとして飼育されている今、犬猫はとても身近なペットです。その中で、犬猫の殺処分数ゼロをめざす活動を各自治体も力を入れて行っています。目に見える数字は、直近10年で劇的に減少していますが、その裏には大網さんのようなボランティアに支えられている状況があります。大網さんの語られた印象的な言葉です。
「心のやさしいボランティアさんが傷ついていく姿をたくさん見てきました」
社会はみんなで支え合っているから成り立っているということを再認識させられるインタビューでした。
さまざまな場所で里親会を実施しているということですので、気になる方はおーあみ避難所のホームページ、ブログ、SNSを確認してみてください。
- おーあみ避難所公式ホームページ:
- http://f20km-petrescue.org/
- おーあみ避難所公式ブログ:
- https://ameblo.jp/oami-hinanjyo/
- おーあみ避難所Twitterアカウント:
- https://twitter.com/oamihinanjyo?ref_src=twsrc%5Egoogle%7Ctwcamp%5Eserp%7Ctwgr%5Eauthor
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編集部メンバー
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