輝く男性インタビュー
- 手話ダンスという新しい表現手法を追い続ける「HANDSIGN(ハンドサイン)」のメンバーインタビュー
HANDSIGNのおふたり。TATSUさん(右)とSHINGOさん(左)
神奈川県平塚市在住のボーカル&手話ダンスグループ「HANDSIGN」のおふたりに手話ダンスをはじめた経緯から、ニューヨークアポロ・シアターのアマチュアナイトへの挑戦、そして手話ダンスを軸にした活動でのメジャーデビューにいたるお話を聞いてきました!
手話を通じて、さまざまな活動をする彼らの挑戦の日々はとても刺激的なお話です。「何ごとも挑戦しないと始まらない!!」というおふたりと、「言うは易く行うは難し」と思うたいせつじかん編集部の対面インタビュー。お読みいただいた後に何かに挑戦したくなってしまうかもしれません!
聞き手:たいせつじかん編集部
■みんなが感動してくれたことがきっかけ。
手話ダンスを始めた経緯を語るTATSUさん
ーおふたりは手話ダンスをされていますが、ダンスと手話はどちらを先にスタートされたんですか?
TATSUさん:中学校2年生から始めたダンスが先ですね。そして、「オレンジデイズ」という聴覚を失った主人公のドラマを見て手話を知り、ダンスと手話を融合してやってみようと思いました。
ーおふたりのミュージックビデオを拝見すると、ダンスと手話をうまく融合されているので、まったく違和感がありません。最初に披露した際はどのような反応でしたか?
TATSUさん:最初は手話とダンスを融合させたらかっこいいだろうなという感覚で始めたんです。そして、ダンスイベントで手話ダンスを初披露したときに、お客さんから「感動した」と言ってもらったんです。
やっている私たちは、感動させようという思いはいっさいありませんでした。全力でかっこよく見せようと思って踊っていたのですが、そういった感想をもらって驚きました。
そのときに、手話ダンスはかっこいいではなく感動なんだということを知りました。そこから手話ダンスをもっと広めていきたいと思い、2005年1月にHANDSIGNを結成しました。
ー当時は、オリジナルの楽曲で手話ダンスをやっていたのですか?
TATSUさん:いえいえ、当時はボーカルはなくですでに存在している楽曲の歌詞を手話にしてダンスにするという手法でやっていました。
■アポロ・シアターへの挑戦は未来を変えるための手段だった
アポロ・シアターのアマチュアナイトへの挑戦を語るおふたり
ーおふたりはニューヨークのアポロ・シアターのアマチュアナイトでの優勝経験があるとお聞きしたのですが、なぜここに挑戦しようと思ったのかを教えてください。
TATSUさん:それまでは国内で活動していてさまざまなダンスコンテストでも優勝したり、関係者の方からの評判もとてもよかったです。しかし、そこから次につながらないというジレンマを感じていました。
手話ダンスを広めるために、どうしてもテレビなどのメディアに出たかったんですが、なかなか出ることができなくて、次に繋がるきざしが見えなかったんです。
そんなときに、友人から蛯名健一(えびなけんいち)※さんを教えてもらいました。彼を調べていくとアポロ・シアターのアマチュアナイトで優勝して全米のテレビに出ていると知りました。どうやら、これで優勝すると全米のテレビに出られるようだと。
であれば、僕たちもアポロ・シアターのアマチュアナイトで優勝して全米のテレビに出て手話ダンスを広めてやろうと思いました。
※アポロ・シアターアマチュアナイトで年間優勝者となった日本人ダンサー。
ーアマチュアナイトは、全世界のエンターテインメントに携わる人の夢の舞台なんだろうなというイメージがありますが、挑戦することに躊躇はなかったんですか?私なら怖くて挑戦しようとすら思わなかったと思います。
TATSUさん:私は、なんでもやってみろと思うほうですし、SHINGOはいっしょにやってくれるタイプですから挑戦しましたね。
SHINGOさん:私はいけると思っていましたよ。いや、いけそうでした!(笑)アポロ・シアターのアマチュアナイトはスキルよりもエンターテインメント性とオリジナルティがあることが重要だと思っていました。私たちの手話ダンスはその点ではいけそうな気がしていましたね。
ーでは、出演を決めてから挑戦までのお話を教えてください。
SHINGOさん:当時のアマチュアナイトの出演には、オーディションを受ける必要があるのですが、オーディション日は事前告知なしで、1週間くらい前にいきなり告知されるんです。そのため、挑戦を決めてから半年くらいはオーディション日が告知されるのを待ちましたね。
TATSUさん:さらにオーディションも応募制ではなく、指定日に指定の場所に来てくださいという告知なので、オーディションはその場に行けば誰でも受けられるんですよ。
ーオーディションにはどのくらいのかた来ていたんですか?
TATSUさん:当時は朝9時集合だったんですが、10分前に到着したらすでに1,000人が並んでました。オーディションの時間は1組1分なんですが、12時間待ちましたね。
ーすごい!聞いているだけで鳥肌が立つようなお話ですね。その場に行ってもいけるという自信は保てたんですか?
アポロ・シアターアマチュアナイト挑戦時の心境を語るSHINGOさん
TATSUさん:自信はどんどんなくなっていきました(一同爆笑)。実際に、オーディション会場には20組が入れるようになっていたので、私たちの前に並んでいる19組のオーディション内容は見ることができるんですね。
オーディションは、3名の審査員の前で1分間パフォーマンスをやり切れれば合格、やりきれなければ不合格というスタイルなんです。
私たちの前に受けている19組はすべて不合格だったんです。印象的なのは、あるシンガーは、歌いだし2秒で「Thak you Stop」で不合格だったんです。
そんな状況を目の当たりにしたので、絶対にダメだと思いましたね。
SHINGOさん:とても厳しいんですよ。それをどきどきしながら見ているので自信なくなりますよね(笑)
オーディション中は、30秒間パーフォーマンスができたときに合格するかもしれないって思いましたね。
TATSUさん:受かったときはすごくうれしかったので、国際電話1分200円の時代に10分くらい日本に電話しましたね。
アマチュアナイトに挑戦されていたころのお写真
ーそのオーディションには何名が合格するんですか?
TATSUさん:オーディションの合格者おそらく100名程度だと思います。
ーえええ!100人ですか。。そのオーディションに受かるとその後はどのようなスケジュールなんですか?
SHINGOさん:アマチュアナイトは、週間・月間・3か月・年間大会とオーディション後に4つの大会があり、私たちは、週間と月間で優勝して、年間大会まで出場しました。
TATSUさん:オーディション以降の大会は、審査員が観客なんですよ。観客のブーイングが一定数以上になると強制終了となるスタイルなんですね。泣きながら帰ってくるパフォーマーもいたので、週間大会の時はまったく自信がなかったですね。
ー当然、勝ち抜きスタイルなんですよね。年間大会は何組出られるんですか?
SHINGOさん:勝ち抜きです、毎回上位2組が勝ち上がりだったと思います。2年間挑戦しているんですが、2年ともに年間大会まで行けました。
ーオーディションに受かるだけでもすごいと思ったのに、狭き門を2年連続で勝ち進むとは本当にすごいですね。今から考えて、勝ち抜けた要因は何だとお考えなんですか?
TATSUさん:日本人は、外国人に比べて秀でているところは器用さだと思っているんです。ダンスはその器用さを最大限に活かせるので外国人に勝てるポイントがたくさんあると考えていました。手話ダンスはその点ではこの利点を最大限活用できたのだと思います。
実際にオーディションを受けてみての感想ですが、シンガーだとかなりむずかしいように感じました。歌は外国人との差が大きいように感じましたね。
ーやっぱりアマチュアナイトに挑戦したお話はすごいと思います。何度も申し訳ないですが、よく挑戦しましたよね。
TATSUさん:手話ダンスを広めるためには、それしかないという感じだったのもあります。日本のコンテストで優勝しても、何も変わらない。でも手話ダンスを広めるにはメディアに出ないといけないと思っていたので、やるしかなかったですね。
■楽曲との出会いが新しい扉を開く
ーアポロ・シアターアマチュアナイトへの挑戦は2009年と2010年とのことですが、その後日本に帰ってきてからは状況は変わったんですか?
TATSUさん:帰国した年には、たくさんのテレビ番組に出演させていただき手話ダンスを披露する機会に恵まれました。
正直に言うと、当時はテレビを含めたメディアに出演することって難しくないのかなと勘違いしてしまっていました。
しかし、それではダメでしたね。「アポロ・シアターアマチュアナイトの〇〇」という肩書で番組出演させてもらえても、その次がなければ継続して出演はできませんでした。
ーそれでも2018年にメジャーデビューを果たされるわけですが、帰国からメジャーデビューまでのお話を教えてください。
TATSUさん:帰国後は、日本での活動以外に海外での手話の普及活動も行っていました。カンボジアやフィリピンのろう学校などに行って子どもたちに手話ダンスを教えたりする活動ですね。
ー手話は、言語と同じように地域によって違うと聞いたのですが実際はどうなんですか?
SHINGOさん:実際に違います。でも、意外と手話は通じるものなんです。もともと目に見えるものを手話にしているので、実際の言葉よりもニュアンスがつかみやすいんですね。
TATSUさん:そのように海外での活動を続けていくうちに、自分たちが伝えたいことをオリジナルソングとして作って伝えたい、とSHINGOが言ったことがきっかけでオリジナルソングを作るようになりました。
それまでは、別のアーティストの歌を手話ダンスで伝えるという活動でしたが、それからオリジナルソングを歌って手話ダンスをするというスタイルに変わっていきました。
そして、「僕が君の耳になる」という楽曲と出会い、メジャーデビューをすることができました。
ーでは、ニューヨークから帰国後も紆余曲折があったんですね。
TATSUさん&SHINGOさん:ありましたー。(笑)
ーオリジナルの楽曲を作り始めてから変わったんですね?
TATSUさん:実際に「僕が君の耳になる」がYouTubeで300万回再生され、多くの方にみていただいたことで、「アポロ・シアターアマチュアナイトの〇〇」という肩書から「YouTubeで300万回再生の〇〇」という新しい肩書をもつことができたと思います。オリジナルの楽曲で認知をされたということは大きな変化だったと思います。
■手話をもっと身近なものにしたい
ー今後のおふたりのビジョンについてお聞かせください。
TATSUさん:まずは、日本と海外を手話でつなげるために、海外の方にも楽しんでいただける楽曲とミュージックビデオを作りたいと思っています。
「この手で奏でるありがとう」という楽曲のYouTubeへのコメントは現在500件くらいあるのですが、そのうち半数近くは海外の方からなんです。これは私たちも想定していなかったことなので、非常に驚いたのですが、このように海外の方にも届く楽曲を作っていきたいと思います。
また、世界共通の手話として国際手話というものがあるんですが、これを使った手話ダンスを広げていきたいと思います。
また、聴者もろう者もフラットなんだということの認知を広げていきたいです。
そのために、もっとヒット曲を出すなど手話に単純に触れる機会を増やしていくということと、手話は堅いものではないんだということを広める活動を続けていきたいですね。
ー実際に、現在行っている活動にはどのようなものがあるんですか?
TATSUさん:現在は、神奈川県内の「中高校100校ライブ」という活動を行っていて、今で70校くらい開催したのですが、手話ダンスのライブを学生のみなさんに見ていただき手話を身近に感じてもらう活動をしています。
「手話をむずかしいものだと思っていたがそうではないと知りました」という感想がとても多いですし、実際にこの活動を通じて手話を知った学生が手話を習い始めたり、福祉の仕事に就いたというお話を聞いているので継続していきたいなと思っています。
ー2020年にはパラリンピックが東京で開催されますから手話がより身近に感じられるタイミングでもありますよね?
TATSUさん:そうですね。パラリンピックの影響はとても大きいと思います。最近では、多くの著名人の方が手話をされているというお話を聞く機会も増えましたので、手話に対する認知度が広がっているという実感がありますね。
私たちは、手話を覚えてほしいと思っているわけではなく、手話をもっと身近でなものだと思ってほしいです。そのためにできることがあればさまざまなことに挑戦したいと思います。
編集部のひとこと

ライター
せいくん
多くのひとが「Thank you」を「ありがとう」だとわかるように、手話の「ありがとう」を誰でも知っているようなになったらいいという彼らの過去の談話を読みました。
手話を当たり前にすることのむずかしさは、手話ダンスを13年続けてきた彼らがいちばん知っているのかもしれません。しかし、彼らはパラリンピック東京大会を控える今のタイミングで、大きく手話に対する認知度が変わるきざしがあるというお話をされていました。
手話を取り巻く環境が変わりつつあることへの彼らの貢献度は計り知れないと思います。手話ダンスに出会い、見てくれた人が感動してくれるという原体験から始まる世界を股にかけた挑戦。その末に、彼らが見据えている「当たり前に手話がある」世界が実現することを応援したいと思いました。
自身の夢を語る人はとても魅力的で、美しいものだと思ったインタビューでした。
★2019年2月15日公開の映画「笑顔の向こうに」の主題歌をHANDSIGNが担当されているそうです。第16回モナコ国際映画祭で最優秀作品に選ばれた作品です。
- HANDSIGN公式ホームページ:
- https://www.hand-sign.com/
- HANDSIGN公式Youtubeチャンネル:
- https://www.youtube.com/channel/UCZSVGbLPc1uCexI4lwREiSA
- 笑顔の向こうに公式ホームページ:
- https://egao-mukou.jp/
編集部メンバー
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