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輝く夫婦インタビュー

横浜伊勢佐木町でふたり出版社「星羊社」を経営する星山健太郎さん・成田希さんインタビュー

星羊社の成田希さんと星山健太郎さん

星羊社の成田希さん(左)と星山健太郎さん(右)のおふたり

横浜に古くから残る市民酒場の文化にフォーカスを当てた地域情報誌「はま太郎」の出版をする星羊社。経営は夫婦ふたりだけ。なぜ今出版社をつくったのか?なぜ、横浜の市民酒場にフォーカスを当てたのか?など、いろいろ聞いてきました。

みなとみらいだけではない横浜のディープな魅力の虜になってしまうかもしれません!

ぜひお楽しみください。

聞き手:たいせつじかん編集部

■夫婦で横浜の酒場が好き

星羊社について語る星山さん

星羊社をつくるきっかけについて語る星山さん

ー出版不況とわれる昨今ですがなぜ新しく出版社をつくろうと思ったのですか?

星山さん:そもそも出版社をつくろうと思っていたわけではないんです。何を事業とするか決める前に、彼女といっしょにイセザキモールの入口にあるイセビルの1室をオフィスとして借りました。

彼女はもともとフリーライターをしていて、私もなにか新しいことを始めようと思っていたタイミングだったのでとりあえずオフィスを借りたんですね。

ーここはすごいレトロですもんね。

星山さん:入居した後に知ったのですが、関東大震災の3年後(1926年)に建設された非常に古いビルです。

このビルを調べることは横浜の歴史を調べることと同じなんですね。入居してから横浜の歴史に興味をもつようになっていきました。

ーそんなに古いんですね。

成田さん:でも、冬は寒いし、夏は暑いですよ。さらに、オフィスが4階ですがエレベーターがないんです。

もともとはあったらしいのですが、戦時中に金属類回収令で撤去されて以来エレベーターがないそうです。(笑)

ーそのエピソードを聞くとやはり冒険心が刺激されて、もっと横浜の歴史を知りたいという思いになるのはわかる気がします!

星山さん:何をやろうかと考えているときに、「横浜本」(京阪神エルマガジン社、2009年)という雑誌が発売されました。この雑誌が本当にすばらしい本でした。内容もさることながら、きめ細かい取材で知る人ぞ知るというような酒場も載せているし、取材の方法もすばらしくお店の方からの評判も良い、さらに酒場を知り尽くす地元のうるさがたの評判も良いのです。その時に、地元の人が喜ぶ本をつくりたいなと思いました。

また、地元にフォーカスしきめ細かい取材をして情報発信している出版社が横浜には少ないということはずっと思っていたので、自分たちが好きな横浜の酒場文化を掘り下げる本をつくる出版社をやろうと思いました。

ーおふたりも酒場がお好きなんですか?

星山さん:ふたりとものんべえということが共通点ですね。

成田さん:横浜の酒場が大好きですね。

■市民酒場を深掘りすることは、横浜の近代史を知ること

横浜の酒場文化について語る成田さん

横浜の歴史と酒場文化の関連性を語る成田さん

星山さん:横浜の地域情報誌『はま太郎』を刊行するにあたり、横浜にだけ存在する「市民酒場」を連載の目玉にすることにしました。 市民酒場とは「横濱市民酒場組合」に所属していた店のことです。その歴史は1930年代後半からといわれているので非常に古い歴史があります。

ーそうなると、市民酒場を調べていくと横浜の歴史を知ることになっていくわけですね。

星山さん:そうですね。戦前・戦中・戦後と横浜がたどってきた歴史と市民酒場は常にリンクしています。横浜で生活している人が訪れる場ですから、その当時の息遣いが聞こえてくるようです。

また、お店によって少し話が違っていたりするのでその点も面白いところですね。

成田さん:横浜は、歴史的にみても戦前から高度経済成長までを支えた工場労働者や港湾労働者の多い街でしたので、昔から毎日の生活の終わりに一杯飲んで帰る文化があったんですね。そのころを知るお店がたくさんありますので、そういったお店に行って話を聞くことってとても冒険心をあおられるんです。

ーなるほど、取材の対象となるエリアは野毛のあたりが中心なのですか?

星山さん:いえ、「はま太郎」なので横浜全域が対象です。横浜は、昔から残る商店街が点在していることが特徴的なんです。

成田さん:横浜には、かつて市電が走っていたのですがその停留所があったところなどは今でも商店街になっています。

星山さん:旧市電の終点の山元町などがそうですね。

ーそういった点在している商店街を訪ねて新しい発見をし、はま太郎の記事にするんですね?

星山さん:そうですね。そういった場所を見つけて足しげく通って新しい何かを見つけにいきますね。

■酒場の縁で本が生まれる 

のんべえだと笑う星羊社のおふたり

横浜について笑顔で語るおふたり

ーおふたりが取材をされる際に気をけていることはありますか?

星山さん:いちばん大切にしていることは、取材のためだけにお店に行かないということですね。いいなと思ったお店は何度か通ってからお話を聞くようにしています。

そうでなければお店のひとも身構えてしまいます。それでは、おもしろいお話を聞けないと思っています。

はま太郎15号

はま太郎の最新号。挿絵はすべて成田さんが描かれています。

成田さん:この本は、ふつうのグルメ本などと違って写真が少ないんですね。文章と挿絵がメインで構成されています。これは、読者の方の想像力を掻き立て、実際にお店に行って自身の目で楽しんでいただきたいと思っているのでこの構成にしています。

星山さん:横浜の酒場にはいろいろな人が飲みに来ているのでお話がおもしろいですよね。

成田さん:実際、「はま太郎」を作ったときも酒場ではま太郎のお話をしていたところ、となりに座っていたお客さんが伊勢佐木町にある有隣堂の店長さんに取り次いでくれました。

本は、作ってから営業をしなければいけないのでとてもありがたかったですね。

星山さん:酒場にはいろいろな出会いがありますから、みなさんにもぜひ行っていただきたいですし、私たちの本がそのきっかになってくれるとうれしいですね。

■これからの星羊社について

星羊社のビジョンとは

ーこれからの星羊社のビジョンについてお聞かせください。

星山さん:まずは「はま太郎」の出版を続けていきたいですね。現在は、不定期発行となっておりますが、1年に1冊は発行したいと思っています。

※2018年現在では15巻が発行されています。

そして、新しいこととして、「めご太郎」という青森の酒場にフォーカスした本をつくりました。はま太郎とは違い、私たちは青森で生活をしているわけではないので、はま太郎とは違った目線、帰省したときに立ち寄ってみる感覚で本をつくっています。

成田さん:この本は、非常に好評でした。

星山さん:当初の狙いとしては、青森県外の方がこの本を読んで青森に訪れてくれたらおもしろいなと思い、つくったのです。しかし、地元のかたが大変喜んでたくさん購入いただけたようです。この反応もとてもうれしかったですね。

ーでは、今後も違ったエリアの酒場にフォーカスを当てた本をつくるのですか?

星山さん:青森は、妻の地元でなんども通い続けて本をつくったんですね。今後も横浜、青森以外にもなじみの場所ができたらぜひつくりたいですね。

ー取材のためでだけにお店に行くのではなく、ご自身がなじみになってからでないと本はつくらないんですね。でも、やりたいことを続けていくことと経済的な問題は必ずしも一致しないと思いますが、いかがでしょうか?

成田さん:創業当初は本当に大変でした。やりたいことをやろうにもどうやればいいかわからないということもありましたし、当然経済的にもなかなか難しいです。

でも、とにかく続けることで、人間関係も知見も広がっていきますから、やりたいことを実現しやすくなっていると思います。

星山さん:まだまだやるべきことはたくさんありますが、これを続けていけば私たちがめざすべき場所にたどり着けるという確信をもつことができたので、今はとにかく続けていきたいと思います。

ー今日はありがとうございました。

■番外編:おふたりのおすすめの場所を教えてください!

 

横浜の野毛小路
横浜の野毛の様子

ー横浜の酒場にぜひ行ってみたいと思うのですが、酒場初心者のわたしにおすすめの場所を教えてください。

星山さん:初めての方には、野毛をおすすめします。

成田さん:野毛は、ここ数年で街の雰囲気がとても変わったので、初めての方でも楽しんでいただける街だと思います。

星山さん:野毛には小さいお店が多く、さらに常連さんがいらっしゃるお店が多いのでそういったお店に行かれた際には、積極的にお店にいる人たちとコミュニケーションをとってほしいですね。

最初は入りづらいと思いますが、店主にはじめてきましたと正直に伝えればみなさんやさしく受け入れてくれますよ!

成田さん:飲み方に気をつければまったく問題ありませんよ!

ーでは、おふたりの最近のお気に入りスポットを教えてください。

成田さん:横浜橋商店街ですね。落語家の歌丸師匠と縁の深い商店街として有名ですね。ここは歴史的に見ても遊郭が近くにあった名残があったり、現在の商店街もとてもにぎやかです。

星山さん:とても良いお店が多いですね。

成田さん:価格もとても安いお店が多いです!

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

お金をたくさん稼ぐということには向いていない事業内容かもしれないけれどそれよりもやりたいことを追求していきたいというおふたりでした。

おふたりの雰囲気が、はま太郎にそのまま投影されているようで、とても温かい気持ちになるインタビューでした。肩肘はらずに、やりたいことを続けていく先に見える未来に期待したいと思います。

身近な人が、同じ地域に住む人が笑顔になれる本をつくるという新しい挑戦は、身近な人や同じ地域に住む人たちとの縁で作り上げられるということでした。これまでの、つくり手と受け手が完全に分かれている本ではなく、受け手も作り手としての役割も担うような、地域に根差して本づくりをこれからも注目していきたいと思います。

みなとみらいだけではない、横浜の魅力を探しに次のお休みは横浜酒場巡りはいかがですか?

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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