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輝く女性インタビュー

ITで福祉課題の解決をめざす 凪ライフパートナーズ代表 ソーシャルワーカー 岩田聡子さんインタビュー

横浜市内、とある小学校のコミュニティハウスの一室から、ワァッと笑い声が咲きました。中をのぞくと、シニア世代の人たちが真剣な表情でスマートフォン(以降、スマホ)を操作しています。ここは凪ライフパートナーズ代表 岩田聡子さん主宰の「シニアのためのスマホ活用術サークル」。ソーシャルワーカー(社会福祉士)である岩田さんのスマホ教室では、“スマホを使えるようになる“ことが目的ではなく、シニア世代が抱えるくらしの課題をシニア自身がスマホを使って解決するチカラ「スマホ活用力」を身につけるための講座を開催しています。

もともとITエンジニアだった岩田さんがソーシャルワーカーに転身したのは41歳のころ。事務作業ひとつ取ってもアナログ対応が多い福祉業界では、IT活用によって解決できそうな課題が数多く見えていました。しかし、いざIT導入しようとすると、想定外の課題が立ちはだかり容易にものごとは進まなかったと言います。

IT業界から福祉業界へ、デジタルからアナログへ―岩田さんはなぜ業界転換までしてソーシャルワーカーをめざしたのでしょうか?凪ライフパートナーズ代表 ソーシャルワーカー岩田聡子さんのインタビューです。

 

■飛び込むのはいつも「新世界」

都筑区で開催したスマホ活用術講座の様子。岩田さんの講座は男性陣にも人気

─本日はよろしくお願いします。

岩田さん:よろしくお願いします。

─「スマホ活用術サークル」を拝見いたしました。シニアのみなさんがとても真剣に、でも相当楽しそうに(大笑いしながら)スマホを学んでいましたね。

岩田さん:苦手意識や抵抗感があるとわかることでも身に付かないので、私の講座は5分に1回爆笑タイムでリラックスしながら学びを深めています。いや、3分に1回かな?(笑)

─しかし取り扱うテーマは「スマホ決済」「クラウド技術」「Gmailフィルタリング」など、シニアにはとっては高度な内容ですよね。

岩田さん:むずかしそうに聞こえますが、みんな生活に直結する課題を解消できるテーマばかりです。その日学ぶ技術で解消できる身近な「生活課題」の例をお話しすると、みなさん大きくうなずかれます。

─そうですね。スマホを学ぶ目的を「自分ごと」で捉えているのだなと強く感じました。
岩田さんの講座は、元ITエンジニアが扱う高度な内容を、生活相談の専門家であるソーシャルワーカーの視点で捉えた講座というわけですね。でも岩田さんが、ITから福祉へと、真逆くらい異なる業界転換をされたのはどうしてですか?

岩田さん:IT業界から福祉業界に入ったのは41歳の時。それまで私の視野に福祉業界はまったくなかったのですが、今思えば、一つひとつ、そこへ行くように準備されていたのかなという気がします。

じつは私、IT業界に入る時も別業界からの転身で、しかも30歳近くになってからと非常に遅咲きのスタートだったのです。

─岩田さんは、未経験の世界へ飛び込むガッツがある方なのですね。

岩田さん:最初は「早く一人前の仕事がしたい」とがむしゃらに仕事をしていましたが、しだいに大きなプロジェクトでチームリーダを任されるようになると、仕事が楽しくてしかたなくなりました。しかし、子どもを産んでからは勤務地や勤務時間に制限ができ、技術者としては「もう先がないな」と、仕事に対するモチベーション維持がむずかしい状況が続きました。

─出産を機に、働き方を変えなくてはならなかったのですね。

岩田さん:しかし、3人目の子が1歳を迎えた年に東日本大震災が起こり、当時の職場からその日のうちに子どもたちを迎えに行けたとき、私のなかで「ああ、これでよかったのだ」という納得感が初めて生まれました。

 

■ソーシャルワーカーになりたい

岩田さん:地震のあとからは、技術者としての成長への焦りも、技術職として働くことへのこだわりも和らいでいました。そんなとき、関西に住む実父ががんの告知を受けたのです。

─遠く離れたご実家のこと、さぞご心配だったでしょうね。

岩田さん:離れているなかで、治療法を相談したり看護する母を励ましたりすることは、情報も気持ちもうまく伝わらないようでもどかしい思いを募らせていました。でも、実家へ帰り通院に付き添った時はいつも、病院の「相談員」が私の不安や疑問に答えてくださいました。

─「相談員」ですか?

岩田さん:はい。大きな病院ではMSW(メディカルソーシャルワーカー)といって、患者やその家族の相談にのる部署を設けていることがあります。つまりその相談員が「ソーシャルワーカー」というわけです。

私はある日、病院から大きな決断を迫られました。それは、信頼していた医療者に対し、大きな不信感を抱く事態となりました。

医療や介護の現場にはよくあることだと思いますが、本人や家族の希望と現実にギャップが生まれ、その現実を受け入れらないため、患者側が次の選択ができない状態に陥るのです。

私は混乱と落胆と怒りにまみれながらも、母を気遣わなければならないストレスも加わり、だれかに助けてほしいと心底思いました。その時、私を救ってくれたのは、その相談員、ソーシャルワーカーでした。

─温かい言葉や解決策をくださったのですね?

岩田さん:いいえ。彼女はただ、私の話をじっと聞いてくれました。私は彼女に話をしながら、少しずつ落ち着きを取り戻し、自分のやるべきことを整理していくことができました。最後に彼女から必要な情報を手渡されると、私はもう「やるべきこと」に気持ちが向いて進んでいました。後日、これが「相談援助」なのだと知ることができた時、相談援助の専門職である「ソーシャルワーカーになりたい」と考えるようになったのです。

 

■地域がハードルになるなんて

─その後、岩田さんはIT業界をやめ、ソーシャルワーカーをめざす決意をするのですね。

岩田さん:はい、どん底にある人の話を聞くことで、その人が前へ進む力をつける、自分の身に起こった衝撃のおかげで、迷うことはありませんでした。

─翌年、福祉系大学に編入学したあと社会福祉士国家試験に合格し、ソーシャルワーカーになられたのですね。

岩田さん:はい。資格取得後、本来は介護や福祉関連機関に入職することが多いのですが、在学中にさまざまな施設を経験するなかで、私が今ある機関や施設の一部になってしまっていいのだろうか?という疑問が湧いていました。

じっさいの現場に立ってみると、大学で学んだ福祉のあるべき姿が見えず、課題に向き合うことさえできない団体も少なくなかったのです。慢性的な人手不足とイノベーションに消極的な業界体質が原因なのだろうと思いました。

だから私は、私だからできるやり方で福祉課題を解決していきたいと考え、「ITで福祉課題を解決する」をコンセプトに、凪ライフパートナーズを設立したのです。

─具体的に岩田さんは、ITを活用したどのようなアイデアで福祉課題を解決しようとしたのですか?

岩田さん:現在も社会的に大きな課題ですが、見守り活動の課題解決に取り組みました。

─見守りとは、ひとり住まいの方の安否確認をするために、定期的にその方のお家を訪問する活動のことですか?

岩田さん:そうですね。見守り活動は、町内会や民生委員など地域の人たちがボランティアで行なわれていることが多いです。地域によっては、新聞配達や生協など定期的に宅配を行う事業者が、配達の際に異変に気付くことで見守りを重層化できている地域もあります。しかしそうはいっても、「見守られていない日」は確実に存在してしまいます。見守り訪問した翌日に異変が起きたら、次の見守りの日まで誰も気づかないこともあるかもしれません。

─そうすると、毎日誰かが見守りをしなくてはいけませんね。

岩田さん:でも、それは現実的ではないですよね。だからこそ、見守りは人力に頼るだけでなく、ITを活用して24時間365日安否確認できた方がいいのです。そこで凪ライフパートナーズで小型の人感センサーがついた見守り機器を開発しました。これがあれば、何か問題があったら、早ければ数時間で異常をキャッチすることができるのです。

─おお、すごい!日本の見守りの問題はこれで解決できるじゃないですか!!

岩田さん:いいえ、それがそうもいかないのです。見守りって異常をキャッチするだけでは足りなくて、その現場に駆け付けられてこそ合格なのですが、肝心な駆けつけてくれる人が用意できないのです。

─ええ!?異常は検知しているのに助けに行く人がいないということですか?

岩田さん:そう。もちろん、月会費や利用料を払って警備会社に依頼することもできますが、多くの人にとってそれは当たり前に支払える費用ではないでしょう。地域のなかで、この「駆けつける」役割を担える組織があればいいのですが、それがないのです。

このことは特定の地域にかぎったことではなく、ほとんどの地域の町内会や民生委員などが、「地域としては請け負いかねる」という返答で、先に進めることができませんでした。

─どうして地域は「請け負いかねる」のでしょうか?ITを活用すれば解決ができそうなのに、、、なんだかもどかしいですね。

岩田さん:地域により原因となる背景はことなりますが、「ボランティア」で行っている活動に、事業者が加わることのむずかしさは感じました。また、地域役員や民生委員などの活動が忙しすぎて、すでに飽和状態。これ以上新しい役割を増やすことに抵抗を感じる地域もありました。

事業者として対価が支払える人だけ課題を解消できるのでは、福祉課題の解決にはなりません。いかに社会のしくみに組み込めるか・・・なのです。しかしそこに、地域自身がハードルとなっていたのです。

 

■鍵は「居場所」にある

居場所づくり濱なかまの副代表川瀬優子さんと

─これまでのお話をうかがうと、岩田さんの目的は、解決策の開発ではなく、それを地域で循環させることまで含めたしくみづくりなのだということに気付きました。

岩田さん:そうですね。そういう意味では、ここから先がソーシャルワーカーの力を発揮するところなのだと思うのです。私があの日病院で出会った相談員にしてもらったように、地域に対して、地域の人自身が課題に向き合って解決策に向かうチカラをつける支援をしていきたいと思っています。

─具体的にはどんなことをしようとしているのですか?

岩田さん:私の答えは「地域コミュニティ」にあります。じつは見守りで課題となった「駆けつけてくれる人」は、地域の役員でも民生員でもなく「地域の知り合い」が行えばいいこと。なんなら、隣の人がやればいい。でも、それができないのが今の地域なのです。

─近所の人とは会釈程度、隣の人の顔も知らないということが当たり前の現代、「隣の人、なんかおかしいみたいよ」という通知を受けつけることも、それを受けて駆けつけることも、なんだか無理がありますよね。

岩田さん:そう、今の状態では無理があります。でもひと昔前は、隣が不在だったらお届け物を預かったという時代もありました。社会の状況が変わったことで、そういうちょっとしたおせっかいDNAが、地域のなかに埋もれてしまっているのではないかなと思います。

「地域コミュニティ」とは、そういうおせっかいを発揮する場と言えるかもしれません。そしてずばりこれが「コミュニティカフェ」だと私は思うのです。

─コミュニティカフェとは、ちかごろ「居場所」などという地域の人が集う場のことですね。

岩田さん:コミュニティカフェはいろいろな捉え方ができますし、コミュニティカフェごとに機能も特徴も違いますが、普通のカフェとの違いは、「人の交流」を生み出す力のある場所だということです。ある人はお茶を飲むという個人の目的のために訪れるのかもしれないし、ある人はそこで開かれる何かのレッスンを受けるために訪れるのかもしれない。でも、異なる目的をもってその場に訪れた人同士が、なぜかよい距離で交じり合い、柔軟でゆるい地域コミュニティが生まれる―これがコミュニティカフェ。そしてそこには、ソーシャルワークが確実に生きていると思っています。

─つまり岩田さんは、やわらかくてゆるやかなコミュニティを作ることで、地域のなかで埋もれていたおせっかいDNAを発揮する場所をソーシャルワークを使って作ろうとしているのですね。

岩田さん:そのとおりです。じつは私の主宰するスマホ教室の目的は、コミュニティづくりであるともいえます。ものごとを学ぶだけでなく、そこに集った人同士がゆるくやわらかくつながって、その集団がもつチカラを大きくしながら地域コミュニティになっていくことを見据えています。

ソーシャルワークは相談支援という主軸の力とともに、人や地域をエンパワメントします。エンパワメントとはつまり、彼らが本来もっている力を発揮できるよう支援していくということ。地域をエンパワメントする力が、ソーシャルワークとコミュニティカフェ「居場所」にあると思うのです。

─だから今岩田さんは、地元の横浜市港北区の町で、ソーシャルワークを展開しながら居場所を作っているのですね。

岩田さん:はい。居場所づくり濱なかまという団体を通して、凪ライフパートナーズがめざす「ITで福祉課題を解決する」策が循環するような、ここちよいおせっかいで満たされた居場所、コミュニティカフェ、地域づくりに取り組んでいます。

岩田さんが代表をつとめる居場所づくり濱なかまの地域交流イベントのワンシーン
音楽でつながる町づくりを実践する居場所づくり濱なかま

 

編集部のひとこと

編集長

かなさん

「原動力になっているのは坂本龍馬の生き方」と話す岩田さん。
新しいことや自分の提案を通そうとすると、かならず対抗する力にぶつかります。
そんなときは落ち込んで「もうやめようかな」と思うこともあるといいます。
しかしいつも、龍馬の言葉を思い返すのだそう。

世の人は我を何とも言わば言え
我が成す事は我のみぞ知る

毎日のように情勢が変わる幕末のなかで、「何をすべきか」を自問していた時期の龍馬は、倒幕派にいながら幕臣である勝海舟の弟子になるなど、周りからすると「キチガイ」と言われたことも。しかし龍馬のすごさは、大政奉還を唱えたことも然り、世の中の当たり前をひっくり返すことも周囲の評価も恐れず、本質を見抜きその実現に邁進する強さであり、「龍馬は私の心の師」だと岩田さんは言いました。
意外な歴女の面も拝見できた刺激的なインタビューでした。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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