たいせつじかん ?ほっと一息。少し休憩。幸せな時間?

輝く女性インタビュー

過去が息づく家で、未来の話をしよう。建築家・住空間デザイナー関口春江さんインタビュー

横浜市緑区中山。JR横浜線と市営地下鉄2線が通るこの町は、区役所など複数の行政機関もあり駅周辺はとてもにぎやかです。しかし駅から徒歩数分で、樹齢100年を超える桜の木や里山の景色、日本家屋に生け垣など、先ほどまでの喧騒が嘘のような閑静で懐かしい空間が現れます。753village(ナナゴーサンヴィレッジ)―ここは、土地のもつノスタルジックな景観と、アーティスティックな造形物や建て物が調和した不思議な一角で、行政によらないさまざまなコミュニティが点在する場所でもあります。コミュニティは互いに尊重しながらも、独特の距離感で連携しこの地域に息づいています。
今回は、2022年2月にこの753villageにおいて職住一体型地域ステーション「Co-coya」をオープンした建築士・住空間デザイナーの関口春江さんにお話をうかがいました。

 

■Co-coyaはこんなところ

─本日はよろしくお願いします。

関口さん:よろしくお願いします。

―高い天井と開放的な間取り、土壁や土間に薪ストーブ。Co-coyaは、懐かしさと新しさ、そして植物がみごとに調和していますね。

関口さん:ありがとうございます。7年ほど前からこの建て物の2階でシェアオフィスとしてCo-coyaを展開していたのですが、1階の借主が引っ越されるタイミングで1階も借り受けました。753villageというエリアがもっと地域に開くためには、インフォメーションセンターのような場所が必要だという思いがあったからです。

―753villagとはこのエリアのコミュニティ群の総称と捉えたらよいでしょうか?
ホームページ(https://nakayama753.com/)を拝見すると、小さなエリアにコミュニティスペースが点在していて、とても興味深いエリアですね。

753villageホームページトップ画面より

関口さん:このエリアのスタートは、地域の地主である齋藤好貴さんが、空き家になった家を買い戻してみんなに開放したことからで、古い家を取り壊して新しい住人を探すのではなく、町の景観をあまり変えないように古い建て物を活用しながら、「ここに住みたい」という魅力ある地域づくりを進めようとしていました。齋藤さんの思いの軸には、50年、100年先のこの地域への思いがあり、その思いに共感した人が自然発生的にここにたどり着いて、ひとつずつコミュニティが生まれて育っているのが753villageの現状です。

―ふつふつと生まれ育ったコミュニティ群の魅力を発信するために、753villageに「インフォメーションセンター」の役割を果たす場所が必要となったのですね。

関口さん:そうです。ちょうど同じころ、横浜市の地域のコミュニティー施設のハード整備に対して助成する提案型コンテストがあり、幸運にも審査を通過して整備費をいただき、2022年2月に、職住一体型住地域ステーションとして「Co-coya」を再オープンさせることができました。

―屋号「Co-coya」はシェアオフィス時代から引き継いだそうですね。「Co-」には、Co-llaboration(コラボレーション・協力)、Co-operative(コーポラティブ・協同)、Co-working(コワーキング・共働)の意味があるとのこと。シェアオフィスならではの人のつながりが表現されていると思いましたが、このつながり方は地域でも実践できそうで、地域ステーションとしてもぴったりの名前ですね。

関口さん:名前を変えようという話もあったのですが、いいネーミングが見つからなくて(笑)

―もともとベストなネーミングだったのでしょうね。

 

■私はただの「イチ住人」

―ところで、地域のインフォメーションセンターを開いたり、まち普請に主体的に参加したりと、関口さんとはいったい何者なのかとても気になります。

関口さん:職業人としては住宅や庭、くらしなどを設計する住空間デザイナーなのですが、この地域のなかではただの住人という立ち位置です。

―つまり関口さんは、地域づくりのビジョンをもったまちづくりの専門家や地域活動家としてさまざまな取り組みを行っているのではないということでしょうか?

関口さん:そうです。シンプルにイチ住人として、自分の住んでいる地域をより住みここち良くしたいな、楽しくしたいなと思って動いているだけです。

―もともとこの地域に深い愛着や地縁があったのですか?

関口さん:いいえ。私は千葉県出身で、横浜に来たのも30歳のころ。この地域に携わるようになったのはそのもっとあとで、仲間4人とこのエリアにカフェを開いたのがきっかけでした。30歳過ぎてから、『お醤油作り』を通して食への関心が高まり、『お醤油作り』や昔のコミュニティのよさを伝えたり、同じ意識の人が集う場所を作りたいという思いを先述の齋藤さんにお話して、カフェとなる物件をお借りしたのが最初です。

―カフェを開く場所として、たまたまこのエリアに出会ったということですね。

関口さん:齋藤さんの地域に対する思いには共感しましたが、協力しようというよりは、シンプルにいい場所だなと思ったから、住まいもこのエリアに移しました。
時間の経過とともに、『お醤油作り』やカフェを持続させるためにも、仲間がそれぞれの責任で個々の場所を運営していくこととなり、私はシェアオフィスを開いたのです。

―カフェを離れて、メンバーが個々に場づくりに取り組んだ結果、753villageにたくさんのコミュニティスペースが生まれたということですね。

関口さん:いまも『お醤油作り』は継続しつつ、個々のコミュニティが大事にしていることやめざすものに共感しながらゆるく連携しています。
この地域をどうにかしようとか、地域課題を解決しようとか、そういう大それた思いがあるわけではなく、個人がそれぞれ描くビジョンや「自分の住む地域を楽しく居ごこちの良い場所にしたい」という思いに従っています。

―統一された地域のビジョンを共同体でめざさなくても、多様なコミュニティがそれぞれの思いを叶えていく過程で、この地域の重層的なコミュニティ力となっているのだと思いました。そして、そのコミュニティ力を地域へ循環させるために、Co-coyaが地域ステーションとして誕生しなくてはならなかったのも納得です。

 

■シェアして生きる豊かさ

―ところで、関口さんがシェアオフィスを展開したのはどうしてですか?

関口さん:設計業をするオフィスが必要だったから、そして、ひとつの場所を私が占有するよりも、さまざまな職種の人とシェアすることがベストな形だったからです。そもそも私たち夫婦のテーマに、「シェアするくらしの豊かさ」があります。それは、私たち自身がシェアハウスに住んだ経験に由来します。じつは今も、このエリアに4世帯5人でシェアハウス生活しているのですよ。

―シェアハウスで生活するなんて、なんだかドラマのようですね。

関口さん:私の場合、初めてシェアハウスに入居したのは29歳のとき。私はひとりっ子で、核家族で、親戚づきあいもほとんどない家庭だったので、心のどこかに「最期はひとりだろうな」という意識がありました。だからシェアハウスに入居しないかと声をかけてもらったとき、「これを逃したら、たぶん一生他人といっしょにくらすことはないだろうな」と思って迷わず入居しました。

―すごい決断力です。他人と住んだ経験がないのに、見ず知らずの人といっしょに住むことを選ぶなんて、関口さんは好奇心が旺盛なのですね。

関口さん:そうかもしれませんね。家族3人のくらししか知らなかったから、よその人がどんなことを考えているのかすごく興味がありました。
シェアハウスでは毎日夕食をいっしょに食べていたのですが、いろいろな文化圏の子がいて、各地の食文化に触れられるし、もちよられる会話で毎日4.、5人分のその日のできごとを聞くことになって、人生4、5倍生きた気がしてとてもおもしろかったです。シェアをしてくらすのは不便なこともあるけれど、見聞きしたりすることはすごく豊かだなと思いました。

―確かにおもしろそうですね。しかし家族ですら少なからずストレスがたまるのが生活。やはり他人といっしょに住むことに敷居の高さを感じてなりません。

関口さん:じつは家族じゃないほうが、遠慮があるぶんいっしょに住みやすいかもしれないですよ。それでもやはり相性は重要ですが。
みんなそれぞれくらし方が違うので、自分が常識と思っている範囲が全然違っていても、「ああ、こういうこともあるのだなぁ」と思って観察します(笑)。今では、こういう常識もあるのかぁ・・と、「世界の知らなかったことを知った」と思えるようになりました。
なかにはいっしょにくらしづらい人もいるかもしれませんが、そういうときは深くテリトリーに踏み込まない。その人は経済的なことなど、なにかしら必要だからシェアハウスに入っているわけで、どうしてもそこがイヤだったらでていけばいいし、多少不満があってもそこは半分目をつむる。

―敷居が高いと警戒ばかりせず、体験してみるのがよさそうですね。

関口さん:年を重ねて老人になったらシェアハウスで生活することはおすすめだと思います。私も最初にシェアハウスでくらした友人たちと、年をとったらもう一度いっしょにくらそうねと話しています(笑)。ひとりでくらすより楽しいしなにより安心です。だから自分の心がやわらかく抵抗が少ないうちに、他人といっしょに住む経験はしておくといいと思います。

―老々介護や独居老人などの社会問題の解決として、老人ホームなどの施設に入る手段がありますが、生活環境はがらりと変わると言います。本来は住み慣れた地域や気ごころ知れたコミュニティで大きな変化なくくらしつづけられるとよいですよね。
そこでシェアハウスという選択肢が当たり前に受け入れられる地域のつながりがあると、さまざまな課題が解決しそうです。
いずれにしても、「他人と住まうことはむずかしい」というバリアを取っ払うことができれば、すてきな老後が過ごせるのかもしれませんね。

看板猫の福ちゃん

 

■「不安定」は極上の学びの場

―お話をかがっていると、シェアハウスの入居を即断するあたりなど、関口さんには「自分」がしっかり備わっていて、やわらかい印象だけど、他人に翻弄されない揺るがなさを感じます。

関口さん:ずっとフリーランスで生きてきたからかもしれませんね。

―フリーランスは自主独立した意識が求められますものね。関口さんはもともと芯の強いタイプだったのですか?

関口さん:自主独立や芯の強さでここまで来たというよりは、結果としてフリーランスになった感じです。もともとはまちづくりの設計事務所に勤めていましたが、ダブルワークで庭の絵を描くアルバイトをしていたら、庭と外構設計の仕事に結びつきました。務めていた事務所は、15年先のものづくりをするのに対し、庭や外構は早ければ1週間で形になり実感のある仕事が楽しかったのもありますが、そもそも自分が組織になじめないのがわかっていたので、自分を追い込まない環境を選択するという意味でフリーランスを選んだというのが背景です。

―シェアハウスの入居にしてもフリーランス転身にしても、結果的に大きな価値を得られてとてもラッキーにも見えます。ただ、明らかな不安材料があるなかで、関口さんは気負いなく決断できているように感じました。なぜでしょうか?

関口さん:たぶん私は、不安定さに耐性があるのだと思います。子どものころ、わりと不安定にくらしていたのです。その時分は子ども心に不安が大きかったけれど、そのおかげか、おとなになってリーマンショックなど変動の大きな時期に見舞われても「守らなくちゃ」とか「失くしちゃいけない」という気負いがなく、ぼんやりくらせていた気がします(笑)

―近ごろは子どもの心のケアにとても敏感で、子どもの心のなかの「不安」をゼロに近づけようとする傾向を感じます。しかし、子どもは不安定のなかでこそ、いろいろ学んだり精神的にも成長していくのかもしれませんね。
これからの時代、不安材料があるなかでも自分の選択ができる強さは、子どもたちに身につけてほしいチカラのようにも感じました。

 

■Co-coyaを通して

―職住一体型地域ステーションCo-coyaから、今後どのようなメッセージを発信していきたいですか?

関口さん:「地域の多世代交流」は必要だと感じました。よく知られた地主がからんでいても、古くから住まわれている方は静観されているという状況があるからです。

―それはどうしてでしょうか?

関口さん:私たちの行動が、その方たちの理解を超えているのかもしれませんし、内輪感があるからだと思います。これからCo-coyaで駄菓子屋を開く計画があります。年配の方たちが駄菓子屋の店主となり、子どもたちとの世代を超えた交流を図ります。さらに、この場に自分と同年代の人がいることは、立寄りやすさや安心感につながるのではないかと思っています。

―建築家としてはどのようなメッセージを発信していきたいですか?

関口さん:住空間の設計は豊かなくらしを創造する仕事なので好きだったけれど、熊本地震のがれき処理の話を聞き、「自分がなん十年後かにごみになるものを作っている」ことに大きなショックを受けました。ごみとならない自然素材の建材を使う方法はあっても、予算がともなわず採用されないことがほとんどです。
そういったなかで、Co-coyaは建築家として出会った課題とその解決策を発信できる場ができたとも思っています。Co-coyaでは、土壁や土間作り、屋根からの熱を遮るために芝生を屋根に植えるなど、私が課題に思っていたことを自然素材で解決する作りにしています。

―Co-coyaはここちの良い室温で、空気がとても澄んでいます。これが自然素材から生まれる空気感なのですね。

関口さん:Co-coyaに来て、「なんとなく気持ちいいな」と思ってもらえれば、そこから意識が変わっていくかもしれない。自然素材を使うのは初期投資がかかるけれども、廃棄コストは減ります。50年後の未来に負荷とならないものづくりは大事なこと。この意識が浸透すれば、伝統技術も残っていきます。

―Co-coyaが発信するメッセージは、地域だけでなく、地球にとっても大きなメッセージとなるのですね。

シンボルマークの芝生屋根。かわいい野草が花をつけていました。

 

編集部のひとこと

編集長

かなさん

Co-coyaの家づくり
芝屋根、土壁、薪ストーブ
家の中の空気が、井戸の水のように生きている
家の中で呼吸するだけで、人が家とともに存在するものとなり、一体となる感覚
これほどまでに、家の素材で居ごこちが変わるものなのか・・・
Co-coyaを見に行くついでに753 villageのほかの施設に立ち寄るもよし
753 villageに立ち寄るついでにCo-coyaに行くもよし
ここは、100年後も同じ景色が切り取られる地域の一角である

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

あわせて読みたい