輝く男性インタビュー
- 人生の支えとなるサッカーに出会おう!CLUB TORUS サッカー指導者 高橋翼さんインタビュー
横浜市港北区北新横浜―ワールドカップなど国際Aマッチも開催される日産スタジアムを間近に臨むフットサル施設で、高橋翼さん(以降、翼さん)は高橋陽介さん(以降、ジャンさん)とともに、CLUB TORUSのコーチとして理想のサッカー指導を追求しています。
都内で、“世界で活躍する未来のリーダーの育成”をコンセプトとする別のサッカーチームの指導者も担いながら、CLUB TORUSでサッカー指導を行うのはどうしてなのか?翼さんが、CLUB TORUSを通してサッカーに携わる子どもたちに、おとなたちに、そして未来の日本につなぎたいメッセージを、インタビューでうかがいました。
■ふたりだからめざせる”理想のサッカー指導”
左:高橋陽介さん(ジャンさん)と右:高橋翼さん(翼さん)
─本日はよろしくお願いします。
翼さん:よろしくお願いします。
―翼さんはサッカー指導者として、都内の少年サッカーチームで活動されているそうですね。大雑把に都内と申しましたが、チームの本拠地は日本有数の一等地に隣接する富裕層にも人気のエリアで、ビジネス街や繁華街の顔も併せもつ町にあるとのこと。町の名前からは、セレブ層のお子さんがたくさん通うサッカーチームなのかな?という印象を受けました。
翼さん:確かに名だたる企業のエグゼクティブの子息も通っていると聞いていますが、普通のご家庭の子どもも在籍する地域のクラブです。ただ集まってくる家庭の一定層の影響もあるのでしょうが、このクラブでは「世界で活躍する未来のリーダーを育成する」という理念を掲げて指導にあたっている特色はあります。
─次世代リーダーの育成に目を向けた刺激的なサッカー指導を実践できる環境があるなかで、翼さんは週に1回、北新横浜にあるAOBA SKY FIELDというフットサルコートにおいて、都内のクラブとは完全に独立した形でサッカー指導を行っているそうですね。
翼さん:はい。毎週金曜日だけ行っているCLUB TORUS(以降、トーラス)でのサッカー指導です。トーラス代表の高橋陽介さん(以降、ジャンさん)に、いっしょに子どもの指導をやらないかと声を掛けてもらったのがきっかけでした。
ジャンさんとは、このフットサルコートの施設管理の面で、別の組織の同僚としてかかわりをもっていました。そのなかで、私はジャンさんの仕事のしかたに圧倒的なインパクトを受けていました。綿密さ、先の先まで考えた仕事の運び、視点の豊かさ、話しているとたまに、私の頭がパンクするのではないかと思うくらい。お互いに別の場所でサッカー指導者として活動しているということは知っていたのですが、管理の仕事のなかではそんな話をする機会はありませんでした。
いっぽうで、私はこれまで指導者として15年近くのキャリアはあったけれど、自分のなかで「これだけやってきた」という自負があるわけでなかった。だから、“あの“ジャンさんのサッカー指導が近くで見られるのであれば、「これはチャンス!」だと思いました。
─ジャンさんは、なぜ翼さんをトーラスの活動へ誘ったのですか?
ジャンさん:翼は私にはないものをもっている―ものごとの捉え方、答えの出し方、価値観のマインドが自分にとって必要なものだらけで、彼となら100%建設的な会話や仕事ができることが見えていました。だから合体した時、相乗して強くなれるという確信があったのです。ちなみに、そんなふうに感じる指導者はほかにはいないと感じていました。
─相思相愛でトーラスというサッカースクールがスタートしたわけですね。
翼さん:立ち上げのとき、「どんな指導してきたの?」「どんな雰囲気をめざしたいの?」とか、ふたりでイメージを共有して「やっぱり同じ感覚だよね」「同じ方向だよね」ということを確認しました。これがトーラスのめざすところとなっています。
◆ サッカーを遊び化する
◆ 選手ありき・個を消さない
◆ サッカーを人生の土台にする
■日本でサッカーは人気がない!?
翼さん:ところで、日本におけるサッカー人口が減少しているという事実をご存知ですか?
─え!?そうなのですか?!昔、サッカーはマイナースポーツという印象がありましたが、Jリーグ開幕以降、とくにここ何度かのワールドカップ出場を契機に、サッカー人気は上昇し続け、比例してサッカー人口も増えていると思っていました。
翼さん:じつは、日本のサッカー界には、年齢があがるとサッカー人口が減少する課題があります。就職するタイミングで、競技としてやる人以外はサッカーから離れてしまうのです。この課題って、サッカーへの入口の作り方がうまくできていないことが原因ではないかと思うのです。
─この課題を解消するには、どんな入口が必要なのでしょうか?
翼さん:サッカーにかぎらず、子どもたちが何かスポーツ競技をスタートするときには、【遊び】から【スポーツ】へ進むステップの踏み方が大事だと思っています。理想的には、ルールが分からないなか見よう見真似でやってみる【遊び】から、次第に周りの子たちと試合をするような【スポーツもどき】というステップを踏む。そこではコミュニティが生まれ広がるようになります。それから「もっと試合がしたいな」「おもしろいな」「もっとやりたいな」「どこかチームに入りたいな」という自発的な意欲が生まれ、チームに入り【スポーツ】となり、年齢が高まるにつれて競技性が高くなっていく。
こういう自発的な経験を経ている子は、自分が好きで選んでいるから、多少うまくいかなくてもそこを乗り越えていくベースが育っているなと感じます。
─習いごとでは自発的な意欲が生まれづらいということでしょうか?
翼さん:習いごとは、初めてやる時からすでに【スポーツ】になっていることがあります。たとえば、勝敗だったり、本人の挑戦も”成功”・”失敗”で評価されるなどです。またスクールはうまくなるために教えてもらいに行く場所ですから、そもそもが受け身なのです。
何を楽しいと感じ、何をうれしいと感じ、何がうまくいったか、うまくなりたいかを感じとれず、ただただできることが増えていく。「なぜできるようになりたいのか」、「なぜできなくちゃいけないのか」を自発的に感じる瞬間が少ないのだと思います。
─【遊びの段階】や【スポーツもどき】のステップを踏まなかったことが、自発的な意欲に出会うチャンスを阻害してしまうということですね。
翼さん:サッカーは好き、ボールを蹴るのは楽しいという感覚があっても、本質的に自分がやりたいと思って選択したものではないため、部活やサッカーチームを卒団したあと、残念ながらほとんどの子どもたちが、自分で場所を探して、サッカーをやる環境を自分の生活のなかに作っていくことがないのです。
─幼児対象のサッカースクールのなかには、【遊び】の要素をふんだんに取り入れているところもありますが、プログラムに遊びが含まれていればよいというわけではないのでしょうね。
翼さん:そうです。重要なのは遊びの要素が入っていることではなく、無我夢中のなかで、自発的に選択する機会を得られるかというところです。そういう場面を創生するためには、選手への声のかけ方や気づきへの促しも重要で、トーラスではふたつ目に「選手ありき・個を消さない」ということを大事にしています。
■「サッカー人であれ」
─「選手ありき・個を消さない」とは、具体的にはどのようなことを指しているのですか?
ジャンさん:私は小学生のとき、「あそこをめがけて蹴ってみんなが走るんだよ」というような伝え方で指導されました。そのときは何も疑うことなく、その指示に従ったけれど、そのプレイには自分なりの気づきも発見もなく、結局キック力だけが残ったなと感じるのです。私はこんなふうに、選手を指導者の思い通りに動かしてはいけないと思っています。
では選手には、何をどのように伝えるべきなのか―その選手の骨格や運動能力、サッカースキルに反発せず、選手の個にあった方向付けをして伝えることが大切だと思います。すると、選手自身が発見し、選手自身のアイデアを実行するようになって、彼らの個性が消えないまま成長させることができるかなと思っています。
─スクールで、手の位置、足の位置、力の入れどころ、強さ、タイミング―つまり「コツ」を流し込んでもらうことで効率的にスキルを習得できると思っていました。しかしそれは、どの選手にも万能な情報ではないかもしれないし、返って気づきや発見の機会を阻害してしまうのかもしれないのですね。
翼さん:自分で得た気づきや発見が、選んだプレイや選択肢の自信や根拠になるといいですね。
そして、自分で選ぶ責任や、アイデアを受け入れること、変化させることが、自分の人生のプラスになることを、サッカーを通して経験してほしい―サッカーを彼らの人生の土台にしてほしいと思っています。
そして願わくば、トーラスに関わった子どもたちが将来、「サッカー人」として成長してほしいなと思います。
─「サッカー人」とはどういうことですか?
翼さん:サッカーを通じて人生において大切な何かをつかんだ人はすべてサッカー人と私たちは呼んでいます。お金でも、恋人でも、仕事でもいいし、思考やマインドでもいいと思うのです。
■サッカー人として、いまだ変化と成長を受け取る日々
翼さん:私自身、高校生までサッカーを続けていて、その後の進路を決めるなかで、ふとサッカー人生を振り返ったことがあります。技術的なことは不得意ではなかったけれど、サッカーの試合の流れをイメージするとかやってこなかったな・・・そこから「自分はサッカーを知らないな」という思いになり、そのタイミングでサッカーを学び直そうという目的ももって、自分の過ごした少年団にコーチとして戻りました。18歳、私の指導者人生の始まりです。
─サッカーを学び直すことで気づいたことや変化はあったのですか?
翼さん:子どもたちに自分の言葉で伝えていくなかで、「サッカーはつながっているのだな」と感じ始めました。選手のときは、自分のプレイからの世界しか見えていなかったものが、自分がボールにかかわっているときでも、だれがどんな準備をしているかで状況は変わるし、その逆もあるんだなぁと。サッカーはチャレンジの連続で、時間や空間も連続しているのだということを、指導者になって初めて発見できたのです。
─長くサッカー選手を続けていても気づけなかった思考を得られたわけですね。
つまり翼さんは「サッカー人」ということになりますね。
翼さん:そうですね(笑)。そういう意味では、指導者としてサッカーにかかわるなかで、私はいまだに変化や成長をサッカーから受け取っていると感じます。
じつは私は、幼少のころから自分をさらけ出すのがとても苦手でした。相手とかかわるタイミングや、自分がどうふるまうべきか、どんな言葉をかけるべきかを相当に思い悩み、結局何も言えずにモヤモヤすることもありました。
いま、人とかかわるときにずいぶん楽になったのは、サッカーとは違う部分での経験の影響もあるけれど、サッカー指導者の経験もまた、私の変化や成長に大きく影響しているのだと思うのです。
いろいろな子どもや親を見ていると、いろいろな視点やいろいろなケースの人を見ることができるから、その都度、その人を通して自分を知るということができたなと思うのです。
だから私は、いまだサッカーからたくさんのものを受け取るサッカー人なのだなと、あらためて思いました。
編集部のひとこと

編集長
かなさん
早期教育の情報があふれ、小さいころから評判の良いスクールに通わせなくてはと焦りを覚えた親御さんは少なくないと思います。
今回のインタビューで、トーラスはサッカースクールではあるけれど、あくまでサッカーはツールであり、サッカーを通して「どうなりたいか」「どう成長したいか」を問う場所なのだなと実感しました。
逆におふたりは、「キックってこういうもんだよね」「サッカーってこうやるんだよね」と、サッカーに対する先入観や強い概念をもっている子どもは、自分たちのパワーではどうもできないとおっしゃっていました。
いっぽうで、ド素人でサッカーを何も知らない子、サッカーのおもしろさに気付けなかった子どもたちには、トーラスにかかわることで「サッカー人」となるチャンスがあるのかもしれません。しかし、わすれてはならないのは、親がめざすものを共有しておくことなのだと思いました。
親は子どもの習いごとに、とかく熱くなりがちです。勝つことや、うまくなることだけを見るのではなく、習いごとを通して、子どもに何を受け取ってほしいのかという視点がぶれなければ、子どもたちはその習いごとに自主的なかかわりをもち、将来にわたり、その子の人生の大きな支えをつかみ取ることができるのかもしれません。
- CLUB TORUS:
- https://clubtorus.wordpress.com/
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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