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輝く女性インタビュー

鎌倉の“ステキ”が調和した場所 GERATORIA SANTiジェラティエーレ 松本愛子さんインタビュー


鎌倉駅西口から300メートルほどつづく御成通りの商店街。地元の人に愛されるお店も多く、落ち着いたおしゃれなお店が点在しています。気ままに散策しながら小路に入ると、思いも寄らないお店との出会いがあるのもこの通りの魅力です。このGELATERIA SANTi(ジェラテリア サンティ)もそんなお店のひとつ。大通りから入り込んだこの立地のサンティにたどり着いたときは、きっとだれもが「すごいものを発見してしまった」高揚感に包まれるでしょう。
今回は、2018年にGELATERIA SANTiをオープンした合同会社SANTIジェラティエーレ・松本愛子さんに、ジェラートやSANTi、それらを取り巻く地域への思いについてお話をうかがいます。

 

■What’s ジェラート? What’s《SANTi》?

─本日はよろしくお願いします。

松本さん:こちらこそよろしくおねがいします。

─小さな小路を抜けたらこんなすてきなお店があるなんて、びっくりしました。

松本さん:ありがとうございます。

─GERATERIA とは”ジェラート”お店”という意味ですよね?ではSANTiにはどのような意味があるのですか?

松本さん:「サンティ」とは“小さいサンチャゴ”という意味のポルトガル語です。このお店を出すきっかけとなったのが、夫婦で世界旅行をしていた旅での出会いにあるのですが、その旅の間に気に入って読んでいた本の主人公の名前なのです。「アルケミスト」という小説で、主人公のサンチャゴが人生で大切なものを探しに旅に出るという話なのですよ。

─松本さんもサンチャゴのように人生で大切なものを探しに旅に出て、SANTiへとつながる出会いをされたのですね。

松本さん:もともと学生時代から少し働いたら海外へ旅に出たいと思っていたのを実行に移したという感じでしたが、イタリアを旅した時に食べたジェラートに衝撃を受けました。本場イタリアで知ったジェラートの本質も、たまたまジェラートの世界大会に出くわし、一流のジェラート職人の味を体感したことも、食べることが好きだった私たち夫婦にとってはまさに、「衝撃」でした。

SANTiの人気ジェラート

─それまでの松本さんのなかにあったジェラートと、何が違っていたのですか?

松本さん:まずひとつは、イタリアではジェラート屋さんがコンビニくらいの勢いであって、町や地域やお店によっての個性がとてもよく出ていることです。その土地の作物を使って販売するお店で製造するという土台があるから、素材の味が生きていて、どのジェラートを食べてもお店の個性が出ていることがとてもおもしろかったのです。
いっぽうで、日本では工場で大量生産されているのでクラフト感は感じづらいですよね。
もうひとつはジェラートのイメージです。お客さまでも最初は「ジェラートはシャリシャリしてさっぱりしている」というイメージをもっている人が多いのですが、本当のジェラートはとてもなめらかだし、ものによっては濃厚なものもあるのです。

─一般的な日本人がアイスやジェラートに求めるものは、甘さや冷たさが大きくて、「素材の味」にはあまり焦点があたらないですよね。

松本さん:ジェラートは、アイスクリームと比較して乳脂肪分や糖分が一般的には少ないので、それ以外の素材の味がのせやすいと言われています。たとえばピスタチオはジェラートでは代表的なフレーバーなのですが、ピスタチオジェラートはピスタチオの味を非常に濃く感じるのですよ。アイスクリームは乳脂肪分が多いので、ミルクの味がよく出て、ミルクを生かして濃厚こってりしている感じになるのでしょうね。

─その後松本さんはジェラート職人になるべくすぐさまイタリアの専門学校へ入学したと聞きました。松本さんの受けた衝撃の大きさを感じます(笑)

松本さん:ジェラート職人は、パティシエと違って手先の技術を長年の鍛錬で培うような作業はそこまで重要ではないので、そこまで長期過程ではないのですよ。学校ではどちらかというと理論的な部分が重要なのでそこをみっちり学びました。あとは各職人の個性や独学で試作開発を進めるので、私も修了後は独学で学んでいきました。
じっさい世界で活躍するジェラート職人も、もともとパティシエという人もいますが、世界的賞をとっている人のなかには、コンサルタントとかお医者さんなど、まったく異なる職業から転職している人が多くいるのもおもしろいところです。

─理論がベースで、あとは個性と素材を組み合わせるアイデアということですね。職人といっても、かなり理系色が濃い職業ですね。

松本さん:完全に理系だと思います。ジェラート作りは化学的な部分を理解したり、理論的な部分、数字、計算が必要。私は公認会計士でもあるので数字を扱ううえではちょっと理系的なところもあるのかな。ジェラティエーレは、理論があるうえに個性が出せるというおもしろい職業だと思います。

 

■SANTiらしさが生まれるとき

─ジェラートは、理論の上にお店や土地の個性が出せる食べ物ということでしたが、SANTiのジェラートも個性的なメニューがたくさんありますね。これらメニュー作りの発想や考案のきっかけなどを教えてください。

松本さん:素材から発生することもあるし、アイス以外の食べ物から着想することもあります。「クマザワ」は、寒川町にある酒造メーカー・熊澤酒造の酒粕を使ったジェラート。地域の生産物を生かすならどんなものがあるかな・・・と考えたとき思いついたものです。
ローズマリーハニーは、藤沢産の無農薬ローズマリーと鎌倉産のはちみつを使ったジェラート。
ハワイで料理をいただいたとき、はちみつとローズマリーの組み合わせがおいしいなという経験から、それをのせたらどんなになるのだろう?という着想もあります。

─土地の生産物をそのまま使うだけでなく、旅から発想を得た素材や手間をプラスすることでSANTiらしさが表現されていくのですね。それにしても甘酒やローズマリーのジェラートなど、初めて見たお客さまはとてもめずらしいと感じるのではないですか?

松本さん:そうですね。でもローズマリーハニーはSANTiでいちばん人気があるフレーバーのひとつなのですよ。どちらかというとSANTiは、よくある抹茶などシンプルなフレーバーは定番には出してこなかったのですが、伊豆にお店を出した関係で、「伊豆と言えばお茶だよね!」というつながりを感じて、シンプルなフレーバーも今年から出し始めたのですよ。

嘉山農園さんの朝摘みイチゴのソルベが映える

─このお茶農家のように、SANTiのフレーバーとなる生産物やその生産者とはどのように出会っているのですか?

松本さん:自分たちでも調べたりしますが、地域農家とはマルシェで知り合ったり、その農家の紹介で別の農家を紹介してもらったりしますね。私たちは地域の生産物を使うことは大事にしたいと考えています。
世界旅行でいろいろな国をまわったのですが、不思議と途上国にいる方が体調がいいのです。なんでかなと考えてみると、その場でとれたものを食べていたからかなと。なんでもある発展した国より、物流もものもなく、なんとか作れるものを作っている国の方が、とれたものを食べるしかないのだけど、からだにはいいのだなと思いました。

─旬のものも身体にいいとも言いますからね。

松本さん:しかしいっぽうで、近ければいいというわけではなく、適地適作の考えも大切だと思っています。合わない気候や条件で無理をしなければ生産できないものならば、世界に視野を広げていい品質のものを探します。しかし、直接コーヒー農家と知り合うというよりは、信頼のおける地域のコーヒー店がセレクトしたものを紹介してもらうという感じですね。チーズも地域のお店の方から紹介してもらっているのですよ。

 

■鎌倉にみちびかれ

─商品開発においても、鎌倉の周囲の方がSANTiを応援しているということを感じます。鎌倉の方はとても親切で協力的なのですね。

松本さん:小規模でやっている店も多いので、横のつながりはとてもあると思います。
じつは鎌倉で生まれ育った人はそんなに多くなくて、私もそうですが、鎌倉が好きで外から入ってくる人が多い。ですから、外から来た人を受け入れて応援する空気感やウェットな人間関係があってどこかでだれかとつながっているところはありますね。

─そういった空気感も、鎌倉でお店を出した理由なのでしょうか?

松本さん:もともと湘南エリアに住んでいて、この近郊の地域が好きだということもあったので、お店の候補地として逗子や葉山なども見ていました。作りたいお店には、「環境への配慮」「食べる人への安全性」「素材へのこだわり」などを大切にしていきたいと思っていましたが、鎌倉に住んでいたり、鎌倉を好きでいてくれる方って、そういう意識が高い方が多いな、私たちが大事にしたいなと思っていることを感じ取ってくれる人が多いなと思い鎌倉にお店を出すことにしたのです。
でも、鎌倉は家賃も高いしなかなかむずかしい場所。それでも鎌倉でやるというのは鎌倉が好きなのでしょうね。

店舗の木枠の窓からは江ノ電が見える

─いっぽうでこの場所も、松本さんの鎌倉出店をあと押しする要因だったのはないですか?
このSANTiというお店には、松本さんがお話しくださった「大切にしたいこと」を伝えるためのすべての演出がそろっているように感じます。

松本さん:当時、周囲にはうっそうと木や草が生い茂っていて、よく言えば古民家、大家さんからしたら廃屋いう結構な古い建て物でした。今は隣に新しい建て物も建っているけれど、当時は建て物もなかったので、小路の奥にポツンとある感じで、地図にもうまく出てこないのでたどり着けないこともあったりして(笑)。それでもきちんとお店作りができれば、きっとすてきな場所になるというポテンシャルは感じていました。

─では確信的な思いでここに決められたのですね?

松本さん:いや~、やっぱり不安でしたよ(笑)。「こんな目立たないところに出して大丈夫?」と心配されましたし。でも慣れてくるとこの道の奥の感じがみなさん気に入って下さって。あるときからは、「こんないい場所よく見つけたね!」と言われるようになって、私たちもとても気に入っています。

─ところで、松本さんが鎌倉の周りの方たちに支えられたように、SANTi自身も鎌倉の仲間へ協力をされているそうですね。

松本さん:もともとSANTiのスタッフたちは、自分で「こういう活動をやっていきたい」という意思がある方が多かったので、お応援したいなという気持ちがあります。絵を描いている子だったら、お店に飾る絵を注文したり、写真をやっている子だったらホームページの写真をお願いしたり。SANTiの閉店後に、定期的にビーガンスイーツのアイスケーキを製造販売するするご夫婦もいます。

─ご自分が周囲にしてもらったことをそのまま周りに返していっているのですね。

松本さん:もちろんずっといっしょにやりたいなという思いもあるのですが、めでたく卒業して夢をかなえてもらう場であってほしいなと思っています。人生の一定期間にこの場所でいてくれるので、それが仕事ではありますがいい時間になったらいいなと思います。

─SANTiがみんなの旅の出発点になるといいですね。

 

■これからのSANTi、これからの私

─現在赤ちゃんが9カ月。大変な時期だと思います。赤ちゃんを育てながら、会社も育てている状況のなかで、SANTiで松本さんはどのような役割を担っているのですか?

松本さん:今はスタッフに甘えておんぶにだっこ状態。商品開発、素材探しは私が中心でやっています。今は本当に偉そうなことは言えないのですが、理想としてはお客さまと話したり、スタッフと話したり、もっと商品開発もしていきたいなと思っています。

─ホームページやSNSなどもしっかりと作られてこまやかに手が行き届いている印象で、経営者として優秀な方なのだなと思いました。

松本さん:いえいえ、ほんとうにスタッフに支えられています。

─今後の合同会社SANTiの計画などを教えていただけますか?

松本さん:2022年7月頃になると思いますが、築100年超えの古民家を改修して大磯に新しい拠点をオープンします。そこは、焼き菓子とパンとジェラート、そしてコーヒーを提供する予定で、少し広くなるので、今までやりたかったことを実現する場になればいいなと思っています。

─今までやりたかったこととはどんなことですか?

松本さん:もっと日常に寄り添った商品を扱っていきたいということ、そして、ジェラートのすそ野を広げていきたいということ。
いまは機械メーカーなどでセミナーをやらせていただいているのだけれど、大磯ではお店を開きたい人や家庭でジェラートを作りたい人、子ども向けなどに講座を開催できたらと思っています。

─決まったものをレシピ通り作るのとは違い、個性を存分に発揮できるジェラート作り、おとなも子どもも楽しめそうですね。松本さんのようにジェラートの衝撃を受けた人たちが、ジェラートの魅力を伝えるジェラティエーレになる旅の出発点となるかもしれませんね。

 

編集部のひとこと

編集長

かなさん

2021年12月、松本さんは、日本代表としてジェラートの世界大会「ジェラートフェスティバルワールドマスターズ」に出場されました。4年に1回の権威ある祭典で、松本さんが世界旅行のなかでジェラートの衝撃を受けた大会でもあります。

結果、賞は逃したものの、世界のジェラティエーレと競演した経験と興奮はなにごとにも代えられないものと言います。

公認会計士から一転、4年で3店舗を出店し、ジェラティエーレ最高峰ともいえる世界大会へ日本代表として参加するまでとなった松本さん。松本さんのすごさもさることながら、出会うべくして出会ったいくつもの偶然と、その偶然をていねいにくみ取った重なりを感じ、鎌倉の不思議な力を思い起こすインタビューとなりました。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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