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輝く男性インタビュー

クレイジーな鎌倉へようこそ!鎌倉で人をつなげ町を盛り上げる仕掛け人 店主×ミュージシャン×俳人 内堀敬介さんインタビュー

地域の人から「ウッポン」と呼ばれ親しまれる内堀敬介さん。鎌倉で生まれ鎌倉で育った内堀さんは、鎌倉の人気食堂《朝食屋コバカバ》の店主であると同時に、鎌倉のコミュニティづくりにおいて彼を知らない人はいないほどの有名人です。
今回は、アイデア豊かなつながりの場をつくり続けている内堀敬介さんに、鎌倉におけるコミュニティ活動についてお話をうかがいました。

 

■鎌倉の「朝」を交差点に

─ここ《朝食屋コバカバ》の人気ぶりもさることながら、鎌倉のコミュニティづくりにおいて、内堀さんは相当な有名人とうかがいました。

内堀さん:そんなこと誰に聞いたの(笑)。でもね、地域の豊かさのなかに自分や家族の幸せがあると感じているので、地域を盛り上げる活動はたくさんしてきましたね。

─地元のミュージシャンがたくさん参加する月イチのイベント《Green Morning Kamakura》(以降、グリーンモーニング)も内堀さんが立ち上げたそうですね。

内堀さん:現在は残念ながらコロナでお休み中なのですが、もうひとり写真家の友人と始めた企画です。「音楽を日常のエンターテイメントにしたい」と思ってスタートしました。

─Facebookで過去のイベント動画を拝見しましたがとても楽しそう。(グリーンモーニングFacebook
https://www.facebook.com/GreenMorningKamakura/ )

内堀さん:ハワイやヨーロッパへ行くと、地下鉄の中や広場で音楽を演奏している人に出会いますよね。町を歩いていたら道端で音楽をしている人がふつうにいる、そんなことをしたかったのです。だからグリーンモーニングではくらしに根付いた音楽をやりたくて、ブルーグラスとか、民謡みたいなものも入れながら、カバー曲もオリジナル曲も豊富に演奏していました。鎌倉は音楽活動をしている人も多いのだけれど、レベルもすごく高いので毎回とても盛り上がりました。

─海外で訪れた町の風景のようですね。観光客もふらりと参加しているようで、旅の途中に、その町の日常に溶け込んでいるように見えました。

内堀さん:鎌倉は、朝と夜は地元の人が多く、観光客は昼が多い。グリーンモーニングのような地元の我々が日常を意識して楽しんでいるイベントを朝に作り、そこに観光客が入って来てくれれば、地元の人と観光の人がうまく交じり合ってくれるのではないかなと思ったのです。

グリーンモーニングが行われていたPatagonia鎌倉前スペース
観光名所のひとつ《レンバイ》はすぐ隣

─スタートしたときからこんなに盛り上がっていたのですか?

内堀さん:いちばん最初は、鎌倉の観光名所のひとつともいえるレンバイ(鎌倉市農協連即売所)の横にある、アウトドアウェア用品ショップのPatagonia鎌倉の前の広場でやりました。2回、3回と回を重ねるうちに、人が集まりすぎてしまい、警察まで出る事態に(笑)。もうどこか場所を借りなくてはいけないねということで、私の店朝食屋コバカバとCafé GoateeとCOPEN LOCALBASE KAMAKURAを会場とするようになりました。

─内堀さんの「人が集まりたくなる」雰囲気づくりが上手なのでしょうね。

内堀さん:音楽というだけで楽しいですからね。聴いていた人が突然演奏に参加するとか、フラッシュモブのような雰囲気もありました。戦前から続いていた「鎌倉カーニバル」をみても分かりますが、町の中で楽しんじゃうという気質は、鎌倉にずっと根付いているものだとも思います。
私自身もそう。グリーンモーニングやグリーンモーニングマーケットなどいろいろなコミュニティをやってきたけれど、自分や家族が楽しむというのがいちばんの根底にあります。

 

■うっぽんさん流コミュニティづくりは「クレイジー」?

内堀さんの経営する《朝食屋コバカバ》にある壁画
古さと新しさとアートが息づく建て物

内堀さん:私自身が楽しんでいたコミュニティのひとつに《クレイジー銭湯》というものがありました。

─スパイス強めなネーミングのコミュニティですね(笑)

内堀さん:鎌倉にはちょっと世間離れしたクレイジーな人が多いのです。しかも、いろいろなレイヤーに(私的に)クレイジーな人がいるのです。そんな異質な人たちを銭湯でつなげて、どんな化学反応がおきるかを見るのを楽しむコミュニティです。
私が声を掛けた人たちを、自己紹介なんかさせないでとにかく銭湯に入れちゃうと、肩書とか思想とか関係なく湯につかり、そのあとはそのまま飲みに行って勝手に交流が始まるのです。その人がどんな肩書があるとかどんな仕事をしているかはいちばん最後にわかること。なんならわからないままのこともあって、3年後くらいに「へー、絵を書く仕事をしてたんだ!?」となることも。肩書ではなく、人となりだけでつながっていくのです。

─これまでどのような人をクレイジー銭湯に入れてこられたのでしょうか(笑)?

内堀さん:私が勝手にこの人とこの人をつなげるとおもしろそうだなぁと考えて声を掛けるのですが。たとえば、地元で保全活動をやっている人とIT企業の社長さんとか。ふだん交わる機会もなさそうな人たちです。
鎌倉にIT企業が集積し、シリコンバレーならぬ鎌倉バレーの形成が話題になったとき、地元では未だキャッシュレスとかテクノロジーというものに違和感がある保守的なレイヤーの人もいたわけで。でもそれってもったいないなと思うところがあったのです。
確かに全部を変えてイノベーションするのでは反感もあるのだろうけれど、地元ですばらしい保全活動をやっているけれどなかなか広がりがないという課題も聞く。せっかくだったらテクノロジーを使えばもっとうまくいくこともあるかもしれない―そのへんがうまく銭湯でつながっていくかな?とかね。最初は5人くらいだったのがだんだん大きくなって、大学教授とかおでんとか地球環境とか、テーマはいろいろ発展していきましたね。

─テーマに共通項がまったく見えません(笑)。どのように人選をしているのでしょうか?

内堀さん:もう私の興味と楽しみ。人と人がつながって、化学反応がおこったり発酵したりする。つまりそれは、人との関係性が変わって、環境が変わって、結果が変わってくるということ、鎌倉自体が変化するということなのです。
この化学反応がきっかけで、鎌倉に新しい店ができたり、イベントが生まれたりすれば、最終的には自分や家族のくらしが豊かになりますよね。地域が育つことによって、自分に還元されていくということです。
私はぬか床をかき混ぜて、その結果、鎌倉の町がおいしくなっていればいいと思っているわけです。

 

■「無常観」、それが鎌倉。

─鎌倉は歴史ある古い町というイメージがありましたが、内堀さんを通して見る鎌倉は、変化に対してとても柔軟な印象をもちました。

内堀さん:鎌倉には寺や仏閣など歴史あるものもあればおしゃれなカフェもあるとか、山があるかと思えば海まで歩いて行けるとか、いろいろなものがバランスされていて不安定なところもある―常に流れて流動しながら空気を保っている泡みたいな町だなと思います。

─おもしろい表現ですね。鎌倉の変わり方は、かたどる、色を塗る、補うような、元の形を保った変わり方ではなく、泡が形を変えていくような変化なのだと言われれば、とてもしっくりきます。

内堀さん:鎌倉時代の無常観であり、鎌倉は変わりつづけることが常だったのだろうなと思います。鎌倉の人たちは温故知新というものがものすごくあると思います。「大切なことは先人たちが知っていた」という意識をもっていて、それを守るのではなくアップデートしていくところが備わっているなと思います。

─どんな変化も当然のこととして受け止められるということでしょうか?

内堀さん:いえいえ。もちろん、変わることは怖いし、変えることには迷いが伴うときもあります。でも迷いながらやって流れていく。流されるのではなく自ら流れていく。その流れのなかで見える景色も変わっていく形も、必要な材料だということ。震災にしてもコロナにしても、新しいものにシフトして流れていくための、すごく大事なきっかけだということ。
逆にね、今ある形を守ろうとすると、排他的になってしまうのですよ。

─無常観、温故知新、クレイジーな人びとなど、鎌倉の町には、町が自らアップデートするための素地があるのだと思いますが、このような思考を言葉やアクションに変えられる内堀さんという場づくりの人材がいたからこそ、鎌倉でたくさんのコミュニティが育っているのでしょうね。

内堀さん:私が流れを作るとか、人を巻き込むというのではなく、私この鎌倉で、変わらずリズムを刻んでいるのです。私がリズムを刻み続ければ、いつかそのリズムをいっしょに刻むようになる。朝晩6時に鐘が鳴る、朝食屋コバカバは「おはよう、かまくら」と唱え続ける、レンバイから季節の変化を毎日届け、季節の移ろいを句で詠み続ける。私が刻むリズムに出会った人たちが、そのリズムに合流し、新しい鎌倉、新たな社会ができていく。鎌倉幕府もここから新しい社会を作った、鎌倉は、新しい社会が生まれるはじまりの町なのです。

朝食屋コバカバの丸窓と地球暦の暦表

 

編集部のひとこと

編集長

かなさん

これまで場づくりにかかわるたくさんの方にお会いする機会がありました。パッションが熱い方、切り口が斬新な方など、たくさんの個性にお会いすることができました。
いっぽうで今回お話をうかがった内堀さんの個性をひとことで表現すると、《鎌倉オーラがすごい人》。インタビュー中、「もしや前世で鎌倉を生きてきた?」と何度感じたことでしょう。内堀さんの“言葉”で伝えられると、昔の鎌倉も映像として頭に浮かんでくるようでした。
すると内堀さん、じつは俳人の顔ももっているのだと教えてくれました。身の回りの自然から、季節の変化や時間の流れを感じる体験の豊かさを共有する句会を主宰し、このコミュニティから句集も発行しているそうです。
「テレビもネットもない時代、自然の変化こそが最大のエンターテイメントだった先人たちは、風ひとつ表現するにも、さまざまな言葉をもつ。その感性を自分たちにインストールするのです」
インタビュー中に感じた不思議な感覚―内堀さんのお話はいつも、俳句のように五感を刺激していらっしゃったのだなと納得したのでした。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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