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輝く女性インタビュー

《食物アレルギー》からのギフト アレルギーっ子の旅する情報局 CAT 代表 村田愛さんインタビュー

アレルギーっ子の旅する情報局CAT 代表の村田愛さん

代表の村田愛さん

アレルギーっ子の旅する情報局CATのホームページ(https://usapen.info/)をのぞいてみると、カラフルでポップなページデザイン、かわいいイラストマンガが目をひく魅力的なコンテンツがズラリ。たくさんの誕生日プレゼントをまえに「どれから開けようか」と迷ってしまうワクワク感があります。

ここは、『アレルギーっ子といっしょに、いろんなところで遊びたい!いっぱいいっぱい旅したい!』と思っているママパパ向け情報サイトで、”管理猫”こと、代表の村田愛さんがひとりで運営されています。サイトを読み進めると、アレルギーっ子の旅行や生活をサポートするお役立ち情報だけでなく、アレルギーっ子のためのフリーペーパー発行や絵本の出版、アレルギー啓発のためのオリジナル商品開発の活動の様子が見え始め、“ひとりで”という言葉とは真逆の、村田さんの人脈と活躍の広さを直感しました。

今回は、アレルギーっ子とその家族が必要とする情報を届けながら、自身のキャリアを輝かせているアレルギーっ子の旅する情報局CAT代表 村田愛さんにお話をうかがいました。

 

■マルチなスキルは《夢》が出発点

 

-村田さん、本日はよろしくお願いします。

村田さん:よろしくお願いします。

-サイトを拝見しました。アレルギー対応可能な宿泊施設や飲食店を地図上から検索できるなど、アレルギーっ子やそのご家族に役立つコンテンツが盛りだくさんですね。

村田さん:ありがとうございます。

-情報満載のこのサイトをおひとりで運営されているということにとても驚いたのですが、村田さんはいったい何者なのでしょうか?

村田さん:(笑)。職種としては”デザイナー“を名乗っていますが、アレルギーっ子の旅する情報局CATにおいては、ライター、企画、編集、営業など業務全般をこなしています。

-実際に手を動かすプレイヤーとしても、プロジェクト全体を見渡せるゼネラリストとしても稼働されているということですね?さらりとおっしゃいましたが、マルチなスキルが必要で簡単なことではありませんよね!?

村田さん:その点は、大学院を出てから就職した職場での経験が生きているのだと思います。それはIT系のベンチャー企業だったのですが、記事も書く!デザインもする!営業も行く!ディレクターもする!と、まさに現在と同じような状況で働いていました。ベンチャー企業だからこそできた経験だと思います。

-なるほど納得です。村田さんのもともとのキャリアプランのなかで、マルチなスキルを身に付けていきたいという思いがあったのですか?

村田さん:いいえ。もともとは人に伝える仕事がしたいと思っていました。高校時代に、ピューリッツァ賞を受賞した日本人写真家・沢田教一氏のベトナム戦争の写真を見て、1枚の写真を通して世界で起こっていることを鮮明に伝えていることに衝撃を受けたのがきっかけです。その後、新聞記者をめざして大学へ進み、北海道大学大学院で国際広報メディアを学びましたが、就活時に行きたかったどの会社ともご縁がなく、新聞記者をあきらめなければならなかったのです。

まわりの同級生は名だたるマスメディア関連企業に就職を決めるなかで、私は夢を半ばあきらめた状態でそのIT企業に就職したのです。

しかし10年経ったいま、オールマイティに動ける力が付いたことに感謝の気持ちでいっぱいです。自分の力で情報を伝えるという夢は結果として叶いました。

 

■アレルギーマークをフリーデザインにした理由とは?

アレルギーマーク

 

-では、2017年に発表されたオリジナルのアレルギーマーク(上写真)も村田さんがデザインされたのですか?

村田さん:いいえ。これはシンプルなデザインが得意な友人にデザインしてもらいました。自分にアレルギーがあることをうまく伝えられない小さな子どものためにも、その子のアレルギーについてきちんと伝えられる目印のようなものは必要だとつねづね思っていました。まわりのおとなたちがその目印を見てアレルギーに配慮できるようになるだけでなく、自分が子どもにおかしをあげようとしているときはいつでも「もしかしたらこの子にはアレルギーがあるかもしれない」という意識をもってもらえたら・・・とも考えていたのです。

-アレルギーっ子の親ではない一般のおとなの意識も変えていきたかったということですね?

村田さん:そうです。じつは、「アレルギーがありますよ」と知らせるキーホルダーなどは、それまでもいろいろなアレルギー関連の団体などから販売されていました。しかし、購入していくのは当事者だけなのですよね。これだけでは、当事者以外の人には届かないな・・・と思っていたのです。

そこで、このアレルギーマークをフリーデザインにして配布することにしました。

-フリーデザインですか?

村田さん:はい。当時、ハンドメイド作家として活動するママたちのなかで”ロゼットキーホルダー”を作る方が多くいらっしゃったので、彼女たちに自由にこのデザインを使ってもらい、アレルギーマークのロゼットキーホルダーを制作できるようにしたのです。すると、全国のハンドメイド作家から問い合わせをいただき、このデザインを利用した製品作りが広がっていきました。

-作家のみなさんが、自分のまわりにアレルギーマークが必要な方がいると認識されたのですね。

村田さん:はい。たくさんの必要な方に届いたこともたいへんうれしいのですが、アレルギー当事者ではないハンドメイド作家のみなさんが、アレルギーのことを知って、そのうえで制作して販売してくださったことがたいへん意義深かったと思います。

-村田さんのおっしゃる当事者以外の一般のおとなの意識が変わるきっかけにもなったのですね。

村田さん:私ひとりが製品を作って販売しても、届けられる先はとてもかぎられています。当事者以外の人も巻き込みながら、たくさんの人に知ってもらうにはどうしたらいいのだろうか・・・そこを考え抜いた企画でした。

-関心がない人にも正しく情報が伝わって社会が動いていく―村田さんが学生時代に夢見た「人に伝える仕事」の醍醐味ですね。

 

■CATはすべてがつながりできた場所

アレルギーっ子の旅する情報局CAT 代表の村田愛さん

 

-村田さんが代表を務める「アレルギーっ子の旅する情報局CAT」ができたきっかけを教えていただけますか?

村田さん:まずはふたりの子どもたちにアレルギーがあったこと。長男が10カ月くらいのとき、離乳食で夜にパンを食べさせたら、みるみるうちに顔がはれあがり、救急に飛んでいきました。そこで卵と小麦の重度のアレルギーが判明したのです。

-そのときはどういう思いだったのでしょうか?

村田さん:当時は、「食べさせなければいい」のだから大きな問題だとは思いませんでした。しかしすぐに、この世には小麦と卵があふれているのだと気づきました。

-子どもさんのアレルギー対策のために、村田さんにアレルギーに関する情報が必要だったのですね。

村田さん:そうです。しかし、実際活動の決め手となったのはとある旅館の対応でした。

-旅館ですか?

村田さん:私も夫も旅行が大好きだったので、子どもたちもそろそろ落ち着いてきたころ一泊旅行に行く計画を立てました。旅館にアレルギーの子がいることを伝えると、「うちはアレルギーの方はお断りしていますので」と、電話を切られてしまって・・・。

-電話を切られてしまったのですか!?

村田さん:衝撃でした(笑)。えー?アレルギーがあると、宿泊を断られてしまうの??と。それからアレルギーの人も受入れてくれる宿泊施設を探してみるのですが、ほとんど情報がない。アレルギー対応のレシピや悩み相談の情報はたくさん見つかるのに、泊まれる場所やお出かけできる場所の情報がきわめて少ないことに気付きました。

 

「じゃあ、作ろう!」

 

と真夜中に思い立ち、ウェブサイトを1日で立ち上げました。

子ども(Child)、アレルギー(Allergy)、旅行(Trip)。CAT・・・私、天才!と言う感じで(笑)

-当時の村田さんに大きく影響していた3つのフレーズの頭文字をとって「CAT」になったのですね。それにしても、1日でウェブサイトを立ち上げてしまうとは、相当強く感情が揺れていたのでしょうね。

村田さん:ITベンチャーでの経験がここでも生きましたが、実際は産後ハイというものだったかもしれません(笑)

-旅へ行けないこと、ふたりのお子さんのアレルギー、失意のなかで就職したITベンチャーでの仕事。どれも“試練”の要素を含んでいますが、これらのどれが欠けてもCATは成立しなかったといえますね。

 

■アレルギーがあったから気づけること、できること

CATが発行しているフリーペーパー「WAKUWAKU」

 

-CATが発行しているフリーペーパー「WAKUWAKU」は、現在発行数が1万部とか!年に2回、全国のアレルギーっ子やそのご家族に届けられているそうですね。

村田さん:はい。それまでに個々につながっていた団体に送らせてもらったことからスタートして、その団体から枝葉のようにひろがっていきました。また、同じ神奈川県に住んでいても、横浜市の人が川崎市に冊子を取りに行くのはむずしいでしょうから、ご希望の方には、個人宅にも発送しています。

-するとこの発送も村田さんおひとりで行われているのですか?

村田さん:そうですね(笑)。

-労力もさることながら、フリーペーパーの送付先が増えれば増えるほど、発送料などのコストも増えていきますね?発行数が増えてうれしい反面、苦労も増えるのではないですか?

村田さん:いえいえ、うれしいかぎりです。読んでいただけるのは本当にありがたいです。Webだけだと行き渡らないな・・・という感覚があってフリーペーパーを創刊しました。「いまどき紙?」というご意見もありますが、Webと比べて紙の媒体は、広告などふと目に入った情報を拾いやすいのかなと思いました。

じつは、名だたる大企業がアレルギー配慮の商品を発売しているのですが、その情報が必要な人に伝わっていないことが多いと感じていました。ニーズが限定的なアレルギー配慮の製品は、大々的に広告にお金が欠けられない事情があるのでしょう。すばらしい商品が、消費者に届かずに消えていくのです。何かできないかな、届ける方法はないのかな?と考えていたことも「WAKUWAKU」をはじめたきっかけでした。

-広告そのものが伝えたい内容のひとつということなのですね。

村田さん:広告で扱う商品は、SNSを使ったり食品展示会などに参加して情報収集をしています。WAKUWAKUを介して、必要な方に商品が届き、企業にもよりよい製品を生産できるサイクルが生まれるといいなと思います。

そのほかにもWAKUWAKUでは、アレルギー当事者の小中学生にキッズライターとして制作に参加する機会を提供しています。

-たしかに、WAKUWAKUは全編を通してキッズライターが記事内容にかかわっているようですね。キッズライターとはどのようなことをするのですか?

村田さん:彼らはアレルギー当事者の小中学生で、全国に10名ほど在席しています。自分の関心があることを取材して記事を書くこともありますが、企画に参加してもらって記事にすることもあります。たとえば2021年発行vol.6では、キッズライターが「両親にお弁当を作る」という企画に参加してくれたことを記事にしました。このときは、栄養士から「お弁当って何?」「栄養のバランス」などについて1時間ほど学び、それからお弁当作りをおのおのでレポートしてもらいました。

-「食べられないものがある」アレルギーっ子が、食について学び、お弁当作りを楽しいイベントとして参加できていることがとてもすてきですね。いっぽうで、フリーペーパーの制作にかかわるなんて、小中学生の子どもたちにとって、とても貴重でエキサイティングな経験ですよね。

村田さん:はい。キッズライターのみなさんは、しっかりと責任を自覚して参加してくれていますから、彼らにはきちんと活動費をお支払いしているのですよ。

-アレルギーがあったからこそ出会えた経験ばかりですね。

 

■絵本への思い

アレルギーっ子チルチルと青カボチャ

 

-2021年9月に、クラウドファンディングによって絵本を出版されたそうですね。こちらの制作にもキッズライターがかかわられたのですよね?

村田さん:はい。制作当時中学2年生と小学4年生だったあんちゃんとはなちゃんに、絵本を作りたいのでお話しを考えてくれない?とお願いしました。物語の創作において大切にしてもらったのは、彼女たちアレルギー当事者の子どもたちの「気持ち」でした。以前と比べると、企業や学校もアレルギーに積極的にかかわるようにもなりましたし、家族のなかにアレルギーの人がいなくても、食物アレルギーの原因や対処法などの情報は容易に探せるようになりましたが、当事者の子どもたちの「気持ち」を伝えているものはほとんどないなと感じていました。

-たしかに。私もお恥ずかしながら、「食事の準備が大変そうだな・・・」と親御さんの苦労は想像しましたが、子どもさんがどんな思いでいるのだろうか・・・ということまでは考えがおよびませんでした。

村田さん:絵本の主人公は、CATのイメージキャラクター“チルチル”というアレルギーをもったネコの子どもです。WAKUWAKUにもたびたび登場するこのチルチルを使って、アレルギーについて楽しい啓発ができないかなと考えていました。そこで、アレルギーっ子もアレルギーじゃない子も楽しめる「絵本」を作ることにしたのです。

-それで「アレルギーっ子チルチルと青カボチャ」ができ上がったのですね。イラストもとてもかわいくて親しみやすいです。ハロウィンかぼちゃのイラストが、きれいなターコイズブルーなのもかわいいです。

村田さん:青カボチャには大切な意味があるのですよ。アメリカ発の『Teal Pumpkin Project』では、青いかぼちゃを身に付けている子は「食物アレルギー」があることの目印。だからその子には、お菓子ではなくおもちゃを配ろうという活動があるので、アレルギーっ子もアレルギーじゃない子もいっしょに楽しめるハロウィンを実現しています。

-そんな取り組みがあるのですね。日本でもそれがあたりまえに知られるといいですね。ぜひ、CATのサイトから絵本を探してみてほしいです。

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

村田さんの活動のひとつに「食物アレルギー×発達障害っ子 あるある小話ラジオ」(毎月第2第3月曜22時~)があります。村田さんのお子さま自身が食物アレルギーと発達障害をおもちで、ふたつの要因が掛け合わさった独特のクロスした悩みがあるといいます。
アレルギーは、負荷試験といって少しずつアレルゲンを摂ってからだを慣らしてアレルギーを克服していくフローがあるそうです。しかし、発達障害があるお子さんは、それまで「食べてはいけない」と言われていた食物を食べるという行為が受け入れられず、試験がなかなか進まないといいます。そういった悩みをSNSでポロリと発信したところ、たいへん多くの共感を受け、その際に意気投合したママとこの企画をスタートさせたそうです。アレルギー専門家は発達障害は分からないし、発達障害専門家もアレルギーは分からない。だから自分たちが話すことで、このクロスの悩みをもつ親御さんに少しでも届くといいなと村田さんは話します。
足りないなと感じた場面で、「どうしたら情報が届くのか」と、考えを巡らせ実行する村田さんの行動力、発想力にとても感銘を受けたインタビューでした。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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