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輝く男性インタビュー

デジタル化が進むなかでも残さないといけない職人技術は必ずある!明治42年に創業した東曜印房の4代目 水嶋 祥貴さんインタビュー

有限会社東曜印房の4代目 水嶋祥貴さん

明治42年に水島印舗の名前で創業した東曜印房は、神奈川県の平塚に根づいたはんこ店です。

現在4代目として活躍する水嶋祥貴さんは、幼少期からはんこが身近にあり、保育園の卒園アルバムに書いた将来なりたい職業は「はんこ店」だったそうです。

その夢を実現し、1級印章彫刻技能士となり4代目として活躍されています。

少ない文字数のなかでどれだけ個性を生むことができるのか。はんこの奥深さを知ることができました。
ぜひお楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■幼少期からはんこ職人になることを決めていた!?

はんこの歴史について語る水嶋さん

-まずは御社の創業を教えてください。

水嶋さん:創業は1909年(明治42年)で、私の曽祖父がこの場所で創業しました。それから、祖父、父、私と受け継いでいき、私で4代目となります。

-112年もの歴史があるんですね!では、はんこはどのようにして生まれたのか教えていただけますか?

水嶋さん:はんこの歴史をたどるとメソポタミア文明までさかのぼります。スタンプはメソポタミア文明の生まれだと言われていて、そこからはんこが生まれましたのでかなり古い時代からありました。

-用途としては何かを証明するためなのでしょうか?

水嶋さん:そうですね。所有の証明がおもな用途だったと思います。ほかには、身分を表すためだったり、占いやおまじないだったり、お守り的要素もあったと言われています。

そのスタンプやはんこがシルクロードから東へ東へと伝わってくるなかで、中国文明と出会いスタンプに漢字が使われるようになりました。

おそらくこのあたりでみなさんが想像するはんこができあがったのだと思います。

-そう考えるとはんこの歴史はかなり長いですね。

水嶋さん:漢字自体も奥が深く、古代文字のひとつである漢字は今でも実際に使われている唯一の文字です。形は変化していますが、みなさんが何気なく使っている漢字はじつは古代文字なんですよ。

そこまで意識して使っている日本人は少ないと思いますが、海外からするとやっぱりめずらしいですし、歴史の深さや美しさに魅せられて世界から注目を浴びているのだと思います。

-アルファベットは26文字ですが、漢字は何文字くらいあるのですか?

水嶋さん:1〜2万字はありますね。使わなくなった文字も含めると10万字近いと言われています。

-そんなにあるんですね!私が知っている漢字はほんのいち部なのだと思い知らされました。
そして、はんこは漢字と同じくらい古くから残っている文化だったということにも驚きです。

水嶋さん:日本が誇れる文化のひとつだと思います。

-水嶋さんにとってはこのはんこが家業だったわけですから、一般的な家庭よりも身近にあったと思います。ふだんからはんこを目にしてきて、どういうお気持ちだったのですか?

水嶋さん:はんこに対して特別な感情をもっていたとかはないのですが、曽祖父、祖父、父と家業が受け継がれてきて、私は長男だったということもあり、自然とここを受け継がなきゃいけないんだろうなとは思っていました。

保育園の卒園アルバムの将来なりたい職業に「はんこ屋」と書いていたくらいですから(笑)。

-そんな幼少期のころから意識されていたのですか?

水嶋さん:そのころはそこまで深く考えていなかったと思いますよ(笑)。

両親から後継のことについての話も1度もありませんでしたから。でも、子どもながら何かを感じていたんでしょうね。

 

■「便利がいちばん」には必ず行き止まりがくる

はんこづくりの仕上げである輪郭を整える作業はとても細かいです

-では、はんこづくりについてお聞きしたいのですが、はんこはどのような工程で作られているのですか?

水嶋さん:大きく分けて3つの工程に分かれています。まずお客さまから依頼を受けたら、文字のデザインを決めます。次にその字をはんこに書き込み彫っていきます。これは粗彫りという作業なのですが、この工程では機械を使っています。そして最後は輪郭を刀で整えていく仕上げ作業です。これはすべて手作業です。

ひとつ目のデザイン決めは俗に言うフォントを決めるということですね。どの文字を使うのか、それは縦書きなのか横書きなのか、苗字だけなのか名前も入れるのか、またそのはんこを使う方の性別や年齢、見た目、あとはご本人の好みなどからルールのなかでデザインを決めていきます。

はんこはその人を表すものですし、やっぱりその人にしかないものを作りたいと思っています。

-深いですね。すでに既製品との違いが出てきていますね。デザインのルールとはどのようなものなのですか?

水嶋さん:まずは書体を決めることです。篆書体や行書体、楷書体などの書体がありますが、ここはお客さまに選んでいただきますので、こちらで勝手に変えることはできません。

そして、次がとても重要なことなのですが、それは文字の時代を統一するということです。

-それはどういうことですか?

水嶋さん:篆書体だけでも何千年もの歴史があります。たとえば「田中」というはんこを篆書体で作るとき、「田」はこれがいい!と漢の時代の字を使い、「中」はこれがいい!と明の時代の字を使うように、時代の違う文字がいっしょになることはありえないんです。

-文字と時代をきちんとそろえないといけないんですね!

水嶋さん:そうです。正しい文字を選び、時代も間違えないようにする。これははんこを作るうえで当たり前のことなので、そのために日々勉強しています。

-はんこひとつを作るにしても、お客さまからの依頼があったうえでさらにそこにオリジナリティが生まれるようにストーリーが組み込まれているんですね。
そんな文化や職人の思いが詰まったはんこですが、コロナ禍ということもありデジタル印を採用している会社なども増えてきましたよね。それについてはどのようにお考えですか?

水嶋さん:はんこがデジタル化の矢面に立たされているのはとても残念なことですね。

けれど、私もスマホを使いますしデジタルの恩恵を受けていますので、本当に便利な世の中になったなと感じることが多いのもたしかです。ふとアナログに出会うと、正直めんどくさいなと思うことだってあります。

ただ、便利がすべてで何もしなくても自動化されていることが望んでいる便利かと考えたときに、そうではないんじゃないかと思うこともあるんです。

たとえば家を買うときにはんこを押すとか大事な場面ではんこを押すことが多いですが、それはただ押しているだけではなくて、所有を証明する文化があったり、けじめや覚悟だったり、そこにはいろいろな要素が含まれています。身だしなみもきちんと整えるでしょう。

はんこを押すまで時間がかかることもありますが、そのあいだにそれまでの経緯を振り返ることができたり、責任の重さも感じたりすることができます。

実際にはんこを押すことで目には見えないものを感じることができるのです。

-便利さの追求とはまったく別ものなんですね。

水嶋さん:それが、たとえば家のなかで身だしなみも気にせずボタンひとつでできてしまうと便利さ以外の大事な部分も省いてしまっているように感じるんです。

だからそこはきちんと考える必要があるし、無駄だから省きましょうという議論だけではいけないと思っています。

「便利がいちばん」ということにいつか行き止まりがくると思っています。

 

■どんな職人技術もなくしてはいけない

ものづくりのすばらしさについて話す水嶋さん

-便利さだけではなく文化も残していかないといけないというお話でしたが、技術も残していかないといけないですよね。現在はどのくらいのはんこ職人がいるのですか?

水嶋さん:どのくらいいるんでしょうか。職人のなかでもはんこ職人はそう多くはないと思いますが、減ってきているのは間違いないですね。

どの技術職でも言えることですが、少子高齢化やデジタル化が進むにつれて需要も後継もいなくなってきています。

私が思う職人はお金へのこだわりよりも、ものづくりへのこだわりの方が強いというか、お金への換算がうまくないんですよね(笑)。かけた時間が長いからといって値段が変わることもないですし。

でも、それだけだと生計を立てることがむずかしくなってきた時代ですので、やっぱりそれが廃業に繋がってしまいます。さらには、その職人がいなくなることでひとつの技術が失われる可能性だってありえるんです。

-そうですよね。何百年、何千年の歴史や文化をたった数年のできごとでなくしてしまっていいものなのかと、本当に考えさせられます。
では最後に、今後のビジョンについて教えてください。

水嶋さん:職人がもっと笑顔でいられる世の中になってほしいと思います。

どれだけ便利になっても「もの」はなくならないですし、「もの」がある以上作る人が必ずいるはずです。そこの技術をなくしていいはずがないんです。ここは社会全体で考えないといけないことだと思っています。

私ははんこ職人として、少しでもものづくりの大事さ、すばらしさを届けていき、それでお客さまも笑顔になったらいいですね。

-水嶋さんのお話をお聞きして、あらためてものづくりのすばらしさを感じることができました。本日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

水嶋さんのはんこづくりへのこだわりをお聞きして、大事なときにはんこを使う意味が理解できたように思います。

はんこはその人を表すものだとおっしゃっていましたが、それを押すことで自分と重ね、同じように大事にしたり、同じように責任感をもつことができたりする、一種の儀式なんだと感じました。

デジタル化が進んでいくなかで、本当に大事にしないといけないことが見えてきたように思います。ぜひ、この機会に自分だけのはんこを作ってみてはいかがでしょうか?

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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