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輝く女性インタビュー

真冬に咲く復活の花”アーモンド”のように―【傾聴】を軸にした支援で生きづらさを抱える人を支えるNPO法人アーモンドコミュニティネットワーク代表 水谷裕子さんインタビュー【後編】

横浜市都筑区北山田―某大手賃貸住宅の管理・運営会社が発表している「街の住みごこちランキング2019」で、渋谷区広尾や、千代田区・新宿区にまたがる市ヶ谷につづき、堂々第3位にランクインした話題のまちです。このまちにある横浜市営地下鉄グリーンラインの北山田駅直結ビル「エキニワ北山田ビル」に、NPO法人アーモンドコミュニティネットワーク(以降、ACN)の拠点があります。

前編では、水谷さんが支援者になるまでの背景や、ACNの沿革、傾聴がもたらす「支援者自身」を力づける作用についてうかがいました。

後編では、支援の場で大きな力を発揮する「傾聴」についてさらに深堀りしていきます。傾聴力を身に付けるには、特別な訓練や学びが必要で、高い技術力が求められるのでしょうか?NPO法人アーモンドコミュニティネットワーク代表 水谷裕子さんのインタビュー後編です。

 

■「傾聴」はJAZZ!

-傾聴がもたらす可能性の大きさ、とてもよくわかりました。しかし、相手が心を開いて自分のことを話してくれないこともありますよね。相手がこころのうちを話すには、”絶妙なタイミングで相づちをうったり”、”共感を示したり”、”オープンクエスチョンやクローズドクエスチョンを活用したり”・・・と、高度な「技術」の習得が必要なように思います。

水谷さん:私は傾聴とは人と人との「関係性」だと思っています。私たちは話を聴くことで、相手との深いかかわりを作っているのだと思うのです。ですから傾聴とは「技術」というより「向き合い方」。人と人がどう生きるかということなのだと思うのです。

講座で学ぶ「(アクティブリスニング)Active Listening」は、聴く人は自分の話をしないで「相手の話をしっかりと聴く」ということ。聴くことで人と人の関係性が作られていき、困っている人は、子どもでも大人でも、自分の話ができるようになっていきます。この関係を作り出すことが傾聴なのです。講座は、質問の方法などのノウハウを教えるわけではないのですよ。

-なるほど。しかし、どのようにすればしっかり相手の話を聴けて、相手の「こころのうち」が見えてくるのでしょうか?私の場合「こころのうち」を聴かなければならない場面では、お恥ずかしながら的外れなことが多くて・・・。

水谷さん:相談に来る方には、何に困っているのか、どうしたいのかがわかっていない人もいます。また「これがつらい」とわかっているのだけれど言語化できない人もいます。しかし、向き合う人がじっくりと関係を作っていくと、言えなかったことが言葉に出て来たり、家族には言えないけれどもこの人なら・・・と本音が出たりして。するとその人の口から「本当はこうしたいんです!」「私、やるわ!」という気持ちの入った言葉が出たり、希望が出てきたりします。

このようになるには時間がかかります。でも、それを待たないといけない。しかし話のテンポの速い人にとっては、待つということがむずかしいところなのかもしれませんね。

-相手からの言葉や反応をじっくり待たなければいけないということなのですね。

水谷さん:はい。ところでJAZZのライブセッションを聴いたことはありますか?JAZZにも傾聴のようなところがあると言えるかもしれません。一流のJAZZ奏者は、お互いの演奏を聴き合って演奏しています。相手の演奏を聴き、相手が伝えたいことをしっかり受けて、今度はこちらが表現する。

演奏を感じ取る「間(ま)」を相手に譲り、また相手に反応させる。互いに表現を受け取って、それに応えるから、演奏はどんどん盛り上がり、すばらしいエネルギーをもって聴衆を魅了していきます。

自分の表現したい演奏ばかりしていたらセッションは崩れてしまうし、逆に、楽譜通りの演奏や、細かい所作まで打ち合わせた演奏をしていたらJAZZにはなりません。安心してお互いが出し合える関係が奏者の間にあるからこそ、すばらしいセッションとなるのでしょう。

傾聴の場合も同じです。「この人は自分の話をきちんと聴いてくれる」と感じる関係性と、自分を自由に出せる「間(ま)」があるから、こころのうちを表出できるということです。

-なるほど、よくわかります。相手の反応を見ることも、それを受けて反応することも大切なのですね。

水谷さん:相手の反応を受けたときは、その相手の世界に入ることが大事です。たとえば、いつも絵を描く子がいた場合「この子は絵が好きな子」と情報として外から理解するだけでなく、その子の「絵が好き!」という心を感じてほしいのです。

そして、その気持ちを表現できるような「場」を作り、さらに「支援方法」を探る。相手を受けて、「私はどう演奏するのか?どう反応するか?」を柔軟に考えていくのです。

どんな人も、もともと好きなもの、やりたいこと、自分の目が行くもの、耳が傾くことなどをもっています。JAZZが好き、この形が好き、この雰囲気が好きなど。その子を見て、話を聴いて、それを見つけて引き出してあげる。そして、その芽が伸びて成長していく土壌を活動として作るのが、我々おとなの仕事だと思います。

 

■子どもの支援のニーズの多様性

-水谷さんやACNの支援の対象は、課題のある本人から、小さい子どもや母親、そして思春期・青年へと広がりを見せてきました。とくに、都筑区でも「不登校」が思春期世代の大きな課題となっているということですが、不登校に至る特徴的な背景があれば教えてください。

水谷さん:不登校には、学習障がい、発達の凸凹、家庭問題などを抱えていて、クラスでの学習や活動に参加しづらい子どもたちが見られますが、成績も悪くなく経済的な課題もない子どもの不登校も増えています。不登校への対策は以前と比べて手厚くなっていますから、数は減っていくと思っていましたが、都筑区にかぎらず不登校の小中学生の数は増えています。

もちろん経済的格差や度重なる転校等が背景にあるケースもあります。昨年からは、さらにコロナ禍での学校生活の変化と家庭生活の不安定さが不登校に至る大きな要因となって来ています。

-対策をしているのに数が増えているというのはどうしてでしょうか?

水谷さん:現在横浜市では、初めての「不登校児童生徒支援コーディーター」と、60名以上のスクールソーシャルワーカーが、各学校をまわって課題のある子どもたちと親への専門支援に取り組んでいます。対応する専門職が増えているので、不登校の入口にいる子でも早くから発見され支援につながる数が増えているとも言えます。

-以前より手厚い支援になっていることで救われる全体数が増えてきているということですね。

水谷さん:そうですね。文部科学省もこれまでは年度間に「欠席日数」30日以上の児童生徒を不登校として来たのが、昨年春からの新型コロナ感染症以降は、感染回避が理由での長期欠席や新型コロナ感染症に関連しての出席停止等も不登校としての調査対象としました。

ただし、この数字も杓子定規では実態が測れないところがあります。というのも、学校によって対応がずいぶん違う状況があるからです。子どもの欠席が長期化する前から早期に支援対象者として見ていたり、学校内に設けられた「支援ルーム」に週に1~2日通う子どもも不登校支援の対象者としている学校もあります。

-欠席日数が対象の要件に達していても、不登校の状況ではない子どももいるし、逆に、要件に達していなくても、不登校に近い状況の子どももいるということですね。じっさいに不登校の状況にある子を一人ひとりすくい上げていくのはとてもたいへんそうです。それに、その子どもたちに適切に支援が届いていないことも危惧されますね。

水谷さん:NPO法人アーモンドコミュニティネットワーク(ACN)では「フリースペース”ともにあ・る・く”」という不登校やひきこもりの子ども青少年のために相談と居場所と学習支援を提供する場をつくっています。

この活動では私たちは学校や教育委員会や行政とも連携しながら、子どもたちが健やかに育つための支援を進めています。私たちの連携のしくみのなかでは、利用日を在籍校に報告するのを受けて校長先生の判断により出席扱いとする学校もあります。

しかしながら、全国的には地域によっては、「そこに来ているなら学校に来させてくれ」と言われる支援団体もあるようで、学校以外の子どもの居場所としての不登校支援が進んでいかないなど、数字の増減だけからでは見えない側面もあるのです。

-不登校の子どもの数だけ、不登校に至る原因があるわけですから、対策も柔軟に行う必要がありますし、一定の条件だけで数を測定することはむずかしいのですね。そういう意味ですと、完全に不登校に陥っている子どもたち以外に、学校へ行ったり行かなかったり、もしくは、行っているのだけどいつも学校へ行くのがつらかったりと、「うちは不登校なのかしら?」と親御さん自身が迷われているご家庭もあるかもしれませんね。

水谷さん:そうですね。はっきりした課題のある方は行政等の支援にすでにつながっていたりするので、不登校支援にもつながりやすいです。

しかし、出席状況から不登校とは認知されず、相談課題が見えにくい家庭の場合、学校に行きたがらずゲームに熱中して夜眠れないからなどの子どもの様子を危惧して、症状だけを見て近くの一般の精神科クリニックに連れていく親御さんもいらっしゃいます。ですが、小中高校生ならば「児童精神科・児童思春期精神科(初診対象年齢は中学3年生まで)」を探して受診されることをお勧めしています。

また、在籍校の担任や指導専任の先生と連絡を取りあい、必要ならばスクールソーシャルワーカーやカウンセラーにも相談されて子どもの細かい状況を共有していくことをお勧めします。

-スクールソーシャルワーカーも毎日在席されているわけではないようなので、お仕事をされている親御さんにとっては相談しづらい状況もあるようです。

水谷さん:私たちは学校とも連携していきますので、まずはACNに土日に相談に来ていただいても大丈夫です。不登校支援は、その子を支援するネットワークで支えなければなりません。お母さんや親の力だけで支えるのはむずかしいのに、家族だけで抱え込んでしまいがちです。

まずは連携支援ができている組織につながり、親子が孤立しない道を歩いていただきたいのです。私たちがアーモンドコミュニティネットワークと、法人名に“ネットワーク”を掲げているのには、この思いがあるのです。

 

編集部のひとこと

編集長

かなちゃん

今回は、傾聴を軸にさまざまな支援の場を提供している水谷さんにお話をうかがいました。しかし、傾聴はふだんの生活のなかでも生きてくると水谷さんはおっしゃいます。

たとえば、子どもに「元気がないな」など気になる様子があるとき、どのように声を掛けたらいいのかを尋ねてみました。
「親は子どものこと全部知っていると思いがち。生んで育ててずっと見てきているからこそ、”そっち行くと危ない”、”あの子とつきあわないほうがいい”、”この先生にはこんな言葉遣いをした方がいい”など、その子がよりよい生き方をできるようにアドバイスをします。

しかし、小学校低学年のころまでは親の言葉やアドバイスに守られてうまくいくことはあっても、思春期以降のこどもたちの社会は飛躍的に広がり、子どもの現実と親の認識が大きくずれるということが起こってきます。子どもたちがどのようなものに囲まれて、何を求められて生きているかを、親は想像できていないのです。
しかし親は心配なので、言葉が出る、指示も出る、「こうやるといいんだよ」とアドバイスも出てくる。子どもが語る前に、知った気になって語ってしまうのです。

「聴く」というのは、自分を止める、アドバイスもしない。まずは「子どもに耳を傾ける」。そうすることで、子どもは語り始めてくれるでしょう。親は、子どもに教えてもらうしかないのです。」

傾聴とは、支援者と支援が必要な人の間でのみ成り立つものではなく、親と子ども、夫婦関係、友達関係、先生と生徒など、信頼のおける人間関係を築く根底には、相手を受け止める「傾聴」の精神が息づく必要があるのだなと感じました。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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