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輝く女性インタビュー

葉山への恩返しから始まった夫婦の物語はより大きな希望を生み出していく!棚田アイスを作る山口冴希(やまぐちさき)さんのインタビューです!

葉山にある棚田と山口冴希さん

ミュージシャンであると夫といっしょに棚田アイスを作る山口冴希さんは、日本の棚田、田園風景を守るために新しい挑戦を続けています。

まったくの未経験から葉山の棚田で作ったお米で「葉山アイス」を作り、そこから全国にある複数の棚田のお米で「棚田アイス」を作る。さらに、日本のお米文化を世界に広める挑戦へと続きます。

葉山を知り、棚田を知り、そして日本の米文化を知っていくなかで、徐々に大きくなっていく夫婦の挑戦のお話は、聞いているだけで元気が出る希望に溢れたお話でした。

どんなピンチにだって、必ず出口はあります。
ぜひ、山口夫妻の挑戦の物語をお楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■葉山との出会いも棚田との出会いも偶然だった

-まず、葉山との出会いについて教えてください。

冴希さん:ミュージシャンである夫が、葉山から見える富士山や相模湾の景色を見て移住を決めたので、私や3人の子どもはそれについてきたという感じですね。

-移住についてはとくに抵抗はなかったのですか?

冴希さん:私はどこでも生きていけるタイプなんです(笑)。あと、そのころ夫は体調を崩していて、ずっと彼の葛藤を見ていたのでそういう点で考えても自然が豊かな葉山での生活はいいのではないかと思いました。

ですから、夫が葉山の風景と出会ってから1カ月後に引っ越しました。

-では、何か準備をしたりとか下調べをしたりするよりも先に引っ越したという感じですね!

冴希さん:完全にノープランでしたね!本当にどうにかなるだろうという感じでした。

-そこから棚田とはどのように出会うのですか?

冴希さん:お昼ごはんを食べたお蕎麦屋さんから、何気なく棚田が見えたんです。その景色に夫婦ともになぜか心が動いて、すごく興味をもちました。

-棚田との出会いも偶然なんですね!

冴希さん:そうなんですよね。私自身が稲作というと平地で作る田圃をイメージしていたので、棚田を見たときに単純に素敵だと感じました。

そこから、縁があって棚田での稲作にボランティアとして参加させてもらうようになり棚田のことを知るようになりました。

棚田は、農作業のための機械が使えないために平地の稲作と比べて人手が必要なのですが、農家さんの高齢化やそもそもの人手不足などから若い担い手を増やしていこうという取り組みのいっかんとしてボランティアの募集がありそこに呼ばれるようにして参加しました。

-そこからどのように葉山アイスに繋がるのですか?

冴希さん:はじめの1年は、夫の療養もかねて楽しく稲作を手伝うという感覚だったんです。そして、初めてお手伝いをした棚田からお米が取れたので、30kgのお米を分配してもらったんです。それが本当にうれしくて充実感がすごかったのですが、よくよく考えてみると30kgはとても少ない量だと気がつきました。おそらくお店で買うと15,000円分くらいなんではないですかね。

そのときに稲作の大変さを実感しました。機械の使えない棚田で若い担い手が未来を見据えて腰を据えて稲作に挑戦することのむずかしさ、端的に言えばもうけを出すことの大変さを実感しました。

でも、葉山に来て棚田と出会っていろいろな人といっしょに稲作をすることで夫の体調も良くなっていきましたから、シンプルに何か恩返しができるようことはないかと漠然と考えるようになりましたし、大変だけれどもどうにか棚田の風景を残すためにも、棚田での稲作が続いてほしいと願うようになりました。

 

■「農楽」から生まれる葉山アイスと棚田アイス

葉山の棚田の風景 

-棚田での稲作を経験してみて実感した課題に対して、ご夫婦でどのようなアクションを起こしたのですか?

冴希さん:夫はミュージシャンとして「音」を「楽しむ」と書く音楽を仕事にしています。文字どおり音楽を楽しむことで多くの方に音楽を聴いてもらい、仕事として成り立ちますよね。そして農業は、「農」を「生業」と書きます。音を楽しむことをとおして繋がる音楽のように、農を生業としながら楽しむことをとおして繋がる「農楽」のような取り組みを広げていきたいと思いました。

それから、もっと楽しく農業ができる方法はないのかということをいろいろと考えるようになりました。この棚田も販売するためのお米を作るためだけの機能であればどうしても限界がありますし、とても大変なわけです。別の目的で経済的に機能するしくみができないものかと考えました。

でも、どんなにがんばっても大量生産はむずかしいわけですから、ここのお米をたくさんの人に楽しんでもらうためにお米を加工してみなさまにお届けする方法を模索し始め、2年かかってアイスにたどり着きました。

-でも、お米からアイスという発想はなかなかむずかしいように感じますがきっかけはあったのですか?

冴希さん:夏には葉山の海岸はたくさんの海水浴客で賑わっています。夫がその景色を見ながらアイス食べたくなるだろうなと、ふと思ったことがきっかけです。

海に来ているお客さんに、葉山の山にある棚田のお米で作ったアイスを食べてもらえれば葉山の海と山を繋げられます。これなら葉山にも恩返しができるからいいなと直感したようですね。そこで、葉山の棚田でとれたお米を使った「葉山アイス」を作ろうと決めたんです。

そして、夫から棚田のお米でアイスを作ってほしいと無茶ぶりされましたね(笑)。

-えっ、冴希さんがアイスの試作品を作ったのですか?

冴希さん:そうなんですよね。もともと料理もお菓子作りも好きでしたが仕事にしていたことはいっさいないので、完全な素人である私が知識も道具も何もないところから作り始めました。

-いろいろと調べてやってみたということですよね?

冴希さん:そうですね。ふわっとですが、お米を甘酒にすればアイスにできそうだなと思ったので、炊飯器で甘酒を作って冷蔵庫で冷やしてアイスを作りました。

-本当にどこのおうちにもある家電で作ったんですね!

冴希さん:そうなんですよね。でも、わりと早めにおいしいと思えるアイスが作れてしまったんですよね。これならいけそうだと夫婦そろって自信をもてたので、製造委託先を探し始めました。

でも、最初なんてお願いする数も100個とかですから受けてくれるところがなかなか無かったのですが、茅ケ崎にあるプレンティーズというアイスのお店の方が、私たちのやりたいことに共感してくださって作ってくれたんです。

そして、2018年4月の葉山ステーションという道の駅とSYOKU-YABO農園という葉山にある夫婦そろって大好きでリスペクトしているレストランで販売を開始したことがスタートとなります。

-初めは100個の製造からスタートしていくなかで、これはもっといけるのではないかと自信をもったエピソードはありますか?

冴希さん:葉山アイスは、乳製品と卵をいっさい使っていないヴィーガンアイスなんです。通常のアイスは、牛乳や生クリームなどが入っているのでアレルギーをおもちのお子さんは食べることができないんですね。でも、SYOKU-YABO農園で初めてのイベント販売をした際に、アレルギーでアイスを食べられないお子さんが初めてアイスを食べられたと言ってご両親もいっしょに喜んでくれたんです。

その光景を見たときに涙が出るくらいうれしくてうれしくてもっとたくさんの人に「葉山アイス」を届けたいと思いましたし、自信とは違いますが続けていきたいと思いました。

 

■思いが日本中の棚田に届く。そして世界へ

 

-では、葉山アイスがどのように棚田アイスに発展していくのかを教えてください。 

冴希さん:そもそも、当初は葉山アイスが棚田アイスになっていくなんて考えてもいませんでした。

しかし、それなりに葉山アイスが葉山町で知られるようになっていくなかで知人から農水省で日本の棚田の課題に取り組んでいらっしゃる担当の方をご紹介いただき意見交換をさせていただくようになりました。

そこから、棚田研究の第1人者である早稲田大学の中島峰広先生をご紹介いただき、棚田サミットに誘っていただいてから、あれよあれよと話が広がっていきました。

-棚田サミットとは具体的にどのようなものなのですか?

冴希さん:じつは私たちも全容を知らずに参加したのですが、参加してみたら全国から500人以上の棚田農家が参加する大規模な集会だったんですよね。

みなさんあまりご存知ないかと思いますが、棚田は想像以上にたくさんあって、日本産のお米の総量のうちの8%程度は棚田産なんです。北海道と沖縄県以外には広く分布しています。

機械がなかったころの稲作では、今のような平地で作るよりも棚田のように斜面に田圃を作り、水は高いところから斜面に沿って引いてくる方が合理的であったわけなので稲作のルーツとして棚田があると考えらえるわけです。

-なるほど。それは知りませんでしたし、そう考えると棚田は日本の稲作文化を支えてきたと考えられるんですね。

冴希さん:そうなんですよ。きっと棚田農家さんはみんなそのことを強く胸にもっているのだと思うんです。だから、500人もの人たちが全国から集まってきて、さまざまな議論をして何かを自分たちの地元にもち帰ろうとしていたんですよね。

そのサミットで、私たちの活動を多くの棚田農家さんが知ってくれていろいろな方が興味をもってくれました。

そして今では、全国10地域の棚田農家さんのお米を使ったアイスを作り「棚田アイス」として売り出しています。

-葉山から始まった活動が全国に広がっているんですね。

冴希さん:葉山の棚田にかかわる人たちの笑顔を増やせば、それを見た地域の人たちの笑顔が増えていくはずだと信じてやってきたので、これが葉山だけでなく全国にも広がっていくということを実感できて非常にうれしいです。なんかロマンチックな話になって少し恥ずかしいですけどね(笑)。

-では、最後の質問ですが、今後のビジョンを教えてください。

冴希さん:少し話が大きくなりますが、棚田の魅力を世界に広げていきたいですね。

これまで、葉山アイスが日本中の棚田の棚田アイスになり少しずつ輪が広がるなかで、見えるものや価値観が少しずつ変わっていくような感覚がありました。

そのなかで、2019年にフランスで開かれていた食の国際展示会に参加した際に、伝統的製法のみりんを造り続けながら、海外展開にも力を入れているみりんメーカーさんと出会いました。その方たちとは共感することが多く、いっしょになって日本のお米文化を世界に広げる挑戦をしようと考えています。

日本の田園風景の美しさとそこからとれるお米のおいしさを世界の人に知ってもらうことで、かかわる人がみんなわくわくしながら、田園風景のあるくらしを未来に繋げていけたらいいなと思っています。

-すばらしいビジョンの実現に向けてこれからもがんばってください!今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

好きだった音楽を仕事にされたがゆえの苦難から出会った葉山町の景色、棚田、みんなの笑顔。それらを失わないために、同じような苦難をもう感じることがないよう強く活動するご夫婦のお話をお聞きしていくなかで、再度自分にとって大切なものは何なのかを考えていました。

大切なものは意識しなければ簡単に壊れてしまいます。そして壊れてからでは取り返しがつかないのだと思います。

再度、自分のまわりの大切なひと、ものを見直してみてはいかがでしょうか。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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