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輝く男性インタビュー

人を魅了する才能 プロボクサー大保龍斗さんインタビュー【前編】~人生の復帰戦~

人気格闘家がタレントとして活躍したり、ダイエットを目的にボクシングジムに通う女性が増えたり、昨今は私たちの生活に近い場所で、格闘技が存在するようになりました。しかし、一般の人がプロの格闘家と出会う機会はあまりないため、彼らのアスリートとしての日常の積み重ねや、試合に勝つために自分を極限まで追い込む心や体の準備について詳しく知る人はあまりいないでしょう。

今回は、2013年19歳で全日本フライ級新人王、2018年初代日本ライトフライ級ユース王者を獲得したプロボクサー大保龍斗さんにお話をうかがいました。インタビューを通して、ボクシングのおもしろさをお伝えするとともに、大保さんの人間的魅力についてもお伝えしたいと思います。

前編では、2021年8月4日後楽園ホールで開催する「The Greatest Boxing 38」のメインイベントに、約2年3カ月ぶりの復帰戦として出場する大保さんの姿を通して、ボクシングの魅力にせまります!

 

■「あしたのジョー」は、もういない。

-よろしくお願いします。

大保さん:こちらこそよろしくお願いします。

-8月4日開催の試合「The Greatest Boxing 38」までおよそ2週間ですね。(取材時2021年7月22日) プロボクサーはとにかく毎日きついトレーニングと減量をしている印象があるのですが、この時期はとくに、相当きついトレーニングや減量をされているのでしょうね。

大保さん:「ボクサーはずっと減量している」とおっしゃる方がときどきいますが、ぼくは基本的に試合が決まってからカラダづくりをスタートさせます。今回は2カ月で13キロほど落とすプランで動いています。

-2カ月で13キロですか!きつい減量だとはわかるのですが、感覚がつかめないです(汗)

大保さん:ボクサーそれぞれで違うけど、2カ月で10キロ以内くらい落とす人が多いかもしれませんね。ぼくは今回ブランク明けなので体重が結構増えてしまったことや、試合が決まる時期が遅かったこともあって、いつもよりはきつめの減量といえますね。

(トレーナーとして働くASBボクシングクラブにて。2021年7月8日頃撮影。ここから2週間で上写真の状態まで絞り込みます。)

-減量というと、ボクシングのアニメ「あしたのジョー」で、登場人物がコップ一杯のお水さえがまんして練習に励むシーンを見たことがあります。「食べること」「飲むこと」など、生きるための本能的な部分を抑え込まなければならない減量とは、「ハード」とか「ストイック」という言葉では表現しきれない苦しさがあると感じました。

大保さん:コップ一杯のお水さえもがまんするのは、計量の前日くらいでしょうね。今は「あしたのジョー」のような「食べない・飲まない」減量はしません。ぼくを含めて今の人たちは考えて減量します。しっかり食べて、しっかり練習をして体重を減らします。とても単純なことで、摂取カロリーよりも消費カロリーを多くすればいいというわけです。

食べないと練習の質が悪くなる、飲まないと動けなくなる、それじゃあ意味がない。

減量も考えてやらないとつらいだけですから。

-それじゃあ、考えてやれば減量はつらくない?!

大保さん:いえ!つらいです!!(笑)

-シロウト考えだと、つらい減量をするくらいなら、計量が通る体重を常にキープしておけばいいのではないかと思うのですが、それはむずかしいことなのですか?

大保さん:なかにはそういうボクサーもいますが、ぼくの場合は、試合に向けてけじめをつけるというか、試合に向けてON状態にする。だから減量のやる気もトレーニングの中身も違ってくる。その分ふだんはノーストレス、OFF状態で生きています(笑)。

ボクシングには正解はなくて、勝てば正解の世界。ぼくが勝てば、このやり方が正解になる。

-なるほど。

(トレーナーとして働くASBボクシングクラブにて。2020年11月頃撮影。ご本人曰く「OFF状態」。ずいぶんぽっちゃりとされています。)

-「単純に、摂取カロリーより消費カロリーを多くしたら体重は落ちる」と言いますが、体重を落としながらも、パワーは落とさないようにするなど、じっさいはとてもむずかしいことのように感じます。
昨今のトップアスリートは、トレーニングと同じくらい食事や栄養面の管理が重要視されていると思いますが、大保さんの減量ポイントはどこにありますか?

大保さん:みなさんもご存知かもしれませんが、糖質の摂取を減らしたり、この時期まで来ると水分摂取もひかえめにしたりしていますが、やはり計量しながらトレーニングで体重を調整していくのが基本。ただ、おっしゃるとおりスポーツ栄養学も広く浸透していて、パフォーマンスや疲労回復を助ける栄養素は取り入れるようにしています。ぼくの場合、父親が沖縄出身なので、沖縄にも応援してくれる人が多く、そこからサトウキビのケイ素(シリカ)を提供してもらっていて、本当にありがたいです。

-「ケイ素(シリカ)」は、スポーツ栄養学分野にかぎらず、一般の人の健康と美容を維持するサプリメントとして最近話題になっている栄養素ですね。サトウキビというところが沖縄らしいです!
スポーツによってはもっともパフォーマンスを発揮できるのが20代というスポーツがある一方で、ボクシングのトップ選手は30代、場合によっては40代のチャンピオンもいるそうですね。厳しい食事制限や体重管理があるボクシングで、30代以降でも第一線で闘えるというのは、スポーツ栄養学やスポーツ医学の発達が寄与しているのでしょうね。

大保さん:そうかもしれませんね。

-ちなみに、からだはかなりしぼれている感じですね。2週間前の現在であとリミットまで何キロぐらいなのでしょうか?

大保さん:今日時点であと4㎏ですね。

-脂肪もほとんどないように見える大保さん。いったいどの部分を減らして体重を落とすのでしょうか・・・!?

大保さん:最後の最後、計量前日はサウナスーツを着て汗を出して、からだのなかの水分をしぼり出していきます。ここはあしたのジョーの状態ですね(笑)。一般の人は危ないので真似しないでくださいね。

 

■もう一度、リングへ

-ところで、今回の試合は、大保さんにとって「復帰戦」とうかがいました。先ほども「ブランク明け」ともおっしゃっていましたが、どういう経緯があるのですか?

大保さん:2019年8月8日、タイトルマッチを懸けた試合をする予定だったのですが、計量日当日に、ぼくが救急搬送されて試合ができなくなってしまったのです。いろいろ報道されたので知っている人もいると思うのですが、ぼくはそれでも計量に行くつもりだったから点滴も拒否したのだけど、結果的には試合をすることができなかった。

-とても聞きづらいのですが・・・ボクシングの試合において、「計量失格」とか、結構あるものなのですか?

大保さん:まあ、ないですね。

-当日や翌日、“試合ができなかった”という事実をどんなふうに受け止められましたか?

大保さん:くさって「ボクシングなんて辞めてしまおう!」とは思わなかったけど、失敗を取り戻そうとか、すぐにボクシングをやろうとかは思わなかったですね。

-では今回の復帰戦までの2年間、どのように過ごされていたのですか?

大保さん:言葉は悪いですが、本当に「クソ人間」でした(笑)。

ジムには週に3日ほど顔を出していたし、スパーリングで声がかかったら参加していたし、ボクシングからまったく離れたわけではないのだけど、プロの練習かといわれるとまったくそんなのじゃない。プロボクサーに戻るかどうか分からないままなんとなくやっていましたね。

それまではボクシングが軸にあったからほかのこともがんばれていたけど、その軸が壊れてしまって、仕事もやる気がなくなってしまった。仕事も、家も、人間関係も、適当。乱れに乱れて、そのうちジムにも顔を出さなくなっていきました。

-ボクシングが大事だったからこそ、ボクシングの存在をどう扱っていいのか分からなくなってしまったのかもしれませんね。
それでも、プロボクサーとしてもう一度やろうと決心したタイミングはいつだったのですか?

大保さん:2020年の年末、先輩の試合を見に行ったとき、「もう一度リング立ちたい」と思いました。でも、そのときはもう、ジムに顔を出さなくなって4カ月くらいになっていました。そんな状態のなかで、急にジムから連絡が来たのです。

-4カ月しらばっくれていたジムから突然連絡が来たのですか?だいぶ気まずいですね(笑)

大保さん:ぼくに連絡がつかないからと、親父に連絡が行ってしまって(笑)。親父に、「龍、行ってこい!」と言われました。バックレて、親父に電話が来て、親父に背中押されて・・・子どもじゃないですか、こんなの・・・。気持ちはやりたい。でも、逃げている。

(横浜さくらジムの平野会長とのミット打ち。ときに厳しく、愛情をもって大保さんを見守っている)

―それでも「もう一度リングに立ちたい」気持ちに従って、ジムに行ったのですね。

大保さん:会長に、「今までボクシングやってきたのに、今みたいなやり方していたら、名声も人脈もお前の人生もいいものにならないよ。全部パーになるよ。とにかく1回けじめを付けろ。」と言われて心が決まりました。

「動けるなら試合組むから練習に来い」と言っていただいて。

自分が戻るにはこのチャンスしかないと思って、その日から練習を始めました。

-キャンセルしてしまった試合も8月上旬だったわけなので、日程的には同じくらいのペースで減量が進んでいくことになりますよね。2年前の失敗が、気持ちに影響することはないですか?

大保さん:フラッシュバックではないけれど、これまでの試合で計量失格という怖さなんてなかったから、トラウマになっている部分があるというか。計量の件はいろいろなとらえ方をされているけど、試合ができなかったことは確か。やはり怖さはあります。

-その怖さを自分のなかでどのように消化しようとしていますか?

大保さん:失敗を生かすしかないですね。前回、妥協していたわけではないけれど、「この考え方は甘かったな」と思ったところはすべてつぶして取り組んでいます。

-減量と練習のふたつのストレスがかかっていますが、いつもの試合の迎え方と違う部分はありますか?

大保さん:いちばんの目的は勝つこと。これは変わりませんので試合に勝つ練習をしつつ体重を落とす、やることは変わりませんが、減量を先行していますね。

 

■孤独なんてない。それでも感じる“怖さ”を吹っ切ったもの

-今日は練習を拝見したり、お話をうかがったりして、とても意外に感じたことがあります。ほかのスポーツを見ていると、「コーチと選手」だったり、「選手を中心としたチーム」みたいな存在をよく見ます。しかし、大保さんに関しては、減量の進め方も、トレーニングメニューの組み立ても、前回の失敗の振り返りも、すべて自分ひとりで行っているように感じました。つまり、誰にもマネージメントされていないのでは?という点が、非常に意外に感じました。

大保さん:そうですね。すべて自分でやっています。もちろん、ジムの会長やトレーナーに練習を見てもらっていますが、減量の進行管理やコンディション調整などは自分でやります。

-平野会長に至っても、大保さんを特別扱いすることはなく、ジムのほかの練習生と同じように扱われますね。大保さんにとって非常に大切な復帰戦で、プレッシャーの大きさも相当だとわかるのに、選手本人だけで対峙させているように見えました。孤独を感じることはないのでしょうか?

大保さん:全然ないです。ボクシングは好きでやっていること、自分で選んだ道だからやっていることだから、まったく不満なんてないです。

ある人に「大人になって始めたことで、こんなに周りに応援されることなんて普通の人はないよ」と言われました。だから、自分が勝手に始めたボクシングで、みんなにこんなに応援してもらっていることには感謝しかないと感じています。

-たしかにご友人のおっしゃるとおりですね。

大保さん:ただトレーナーの寺澤さんには、技術的なこと以外でもいろいろな面で、すごく支えられています。彼は、ぼくがデビュー2戦目から練習を見てくださっているトレーナーで、充実した試合の準備に取り組めているのも、寺澤さんという存在が大きいと思っています。

じつは試合の2カ月くらい前に、弱音を吐いたときがあったのです。

試合は楽しみではあるけど、ぼくが練習をしていない間、相手は練習して、自分はブランクを作ってしまった。2年の大きさを知っているので、ちょっと怖いです。というようなことを話したのですが、

「龍、逆だよ。相手はそういう葛藤を経験してないのだから、そういう苦しみを超えた龍は、それを強みにしないと。お前の方が一枚上なのだよ。」と言ってくれました。

その言葉で、ぼくのなかの怖さは吹っ切れました。

-大保さんにとって、不安を口にできる寺澤さんはどんな存在なのでしょうか?

大保さん:まだ26年しか生きてない人生経験ですが、ぼくのいいときにそばに来た人がやってくれたことは、そんなに記憶に残っていないのだけど、ぼくがきついときにやさしくされたことは心に鮮明に残っています。寺澤さんは、初めて負けたとき、連敗したとき、試合をダメにしてしまった時も常にそばにいてくれました。つらいときは、いつもいてくれます。逆に、ぼくがいいときはでしゃばって出て来ない。試合に勝ったらいなくなって、負けたときは隣にいてくれる人。そういう人ってあんまりいないじゃないですか。本当にしんどくてつらいときに声を掛けてくれる人って、身内くらいじゃないですか。そういう意味では、寺澤さんは身内です。

信頼という言葉では足りない、そんな軽い物じゃない。そう思っています。

 

編集部のひとこと

編集長

かなちゃん

プロボクサーの孤独な世界で生きている大保さんからは、26歳とは思えない人間味と意識の高さを感じました。
前編記事中にはあまり出てこなかったのですが、インタビュー中、トレーナーの寺澤さんとならんで、その存在に感謝と尊敬の念を示す人物がいました。それは、大保さんのお父さま。
「親父を尊敬しています」「親父はすごい男です」と、大保さんは真剣な表情で何度もおっしゃいました。昨今、仲のよい親子は増えているように思いますが、26歳の大保さんが、同性の親をここまで称賛することが不思議でなりませんでした。
後編は、大保龍斗さんの生い立ちやご家族、お父さまとの関係をうかがいながら、「プロボクサー大保龍斗」が育まれた軌跡についてお伝えします。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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