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お出かけスポットインタビュー

美術に触れながらこの土地の歴史や文化に触れる。高砂緑地の緑と融合する茅ヶ崎市美術館で館長を務める小川稔さんインタビュー

茅ヶ崎市美術館で館長を務める小川稔さん

明治期に小説家や役者、さまざまな著名人が移住し、別荘地や住宅地として選ばれた茅ヶ崎。湘南地域の中心に位置するこの場所では、すぐれた作品が数多く残されたそうです。

そして、1998年4月に高砂緑地のいっかくに開館した茅ヶ崎市美術館では、茅ヶ崎にゆかりのある作家や作品を中心に約2,000点もの美術品が収蔵されています。

今年で24年目となる茅ヶ崎市美術館で館長を務める小川稔さんに、茅ヶ崎市美術館の魅力やこれからの美術の在り方についてお話をうかがってきました。ぜひお楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■著名人やアーティストが集まる湘南の中心・茅ヶ崎

おしゃれですてきな小川館長

-今年で24年目となる茅ヶ崎市美術館はどういう美術館なのかお聞きしていきたいと思います。まず、小川館長はどういった経緯で館長を務めることになったのですか?

小川さん:前の館長をたまたま知っていて声をかけていただいたのがきっかけです。

-では、もともとこのお近くに住まわれていたのですか?

小川さん:生まれは東京ですが、茅ヶ崎に住み始めてかれこれ60年くらいになりますかね。

-そうなんですね〜。茅ヶ崎の街のことについてものちほどお聞きしたいです。
館長に就任されたのはいつごろなのですか?

小川さん:2008年の4月でしたので、今年で14年目になります。

-茅ヶ崎市美術館の特徴はどんなところにあると思いますか?

小川さん:茅ヶ崎市美術館は公立美術館の中でいうと新しい方に分類されていて、当館で収蔵している多くのコレクションは茅ヶ崎にゆかりのある作家や作品です。

また当館は、高砂緑地の緑があふれる中に位置していますし、天気のいい日には2階にあるカフェから富士山を眺めることもできますので、美術だけでなく自然の中でリフレッシュできる空間があることも特徴のひとつですね。

-茅ヶ崎には作家の方が多くいらっしゃるのですか?

小川さん:たとえば、東北出身ではあるのですが晩年を茅ヶ崎で過ごした萬鉄五郎という近代美術で有名な画家や、洋画家では小山敬三が茅ヶ崎にアトリエを構えて活動するなど、出身は違えどそういった作家やアーティストの方が住む場所、活動する場所として茅ヶ崎を選ぶことが多いですね。

-ジャンルは違いますが、サザンオールスターズの桑田佳祐さんや俳優の加山雄三さんも茅ヶ崎市出身ですよね。茅ヶ崎には山も海もありますし、そういう自然の中や茅ヶ崎という独特な街でくらすことによって感性が研ぎ澄まされたりするのでしょうか?

小川さん:どうでしょうね。ただ、この街は江戸時代までは漁村でしたし、誰もが知っている場所ではありませんでした。それが、別荘地として開発され始め、東京からのアクセスがよかったこともあり、文化人や役者、作家の方々が移住してきたというのがひとつの歴史にもなっています。これは茅ヶ崎にかぎらず鎌倉から大磯まではそういう地域です。

茅ヶ崎にかぎった話だと、当時南湖院(なんこいん)という結核療養所があり、患者としても見舞客としても多くの著名人が訪れたと言われています。

 

■視点を変えて美術を捉える

-これまで茅ヶ崎にゆかりのある作家の作品をたくさん見てこられたかと思いますが、小川館長がぜひ見てほしいと思う作家の作品はありますか?

小川さん:個人的には書家の井上有一を見ていただきたいですね。この方も東京から茅ヶ崎に移住してきたひとりで、茅ヶ崎の小・中学校で教師をしていました。

井上有一は、茅ヶ崎に教育者としてかかわったと同時に前衛的な書で国際的に有名です。当館では、井上有一が茅ヶ崎の小学校の卒業生を描いた絵も多く所蔵しています。

企画展も年に3〜4回実施していますので、そちらにもお越しいただければと思います。

-井上有一さんも茅ヶ崎に移住してきたひとりなんですね。企画展はこれまでたくさん開催されてきたと思いますが、とくによかった企画展はありますか?

小川さん:たくさんありますが、ここ数年間だと小原古邨(おはらこそん)という明治時代から昭和時代にかけて活躍した版画家の企画展は反響がよかったですね。1日の来場者が1,000人以上になるときもありました。

当時、小原古邨を知っている方はそう多くはなかったと思いますが、公立美術館ではたくさんのアーティストを知ってもらうきっかけづくりをすることが重要だと思いましたし、絵画や油絵、彫刻などだけではなく、もっと自由な見方で世の中にあるものをさまざまな切り口で企画し魅せるということが美術館の役割だと再認識しました。

美術館らしくないと思われるかもしれないですが、アロハシャツの展覧会をしたこともあります。

-アロハシャツの展覧会ですか!?これは意外ですね。

小川さん:どうしてアロハシャツになったかというと、じつは茅ヶ崎市はハワイのホノルル市と姉妹都市関係にあります。5年ごとにハワイと文化交流をするというのがこの街の方針としてあって、その第1回はハワイアンキルトの展覧会を開催しました。

これもかなり反響があったようです。なので、当館ではその続きでビンテージアロハシャツ(70年近く前のアロハシャツ)の企画展を昨年の秋に開催しました。

-それはどういうテーマだったんですか?

小川さん:アロハシャツの魅力を伝えながら、ハワイの歴史や日本文化と日本人に深く関係するアロハシャツの全貌を紹介するというものでした。

コロナ禍でたくさんの制限があるなかでの開催でしたが、これも想像以上の反響がありましたね。

-型に捉われず、違う角度から物ごとを見ることで新たな発見があるんですね。コロナ禍により制限は多かったと思いますが、逆にコロナ禍になったことで見えたポジティブな景色はありましたか?

小川さん:そうですね〜。今まで紙媒体やホームページでの発信が主流でしたので、かぎられた人や地域にしか情報が届いていなかったのかなと思います。けれど、YouTubeやSNSなどのオンラインで発信していくようになり、もっと広い範囲で情報を届けられるようになりました。

今までになかったところからも反響がありましたので、これは初めての経験でしたね。

休館期間も無駄ではない

3カ月間休館していた時期もありましたが、その状況をネガティブに捉えるのではなく今私たちにできることをすることで、美術館を求めている人がたくさんいることがわかりました。

再開後、こういった人たちが熱心に訪れてくれましたので、私たちもうれしかったですね。

-そう思うと、家で過ごす時間が増えたなかで、日常では気づかなかったところに気づくような期間だったかもしれないですね。

 

■これからも新しい展覧会を企画する

-美術と聞くとどうしても距離を置いてしまうこともあるかと思います。けれど、小川館長からアロハシャツの展覧会のお話をうかがい、もっと気楽に美術に触れられるような気がしてきました。

小川さん:目的なしに美術館に行くこともまったく問題ではないですし、当館では図書コーナーやカフェも併設しているので、そこをめざしてきていただいても構わないです。ウォーキングのついでに立ち寄るのもいいと思います。

お子さんを中心にご家族で楽しめるワークショップも定期的に開催していますので、そちらに参加してみるのもいいですよ。

-館長にとって美術とはどのようなものですか?

小川さん:美術はあらゆる人に必要、というものではないかもしれないけれど、画家に会ったり作品と出会ったりすることで人生が変わるくらいのパワーがあるものだと思います。

もちろん経営的な面でお客さまに来ていただく努力もしないといけないですが、ふらっと来ても楽しめるよう常に準備していますし、そこで少しでも関心をもってもらえればいいなと思います。

けっして大規模な美術館ではないかもしれないけれど、当館にあった内容のある展覧会を楽しんでもらいたいという気持ちが強いですね。

-美術をとおして得られるものがあるんですね!少し話はそれますが、小川館長は茅ヶ崎に住まれて約60年とのことですが、小川館長から見て茅ヶ崎はどんな街だと思いますか?

小川さん:地理的にはフラットですが、海側と山側でまったく違う雰囲気が漂う場所だと思います。海側は明治以降に別荘地として開発されていきましたが、歩きや自転車を使って用事を済ますことが多いと感じますね。

じつは、自転車の展覧会もしたことがあります。

-自転車の展覧会も美術館としては新しいですね!アロハシャツのお話を聞いたあとなので、少々のことでは驚かなくなりました(笑)。

小川さん:今、美術のジャンルは垣根がどんどん取り払われていて、自転車の展覧会では、茅ヶ崎では自転車を使う人が多いとか、昔自転車工場があったとかいうように、この土地ならではの歴史と自転車の近代デザインを関連づけながら企画しました。

-美術に触れながらその土地ならではの歴史や文化に触れられるのはすごくいいですね!今後考えている展覧会はあるのですか?

小川さん:7/17(土)から9/5(日)まで開催している国際的デザイナー・藤原大さんの展覧会は、私もずっと楽しみにしていたものでした。

human nature Dai Fujiwara 人の中にしかない自然 藤原大

先の話でいうと、秋にブラチスラバ世界絵本原画展というスロバキアの国際的な絵本の展覧会を開催する予定です。

-絵本というと、子ども向けということになるのでしょうか?

小川さん:現代の絵本は広がりがあるので、子どもだけではなく、おとなでも楽しめる内容となっています。

-私の美術の概念が覆されました。私もどんどん美術に触れていきたいと思います。今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

小川館長に、茅ヶ崎市美術館の1番のおすすめスポットはどこかと尋ねると、「美術作品ももちろんだが、建物と環境がすばらしいんだ」と答えてくださいました。
この建物をデザインされた方も茅ヶ崎というこの街を愛する方で、この街にふさわしい形に設計したそうです。

みんなこの街が好きなんですね。

また、小川館長は茅ヶ崎の魅力について良い面と悪い面は表裏一体であるとしながらも、強制されないところも魅力のひとつであるとおっしゃっていました。

それを聞いて、人それぞれの柔軟な発想がさまざまな個性を生み出すことに繋がっているのだと感じ、これが茅ヶ崎の独特な雰囲気を作り出しているのだと思いました。

自然の中で美術に触れながら自分の感性を磨いてみてはいかがでしょうか?

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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