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生産者インタビュー

相模原から愛情豊かな卵を届ける養鶏家 小川和男養鶏場 小川和男さんインタビュー

小雨の降る週末・土曜の朝、まだ9時だというのに小川和男養鶏場(以降、小川養鶏)併設の駐車場は、直売所で買い物をするため訪れたお客さまの車が入れ替わり立ち替わり、たいへんなにぎわいです。また、集卵した卵を扱う作業場にも、卵の在庫を問い合わせる電話がひっきりなしにかかっています。

1915年創業の小川養鶏は106年以上の歴史ある養鶏場で、現在代表取締役である小川和男さんの曽祖父がスタートさせました。じつは、同じ相模原市には、麻溝台という地域に「たまご街道」と呼ばれる養鶏場が集まる代表的な人気スポットがあるのですが、小川さんの養鶏場は田名という地域にあり、たまご街道からは離れた場所にあります。以前は市内に200軒以上あった養鶏農家も数を減らし、小川養鶏のある田名地域では小川さんのところ以外、少量を扱うほか1軒だけとのこと。それでも、小川さんの卵を求め、たくさんの人が直売所に訪れるのはどうしてでしょうか?

今回は、小川養鶏の小川和男さんに、小川さんの卵の人気のヒミツとともに、知っているようで知らなかった卵の常識などたくさんのお話をうかがいました。

■北欧ナチュラルな「地域のおでかけスポット」

-本日はよろしくお願いします。

小川さん:こちらこそ、よろしくお願いします。

-休日の朝からたくさんの人がひっきりなしに訪れて、直売所は大人気ですね。

小川さん:ありがたいですね。じつは、この直売所は2021年4月にリニューアルオープンしたばかりなのですよ。

-そうなのですね!たしかに建て物がとてもきれい。間口が広くて入りやすいですし、窓もたくさんあって中はとても明るそうです。

小川さん:どうぞ入ってみてください。

-では、失礼します。エントランスにはお花もあるのですね。それに直売所の横には卵の自動販売機まで!いつでも生みたての卵が買える!これはありがたいですね。

小川さん:直売所では、地域の農家の方の作物も取り扱っています。ここに来られる方のお目当ては卵だけでなく、新鮮なとりたて野菜でもあるのですよ。

-確かに取り扱われている野菜の種類がとても多い!じゃがいもは数種類、立派な国産ニンニクまでありますね!みなさん「朝とりとうもろこし」をどんどん買われていきます!

小川さん:これは人気ですね。昼までもたないだろうなぁ・・・

-ああ~、私も買いたかったです(涙)

小川さん:お昼にはほとんどなくなってしまうので、買いそびれないように急いでくださいね(笑)

-とてもおしゃれな内装ですね。

小川さん:ありがとうございます。じつはこの直売所を建てようと思ってからじっさいにオープンするまで相当な時間がかかったのですよ。行政からの許可や手続きなど、本当にさまざまな手間と時間がかかりました。

-たいへんな思いをしてまで直売所を建てよう!と思われたのはどうしてですか?

小川さん:しっかりと小売りをして、地域になじみたいと考えていたからです。地域に喜ばれるいい卵を安く提供する、新鮮な野菜も手に入るような地域に喜ばれる場を提供する、こういうことが大事だなと思っていましたから。

-新鮮でおいしいものが、こんなおしゃれなお店で買えるなんて、地域の人はうれしいはずです。

-あら!?これは、とんでもなくたくさんの種類のロールケーキがありますが!?こちらも販売されているのですか?

小川さん:このケーキは、長女が小川養鶏の卵を使ってハンドメイドしているロールケーキです。その種類、なんと50種類以上!

-すごい、50種類!気になる種類がたくさんありますね。プレーンやはちみつ、アールグレイやカスタードなどベーシックな商品のほかに、ラムレーズンや塩の花バニラ、黒蜜きなこなど少しおとなな雰囲気の商品も。あと、「相模原いちご」や「相模原いちごレアチーズ」など、地元のいちごを使ったものもありますね。

小川さん:ご近所の農家のいちごを使っています。これまではJAまつりや地域のおまつりに出展して販売することが多かったのですが、こうして直売所が整って購入していただきやすくなったのでたいへんうれしいです。

-とてもかわいくてカラフルなラッピングがほどこされていて、おみやげにしても喜ばれそうですし、「卵やさんのロールケーキ」と聞いたら話も弾みますね。

小川さん:そうだとうれしいですね。

-ロールケーキの横にプリンもありますね。

小川さん:はい。このプリンも長女がハンドメイドしています。卵、砂糖、牛乳以外は使っていない、本当にシンプルなプリンです。

-たっぷりのクリームが乗っていますね。ちょっと失礼して食べさせていただきます。―わぁ!本当にシンプルに卵の味が楽しめますね。甘さ控えめ。クリームもさっぱりしています。「新鮮な卵のプリン」という感じです!これもおみやげにぴったりです。

-直売所の主役、卵もたくさんあります。赤玉、ピンク玉・・・白?いや・・・水色?

小川さん:アローカナの卵です。白い卵と比べると、殻が青みがかっているめずらしい卵で、数はとれませんので直売所ではすぐになくなってしまいます。このふたごの卵も早く売れ切れてしまいますね。

-ふたごの卵って・・・殻を割らなくてもふたごの卵だとわかるのですか?

小川さん:ふたごの卵かどうかは私の奥さんが選別しています。卵の形を見たらわかってしまうのです。

-それはすごい職人技ですね!!

 

■卵たちに愛を込めて

-奥さまが卵の選別をなさっているということですが、小川養鶏はご家族で経営されているのですか?

小川さん:はい。私たち夫婦、長男、次男のお嫁さん、長女、それとパート7人の12人でやっています。

-小川養鶏の一日のながれを教えていただけますか?

小川さん:朝は6時に起きて作業は学校の配達から始まります。

小学校の給食用として22校に配達していますので、だいたい毎日配達がありますね。

-生産から物流までご自分たちでされているのですね。

小川さん:はい。9時に帰ってきて、パートさんたちと集卵作業をします。朝8時にエサが行くようになっているので、それを食べて、水を飲んで、ホッとしたら卵を生んでいる・・・という感じですね。9時には8割の卵が生まれています。個体差もあるので午後に生んでしまう鶏もいますから、午後にも集卵作業はやります。その日生まれた卵はその日のうちに全部集めてしまいます。卵の衛生を保つためには温かいところに卵を置いたままにはできないですからね。

-卵は温かい場所に置いたままではだめなのですね?

小川さん:そうですね。意外に消費者のみなさんご存じないようなのですが、卵は冷蔵保存が必要なのですよ。

-ほとんどのスーパーは、大きなカートに卵のケースを積み上げて販売していて、冷蔵ケースに卵が陳列されているスーパーはあまり見ませんので、常温保存でもよいのかと思っていました。

小川さん:私が子どものころは、部屋を仕切って鶏を放し飼いにして巣箱に卵を生んでいました。でも、衛生の面から、地面から離した鶏舎スタイルとなり、衛生的にとてもよくなっています。また、集卵した卵は、55℃から60℃、100PPMの次亜塩素水で洗って選別作業に移りますので、衛生面では充分な注意をしていますが、消費者の安全安心な食卓を守るため、やはり卵は「冷蔵保存」していただきたいですね。

-知りませんでした。気を付けます!

-ところで、小川養鶏では、手作業で選別して包装していくのですね。

小川さん:時代遅れのスタイルですよ(笑)。全国に2000軒くらいある養鶏場のうち、こういうスタイルの養鶏場は全国に1000軒くらいあります。あとの1000軒が超近代的な養鶏場。父の代で鶏舎スタイルになって2000羽くらいの扱いになりましたが、現在は3万羽(パルシステム用は1万3000羽)。しかし、大きな養鶏場では1000万羽も鶏を扱っているところもありますので、うちは小さな養鶏場です。

-それでも、ていねいに卵を扱う様子を見ていると、愛情深い卵たちだなと感じます。

 

■盲点でした!“遺伝子組換え“は「エサ」にも潜んでいる!?

-ところで、小川養鶏で「大寒のたまご」という商品を販売されているとうかがいました。“無病息災”“金運アップ”に縁起がいいと言われているそうですが、この由来はどういったことでしょうか?

小川さん:大寒とは、二十四節気の最終節で、もっとも寒い時期、だいたい1月20日ごろから15日間のことを指します。じつは、鶏というのは寒い時期がいちばん元気で、寒さに負けないようたくさんエサを食べているため、生まれる卵の栄養価も高く味も濃いと言われています。ここから無病息災にご利益があると言われているのだと思います。金運に関しては、じつはテレビにもよく出ている有名な風水の占い師が、金運アップにも「大寒の卵を食べなさい」とおっしゃっていて、そこから広まったようです。私どもにはありがたいお話です(笑)

-食べるエサの量は、夏と冬ではずいぶんとちがうのでしょうか?

小川さん:まったく違いますね。冬は夏の3割増しです。

-そんなに違うのですね!エサの費用も3割増しということですよね。しかし、これまで私は、夏と冬で卵の価格が大きく変動は感じられませんでした。

小川さん:逆に夏は、鶏が暑さに弱いので、エアコン設備など別に気を配るところもありますからね。しかし季節による変動ではなく、今年はエサの費用が1割以上あがってたいへん困りました。

-それはどうしてですか?

小川さん:昨年、中国で大洪水があり、穀物がとれなかったため、アメリカから大量に買い付けしたことで、アメリカのトウモロコシや大豆が高騰してエサの価格に影響が出たのです。

-エサは輸入に頼らざるをえないのですか?

小川さん:そうですね。うちのような規模の養鶏場でも、年間で1000tのエサを消費するので、国内ではまかないきれないですね。海外のトウモロコシや大豆は98パーセントが遺伝子組換えと言われています。しかし、パルシステム用の卵を生む鶏に関しては、遺伝子組換えではないエサしか使っていません。

-見た目もずいぶん違いますね(写真上)。価格もずいぶん違うのですか?

小川さん:そうですね。高いエサを買うのだから、メーカーには定期的に遺伝子組換えではないエサの保証書を取って、しっかりやってくださいよとお願いしています。

-自分が直接食べる食物には「遺伝子組換え」か否かをとても気にしていたのに、卵を生む親鶏のエサまでは気に留めていませんでした。「どこの卵を買うか」を考えるとき、親鶏のエサまで気にしてくれている生産者の卵を選べるのは、消費者にとって恵まれていることだと思います。

 

■最後まで、愛情をもって

-先ほど、夏場は鶏舎にエアコンをいれるというお話でしたが、あれだけ広い鶏舎を冷やすのはたいへんですね。

小川さん:普通のエアコンではないのですが、通常の鶏舎は、ラジエータのような冷却装置で涼しい空気を作って循環させています。しかし、パルシステム用の鶏舎は「開放鶏舎」にしているのでこの設備が使えないため、扇風機で対応しています。開放鶏舎は夏場だけは弱点がありますが、自然の風が入るし光が入るし、鶏のストレスや健康状態のためにはこちらの方がいいのです。

-エサといい、鶏舎といい、パルシステムの『産直たまご』は、さらに深い愛情をかけてもらっているのですね。

小川さん:そうですね(笑)

-疑問に思っていたのが、小川養鶏で生まれた卵のうち、次に卵を生むための鶏として孵化させて育てていく卵はどのように選定しているのですか?

小川さん:小川養鶏では採卵専用の養鶏場なので、卵を孵化させたり、雛を育てたりはしていません。昔は書生雛(生まれたばかりのヒヨコ)を買って来て育てていた時期もありますが、クチバシを焼いたりワクチンをしたり、とてもたいへん。鶏は生後4カ月で成鶏になって卵を生み始めますので、そのタイミングの鶏を買って採卵をしています。ですから、ここの鶏舎にいる鶏はみんな女の子なのですよ。そこから13カ月間、鶏は卵を生んでくれ、その後食肉用として出荷します。

-13カ月とはとても短い印象を受けました。ほかの一般的な養鶏場も同じくらいの期間で採卵期間は終わるのでしょうか?

小川さん:13カ月は短い方だと思います。若鶏のころは、卵の殻がつるっとしていて殻が固いですが、時間がたつと、ザラッとした卵が生まれる割合が増えていきます。これは、生み疲れ。養鶏場によっては、強制換羽といって、エサを切ることで卵を生まない期間を作って、採卵期間を伸ばして親鶏のコストを抑えたり生産効率をあげる対応をするところもありますが、鶏にすごいストレスがかかりますし、小川養鶏ではかわいそうなのでやりません。食べたいだけ食べさせて、13カ月経ったら、食用として出荷します。

-私たちが毎日安定的に卵を食べられている裏で、養鶏家のみなさんが卵を集卵して出荷するという作業をしてくださっているほかに、鶏たちの命をあずかり、健康にストレスなく過ごし、最後まで愛情をもって鶏を送り出す仕事をしていることを知りました。
もっともっと、卵に感謝していただかなければなりませんね。

 

編集部のひとこと

編集長

かなちゃん

小川さんの奥さまが、ふたごの卵を見分ける職人技のからくりを教えてくださいました。鶏は生後4カ月から卵を生みますが、最初の生み出しはとても小さく、5カ月になるころにやっとMサイズの卵が埋めるようになるそう。
その1カ月の間に、極端に細長い卵を生むことがあるそうで、この卵こそがふたごの卵なのだそう。これまでに、三つ子、四つ子の卵を見たことがあるそうです。養鶏場ならではのトリビアでした。

さて、小川和男養鶏場さんの卵を食べてみたくなった方は、ぜひ直売所にお出かけください。養鶏場は生き物を相手にしているから、365日稼働しているため、直売所も365日、盆暮れ正月休みなく開いているそうです。
生みたて卵が手に入ったら、料理をするのが楽しくなるかもしれませんね。
もっと気軽に手に入れたいな・・・という場合は、パルシステムで『産直たまご』を購入するという方法もありますよ。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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