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輝く男性インタビュー

「落語が好きだ」落語に魅了された青年が真打になる物語。柳家㐂三郎(やなぎやきさぶろう)さんインタビュー

真打に昇進された柳家㐂三郎さん

厚木市出身の落語家 柳家㐂三郎さんは、2021年に真打に昇進されました。なぜ、歴史の深い落語の世界に飛び込んだのか、そもそも落語の世界とはどのようなものなのか、いろいろとお話をうかがってきました。

長く続いた世界だからこそ、不文律の中に整理された考え方があるのだと知ることができ、また、その教えは落語以外の職業の方にも気づきの多いお話であるように感じました。

ぜひ、お楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■落語歴2回で落語の世界に飛び込む

落語家になったころのお話をする㐂三郎さん

-たくさんの職業があるなかで落語家になる道を選んだ理由を知りたいのですが、もともと落語がお好きだったのですか?

㐂三郎さん:いえいえ、私自身も落語家になるなんて思ってもいませんでした。私は厚木の出身で、大学進学をきっかけに東京に出てきました。学生時代をとおしても将来にやりたいことが見つからず、卒業後もアルバイトをして生活する日々を送っていました。

その日々のなかで、落語好きのアルバイト仲間と食事をしているときに、落語の有名なネタである「寿限無」をやってくれとリクエストしたんです。

私は、寿限無を知っていたので「じゅげむじゅげむ」から始まる早口言葉のようなそれをやるのだろうと思っていたのですが、「こんにちは、こんにちは。誰かと思えば」と一席の落語をはじめたんです。

そのときに、こういうファンの方に丸暗記される落語とはなんなのだろうと単純に不思議に思いました。私の知っているお笑いは、ネタを知っていたらおもしろくないし、さらに100年以上も昔のネタを今でもやっているとなれば、何がおもしろいのだろうと考えるようになりました。

この疑問を解明しようと落語を初めて聞きに行きました。

これが、私が落語に触れたきっかけで、さらに師匠となる柳家さん喬の落語と出会い、大好きになってしまいました。そして、2回目の落語鑑賞でまた師匠の落語を聞いて、「落語家になろう」と決意しました。

なので、私は落語歴2回で落語家になったわけですから、落研出身者とか小さいころから落語好きという落語家とは少し違ったきっかけで落語家になりましたね。

-落語家になることに不安を感じることはありませんでしたか?

㐂三郎さん:もともとがフリーターでしたから、失うものがなかったということと、本当に落語の世界のことを知らずに入ったので不安が思いつかなかったかもしれませんね(笑)。

でもね、この世界は「弟子にしてください」と言って、「はいどうぞ」という感じではないんです。師匠に何度もお願いして断られての繰り返しなんですよね。

この世界には、修行期間を過ごしていない落語家はいないんです。必ずみんなが同じ道を通ると決まっているので師匠も修行時代を経験しています。ですから、身をもって楽な世界じゃないと言ってくれるんです。サラリーマンの方が儲かるぞと教えてくれるのですが、それでもやりたいんだと通い続けて一門入りを許されるということなので、ある程度は覚悟のうえで入っています。

でも、不思議なもので落語は長い歴史を経ているので、修行中の理不尽もあるにはあるのですが、あとになるとあのとき感じた理不尽にはしっかりと理由があるんだと気がつくんですよね。それを繰り返していくので、すべては意味があるのだと信じることができるようになります。

みんなが修行を経験しているので無駄なものや無意味なものがどんどんそぎ落とされているんだと思いますよ。

 

■真打になるまでは自分との戦い

真打になるまでの苦悩を笑顔を交えて話す㐂三郎さん

-では、落語家になってからのお話をお聞きしたいのですが、どのようなしくみになっているのですか?

㐂三郎さん:落語家には、東京にかぎった話でいうと前座・二ツ目・真打と3つの階級があり、前座の前には前座見習いというのがあります。

前座のうちは、本人にはたくさんの夢がある期間です。俺はあんな落語家になるんだとか、前座なのにこんなこともできるんだとうぬぼれがあります。

いっぽうでは、やってはいけないことや制約の多い階級でもあります。ですから、早く二ツ目になって俺の実力を見せつけてやるという思いからある程度のたいへんさをがまんできるんですよね。

-前座の制約やたいへんさとはどのようなものがあるのですか?

㐂三郎さん:わかりやすいところでは、基本的には無給というところです。とはいえ、毎日寄席に行きいろいろなお手伝いをするので、そこでいくらかはいただけたりします。でも、ごはんは師匠の家でいただきますし、生活は問題なくできますよね。

でもね、この時期に、「今に見ていろ」と感じる気持ちが大切なんだろうと思います。

そして、前座としてしっかりと落語の世界を知り、念願の二ツ目に昇進できるんですね。

-おっ、ついに念願の二ツ目が来ましたね。

㐂三郎さん:そうなんですよね。みんな前座時代に思い描いていた二ツ目になろうとするのですが、親元を離れて初めて親のありがたさを知るのと同じで前座は守られていたんだと痛感するんです。

二ツ目になると、急に自由になります。雇用形態でいうと個人事業主になりますのでいきなり実力だけでの勝負になるんです。

現実と向き合ったときに初めて自分の実力を知ります。それは本当に残酷なことで、二ツ目になるとやめていく落語家がいるのは、きっとひとりっきりでこの厳しい現実と向き合って自分の落語を見つけることのむずかしさに直面するからなんです。

師匠が好きで落語家をめざすのですが、私は師匠ではないので同じ落語はできないわけですよね。だから、自分の中にある自分の落語を見つけなければいけないんです。

-なるほど。自分の落語を見つけるとはどういうことなんですか?

 

守破離は芸事における基本的な考え方なんですね。 

㐂三郎さん:日本の芸事には、「守破離」という考え方があります。修行の段階を表す言葉で、まずは師匠の教えを守り、そのあとに教えとは違うことを試したり壊したり試行錯誤をする、そして自分を見つけて師匠から離れひとり立ちするということですよね。

自分の落語を見つける作業というのはこの「破」の部分だと思います。たくさん稽古し、得意なネタをあえて改造したり、壊したり、新しいことをやってみたりして何かおもしろいことや自分にしかできないことを探してもがくんです。

-そうやって、もがき苦しみながら真打になっていくんですね。

㐂三郎さん:そうなんです。落語は不文律が多く前座から3〜5年で二ツ目になり、そこから15年くらいで真打になります。これは、誰かが決めるとかではなくところてん式に押し出されていきます。

この二ツ目のあいだにしっかりと自分の落語を見つける努力が必要ですよね。

昔あるお客さんにおもしろい話をされました。

真打になるということは、文庫本として本棚にならぶようなものだと言うんです。文庫本になると数が決まった本棚の中で自分の本を1冊でも残さなきゃいけない。さらに、居並ぶのは明治から以降の名人と言われるような作家ばかりです。こと、落語に関しては江戸時代から続く名人から自分の師匠たちも含めて同じ真打として並ばなければいけないわけです。

その話を聞いたからというわけではありませんが、私も二ツ目への昇格はただただうれしいという感情でしたが、真打になると決まってからは「ついに来てしまったか」という焦りと喜びが混ざったような複雑な気持ちでしたね。

-真打になるということは、自分との戦いなんですね。

㐂三郎さん:そうですね、真打になるということは、しっかり準備をして覚悟をもって落語に向かい合うということだと思います。

 

■迷ったら戻る場所がある

落語家は、手ぬぐいと扇子を最大限に使い見る人それぞれの世界を描き出します 

-落語の魅力はどんなところだとお考えですか?

㐂三郎さん:古いものだとはるか昔から同じネタをいろいろな落語家がやっているのに成立しているということに魅力の理由があると思いますね。

じゃあ、なぜここまで歴史が紡がれたのかということですが、やはり毎回寄席でライブでやっているからだと思います。同じネタなのに、落語家が代わり聞く人が変わる一期一会が常に寄席では起きていて、そこに誰も想像しなかったような新しい発見が常にあるんですよね。

-落語家さんにもそれぞれ得意なネタがあるのかと思うのですが、当然、そのときの体調や感情によって雰囲気は変わりますよね?

㐂三郎さん:そうなんですよね。当然、すべてに影響を受けずにどんなときもぶれない芸をするという考え方で磨いている方もいると思います。

しかし、私はぶれぶれですよ(笑)。晴れか雨か、日曜か月曜かでも違いますよね。

でも、そのときどきに合わせてできる最高をめざす。落語はどこまでいっても娯楽ですので、お客さんに楽しんで帰ってもらうことがいちばんです。

-では、㐂三郎さんが落語をするうえで大切にしていることを教えてください。

㐂三郎さん:師匠に惚れて落語の世界に入ったことを忘れないようにしています。師匠みたいになりたいと考えてこの世界に入って、自分なりに試行錯誤して真打になった今の落語は、憧れた師匠の落語とは離れているかもしれません。

でも、最終的には師匠の落語をめざしているんです。今は離れているかもしれない、遠回りをしているかもしれない、けれど必ず師匠のいる場所に近づくという気持ちでやっています。

自分が迷ったり悩んだりしたときに師匠を見れば自分の立ち位置がわかるので、そういう意味では師匠がいるというのはとても幸せなことだと考えています。

-今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

私も寄席には1度しか行ったことがありませんが、㐂三郎さんのお話をお聞きしてまた寄席に行ってみようと思いました。

落語は、肩ひじ張らずに気軽に見に来てほしいと㐂三郎さんはおっしゃいます。今は人がたくさん集まることはなかなかむずかしいですが、状況が改善されたらぜひ落語を見に行ってはいかがでしょうか?

寄席というライブの場だからこそ生まれる長い歴史を生き抜いたエンターテインメントをぜひいっしょに体感しましょう!

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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