たいせつじかん ?ほっと一息。少し休憩。幸せな時間?

輝く男性インタビュー

虐待を受けた子どもたちのためにワンストップセンターを作る!神奈川子ども支援センター つなっぐの代表理事・田上幸治さんのインタビューです!

 

つなっぐ代表理事の田上幸治さん

子どもに対する虐待は年々増加傾向にあるそうです。そんな虐待を受けた子どもたちに対して必要な機関が連携し対応できるワンストップセンターの運営と、さまざまな教育、啓もう活動を行うNPO法人のつなっぐ。神奈川県立こども医療センターの医師でもある代表の田上幸治さんに、活動内容をうかがってきました。

虐待を減らすために、私たちにできることは何があるのか。そして、虐待を生んでしまう理由はどのようなところにあるのかなど、たくさんの気づきのあるインタビューとなりました。

ぜひ、ご覧ください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■虐待を受けた子どもに対する接し方が重要

 

-NPO法人つなっぐの活動内容を教えてください。

田上さん:簡単にまとめると虐待を受けたお子さんの支援・ワンストップセンターの運営、支援する側の人材の育成、虐待に関する啓もう活動が主たる活動内容となります。

-支援活動と啓もう活動はイメージできるのですが、支援する側の人材育成とはどういう狙いがあるのでしょうか?

田上さん:虐待とひと言でまとめて言うことは簡単ですが、さまざまなケースがあります。たとえば、身体的虐待や性虐待などです。

また、おとなと違い他者への相談や開示がなかなかできないという状況が多いです。

そのため、聞き手側の対応が間違ってしまうと2次被害につながるケースが多くあります。

-2次被害とはどういうことでしょうか?

田上さん:仮に、本人にとって非常にナイーブで真剣に悩んでいることを相談した相手に、そんなことあるわけないとか、おまえの勘違いだなどと言われたとしましょう。そうすると、本人は本当のことを開示しなくなるでしょうね。

そういうことがないように、司法面接という虐待や事件、事故の被害を受けた疑いのある子どもから、正確な情報を負担なく聞き取る方法を指導したりします。

-なるほど、虐待においてはまずこちら側の聞く技術も必要なんですね。

田上さん:そうなんですよね。正確に知ることが大切ですし、誘導的であってもいけないので、専門的な技術といってもいいでしょうね。

また、トラウマインフォームドケアというトラウマを抱えている子どもに対する接し方も指導しています。たとえば、虐待された子どもが学校で暴れてしまったとして、それを先生が怒ると、家で親に怒られるもしくは殴られたことの再トラウマ化がおき、より精神状態が不安定になり前向きになれずに閉じこもってしまうということが起きます。

トラウマをもっているであろう子どもには、再トラウマ化をふせぐような接し方が必要になります。

-子どもに対する接し方もとても大切なんですね。

田上さん:そうなんですよね。虐待を受けた子どもを実際に暴力からいち時的に保護するだけでは終わりになりません。虐待を受けた子どもはたくさんのトラウマ体験があります。それを理由としてさまざまな行動を起こしてしまうわけですが、それを支援する側が、いっぽう的に怒るということがあってはいけませんね。

 

■日本の虐待を受けた子どもに対する支援制度が大幅に遅れている 

-虐待による悲しい事件を目にすることがありますが、現状ではこの問題への対応は進んでいるのでしょうか?

田上さん:この問題に対して中心的な役割をもっているのは、児童相談所です。虐待が生んだ悲しい事件が背景にあり2017年に児童福祉法改正がありました。これは、簡単に言うと児童相談所をより強化していくことが盛り込まれています。

しかし、現状はそれほど簡単な問題ではないように思います。
そのなかで、もっとも必要であると考えていることが多機関連携です。 

-多機関連携とはどういうことでしょうか?

田上さん:現状では、虐待を開示したら複数の機関に同じ話を何度もしなければいけないのです。

窓口は、基本的に児童相談所ですね。まず、そこで詳しい内容を聞かれ、そのあとに警察や病院へ行き、また同じ話をするわけです。さらに、裁判にでもなろうものなら裁判所でも聞かれるわけです。

子どもにとっては、つらい話を何度もしなければいけなくなりますから、虐待を開示したあとにも心の傷を追いかねません。

そういう現状をアメリカでは、聴く側が必要な機関をひとつにまとめたワンストップセンター(Child Advocacy Center = CAC)が全国にオフィシャルで900カ所以上あり、ヒアリング、身体的な診断、心のケアなどをまとめて対応しています。

日本でもこのワンストップセンターの充実が必要だと考えています。

-なるほど。お聞きするまで開示後の2次被害もあるのだということすら知りませんでした。日本には、こういったワンストップセンターはどのくらいあるのですか?

田上さん:CACと呼ばれるものでは、私どもを含めて2カ所です。

-えっ、2カ所しかないのですか?

田上さん:そうなんです。当然ですがアメリカにもこういった機関はありませんでしたが、1985年から徐々に広がっていきました。

ですから、日本は虐待の対応がアメリカに比べて30年近く遅れていると言えるでしょうか。

また、数字で見るとよりこういった多機関連携したCACの重要性が見えてくるのです。

みなさんもある程度は、実感としてあるかもしれませんが、虐待の数は年々増加傾向にあります。しかし、性虐待の数はここ数年ほぼ変わらずに推移しています。

欧米では、性被害は全体の虐待数のうち10%程度あるとされていますが、日本は1%程度なのです。性虐待は、身体的な症状が出にくいために本人からの開示がないとわかりにくいですね。

そう考えると日本は、虐待の開示がとてもしづらい環境にあると考えていて、その解決にはワンストップセンターのようなCACが必須だと考えています。

 

■完璧な親なんていない。つらいときはSOSを出していい

-では、私自身もひとりの親として質問をさせていただきますが、私たちにできることは何がありますか? 

田上さん:まず、ご自身が育児に対してつらさやストレスを抱えているようでしたら必ず相談しましょう。行政機関でもNPO団体でもいいですから、ひとりで抱え込まないことです。

現在は、社会全体が抱える問題が密接に絡み合って非常に育児がむずかしいですよね。コミュニティの崩壊による家族の孤立化や貧困問題、経済状況の不透明感など数えればきりがありません。

今と昔を比べることに意味はありませんが、今の社会のなかで、父親・母親になるということは非常に大変でむずかしいことです。ですから、完璧である必要はありません。困ったらSOSを出してください。

また、近くでこれは虐待を受けているかも、と心配になる子どもを見つけたときは、児童相談所に相談ください。心配になる虐待を通告することは、事件の告発ではありません。家庭内の問題を社会に開いて解決する治療手段です。虐待をやめることはできます。必ず虐待の連鎖を食い止めていくことはできます。

-なるほど。まずは、問題を開示し、家族だけで問題を抱え込まないことが大切ですね。

田上さん:これは、問題に直面しているお子さんにも同様にお伝えしたいのですが、支援してくれる人たちは世の中にたくさんいます。学校の先生でも、友だちのお母さんでもいい、電話相談でも、LINE相談でもいいですから、相談しましょう。

-今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

虐待に関するニュースをたくさん目にしてきて、さらに自分も子育てをしている親として関心の高いテーマであると考え、取材に望みましたが知らないことの連続でした。

センセーショナルな内容であるからかもしれませんが、事件の内容にばかりに目を向けて、なぜそうなったのか、どうすれば防げるのかなどを深く考えずにいたのだと思いました。

田上さんは、虐待を開示することは機能不全になっている家庭を治療する手段である、というようにみんなの意識を変える必要があるとおっしゃいます。誰にでも起こりうる問題であり、早期発見で必ず連鎖を止められるというお話がとても印象に残りました。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

あわせて読みたい