たいせつじかん ?ほっと一息。少し休憩。幸せな時間?

輝く女性インタビュー

「うちの子、発達障害?!」子どもの育てにくさに不安な気もちを抱えるすべての親御さんへ―NPO法人ステップこども発達相談室 代表 井口裕子(いぐちひろこ)さんインタビュー

近ごろは、「じつはわたしは発達障害です。」とカミングアウトする芸能人や有名人が増えてきたこともあり、一般の人が発達障害という言葉に触れる機会が多くなりました。

また、インターネットでは“発達障害チェックシート”が検索できたり、発達障害に関するテレビ番組が放送されたりと、発達障害について理解する機会も増え、「自分の子どもの育てにくさの根底に発達障害があるのでは・・・?」と考える親御さんもいるといいます。

しかし、そんな疑いをもった親たちは、次にどのように行動すればいいのでしょうか?

今回は、NPO法人ステップこども発達相談室 (以降、ステップ)代表井口裕子さんに発達障害などをもつお子さんの子育てや支援についてお話をうかがいました。

ステップは、発達障害やその疑いがあるお子さん、発達がゆっくりなお子さんや知的障害があるお子さんを対象に、心理療法的アプローチでその子のもつ力を充分に発揮できるよう支援する機関ですが、今回のおはなしは、迷いつまづきながら子育てに向き合うすべての親御さんにとって、さまざまな気づきや発見と出会えるインタビューとなったのではないかと思います。

■「発達に心配のある子ども」って、どんな子ども?

-本日はよろしくお願いします。

井口さん:こちらこそよろしくお願いします。

-NPO法人ステップこども発達相談室(以降、ステップ)は横浜市都筑区・横浜市営地下鉄中川駅に近い閑静な住宅街にあります。周囲には大きくて立派なおうちが建ち並んでいますが、ステップの建て物はひときわ目をひく素敵な洋館ですね。

井口さん:ありがとうございます。

-ステップは、“疑い”も含めて、発達障害や知的障害など“発達に心配のある子ども”を対象とした支援機関とのことですが、“発達に心配のある子ども”とは具体的にどのような子どもたちのことをいうのですか?

井口さん:人は、子どもからおとなになる間に“発達の段階“を踏まえるのですが、”発達に心配のある子ども”は、この発達の段階が本来迎えるべき年齢より遅れて現れたり、うまくクリアできていない様子がある子どもたちのことをいいます。たとえば1歳半健診などでは、発語の状況や呼名反応、アイコンタクトなどの様子を見て、年齢相応の発達の段階を迎えているかを確認したりします。

-なるほど。1歳半くらいの子どもならこんな反応をするはず・・・という様子が見られないと、「発達が気になる」とか「発達に心配がある」という可能性が出てくるということですね。1歳半健診や3歳児健診以外で発達の心配がわかる場面はありますか?

井口さん:たとえば、幼稚園や保育園などの集団生活での不適応を教諭や保育士から指摘される人もいます。また、小学校へ上がると学習についていけず「学習障害(LD)」を心配する方もいます。多くの場合、親御さん自身が育てにくさを感じていることが多いですね。兄弟がいて同じことをやっても片方ができないとか、こだわりがあったり神経質だったりと、「自分の子どもなのにどのように接していいかわからない」といってステップにたどり着く方もいらっしゃいます。

-そうなのですね。不安でいっぱいのなかですが、ステップという支援機関を見つけられたのはよかったですね。

井口先生: そうですね。ここ10年くらいの傾向として、インターネットで発達障害チェックリストを実施したり、さまざまなことを調べて予測をしてくるお母さんたちが増えています。はじめての面談のときに、「うちの子にはこういったこだわりがあります」と、きちんと答えられるお母さんが多くなりました。そういった方のなかには、「障害の診断を受けてしまうとショックなので心配だから相談したい」、「診断を受けたくないから相談したい」というお気持ちのかたもいらっしゃいます。

-インターネットの発達でさまざまな知識が得られるようになった一方で、「自分の子どもは発達に問題があるかも・・・」という不安をお母さんがひとりで抱えてこんでしまう状況も生まれているようですね。

 

■「相談」の大きなチカラ

-子どもの発達に心配を感じたお母さんが、障害の診断の前にステップを頼って来られるのはなぜでしょうか?

井口さん:ステップが親御さんの【相談】に力を入れているからではないでしょうか。

発達障害をはっきりさせることではなく、心配ごとや困りごとを軽減したいという親御さんのニーズに合っているのでしょう。

わたしたちは、ご家族が何を心配して何に困っているかということをていねいにお聞きして、具体的に対策していくことで、ご家族の不安を軽減したり解消することができると考えているのです。

-【相談】に力を入れているのですか?

井口さん:はい。児童福祉法で定義されている児童発達支援・放課後等デイサービスなどの療育センターといわれる施設は、基本的にそのお子さん本人に対する指導に力を注ぎます。障害のあるお子さんが社会的に自立できるように、専門的な教育支援プログラムを通してトレーニングするのです。もちろん、わたしたちステップでも同様に支援プログラムを作成しトレーニングします。

そしてそれに加えて、親御さんへの【相談】に力を注ぎます。長い時間をかけてお父さん・お母さんの心配ごとを聞き、保護者へできるかぎりのアドバイスを行っていくということは、ほかの機関ではあまり見ない形でしょう。

私たちステップの支援は、親御さんの精神的な安定感に目を向けていくことが大きな特徴だと思います。また、ステップのスタッフは全員が臨床心理士・公認心理士であり、カウンセリング的な相談ができるという点も強みです。

-心理の専門家が指導と【相談】を通して寄り添ってくれるということですね。これは心強いです。

井口さん:さらに、療育センターは主にグループ指導が中心となりますが、ステップでは個別指導が基本です。その子とその家族をしっかりと捉えて支えていくことがステップの特徴であり、強みなのだと思います。

-個別指導の手厚さをしっかりと確保したうえで、子どもだけに目を向けるのではなく、子どもと親御さんの両軸を支援する―家族は前へ進む大きな力を得られそうですね。

 

■親は「褒め上手」になろう

-ステップの大きな方針が“個別指導”と“相談”ということがよくわかりました。では、具体的に個別指導はどのようなことを行っているのですか?

井口さん:お子さんの困りごとによってさまざまなプログラムがあります。

たとえば「指示を聞いて行動する」や「着席して話を聞く」など、集団のなかでの基本スキルを獲得するトレーニングを行うこともありますし、社会生活で好ましいコミュニケーションがとれるようになるためにソーシャルスキルトレーニングを行うお子さんもいます。

そのほか、お箸の使い方や買い物・整とんなど生活スキルを学んだり、読み書き算数など知的学習を行うこともあります。一人ひとり得意なこと、不得意なことは違いますので、その子に合わせて必要なトレーニングをオーダーメイドでプログラムします。

-個人と向き合い、また親御さんともしっかり話し合うので、その子やその家族が何に困っていて、どんなトレーニングが必要なのかがわかるのですね。

井口さん:はい。じつは“オーダーメイド”であるということのほかに、ステップの指導の柱に「褒める」ということがあるのですよ。

-「褒める」ですか?

井口さん:はい。やみくもに「褒める」という意味ではありません。ステップでの「褒める」という行為は、応用行動分析(ABA)という考え方に立った指導を行っています。

-“応用行動分析”・・・なんだかむずかしそうな言葉ですね。具体的にはどのような指導なのですか?

井口さん:ものすごく簡単に説明すると、行動の原因を「心の中の働き」であるとは考えず、「個人とそれを囲む環境との相互作用にある」と考えます。つまり、その子が好ましくない行動をとるのは、その子が原因なのではなく、好ましくない行動を呼び起こしてしまう環境に問題があるのだから、環境を適切な方向へ調整するという考えです。

また、もしその子に好ましい行動が出た場合は、即座にその行動について褒めていきます。たとえば、おもちゃを散らかしてまったく片付けなかった子が、何かがきっかけで片付けを始めたとしましょう。親にはそのタイミングで子どもを褒めるよう指導します。

-素直に片づけられたのならば褒められそうですが・・・。何度も「片づけなさい!」と注意されてしぶしぶ片づけたとか、おやつがもらえるからしかたなく片づけた・・・という場合は、なんだか素直に褒めにくいです。

井口さん:いいえ。直前の行動がどうであれ、条件がなんであれ、好ましい行動が出た時点でその行動を肯定することが大事なのです。好ましい行動が褒められることによって、結果として親がやってほしい行動(好ましい行動)が増えていってくれたらいいのです。

注意したいのは、「えらいね~」「いい子ね~」と褒めるのではなく、望ましい行動について褒めてほしいのです。「片づけられたね!すごいね!」「きれいになったね、ありがとう」などはいい誉め言葉ですね。

-「褒める」とは、なかなかむずしそうですね・・・。

井口さん:そうですね。親御さんの価値観とギャップがある場合もありますからね。以前、あるお父さまが「わが子を褒めるなんてとんでもない!子どもは厳しく教えていかなくちゃいけないものでしょう!」と怒りだしてしまったこともありました。

-親も「褒め方」を身に付けなくてはいけませんね。

井口さん:そうですね。じつはステップでは「ペアレントトレーニング」という親御さんが学ぶ全8回のグループ講座を開講しています。タイトル通り、「親」のためのトレーニングで、受講者のほとんどが、発達障害の疑い(グレーゾーン)のお子さんをもつ親御さんです。

この講座のなかでは、「お子さんの褒めるところを見つける」という宿題が出たりして、お子さんを褒めることを学んでいきます。「どんな関りを通して褒めるところを見つけたのか」「褒めるときはどのように褒めたのか」ということをみんなで考えたり、内観したりしていきます。

-講座の参加者にはどのような変化がありましたか?

井口さん:アンケートをとると、

「褒めるところを探すために子どもを見ているうちに、“こういう行動をするのではないか”と予測がたつようになった」
「自分は子どもの行動に漠然と困っていたが、子どもの行動が理解しやすくなった」

という声が聞けています。

-「褒める」ということで、子どもにも親にもいい影響がでるのですね。褒め方、学びたいです!!

井口さん:ステップのホームページでもペアレントトレーニングの情報を公開しているのでぜひご覧になってみてください。

 

■うちの子のトリセツ

-ここ10年で、親御さんたち自身があらかじめ発達障害などの知識をつけて相談に来る傾向をお話しいただきましたが、そのほかにも、発達障害を取り巻く社会環境が変わったなと感じることはありますか?

井口さん:そうですね。学校現場で発達障害の理解が進み、支援のしかたが変わってきたように感じます。

-たとえばどんなことでしょうか?

井口さん:以前は“発達障害”とか“自閉症”と言っても「それは何ですか?」という担任の先生もいらっしゃいました。それが、スクールカウンセラーが配置され、教師以外の多様な目で子どもを支援する枠ぐみが整ってきています。

ちなみに、20年ほど前のスクールカウンセラーには、発達について理解していない人も多かったのですよ。というのも、ある都市の教育委員会では、スクールカウンセラーの支援対象から発達は除き、発達の心配があった時は障害課がメインで担当するという指針があったからです。

しかし、昨今のスクールカウンセラーは発達について学んでいるのがよくわかります。ステップに来られる方で、「スクールカウンセラーに【発達検査】をしてみてはどうかと言われました」とおっしゃる方はかなりの数いらっしゃるからです。

-【発達検査】とは何ですか?

井口さん:発達検査とはWISC(ウィスク)やK-ABCⅡなどさまざまな種類があり、子どもの得意や不得意、発達の偏りなどを客観的な数値指標で表す検査のことをいいます。

育てづらさを感じている親御さんから「この子はどうしてこうなの?」「なぜこんなふうになってしまうの?」とうかがったお話と発達検査の傾向や数値を照らしてみることで、お子さんの器質に裏付けが取れ、そのあとの相談や対策がスムーズに進められるメリットが得られます。

ひとつの例ですが、「視覚的に情報を得るのが不得意」という傾向が現れた場合、テストなどたくさんの文字があふれたプリントは、半分に折って渡してあげることで子どもが落ち着いてテストに取り掛かれる可能性をアドバイスできるようになります。

-なるほど!発達検査の傾向から、子どもの得意なことや苦手なことが見えてくれば、その子がより快適に過ごすための工夫につながる道筋ができるというわけですね。これは、「うちの子のトリセツ」ができそうですね!
好ましくない行動は親のしつけの責任などと言われ、つらい思いをしている親御さんもいらっしゃると思います。ぜひ、お子さんの器質を知るというアクションを起こしてみてもらいたいですね。

井口さん:ステップでも検査は受けられますが、ご自宅の近くの発達外来や相談機関などで「発達検査」が受けられるか聞いてみられるといいかもしれませんね。

 

■うちの子を理解してもらうために

-最後に、お子さんの発達に心配を感じている親御さんにアドバイスをいただけますか?

井口さん:そうですね。まずは、「漠然と困っている」状態であれば、“何に困っているのか”具体的に考えてみてほしいと思います。「育てにくい」と感じているなら、その子の「何が」育てにくいと感じるのでしょうか?では、それが「どう」なればいいと思いますか?

また、「どうすれば」その状態になるでしょうか?このように、点で追っていくことによって見えてくるものもあります。漠然と困っているときは、何も見えなくなりますから。

-たしかに、「どういうふうになればいいか」というイメージをもてれば、具体的な行動をおこしやすくなりますね。また、誰かにサポートを依頼するときも、的確に要望を伝えられるようになりそうですね。

井口さん;最後に、「褒める」ことや「発達検査」なども利用しながら、お子さんの器質や特徴を理解し、彼らの行動がいい方向になるための工夫を増やしていってください。

学校の先生や周囲の方に対して、「こういうふうに声を掛けるとこの子はこうなります」とか、「こういう接し方をすると少しいい方向になります」など、お子さんと接するときの工夫を伝えることで、周囲の方もいっしょにお子さんへの理解が深まっていくと思います。

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

ステップができて25年余り。
当初通っていた子どもさんで、30代半ばに差し掛かった今もステップに通われている方がいらっしゃるそうです。また、近年より支援をスタートした方も、高校を卒業しても1割程度の方がステップに通い続けるといいます。
社会に出ると、学生時代とは違う困りごとが発生し、その相談や対策を身に付けるトレーニングのために通う人もいます。また、障害者就労事業所へ通う人が、学ぶ機会の獲得のために通っていることもあります。一つひとつ時間をかけながら、本人の特性に合わせて学びを続け、社会に出たあとの自信になっていっているそうです。
ステップの支援が、その人の人生、家族の人生に、寄り添い続けていることを知り、熱い気もちになりました。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

あわせて読みたい