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生産者インタビュー

神奈川県農協茶業センター代表取締専務 福野学さんインタビュー【後編】

生産者の努力と強い連携によって、収穫した茶葉は鮮度を最大限に保ちながら加工場へ運ばれ荒茶に加工されました。後編は、この荒茶が「かながわブランド」をはじめ、「かながわ名産100選」や地域食品ブランドの表示基準「本場の本物」に認定登録されている【足柄茶】として生まれ変わる“仕上げ工程”からスタートします。 Road to THE ASHIGARA TEA(足柄茶への道)もいよいよ最終章。お茶ができるまでの思いもよらなかった長き道もクライマックスを迎えます!

※前編はこちら
身近なのに知らないことがいっぱい-お茶ってこんなにおもしろい!

■ここが最終ラウンド!ブランドを守る匠の技術

福野さん:神奈川県内で生産された荒茶はすべて、足柄上郡山北町にある(株)神奈川県農協茶業センター(以降、茶業センター)に納入され、一括管理して仕上げ加工が施され製品化されます。ここからの仕上げ加工については神奈川県農協茶業センター営業部部長 守屋孝治(もりやたかはる)がご説明しますね。

-守屋さん、よろしくお願いします。

守屋さん:はい。では早速ご案内します。こちらへどうぞ。

守屋さん:神奈川県では山北地域周辺以外にも、相模原市、小田原市、秦野市、湯河原町や真鶴町などでもお茶が栽培されていて、県下には20カ所以上の荒茶工場があります。神奈川県で加工された荒茶はすべてこの茶業センターに納入され、搬入後すぐに産地や生産者がわかるようロット番号付けを行い管理しています。

-神奈川県のさまざまな地域でお茶が作られていたのですね。知りませんでした。

守屋さん:はい、神奈川県の丹沢・箱根山麓一帯は、気候や風土などがお茶づくりに適しているといわれているのですよ。

-そうなのですね!

守屋さん:仕上げ工程の最初のステップは「目割り」という工程です。納入された荒茶一つひとつを格付けして、最終的には01~11等級の11の等級に分けます。

-とても細かくレベル付するのですね!評価基準はどんなことなのでしょうか?

守屋さん:まずは外質― つまり、色・つや・茶葉の形状など見た目の評価を行います。このように評価用に荒茶をサンプルして評価するのですが、このふたつの皿を比べてみても、まったく状態が異なっていることが分かりませんか?

-本当ですね!緑の色みもずいぶんと違っていて、まったく異なるお茶に見えますね。

守屋さん:外質のあとは内質― 香気(こうき)・水色(すいしょく)・渋味(じみ)を評価します。同じ量の茶葉を湯呑に入れて熱湯を注ぎ入れたときのお茶の状態を評価します。

-わぁ!アツアツの熱湯ですね!

守屋さん:はい。ふだん日本茶を淹れるときは、もっと温度の低い湯を使いますが、目割りのときはアツアツのお湯を使います。

-お茶の色みもそうですが、透明度も全然違いますね!

守屋さん:そうですね。水色や香気を評価したあと、渋味を確認します。渋味は実際に茶を口に含んでひとつずつ確認していきます。

-お茶の味を横並びに評価していくなんて、繊細な味覚が必要なたいへんむずかしい工程ですね。

守屋さん:一番茶のこの時期は、多いときで40ほどの荒茶を1度に目割りします。しかし、わたしなどまだまだ未熟者です。ここにおります支配人の石渡 哲也は、地域の特産物の生産・加工において卓越した技術や能力を備えた人材に対する認定制度である”地域特産物マイスター”の茶部門の認定を、神奈川県でただひとり受けており、わたしは石渡の指導を仰ぎながら修行の日々です。

-お茶専門の地域特産物マイスターがいらっしゃるのですね!すごい!

石渡さん:最終的にはこの評価を根拠にしながら茶葉をブレンドして製品を作っていきますので、目割りは本当に気を配る工程です。

-複数の生産者が収穫・加工した違いがあるお茶をブレンドして、味や香りを製品ごとに安定させていくのは、まさに職人技ですね。

石渡さん:なるべく等級が近いお茶同士でブレンドするなどして、消費者が求める味わいや価格帯に合わせてブレンドしていきます。毎年茶葉の出来は異なりますので、おっしゃる通り、骨の折れる作業です。

守屋さん:石渡は茶の地域特産物マイスターのなかでもブレンダーとしての技術が高く評価されています。わたしもこの技術を継承できるように日々精進です。

-加工設備は機械化・自動化していても、お茶の生産はいまも職人技術が支えているのですね。

守屋さん:目割りした荒茶は整形などの工程を経て、火入れの工程へ移ります。じつは、この火入れの工程こそ、味や香りなど産地の独自性が出るところだといわれています。茶業センターでは3種類の火入れ機をお茶の状態や生産する製品の違いで使い分けて仕上げの火入れ作業を行っています。

-ここも職人の目利きが重要な工程なのですね。

守屋さん:混入異物をカメラがチェックして、見つけたら自動的に取り除くなど機械に頼っている部分もたくさんありますが、目割りやブレンドを含め、お茶の生産には職人の経験が重要な役割を果たしています。

 

■知っておきたい『お茶』のコト

-茶葉センターで仕上げ加工されたお茶はこのあとどうなるのですか?

守屋さん:ここで加工されたお茶は基本足柄茶として出荷されます。つまり、神奈川県下で収穫されたお茶は、基本みんな足柄茶となるのですよ。

-そうだったのですか!?静岡茶には掛川茶や川根茶などいろいろな種類がありますが、神奈川県は足柄茶一本に統一されるということなのですね!?それは知りませんでした!

守屋さん:足柄茶一本といっても、煎茶・ほうじ茶・玄米茶や、一番茶のように特定の季節にしかできないもの、かぶせ茶のように特別に栽培されたお茶など、茶葉の性質を見極めてさまざまな製品に展開しています。

-茶葉センターの通販サイトでもたくさんの製品が紹介されていますね。

守屋さん:なかでも、季節を感じられる一番茶はぜひ消費者のみなさんに飲んでいただきたいですね。一番茶というのは、その年の最初のお茶で“新茶”とも呼ばれますが、茶葉のやわらかい新芽の部分だけで作ったお茶なので、一番茶の40~50日後に収穫される二番茶以降のお茶よりも渋みの素であるカテキンは少なく、うまみや甘み成分のアミノ酸が多く含まれています。ちなみに、ほうじ茶は一番茶の新芽を採ったのと同じお茶の木の、10月から12月頃の茶葉を焙煎して作るのですよ。季節によっていかに茶葉の風味に違いがあるかということです。

-それじゃあ一番茶はまさしく【時季の味覚】なのですね!これはいよいよ飲んでみたくなってきました!

石渡さん:絶妙のタイミングでお茶が淹れられましたよ。さあどうぞ、今年の一番茶です。

-わぁ!!こ、これは、うれしい!!(ずずずずっ・・・ごくり)
はぁ~・・・一番茶とはこんなにもおいしいものなのですか???家で飲むお茶と全然違う・・・なんてまろやかでトロンとした甘みのあるお茶でしょう。

石渡さん:紅茶の最適温度は100℃であるのに対して、日本茶は80℃といわれています。高い温度の湯を日本茶に注ぐと、渋み成分のカテキンが溶け出しやすいといわれていますので、日本茶を淹れるときは、とくにお湯の温度に気を付けていただくといいですよ。

-紅茶と日本茶で最適温度が20℃も違うのですね。これまでは「お湯が沸騰したら注ぐ」という機械的な淹れ方で、最適温度まで気にしてお茶を淹れたことがなかったです。

石渡さん: ぜひ、足柄茶本来のうまみや甘みをじっくりと味わってくださるとうれしいです。足柄茶のうまみや甘みが深いのは、茶園の多くが日照時間の短い土地にあることが起因しています。渋み成分のカテキンの生成は、日光を浴びることによって増加するといわれているのですよ。

-食物が成長するには日光に当たることが重要なイメージがありましたが、お茶の場合は日光にあまり当たらないほうがうまみと甘みが増して品質の高いお茶ができるということなのですね。

石渡さん:茶園へ行かれた時、お茶の上を黒いシートで覆っている茶畑がありませんでしたか?

-ああ!ありました。(上写真)

石渡さん:あれは、わざと日光を遮って茶葉に日光が当たらないように育てている“かぶせ茶”というものです。高級茶の“玉露茶”もよしずなどで覆って日光を遮って育てたお茶です。このように日光を当てずに育てることでよりうまみや甘みが強いお茶ができ上がります。

-お茶って奥が深いのですね!そのお茶本来のうまみと甘みを味わうために、最適温度80℃のお湯でお茶を淹れなければモッタイナイですね!

 

■足柄茶SDGsは、生産者と消費者をしあわせにする

-流通ルートやブランドの一本化は、お茶の生産としては全国でもめずらしい取り組みだとうかがいました。茶業センターではどのような思いでこの取り組みを行っているのでしょうか?

福野さん:以前は500軒ほどあった山北地域の茶農家は、現在350軒程度に減少しています。高齢化によって斜面にある茶園での作業がむずかしくなったことや、新東名高速道路の建設などによって作付面積が減少したことなどさまざまな要因があります。いっぽうで、秦野地域は茶農家が増えている現状もありますが、日本のほとんどの農家が直面している後継者問題は、我々も例外ではありません。そこで足柄茶を持続可能な生産・供給体制とするために、「生産者団体による産地直売方式」が効果を上げています。

-具体的にはどういった効果があがっているのでしょうか?

福野さん:茶業センターがお茶の仕上げや流通ルートの管理を専任で行うことで、計画的な生産が進められるようになり、生産者にはより高い利益が還元できるようになりました。昨今ブームとなっている和紅茶「箱根和紅茶」や、ふだんは二番茶以降の茶葉で生産するほうじ茶を一番茶で生産したほうじ茶「かおり」も計画的生産の1例です。この茶葉は、茶業センターが徹底した温度管理の元で貯蔵していた昨年の一番茶です。このような付加価値の高い製品を生産することで、農家にも循環していきます。

―たしかに和紅茶は昨今注目が集まっていますね。それに、一番茶のほうじ茶だなんてどんな味がするのでしょう?! 消費者としては関心が高まりますね。
新しい製品開発はリスクがありますが、生産団体が一体的に生産するならば、農家も安心して茶葉の栽培に専念できますね。

福野さん:また茶業センターは、生産技術の指導にもかかわり、生産団体一丸となった足柄茶のブランド品質の向上に努めています。たとえば、一般的なお茶園は、一番茶、二番茶、三番茶、四番茶まで摘採しますが、足柄茶の茶園は三番茶を摘採しないよう指導しています。真夏の暑い時期に日光をたくさん浴びた渋みの強いお茶を作るよりも、三番茶を摘採せず、茶畑を休ませ草を入れて、翌年の一番茶がさらにおいしくなるために、茶畑の手入れに専念するのです。

-茶畑にうかがったとき、畑の土がふかふかでした!茶畑とはこんなにもふかふかしたものなのか?と不思議に思っていたのですが、これは昨年夏に行った畑の手入れのたまものなのですね。

福野さん:このように生産者が一体となってよい状況を作り出すことが、ついては消費者に高品質で安全・安心な消費者本位の足柄茶をお届けすることにつながっています。

さあ、今年も新茶の季節がやってきました。ぜひ、香りとうまみの足柄茶の一番茶を、ゆっくりと味わっていただけたらと思います。

 

編集部のひとこと

編集長

かなちゃん

ふだん何気なく飲んでいるお茶の奥深さを知ることができた貴重なインタビューでした。
「生産者が安定して生産できることが、消費者の潤いにもつながる」―足柄茶の生産者の誠実な思いと、お茶づくりへのひたむきな努力が、この言葉を実現させているのだろうと思いました。
新茶、和紅茶、一番茶のほうじ茶。神奈川県の足柄茶にはわたしたちをワクワクさせるお茶がラインナップされて、みなさんとの出会いを待ちわびています。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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