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輝く女性インタビュー

障害をもつ人でも「働いて、住める」町づくりのために活動を続ける。横須賀市に拠点を置く一般社団法人sukasuka-ippoの代表理事 五本木愛(ごほんぎあい)さんインタビュー

一般社団法人sukasuka-ippoの代表理事 五本木愛さん

一般社団法人sukasuka-ippo 代表理事の五本木愛さん

今回インタビューをさせていただいたsukasuka-ippoの五本木さんは、障害をもつ娘さんのおかげで人生をかけてやりたいことが見つかったとおっしゃっていました。

私は、自身が子育てをしていくなかで実際に困ったことや今後必要になるであろうことを想像し、先回りして事業を作っていくスピードに驚かされました。

笑顔もすてきで明るくパワフルな五本木さんが、横須賀市をもっと住みやすい町に変えていくことを想像できます。

五本木さんの熱い思いが詰まったインタビューです。ぜひお楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■障害児をもつお母さんたちが集まり会社を立ち上げる

「園報ひまわり通信」がきっかけで、横須賀市でsukasuka-ippoを始めることになった。

sukasuka-ippoの成り立ちについて話す五本木さん

-はじめに、sukasuka-ippoを立ち上げた経緯や事業内容について教えてください!

五本木さん:sukasuka-ippoは、もともと障害児をもつお母さんたちで作った会社になります。

私には6人の子どもがいますが、6人目の娘がアンジェルマン症候群という障害をもって生まれました。障害児を育てるということは初めての経験でしたし、情報の少なさや育てにくさを常に感じながら子育てをしていました。

娘は、横須賀市にあるひまわり園という障害児が通う幼稚園に入園し、私はその園の保護者会の会長を2年間務めました。ひまわり園の保護者会長として市のさまざまな福祉会議に出席していたのですが、そういった会議では、私たちが実際に困っていて知りたいような内容の話がたくさん話し合われていたんです。

-横須賀市の障害福祉の現状などですか?

五本木さん:そうです。新しくできるサービスなどもありましたね。こういった情報は実際に子育てに取り組む私たちが知っておくべきことで、会議で話し合われているにもかかわらず情報が現場まで届いていないことに違和感を感じ、まずは園内のお母さんたちに情報を届けるために「園報ひまわり通信」を作り、2015年4月から配布し始めたことがスタートなんです。

-ひまわり通信がsukasuka-ippoの原点なんですね!

五本木さん:そうなんです!実際、ひまわり通信を読んだお母さんたちから、「生きた情報で本当にありがたい」という声を聞きました。その反面、私たちがいなくなったらひまわり通信はどうなるの?という不安の声もあがっていたので、園内のお母さんたちだけでなく、障害をもつ子どもを育てているご家族全般に情報を届けるため2016年4月にsukasuka-ippoのホームページを立ち上げ、そこにさまざまな情報をアップするようにしました。

-園内情報誌から地域情報誌(Web)になったんですね。具体的にどのような情報をアップされていたのですか?

五本木さん:横須賀市には、放課後デイサービスなどの施設がどこにあって、どのように利用すればいいのか、またどのような特徴があるのかなど、実際に私たちが不安に感じているようなことです。

情報を届けるためにたくさん取材に行きましたし、私自身すごく勉強になりましたね。そのなかで、「自分の子どもたちが大きくなったとき、横須賀で障害者の方が働く場所や住む場所は絶対に足りないから、もっと早い段階で手立てを考えておいた方がいい」というようなアドバイスをいただきました。

それから、ともに活動するメンバーとも話して、情報発信ももちろん大事だけれど、わが子の成長に合わせて必要になっていくもので足りないとされているものは自分たちで整えていった方がいいよね、ということで、2017年4月に法人化をして会社の事業として活動していくことになりました。

-法人化して最初の事業はどのようなものだったのですか?

五本木さん:最初は、横須賀商工会議所と連携した横須賀テレワーク事業になります。

当時は、今のようにテレワークが世の中に浸透していませんでしたから、商工会議所の方からいっしょにやりませんか?と声をかけていただいたときは本当にありがたかったです。

障害児の子をもつお母さんたちはどれだけスキルがあっても、一定時間働きに出ることは困難になってしまいますし、在宅でのお仕事で地域や社会に参加できるようになる事業は、私たちからすると願ったり叶ったりでした。

今では、在宅のお仕事だけでなく、短時間の外でのお仕事などさまざまな仕事を受けており、事業を始めてから約4年になりますが、ワーカーとして登録されている方は73名、取引先は50社以上となっています。

-今でこそテレワークが浸透し、ひとつの働き方となっていますが、当時は「出社」が大前提でしたよね。

五本木さん:そうですね。今は地域の会社さんとお母さんたちとのパイプの数を増やし、太くして、在宅でも在宅以外でも横須賀の地域で誰でもお仕事ができるようにしていきたいですね。

そして、この活動が、会社さんたちに障害者たちの働き方についての理解を深めてもらえる機会になり、最終目標として、障害のある方たちの新しい働き方のひとつになっていけばいいなと希望として考えています。

 

■わが子の成長に間に合わなければ意味がない

五本木さんの娘さんの成長よりも早く事業を始めることが求められている

-sukasuka-ippoの最初の事業は横須賀テレワークでしたが、その次にされたことはどんなことですか?

五本木さん:次は、2018年4月から始めたインクルーシブ学童「sukasuka-kids」です。この事業を始めたきっかけは、障害児の子をもつ親御さんたちが日常的に差別や偏見を受けていることが現実問題としてあるからです。
※インクルーシブ学童とは、「障害や年齢に関係なく混ざり合っている」学童のこと。

たとえば自分の子どもがスーパーで騒いだとしても、障害児の子育てをしている親御さんたちは障害の特性をわかっていますから、正しいアプローチの方法で対応するのですが、その特性やアプローチの方法がわからない方からは、なぜ注意しないの?とか、親のしつけがなっていない、という見方をされてしまいます。

これは、わからないから理解できないのだと一部しかたないことだと思っていて、じゃあどうすれば理解が深まるかと考えたときに、小さいころから障害児と健常児がいっしょに過ごせる時間をたくさん作ることができれば、子どもたちもそれにかかわるおとなたちも理解が深まるのではないかと思いました。

時間はかかるかもしれないですけど、そうやって育った子どもたちがきちんと理解しておとなになっていってほしい、という思いで作ったのが、sukasuka-kidsです。

横須賀市久里浜の商店街の中にある、インクルーシブ学童「sukasuka-kids」

sukasuka-kidsの外観

-2021年4月に4年目を迎えられますが、sukasuka-kidsの特徴はどういうところですか?

五本木さん:お母さんたちが働くために子どもを預けることが第1前提にあるのですが、ほかの学童とは違い育ち合いの場にもなっているのが大きな特徴です。

そのなかで、支援を必要とする子どもと健常児と言われる子どもたちとの間で言葉ではないコミュニケーションが生まれるところです。

やっぱり最初は思いが通じないと違和感を感じることもあるんですけど、いっしょに過ごす時間が増えてくると、相手は今何を考えているんだろうか、何がしたいんだろうかと考えてから、じゃあどのようにコミュニケーションを取るべきか、と経験を積むことができます。

-コミュニケーションの取り方って、おとなになるにつれてとくに重要な要素になってきますよね。

五本木さん:そうだと思います。しかし、すべてがうまくいくわけではないので、トラブルが起きてしまうこともあります。

トラブルが起きたとき、私たちは、互いにひとりの人間としてどうだったのか?とある程度平等に状況を整理したうえで子どもたちの仲裁に入ります。これは親御さんたちから事前に理解をいただいています。

-ただ、預けるではなく、互いに成長する場として活用することができるんですね!
五本木さんは、毎年のように新しい事業を作られていますよね。そのスピード感にも驚かされました!

五本木さん:sukasuka-ippoの特徴としては、社会課題や困ったことを解決する策を事業化して取り組んでいます。スピード感というところでは、わが子の成長に間に合わなければ意味がないので、このスピード感になっています。

だから、子どもの成長に合わせて、こういうのがあったらいいな、とか、今後こういう場所が必要になりそうだと思うことをやっていますので、事業としてはやりやすいですよね。

-とはいってもかなり大変なことだと思います!

五本木さん:2019年6月には、保育所(sukasuka-nusery)と美容室(HAIR SALON SARAH)を作りました。保育所に関しては、急遽今預かってほしいとなったときに一時預かりの対応をしてもらえるところがあれば助かるし、美容室は、障害をもつ方のカットはご自宅でお母さんがしていることが多いので、安心して連れてこられる美容室があったらいいなということで作りました。

美容室は、私の妹に任せているのですが、彼女は18年間スタイリストをしていましたし、私の娘のカットもしてくれていましたから、お気軽に相談していただければと思います。

-スタイリストとしての経験も充分にあり、障害に対する理解もおもちなので、安心して美容室に連れてくることができますね!

五本木さん:そうですね。最初はHAIR SALON SARAHで慣れて、ゆくゆくは地域の美容室に行けるようになるのが理想です。

そして、現在sukasuka-nuseryはHAIR SALON SARAHの2階にありますが、今年の4月1日から場所を駅前に移し、横須賀市初の公的な単独の一時預かり事業所として運営していきます。

移転にともないスペースが広くなりますので、定員を19名から25名に増やし、待機児童の受け入れもできるようになります。

-一時預かりは、どうしてものときの最終手段のように感じるのですが、もっと気楽に利用してもいいものなのでしょうか?

五本木さん:もちろんです!sukasuka-nuseryのような場所は、お母さんのためがいちばんなんです!

病院などの特別なとき以外でも、お母さんたちが美容室に行ったり、お友達とランチに行ったりしてリフレッシュするために利用していただいてもまったく問題ありません。

子どもは自分で育てることが当然なんだと思い込んでしまって、どこにも預けられず無理をしてしまうことがよくあります。

それだとお母さんがもちません。子育てに一杯いっぱいになったときは預けて自分の時間を作るということは悪いことではないですし、預けられる場所があることが私はとても重要だと思います。

-ご家族のサポートももちろん必要だと思いますが、そういった施設に預けてみることもひとつの手段としてもっておくことが重要なんですね。

 

■感謝の気持ちを忘れない

取材当日もたくさんの子どもたちがsukasuka-nuseryにきていました

-取材前、ホームページを拝見したときに毎年新しいことにチャレンジされていて、どうしてこんなスピードでできるんだろうと不思議に思っていましたが、お話をお聞きして納得できました!今後も、お子さまの成長に合わせて必要だと思うことを考えて、この先のビジョンを描かれているのだろうと思うのですが、次に考えていらっしゃることはどんなことですか?

五本木さん:まず、2020年4月から始めた中学生のための放課後学習支援事業「Learning support」を今sukasuka-nusaryがある場所に移転し、拡大していくことを考えています。

-事業の数が本当に多いですね!

五本木さん:自分たちの子どもが必要になることを作っていくので、どんどん増えていきますね(笑)。

そして、今年の4月から保育士の資格と発達障害の資格をもっている支援のプロと協力して新しく始める事業があります。

最終的には「働く」そして「住む」までを作ることが目標なので、そこに向けて自分たちが困っている社会問題を解決するために事業を行っています。

2年後くらいには、医療ケアが必要な子どもたちが放課後に過ごせる場所を作ろうと考えています。

-それはどのような問題があって始めようと思ったのですか?

五本木さん:医療ケアが必要な子どもたちの入浴問題ですね。訪問入浴は介護保険適用のものなので、18歳未満の方は利用できないんです。なので、18歳未満の小、中学生の子どもたちがお風呂を済まして帰れる放課後の居場所があればいいなと思って、じゃあ作ろうと!

私の偏見かもしれないですが、子どもとのお風呂の時間はとてもいい時間だと思うので、それが辛い時間だと感じるものになってほしくないのです。

子どものお風呂をお母さんと私たちで手分けすることで、お母さんの負担も減らせますし、今までお風呂に充てていた時間をほかの家族の時間に使えますので、これを事業化したいと考えています。

-では最後に、これまで活動を続けてきて気づいたことやよかったなと思うことを教えてください。

五本木さん:私の娘の成長過程を見てきているママたちが私の思いに共感して手伝ってくれていて、こういう世の中になってほしいという思いだけで終わらせずに形にできているのは共通理解をもって働いてくれているみんながいるからなんだと気づきました。みんなへの感謝の気持ちを絶対に忘れてはいけないと思いながら毎日過ごしています。

一般社団法人sukasuka-ippoがかかげている基本理念

sukasuka-ippoの基本理念
「わたしのまちでいきる」

そして自分の娘にも感謝しています。娘が生まれてきてくれたおかげで私は残りの人生をかけてなんとかしたいと思えることを作ってもらえたし、娘のためにと始めたことがほかの人たちにもプラスになって助かったと言ってもらえるようになったので、娘にも本当に感謝しています。

-感動しました。これからも娘さんや必要としている方々のためにがんばってください!今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

五本木さんが、自分の子どもが必要とすることは、この世の中にも必要だと考え、事業化していったことで助けられた方々は多いと思います。

思いを思いのままで終わらせず形にしていくためには、かなりの労力が必要だと思いますが、五本木さんの思いに共感しているメンバーがいれば、どんな困難にも打ち勝っていくだろうと確信しています。

五本木さんの活動がひとつの成功事例になり、ほかの地域でも広がっていけば助けられる方は増えるでしょうし、五本木さんも横に広げていくことを望んでおられました。

sukasuka-ippoの活動が気になる方は、ホームページをぜひチェックしてみてください!

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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