輝く女性インタビュー
- 【前編】「不登校は不幸じゃない!」不登校の子どもが生きていく力をつける教育の場 イデアエデュケーションを創業し、地域とのかかわりの場を生み出した矢野梢さんのインタビュー
不登校というと、うまく集団になじめなかった困った子というイメージをもってしまいがち。また、自分の子どもは不登校にならないかと不安をもつ保護者は多いようです。しかし、矢野さんは「不登校は不幸ではない」と言い切ります。矢野さんは不登校支援の専門家。海老名・座間・大和市で、不登校の子どもとその家族のサポートを行うIDEA education(以下、イデアエデュケーション)を創業した女性起業家です。
今日は矢野さんに、なぜ不登校が不幸ではないのかという理由をはじめ、近年問題となっている不登校の現状やその対策、更に、3児の母(お子様6歳男の子、5歳男の子、3か月男の子)である矢野さんが、なぜ不登校支援に乗り出したのかについてもうかがってきました。
聞き手:たいせつじかん編集部
イデアエデュケーションの矢野梢さん
■ひとめぼれした学校。そこは、不登校経験者が通う高校だった。
―矢野さんは、中高社会科教諭の資格をおもちで、出産前まで不登校だった生徒が多く進学する高校で教鞭をとられていましたが、不登校の生徒への支援はいつごろ関心をもたれたのですか?
矢野さん:大学の4年生の夏です。じつはそれまで、教員にはなりたかったのですが、不登校というキーワードは頭の中にまったくありませんでした。しかし、教員採用試験に落ちてしまい、どうしよう・・・と思っていたところ、先輩の勧めで大学にあった心の教育実践センターという研究機関のインターンシップに参加することになったのです。その機関は、企業や学校での体験学習を通して学びを提供するというところなのですが、その夏にたまたま、わたしがのちに就職する高校からプログラムを依頼されていて、インターンシップのスタッフとしてその学校へいったことがきっかけとなりました。
そこで初めて、その学校が不登校だった子たちが通ってくるところだということを知ったのですが、学校に入った瞬間に、ひとめぼれというか、「これだ! 」と思ったのです。
―どんなことにひとめぼれされたのでしょう?
矢野さん:人同士のかかわり方から生まれる学校の雰囲気にひとめぼれしたのだと思います。
その学校は、今までわたしが知っていた学校とは違っていました。
これまでの学校には1対多というイメージがありましたが、その学校は、先生とひとり、また、一人ひとりが人間としてつながっているということがとてもよく見えました。先生と生徒というより、人と人、大人と子どもなど、人間的な関係性があるのだと強く感じました。
―高校でのお仕事はとてもやりがいを感じていたとうかがいましたが、どのような部分で、やりがいを感じていらっしゃったのですか?
矢野さん:いろんな場面があるのですが、共通して言えるのは、かかわりの中で生徒と心が通じたと感じた時ですね。また、勉強や活動を通してその子が輝いた時、自信をもった時、うれしい気もちをもった時、成長を感じた時はとてもやりがいを感じました。
―普通の学校とは違ったかかわりがあったということでしょうか?
矢野さん:そうですね。
普通の学校だと授業やホームルームだけのかかわりとなりがちですが、ここでは日常の中でずっと誰かとかかわっている感じでした。
この学校は職員室がとてもオープンで、休み時間や放課後は、わたしが職員室に帰ると、すでに私の席に誰かがいたりして。そして、「じゃあ、ちょっとこっちに座りなよ」なんていってなんでもない話が始まったり、そうしているうちにわたしの授業の準備を手伝ってくれていたり。
行事も多くて、職員サイドで考えて企画するもあれば、生徒といっしょに考えて作っていくものもたくさんありました。
キャンプがとても思い出深いのですが、当日のプログラムなどもその場の流れを尊重して、生徒がこれをやりたいと言えばそれをやり、トラブルが起きたらみんなで考えて解決してという感じで、イベントの予定を消化することよりも、その中で起こる経験を大切にしていて、そこに成長を期待していたと思います。
―そんなお仕事も、出産を契機に退職され、一旦専業主婦になり、2013年IDEA education を立ち上げられました。このきっかけは何だったのでしょう?
矢野さん:専業主婦は1年も満たない期間でしたが、わたしには刺激が少なく、持て余してつらい時間でした。何かをしていたい、人とかかわっていたいという性分なのだと思います。だからといって一人目の子どもで余裕もなかったので、ハンドメイドのものを作って売るということを始めてみたのですが、これが社会とのつながりができたという実感があってとてもうれしかったのです。
その後、もう少し大きなイベントに出店してみようかという話になって悩んでいた時に、やるならもう少し勉強した方がいいかな・・・と思い、市が主催している創業塾に通ってみることにしたのです。長男が7カ月月くらいの時ですね。これがとても楽しくて、やっぱりせっかくやるなら、いつかはやろうと思っていた不登校の生徒を支援する事業を創業することに決めました。
矢野さんご実家を使った、アットホームな西鶴間教室。ここでお母さんのカウンセリングをしたり、お子さんに勉強を教えたりしています。
―「不登校の子どもたちへの期待」が起業の後押しをしたともうかがいましたが、この期待とはどんなものだったのでしょう?
矢野:教員をやめたあとも卒業した子たちとは連絡をとっていて、その子たちの存在もありました。また、その中には卒業後うまくいっていない子たちもいて、自分たちが学校でしてきたことの責任も感じました。学校という環境だけではやりきれていない、足りないものもある。それは何かを考え、作っていく責任も感じていました。
■不登校に至る根本原因は3つに分類される!!
―平成17年小中学生の不登校者数が13万人を超え、過去最多を更新しました。不登校の生徒が増え続ける背景にどんなことがあると考えますか?
矢野さん:まず、不登校児童生徒数というのは、文部科学省が規定している欠席理由や年間30日以上の欠席日数があることなどの条件に一致した子どもたちの数のことです。しかし、じつは学校に来れているけれども教室に入れない子どもたちもいて、数字だけでは見えない部分もあると思っています。
わたしは以前、大和市の公立の中学校で、学校に来たけどクラスに入れない子たちと過ごす不登校支援員や、海老名市での心の教室の相談員などを通して、公立の学校の中でさまざまな状況の子どもたちとじかに過ごしてきたことがあります。
この経験の中で、「これでは学校の中でこの子たちの居場所がないな・・・」、「公立の先生は、不登校支援のプロではないな」と感じることもありました。不登校になった子たちをどのようにすれば自立させられるのか、成長を支援できるかという点と、クラス経営や一斉授業を行っていくという点では専門性がまったく違います。その中で、学校の不登校生徒に対する対応に憤りを感じることもあったのですが、今考えると、クラス経営などは集団力学で動かさないといけないところがあり、思春期で、パワーが有り余っていて、ちょっと生意気で、いろんなことに繊細になってくる生徒たちを集団として動かしていくという、まったく異なる専門性であったのかと思っています。
しかし、やはり絶対に、そこに漏れてくる子はいるわけです。
でも、その子たちに対する支援の場や教育の場が圧倒的に足りていないという気がしています。
―上記とつながるお話かもしれませんが、矢野さんこれまで300人以上の不登校者と会った経験から、不登校になる根本的な原因にはどんなことがあると考えられますか?
矢野さん:わたしはその原因は3つに分類されると分析しています。
まず、ひとつめはとても明確でわかりやすいのですが、「学校教育では伸ばしきれない個性」の子が少数なのですがいます。1対多の授業や活動の中ではなく、個別の対応によって才能が伸ばせるというお子さんや、学校教育では分類されない特化した技能などを磨くことで輝いていく、いわゆる天才タイプのお子さんもそれにあたる場合があります。
もうひとつは、「家庭の不調和」が挙げられます。これは、親子関係だけでなく、夫婦関係、嫁姑関係や兄弟関係、親戚関係も含めて、家庭の中で不調和があると、不登校という形として現れてくることを感じています。
最後に「自己肯定感の低下」も影響していると感じます。
―自己肯定感とは自分を信じられる力であり、困難に立ち向かう時、自己肯定感が乗り越える力となるとよく言いますよね。しかし、この自己肯定感はどのように低下していくのでしょうか?そもそも、自己肯定感を育てるにはどうしたらいいのでしょうか?
矢野さん:自己肯定感の育ちは、家庭での小さいときからの親子のかかわりが影響していると感じます。
たとえば、小さな子を育てている最中は、うまくいかないことの連続ですよね。お母さんが思った通りにできない、時間通りにいかないことに対するイライラを「あんたがいるから! 」「早くしなさい! 」「なんでちゃんとできないの! 」など、子どものせいにする言葉を投げかけてしまうことがあります。お母さんにとっては、それほど責めているつもりはないのですが、うすいうすい毎日のネガティブな言葉の積み重ねから自己肯定感の低下が始まっていると思います。
また、お母さん自身の親子関係が影響している場合もあって、お母さんもそのお母さんから責められて育ってきた場合など、たとえばテストで90点をとっても、なぜあと10点とれなかったと、よいところよりマイナス面をみられてきたお母さんは、自分の子どもにも同じような評価をすることがあって、親子関係が連鎖していると感じることがよくありました。
逆に、自己肯定感を育てるには、感謝するということが大切かと思います。
子どもに感謝するというとしっくりこない方もいるかもしれませんが、その子がいるからこそ感じられる幸せや、学べること、得られる経験がありますよね。
最近、家族をチームとして考えることありますが、うまく生活を営んでいくためには、子どももチームの一員として尊重し、できる範囲で役割をしてもらって、やってくれたことをチームのために役立ってくれたという気持ちを込めて、感謝を伝えるとよいと思います。
やってくれてありがとう、いてくれてよかったと思えたら、そういうものの積み重ねが、絶対にその思いは子どもに伝わると思いますし、そういうことが自己肯定感として育ったり、子どもが自立したり、社会に出ていくときの力になるのだと思います。
―自己肯定感を育てるにはほめて育てるとよく聞きますが。
矢野さん:一方で、ほめて育てるというのも怪しさを感じていて。
ほめることと、しつけの中で叱らないということはまったく別物だと思います。
人間として親子の上下関係というものはきちんとあって、親がしつけとして教えなければならないところは叱ってでも教えて責任を果たす必要があります。
じつは、叱られたことがない子が、自己肯定感が育たなくて不登校になったというタイプの子もいます。
■不登校になりやすい子の傾向はある?!
―「学校で伸ばしきれない個性の子」などは、集団の型にあてはめられると苦しさを感じて不登校になってしまうのかしら・・・と想像できたりするのですが、逆に、集団ではうまくやっていけそうな子どもであっても、不登校になってしまう子がいるのなら、その子たちに何か傾向はあるのでしょうか?
矢野さん:子ども自身というより、親の傾向では言えることがあるかもしれません。
たとえば、その場その場の都合で言っていることを変えてしまうという親の傾向です。
小さい子の例でいうと、スーパーなどに行って子どもがおやつを買ってほしいということってありますよね。それに対して、最初は買わないと言っていたにもかかわらず、もっとごねたり大きな声で泣いたりしたら、仕方ないわね、今日だけよと最初言ったことを覆しておやつを買ってしまう。じつはこの行為が、親の都合で約束を破っているということになります。
この行為は、子どものことを人として尊重していない証拠で、じつは成長を阻んでいたり、子どもの不信感を育てているとも言えます。
最初に買わないと言ったら、どんなに手がかかろうが、時間がかかろうが買わない。それを繰り返していくと、この人は約束を守る人なんだ、自分が駄々をこねても甘えてもどうやったって動かないんだ、ということを子どもは理解していきます。このことの繰り返しを通して、子どもは自制心をはぐくんでいき、同時に親への信頼感も育っていきます。
「この人は言ったことは守るんだ」このように育った信頼感こそ、相談しづらいことを相談してみるという関係性に転化していくのです。
大きい子の例でいえば、1日1時間という約束のゲームを、親はもうちょっと静かにしていてほしいからといって、約束の時間が過ぎても、もうちょっといいよとさせてしまうという場面が挙げられます。
不登校の子たちは、ゲームから離れられない子が非常に多いです。
しかし、彼らの中で、ゲームが好きで好きで仕方がないという子はほとんどおらず、ほかにやることがない、現実逃避のためにやっているという子が大多数です。
このようにうすいものなのだけど毎日のかかわりが積み重なって、生活が立て直せなくなっていくということに通じているものがあるのではないのかなと思います。
■「学校へ行きたくない」サインが出た時、親がするべきことは?
―できれば不登校にならずに楽しく学校へ通ってほしいと思うのですが、親が気づける子どもたちの不登校の兆しなどはあるのでしょうか?
矢野さん:ひとそれぞれ全然違いますが、体調に表れるとはよくいわれています。
おなかが痛い、頭が痛い、朝起きられない、夜眠れない、など基本的な生活リズムやちょっとした体調を崩していったりします。
―親としては忙しくて、様子を見て大丈夫そうなら「行きな、行きな」と学校に行かせてしまいがちだと思いますが、こういう場合に子どもに対してかけてあげる言葉などはあるのでしょうか?
矢野:言葉というよりは、向き合ってあげるという行動を起こすことが大切かと思います。行為として一旦やっていることを止め、子どもが言っていることに対して聞いてあげてほしいと思います。「どんな風に痛いの?」「昨日から痛いの?」「なんか変なもの食べた?」などでもいいと思います。
不登校になりやすい子は人のことを考えられる子が多いので、「お母さん忙しいだろうな」と重々感じながらもがんばって言ってきています。だからそこで流されてしまうと、「ああ、だめだ・・・」と感じて蓋をしてしまい、それでもそのあとがんばってがんばって、プツッと切れてしまうのです。
訴えを聞いたあとには「また言ってね」と言ってあげてほしいと思います。また、朝不調を訴えていたのだけど学校に行った場合は、「今日どうだった?」と聞いてあげることも大切ですね。そうすると、体調のことだけでなく、ほかのことも何か話し始めるかもしれません。その時は、ごはんを作りながらでもいいと思いますよ。
―いずれにしても、わが子が不登校となれば多くの親がうろたえ、戸惑い悩んでしまいます。しかし、矢野さんは「不登校は不幸ではない」とおっしゃいます。それはなぜでしょうか?
矢野さん:不登校は不幸ではなくて、逆にチャンスが前倒しで来ていると思っています。人間が成長していく中で、壁にぶつかったり挫折したり、うまくいかないことは絶対ありますよね。それが早めの段階で表れたのです。
何かの原因があって不登校という形で表れているわけですが、その原因を根本的に解決しなければ、どんどんどんどん悪い方向へ進み、それこそ不幸になったり、取り返しのつかない方向に行ってしまうかもしれません。不登校という表れによって、ちょうどその分岐点に気付けたということなので、これはチャンスといえます。
逆に、ここでその原因にきちんと向き合わないと、それこそ大人になってから、もしかしたら親がいなくなって独りで向き合わないといけないとすると、もっと辛く厳しい状況になるかもしれません。
それが早期に課題に気づき、学生時代に、しかも親とともに立ち向かえるというのは、親との絆を深めるチャンスでもありますし、自己肯定感を高めるチャンスにもなります。なおかつ、その作業を親子でいっしょにすると、その子どもが親になった時に子育てがうまくいくのではないかと思うのです。子どもだけではなく、会社の後輩に対しても、サポートや指導がうまくできるようになると思いますし、人生のヒダが深くなる経験だなと思うのです。
―矢野さんは「不登校の正しい認識」も提唱されていますが、この正しい認識とはどういったものでしょうか?
矢野さん:不登校の正しい認識とは、不登校は不幸ではない、そして、不登校はその子にあった教育の機会や環境を考えるチャンスであるということです。
逆に、不登校になってわが子は不幸になったと、親が思うことがいちばん不幸だといえます。その子のことをかわいそうに思ったりすることは、いちばんマイナスになるので絶対にやめてもらいたいです。
わが子は必ずこの困難を乗り越えると信じてあげることが、その子の自己肯定感を高め自立への自信を与えてくれます。
しかし親は、周りからどう見られるだろう、親戚からどういわれるだろう、しつけがなっていないと言われるかもしれないと不安にかられ、家族だけで信じ切るのは難しいことですので、同じ考え方の私たちをぜひ頼ってもらいたいと思います。
親が独りで信じようとすると難しいですが、大勢になるほど信じやすくなっていくと思います。頼ってもらいたいし、頼るべきことだと思います。
編集部のひと言
前編では、近年問題となっている不登校の現状とともに、矢野さんが提唱する「不登校の正しい認識」についてうかがい、驚きと共感が押し寄せてきました。
後編では、この不登校という問題に対してどのような取りくみを行っておられるのか、矢野さんが代表を務めるイデアエデュケーションの具体的なサポートについてインタビューを行います。
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。 |
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