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輝く男性インタビュー

家業を受け継いだことで1,300年以上の歴史をもつ味噌造りのすばらしさに気づく。創業170年を迎えた加藤兵太郎商店の7代目 加藤篤(かとうあつし)さんインタビュー

加藤兵太郎商店の7代目加藤篤さん

精米業で創業し、歴史を歩むなかで味噌醸造業に業態転換をした加藤兵太郎商店は今年で創業170年を迎えました。

そして、現在加藤兵太郎商店の7代目となる加藤篤さんは「昔ながらの味噌」にこだわりをもって、日々味噌造りに励んでおられます。

家業を継ぐことに対して否定的だった加藤さんは、さまざまな思いから現在は加藤兵太郎商店や味噌業界をリードする存在となりました。

日常的にある味噌がこんなにすばらしいものだったんだと感心させられるインタビューです。ぜひお楽しみください。

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■170年も続く家業を継ぐこと

小田原市扇町に店舗を構える加藤兵太郎商店

-味噌造りとはどういうものなのかいろいろお話をおうかがいできればと思うのですが、まずはじめに、加藤兵太郎商店さんの歴史から教えてください!

加藤さん:もともとは精米業を生業として、今からちょうど170年前に創業しました。当時は、この辺りがすべて田んぼで近くには酒匂川という大きな川が流れているので、その川を水源として精米業をしているところが多かったそうです。

-創業は精米業だったんですか。

加藤さん:そうなんです。そして、2代目から3代目にかけて精米業から味噌醸造業に業態を変えていき、それが今の形になっています。

3代目の名前が兵太郎というので、その名前にちなんで4代目が加藤兵太郎商店を設立しました。

昔はこうじ屋さんと言うと花形だったようなので、精米業者がこうじ作りを始めることは少なくなかったようです。

それで、2代目が第1号の弟子として隣町の鴨宮へこうじ作りの修行に行き、3代目が今の形にしていきました。修行先で「いいち」という名前をもらったので、うちでは「いいちみそ」という言い方をしています。

井桁の中に「一」と記したものがブランドマークとなっている

-それが「いいちみそ」の始まりだったんですね!現在、県内で味噌造りをしているところはどのくらいあるのですか?

加藤さん:味噌組合に登録しているお店は県内に3軒あります。ただ、組合に登録していないお店は、パッと思いつくだけでも数軒思い浮かぶので、もう少しあると思います。

-そうなんですね。ちなみに全国で比較したときに、神奈川県は多い方なのですか?

加藤さん:少ないと思います。というのも、神奈川県と埼玉県は2県でひとつの組合で、それ以外はすべて独立した組合をもっているんです。

-へぇ〜知らなかったな〜。加藤さんは、この加藤兵太郎商店の何代目にあたるのですか?

加藤さん:私で7代目になります。

-小さいころから長い歴史をもつ家業を見てきて、その家業を継ぐことに対して特別な思いをもっていたり、プレッシャー感じたりすることはありませんでしたか?

加藤さん:プレッシャーを感じていたというよりは、家業を継ぎたくないという思いがありましたね(笑)。

-えっ、そうなんですか!?それはなぜですか?

加藤さん:当時は家業に対してまったく価値を感じていなかったですし、これだけ近くで見ていても興味がわかなかったんですよね。

当時の思いを振り返る加藤さん

けれど、周りから「継ぐでしょ?」と言われ続けていて、それが本当に重荷でしかないなと思っていました。

-それは「味噌造り」に対して感じていた思いなのですか?

加藤さん:ん〜、そもそも味噌自体好きじゃなかったですし、家業だからこそ親が苦労をしているシーンをよく目にすることがあって、自分の将来を想像するとおとなになりたくないと思っていたんです。

高校生くらいから将来について意識し始めましたが、親も継ぐことを望んでいなかったので、私も継がないつもりで人生を歩んでいました。

だから、私は家業を継ぐ前に7年ほどサラリーマンを経験しているんです。それも味噌造りにはまったく関係のないシステムエンジニアでした。

-想像していたお話とまったく違う展開になりました。けれど、そんな思いがありながら、なぜ家業を継ぐことを決心されたのですか?

加藤さん:ひとつは、おとなになるにつれて今まで感じなかった家業の希少性を感じるようになったこと。そしてもうひとつが、自分以外が望んでいることを自分だけが拒み続けているという現実が辛くなったことです。

とにかくいろんな複雑な気持ちがあって最終的には継ぐことを決断しました。ただただ、わがままを言っているんだなと思ったことが強かったですね。

 

■1,300年の歴史をもつ味噌造り

-加藤さんは、家業を継がれて何年になるのですか?

加藤さん:今年で6年になります。

-もうすぐサラリーマン時代を越えるんですね(笑)。では、家業を継がれて今まで見てきたもの以上に見えるものがあったと思うのですが、まず昔と現代の味噌造りで大きく違うところを教えてください!

加藤さん:昔と比べると現代はかなり効率的で、莫大な量を上手に造っているということが大きな違いですね。

それが悪いことだとはまったく思っていなくて、技術の進歩によりオートメーションが進んで味噌造りをしているのが現代なんですね。

うちでも機械は入れていますが、それは人の手によって動かされているもので、すべて力仕事です。発酵熟成をさせる容器に関しては昔ながらの木桶を使っていますし、そこは現代とはまったく違う部分です。

昔ながらの木桶を使って発酵熟成させている

-周りでは効率的な製法が進んでいくなかで、「うちも効率的にしていこうか」というお話はなかったのですか?

加藤さん:ところどころそういう思いを感じられる機械の入れ方をしているので、おそらくそういう話もあったんだと思います。なんでも効率化を求められる時代だったでしょうから。

けれど、今は物づくりの背景にも価値を感じてもらえる時代に変わってきているので、今は明確にこの製法を残していこうと思っています。

どちらの製法が正しいとかではなく私たちは選択肢を用意しているだけで、消費者はそれぞれ好みのものを選べばいいんです。それに、効率的なものがあるからこそ違いが生まれて、その違いに価値を感じてくださる人がいるわけです。

-確かに!味噌であることに変わりはないですし、選択の自由があっていいですもんね。

加藤さん:そうだと思います。

そして、これは味噌特有の魅力だな〜と思うことがあるんですが、味噌は地域によって食べる味噌が全然違う多様性のある食材だということです。ここまで細分化されている食材は世の中にほとんどないと思います。

-そうなんですね〜。赤味噌や白味噌など地域によって違いがあると思うんですが、この辺りの地域は何味噌が主流なんですか?

加藤さん:じつは、これというものがないんです。関東という土地柄、さまざまな地域の方がいらっしゃいますし、それが理由なのかはわからないですが万人受けするような味噌が好まれやすい印象です。

そういう万人受けする味噌というのは、さっぱりしていてくせがない信州味噌なんですよね。

加藤兵太郎商店の「いいちのスタンダード白みそ」

-味噌って土地柄を表す食材なんですね、おもしろい!先ほどの味噌が好きではなかったお話が嘘のようなんですが、実際に味噌造りに携わってみて当時感じていたイメージに変化はありましたか?

加藤さん:かなりありましたね。今はとにかく昔の造り方を守ることに重きを置いているのですが、当時は変えなきゃいけないという危機感が強くて、実際に造り方を変えようと試してみたんです。

いろいろ試した結果、わかったことは変えるところがないということでした。

味噌造りには1,300年もの歴史があり、その長い歴史のなかでたくさんの試行錯誤が行われていて、江戸時代くらいにはすでにひとつの答えができあがっているんです。

そこに5〜6年の経験で覆せるようなものはいっさい残っていないんです。どれだけ実験を繰り返してもおいしくならないし、効率化はできても味噌造りの改善ができない。そこで初めて、これを守っていくことに価値があるんじゃないかと気づいたんです。

味噌の造り方は改善すべきことがないところまできている。日常に当たり前にあるものがそんなに価値があるものだと誰も知らないし、興味すらわかない。

これは本当にもったいないことだし、私たちがもっと発信していくことが必要なんだと思いました。私も家業を継いだことでやっとその価値を知ることができましたね。

 

■味噌って腐らないの!?

味噌は健康にも良い食材のひとつ

-味噌の造り方はすでにでき上がっているとおっしゃっていましたが、その工程を教えてください!

加藤さん:味噌造りはとてもシンプルで、大まかに言うと塩、こうじ、大豆の3つの材料を混ぜて容器で寝かせるだけです。

-たったそれだけなんですか?

加藤さん:そうなんです。シンプルがゆえに変えるところがないんです。

ただ、その工程のなかで、それぞれの配合やこうじの種類を変えたりだとか、大豆の処理方法を変えることで、それぞれのオリジナル味噌ができあがります。

-なるほど〜、工程自体は大きく変わらず、そのなかでいろんな工夫をされているんですね。加藤さんの味噌造りへのこだわりはどんなところですか?

加藤さん:先ほども言いましたが、大前提は昔から伝わっている造り方を守っていくことなんですが、じつは現代は甘い味噌に向かっているんです。

昔に比べて世の中全体で甘いものが出回るようになったので、私たちも甘いものが好きな口になってきているんです。なので、たとえば米こうじを多めに入れて塩分濃度を減らすなどして造る甘い味噌が好まれるようになってきているのが現代なんですね。

「昔ながらの味噌」というのは、大豆をたっぷり使って大豆由来の栄養素がたくさん含まれるうまみが強いよく寝かせた味噌なので、私たちは大豆比率の高いよく寝かせた「昔ながらの味噌」造りにこだわりをもって造っています。というか、私自身がその昔ながらの味噌に魅力を感じているのかもしれません。研究から健康効果も高いと言われていますからね。

-ほかにも味噌ってこんなにすごいんだよエピソードってありますか?

加藤さん:あぁ〜、味噌って絶対に腐らないことですかね。

-味噌って腐らないんですか?

加藤さん:そうなんです、塩分濃度が変わらないかぎり味噌自体は腐らないですね。けれど、京都で親しまれている西京味噌は長く保存できないんです。

なので、関東のスーパーにはあまり置いていなくて、市場に出回っているのは水あめなどが添加された保存性の高い白味噌なんです。京都の専門店とかでは、純粋な白味噌(西京味噌)が販売されています。

-それも塩分濃度に関係があるのですか?

加藤さん:そうです!味噌の塩分濃度は基本的に12%前後とされていて、この濃度が雑菌を寄せつけず、かつ酵母菌は働けるという境界線なんですね。

それに比べて西京味噌は塩分濃度を5%以下くらいまで落としているので、時間が経てば腐ってしまうんです。

-ちょっと待ってくだい!この塩分濃度12%というのは昔ながらの味噌もそうだったんですよね?

加藤さん:そうですね。この塩分濃度12%というのは技術も機械も何もなかったであろう時代から発見されていますので。

-衝撃的すぎて言葉が出ません、感心しました。では、昔の人は何か保存ができる食材を作りたいなと思っていたってことですか?

加藤さん:おそらくそうだと思います。昔の人は基本的に食材を保存食として意識していたようなので。これくらい塩を入れたら保存できるんじゃないか、みたいな感じでおいしくできあがったものが味噌に繋がったんじゃないかなと思います。それがだいたい12%前後になっていた。

-なるほど〜。造り方はとてもシンプルだけど、すごく計算されている気がします。では最後に、これから先に考えられている取り組みや伝えたいメッセージがあれば教えてください。

加藤さん:味噌業界全体の問題として現状使用量が減ってきているので、それに合わせたパッケージが必要だなと思っています。

なので、うちでは200gでパッケージされている市場にはあまり出回りにくいタイプの味噌を提供できるようにしています。

パッケージの少量化をしている

あとは、一般消費者に向けて研究でわかっている情報を発信していくことと、やっぱり若者たちに興味をもってもらえるように作ることがこの先重要だと思うので、これらをやっていければなと思っています。

そしてこれは味噌屋の意見ではなく、私の客観的な意見として、味噌は健康に良かったり保存性が高かったりするすぐれた食材なので、もっと気軽にどんどん取り入れてもらえればうれしいですね。

-わかりました!これからも味噌業界の発展に向けてがんばってください!今日はありがとうございました。

 

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

自分でも異例のパターンで家業を継いだとおっしゃっていた加藤さんですが、遠回りをしたからこそ家業のすばらしさに気づき、お話をお聞きしていると今では心の底から家業や味噌業界に対して熱心に向き合っておられます。

そして加藤さんのお話から、とにかく私たちの味噌を食べてほしい!という思いではなく、味噌そのものの価値を知ってもらい、そして全国各地にあるさまざまな背景をもった味噌のなかから好みのものを自由に選んで日常に取り入れてほしいという味噌業界全体の発展を願う思いが強いのではないかと感じました。

近くに来られた際はぜひ足を運んでみてください!

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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