輝く女性インタビュー
- 目が見えにくい方が盲導犬とともに生活することで、安全で快適な歩行を実現させる! 公益財団法人 日本盲導犬協会神奈川訓練センターの副センター長 福田 佳代(ふくだかよ)さんインタビュー
神奈川訓練センター 副センター長の福田佳代さん
テレビで盲導犬の訓練士と盲導犬の仕事を見て興味をもち始めたのがきっかけで、盲導犬訓練士学校の1期生として入学した福田さん。
入学してから盲導犬のことやかかわっている方々のことを知れば知るほど、この活動に対しての思いが強くなり、人のために自分の力でやれることにやりがいを感じられました。
そして現在は、神奈川訓練センターの副センター長を務めながら、盲導犬訓練士、盲導犬歩行指導員として日々活動されています。
出会いと別れがある感動インタビューとなりました。ぜひ、お楽しみください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■9割が寄付で成立している組織
-はじめに盲導犬の訓練士になろうと思ったきっかけを教えてください。
福田さん:私は盲導犬の訓練士になる前に、大学を卒業後の3年間は一般企業で社会人として働いていました。
当時の仕事は職場環境や人間関係も良くやりがいもあったのですが、このままでいいのかな?と自問自答を繰り返していくようなります。
そんなときにたまたまテレビで盲導犬関連の特集番組をしていて、そこで初めて訓練士や盲導犬の仕事と盲導犬と目が見えにくい方(=以下、ユーザーさん)が共同作業をしている姿を見て、こういう世界もあるんだということを知り興味をもったことが始まりです。
-では、将来のことを悩んでいたタイミングで盲導犬のことを知り、これだ!と思ったわけですね?
福田さん:関心はもちましたが、絶対になりたい!という感覚は正直まだありませんでした。
しかし、盲導犬訓練士学校の1期生として入学し、訓練士学校の職員さんやボランティアスタッフの方、ユーザーさんと実際に接してみて、入学前よりも意欲が高まっていきましたね。
-テレビをとおして感じた思いを実際に見て肌で感じることによって、福田さんのなかで確かなものに変わっていったんですね。
福田さん:そうですね。それから盲導犬のことを学んでいくにつれて、すごくやりがいのあることだなって思いましたし、私も自分ができることで貢献したいと思いましたね。
-すばらしいです!訓練士学校を卒業されて、今は神奈川訓練センターでご活躍されていますが、この訓練センターはどういう機能をもっているのですか?
福田さん:盲導犬育成施設と訓練士学校が併設されている施設です。
訓練のほかに、子犬の繁殖をしたり、盲導犬を必要としている方や一般の方に盲導犬のことを知ってもらうための普及推進活動も実施したりしています。
-運営費はどのようにして集められているのですか?
福田さん:私たちは少し特殊な組織になっていて、必要な事業費の9割を寄付で支えていただき、たくさんのボランティアの方々のご協力もあって成り立っています。一般的に寄付やボランティアは資金や人員のプラスアルファになることが多いですが、私たちは寄付やボランティアがあることが前提として組み込まれた組織になっています。
-9割が寄付ですか!?何とかお手伝いをしたいという気持ちがここにもあふれているんですね!
福田さん:本当にありがたいです!私たちの活動は、たくさんの方の善意によって支えられているんです。このような寄付で成立している組織があることを知れたのも、この仕事をして良かったことのひとつです。
さらに、盲導犬を育成するにあたって、たとえば親犬を育ててくれている方、生後2カ月から1歳ごろまでのお世話をしてくれるパピーウォーカーさんがかかわってくださるのですが、その方たちもすべてボランティアなんです。
-なるほど!経済面では寄付があり、実務面ではたくさんのボランティアさんに支えられているんですね。
■たくさんの愛情を注ぐパピーウォーカーの存在
福田さんの足もとでリラックスしている訓練犬
-盲導犬になるまでの育成過程を教えていただきたいのですが、まず神奈川訓練センターでは子犬の繁殖も行っているとおっしゃっていましたよね?それはどういうことなんですか?
福田さん:どのような犬でも盲導犬になれるというわけではありません。健康状態や性格などのさまざまな観点から評価して、基準を満たした犬だけが盲導犬になることができます。
ですので、盲導犬になるための素質をもっている親犬を選んで、繁殖の段階から盲導犬として育成するための準備をしています。
-生まれてからの訓練だけではなくて、生まれる前から盲導犬になるための準備が始まっているんですね!盲導犬に向いている犬種はあるのでしょうか?
福田さん:盲導犬はユーザーさんに寄り添って行動をしますし、盲導犬自身がどういう動きをしているのかがユーザーさんにとってはとても大切な情報です。
また家の中でくらす、公共交通機関を利用するなどを考え適宜なサイズはありますね。
-日本の盲導犬といえばゴールデンレトリバーやラブラドールレトリバーのイメージが強く、街で見かけることが多いように思います。
福田さん:そうですね。からだの大きさや、その見た目の親しみやすさから選ばれているということもあります。ただ、人間と犬が共同生活をしていくわけなので、重要なことは人間といっしょに何かをすることが楽しいと思えるような性格なんです。
その点、レトリバーは人懐っこい性格ですし盲導犬に向いている犬種ですので、日本ではメジャーになっていると思います。
-なるほど!それでは盲導犬としてひとり立ちをしていくまでのおおまかな育成過程を教えてください。
福田さん:産後約2カ月間は母犬のもとで生活します。すぐに親元から離れるということはしません。
そのあとは、パピーウォーカー家族のもとで約10カ月間を過ごします。電車や車の音、雨や雷、人混みなど人間と生活していくなかで起こるさまざまな経験させます。
そして、この10カ月間で、家族みんなでたくさんの愛情を注いでもらって、人間と生活する喜びを経験していきます。
-パピーウォーカーはとても大切な役割ですよね!パピーウォーカーになるには何か条件があるのですか?
福田さん:留守がちでないことや犬の2頭飼いはできないなど、いくつか条件があります。そのほかには日本盲導犬協会では月に1度パピーウォーカーのレクチャー会を実施しているので、そこに参加することが条件として含まれています。
また、あまりにも遠方に住まれている方だとこちらに通うことがむずかしく、私たちのフォローも行き届かなくなってしまうのである程度近隣地域に住まれている希望者にしぼられています。
-そうすると、もし全国にパピーウォーカーになりたい希望者がたくさんいたとしても、そもそも条件面でなれない方がいるということですよね。
福田さん:そうですね、残念ですが条件面でお断りすることもあります。
-あとパピーウォーカー家族の役目を聞いていて気になったことが、生後2カ月ごろから1歳になるまでの間のお世話をするわけで、その時期って子犬としてめちゃくちゃかわいい時期じゃないですか。このままペットとして飼いたいと思う感情ってもたれないんですか?
福田さん:正直、そう思われている方はいらっしゃると思いますし、実際にお別れのときに涙を流される方もいます。私たちもそのお気持ちは充分理解できますが、申し込みの段階で盲導犬になることを前提として育てていただきますので、そこはご理解のうえ将来盲導犬として活躍することを応援してもらえることがほとんどです。
でも、そこにやりがいを感じて、2頭目、3頭目と育ててくれる方もいますし、なかには10頭以上お世話をしてくださっているご家族もいます。
-時間がたつにつれて親心みたいなものは芽生えてきちゃいますよね。でも、その気持ちをグッとこらえて応援してくださるパピーウォーカーさんの存在はとても大きいんですね。
福田さん:おっしゃるとおりで、パピーウォーカーさんの経験やスキルはとても貴重です。盲導犬はペットではないので、一般で飼われているペットと同じ育て方はできないし、とても大事な仕事です。
-パピーウォーカーにお願いすることで、いちばん大切なことはどういうことですか?
福田さん:まずは犬が人間といっしょにいることが楽しい、うれしい、と感じること。それに加えて私たちは犬に対して褒めるときにグッド!という言葉を使うのですが、グッドというのが、犬にとってうれしいものになるようにかかわってもらうことです。
-人といると楽しい、人が大好きになるようにすることが大切なんですね!
■盲導犬からの情報と自分で得た情報で判断する
-それでは、パピーウォーカーさんのもとでの生活が終わったあとの過程を教えてください。
福田さん:パピーウォーカー家族のもとでの生活が終わると施設に戻って、約1年間私たちのもとで犬の性格や学習に合わせて、訓練を行なっていきます。
作業や適性、健康状態など総合的に評価して基準をクリアすることができれば、そこでやっと盲導犬候補となれます。
-これでもまだ盲導犬候補なんですね。訓練を受けたからといってすべてが盲導犬候補になれるというわけではないんですよね?
福田さん:訓練をしながら適性を見て判断していきますが、当然盲導犬に向いていない子もいますので、私たちは無理に盲導犬にならせるようなことはしません。
盲導犬になることが犬のストレスになってしまうことは私たちも望んでいませんし、逆を言えば盲導犬になっている犬はそれを楽しいと感じている犬たちだということです。
-なるほど、犬の適性を最後まで確認するんですね。では、盲導犬候補になってからの過程を教えてください。
福田さん:盲導犬候補となってからは、実際に盲導犬を必要としているユーザーさんとマッチングをして、共同訓練をしていきます。
訓練センターやユーザーの居住地域で共同訓練を行い、安全に歩行できる、生活できることを確認できて、初めて盲導犬として認定されます。
-盲導犬と認定されるまでにたくさんの段階を踏んでいるわけなんですね。施設での訓練ではおもにどのようなことをするのですか?
福田さん:私たちの協会ではおもにドッグエデュケーション(=以下、DE)やハーネスをつけた歩行訓練をしていきます。
DEでは、「褒められ方」を犬に教えていきます。人が言っていることを聞いて理解できるようになるために、シット(座れ)、ダウン(伏せ)、カム(来い)などの20以上ある指示語を教えて、犬自身がとった行動に対して「グッド」という言葉で褒める。グッドと言ってもらえることがうれしいことを認識させていきます。
同じように歩行のなかでも、褒められ方を学んで、「歩くことが楽しい」と教えていきます。
-盲導犬にとって、褒められることが最大の喜びでそれがモチベーションになっているんですね!
福田さん:そうですね。たとえば、最初は段差があったとしても犬にとって止まる理由はないので止まらない。でも、止まると褒められた、止まるといいことがあるという学習をすれば、理由ができて犬はそこで止まるようになるんです。
階段の1段目は1時停止
そうやって私たちは盲導犬としての作業を教えるために、さまざまなシチュエーションを作って、人が求める行動ができれば褒めるを繰り返していきます。
より実践的になっていくと、類似した状況でも同じような行動がとれるように訓練していきます。
-なるほど!では、盲導犬候補になってからはいよいよユーザーさんとのマッチングですね?
福田さん:そうですね。盲導犬候補となってからは実際に盲導犬を必要としているユーザーさんとマッチングをして、共同訓練をしていきます。
訓練センターやユーザーの居住地域で共同訓練を行い、安全に歩行できる、生活できることを確認できて、初めて盲導犬として認定されます。
共同訓練は盲導犬にもユーザーさんにもお互いのことを知ってもらう期間で、作業ももちろんですし、犬との生活を学んでいきます。
基本的に、ユーザーさんが盲導犬をもつパターンはふたつあって、ひとつは初めてもつパターン、もうひとつは代替えのパターンです。
-代替えというのは、既存の盲導犬から新規の盲導犬に変わるということですか?
福田さん:そうです。たとえば盲導犬は10歳になれば引退するので、引退後も盲導犬をご希望であれば新しいパートナーをもつことになります。
盲導犬と歩くことは初めてじゃないし訓練って必要なの?と思われるかもしれませんが、盲導犬といっても、1頭1頭違います。新しい犬との歩き方をいっしょに新たに作っていくことが必要です。
-これって人間でも同じようなことが言えますよね。
福田さん:人も8年前盲導犬をもったときとは状況が変わります。そのときの自分にあった歩行を、新しい盲導犬と作っていくんです。
-ユーザーさんが盲導犬と生活していくなかでこれだけは注意してね、ということはありますか?
福田さん:私たちは自信をもって盲導犬を送り出していますが、盲導犬のことを完全に信用しないでくださいとお伝えしております。人間も間違えて失敗するように盲導犬にも同じことが起こり得ます。
人間の意思を常に完璧にくんでくれるわけでもないですし、人間にはわからないこともあるんです。
だから、盲導犬が与えてくれる情報と、それ以外で見たり聞いたり触れたりして人が得た情報を合わせて判断していきましょうね、ということは必ず伝えています。
-確かにそうですよね。これって周囲の人も盲導犬は完璧だと思っていることが多いと思います。
福田さん:ユーザーさんだけでなく周囲の人にも知ってもらいたいことです。
■歩きたいを実現する仕事
「歩きたい」を実現することが福田さんの信念にある
-福田さんはこれまでたくさんの盲導犬を育成され、ユーザーさんのもとへ送り出してきたかと思いますが、ユーザーさんと盲導犬の背中を見送るときはどのような気持ちなんですか?
福田さん:安心と不安の気持ちが半分半分ですね(笑)。
もちろん自信をもって送り出してはいますが、これからが盲導犬としてのスタートなので複雑な気持ちですね。
-その安心と不安の気持ちが安心だけになるときはいつですか?
福田さん:むずかしいですけど、完全に安心した気持ちになるのは何ごともなく引退をむかえたときにやっと肩の荷がおりますね。
-福田さんが訓練士を続けられるなかで、譲れない信念や理由みたいなものがあるのですか?
福田さん:これまでたくさんのユーザーさんを見てきましたが、そのなかに「自分の生きることは歩くことだ」と言って、自分にできることを考えて努力をしながら歩き続けている方がいらっしゃったんです。
その背中を見たときに、こんなにも歩きたいと思っている人のために私が力になれるのであれば、できることを全力でやりたいと思いました。その思いが、この仕事をやり続けたいと考えている原点に繋がっているのかもしれません。
-人のために何とか力になりたいという気持ちやボランティアの方たちのような社会の善意で満ちあふれているんですね。最後に、盲導犬ってこういうものなんですと伝えたいことを教えてください。
福田さん:盲導犬は完璧ではなくてユーザーさんと共同作業で歩いているので、もしどこかで見かけたときに気づいたことがあればひと言声をかけていただいて、必要であればお手伝いをしてもらいたいですね。
-日常生活のなかで盲導犬とユーザーさんを見かけることはありますが、良くも悪くも特別視をしてしまって、声をかけないほうがいいのかなと勝手に判断してしまっているんですよね。
福田さん:声をかけずに見守るということもお手伝いのひとつだと思いますけど、視覚障害であるかないかに関係なく困っている人がいたら声をかけたりしますよね。
それと同じで、目が見えない、見えにくいこと以外何も変わらないわけですし、気負わずに何か気づいたことがあればお声がけしてもらえるとうれしいです。
-私たちがそういう場に直面したときに気をつけるべきことはありますか?
福田さん:お声がけをしていただく場合は犬にではなくユーザーさんに声をかけてもらうことと、ハーネスをつけている状態の盲導犬には触らないでねということです。
ハーネスをつけている状態の盲導犬に話かけてしまうと正確な判断ができなくなって、ユーザーさんに情報を伝えることができなくなってしまうからです。
-わかりました。これから盲導犬とユーザーさんを見かけたら少しでも力になれるように私も協力します。今日はありがとうございました。
編集部のひとこと

ライター
せいくん
ボランティアや寄付によって支えられている日本盲導犬協会のお話をお聞きして、人の善意がたくさんの人たちを巻き込んで、方法は違ってもそれぞれがさまざまな形で社会に貢献されている現実を知りました。
盲導犬とユーザーさんのおふたりだけの生活ではなく第3者も含む全体で生活をしている気持ちを忘れてはならないと思いました。
もし、どこかで盲導犬とユーザーさんを見かけたら、気楽に声をかけてあげてください。
私も力になれるようにがんばります!
- 日本盲導犬協会公式ホームページ:
- https://www.moudouken.net/
編集部メンバー
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