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輝く女性インタビュー

身の丈で半歩先へ~子育て世代に心豊かなくらしを提案する「みどりなくらし」理事長・堀 由夏さんインタビュー

次世代を担う子どもたちに、みどりあふれる地球を残そう!今のくらしから、無理はせず半歩だけでも踏み出すくらしをめざす「みどりなくらし」の堀 由夏さん、本江(ほんごう) 弘子さんにお話をうかがってきました。

聞き手:たいせつじかん編集部

堀由夏さん

「みどりなくらし」理事長の堀 由夏さん。エネルギーに満ち溢れた方でした。

■地域に根差した子育て支援

南武線武蔵新城駅から徒歩5分、商店街の奥に築100年の納屋をリノベーションしたコミュニティスペースがあります。その名も「NAYA」。木材をふんだんに使ったほっこり落ち着くそのスペースを拠点に「みどりなくらし」は活動されています。

NAYA enjoy space

これが「NAYA enjoy space」!

―NAYAは素敵な空間ですね!2階は屋根裏みたいで、子どもたちが隠れ家にできそう。ここで、どんな活動をされているのですか?

堀:ね、あたたかみのある空間でしょう?「みどりなくらし」のテーマはこのNAYAを拠点に「食・農・エコなくらし 繋がりのあるあたたかい社会」をつくることです。活動をはじめて3年ですが、今年7月にNPO法人になりました。私はパルシステム神奈川ゆめコープの理事を11年勤めましたが2015年6月に退任し、理事を7年勤めて同じ時期に退任された本江さんといっしょに「みどりなくらし」を立ち上げました。私自身は幼稚園教諭1級の資格を生かし、パルシステム神奈川ゆめコープでもお料理や子育てにかかわることを中心に活動、本江さんは川崎市の環境リーダーという資格をおもちで、パルシステム理事の頃から環境にかかわる活動をされていました。その経験を「子どもたちにみどりあふれる地球を残す」という今の活動にも生かしています。

NAYAの2階

NAYAの2階。屋根裏のような素敵な空間です。

―子育て支援が主な活動かと思いますが、この地域は子育て世帯が多いそうですね。駅前商店街にもかわいい赤ちゃんを抱っこしたお母さんがたくさんいました。武蔵小杉駅周辺に高層マンションが多く建設され、そこに移り住んだ若い世帯が多いからでしょうか?

堀:はい、川崎市は、実は人口自然増加率が全国1位なんです。

―へー!全国1位ですか!

堀:とくに、川崎中部の中原区・宮前区・高津区は子育て世代がとても多い地区なんですよ。そのため、この地域では育児や介護の孤立化を防ぐことが課題になっています。若い世帯は核家族が多く、地域とのつながりも希薄で、子育てが孤立化しやすい。また、都市ではただ購入したものを食べているだけで生産と消費がかい離している。それらの問題を防ぐため、作る、食べる、季節を楽しむ、地域とつながる機会を提供しています。

―なるほど。ひとりで子育てしている方たちが、活動に参加することで仲間を作れるわけですね。

堀:はい。事業の柱は3つあります。ひとつ目は親子のつどいの広場事業。毎週このNAYAで「みどりなひろば」を開催しています。開催時間中いつでもどなたでも出入り自由で、お裁縫をする「ちくちくの日」や、パン・肉まんなどを作る「こねこねの日」、ランチの会などを実施しています。

ふたつ目は講座・研修等の企画事業。「みどりなキッチン」では野菜を使った料理教室を開催し、野菜の食べ方を伝えます。一番力を入れているのは農業体験事業なのですが、川崎は大変恵まれた場所で、ちょっと行けば山も農地もあって子どもたちがいろいろな体験をすることができる。私は川崎野菜推しなんですが、川崎野菜を収穫し、その場でピザを作って食べよう、とか、大根一本収穫してまるごと全部料理しよう、という活動もしています。

―大根一本まるごと料理教室などは、パルシステムでもよく行っていますよね。

堀:そうですね。ほかにも、木に親しむワークショップ、石けんの使い方講座など「エコなくらし」イベントや、味噌つくり、梅干しつくりなど日本の文化伝承をしています。

三つ目が地域交流事業です。8月23日に武蔵新城駅前に「Shinjo Gekijo」という、本屋・カフェ・ラジオスタジオをそなえた空間がオープンしました。看護師とデザイナーという若い2人がオーナーですが、そちらで、こんな川崎野菜を使ったお料理をお出しし、地域の方に食べてもらう、ということもしています。

―わー!すごい!このお料理ぜんぶ堀さんが作ったんですか?おいしそう!

堀:おいしそうでしょう?これ、すべて川崎野菜で作ったんですよ。

川崎野菜で作ったお料理

堀さんが川崎野菜で作ったお料理。おいしそうです!

Shinjo Gekijoオーナのー加賀谷さんともりさん

Shinjo Gekijoのオーナー・加賀谷さんともりさん。若いお二人が地域の人が集える基地を作ろうと奮闘されています。NAYAと同じく、木のぬくもりにあふれた、居心地の良い空間でした。

―さまざまな活動をされているんですね。そもそも「みどりなくらし」を立ち上げたきっかけはなんだったのですか?

堀:パルシステム神奈川ゆめコープの理事をすることで地域にさまざまな課題があることがわかりました。地域課題に取り組む団体はたくさんありますが、別々に活動するのではなく、さまざまな団体が協力し合わないと地域課題というのは解決しません。また、行政ではなく、地域住民だからこそ実践できることがあります。そこで、パルシステム神奈川ゆめコープの理事を退任し、地域住民として自ら地域課題に取り組もうと考えました。

―以前セカンドリーク神奈川の六角さんにもお話しうかがいましたが、六角さんと堀さんは考え方が似ていらっしゃるように思います。

堀:ええ、六角さんと私はパルシステムに同時期に入った同期なんです。いっしょに研修を受けて、たぶん同じ課題をもって地域に出ているんですね。

―同期なんですか!やはりそうですよね。お二人の話をうかがっていてデジャビュというか、同じ志をもたれているように感じました。同じ“におい”がするというか(笑)

堀:その“におい”、なかなか抜けないんですよ~!(笑)六角さんは中間支援、私は実践者なんです。六角さんは地域課題に取り組む団体や人を結びつける役割で、私は結び付けられる側として、実際に現場で動く立場で、同じ考えのもと活動しているんですね。

―先ほど個々の団体が別々に活動していては地域課題が解決できないとおっしゃっていましたが、「みどりなくらし」はほかのどんな団体といっしょに活動されているのですか?

堀:会員となっているのは、六角さんのところセカンドリーグ神奈川、ぐらす・かわさき、森ノオトさんです。チルドリンさん、ままとんキッズさんともいっしょに活動させていただいています。ほかには、農園フェスといって、川崎の小泉農園さんが中心となり、地元の農園に足を運んでほしいという思いで実施されているフェスやVege&Art Fesというママたちを応援するイベントの実行委員もしています。また、武蔵新城中心に活動されていて、「マルシェ ドゥ ボヌール」という地域のイベントなどを開催されているトビラ株式会社とはかなりみつに組ませていただいています。先程お話ししたShinjo Gekijoもトビラ株式会社が運営していますね。また、Shinjo Gekijoも、このNAYAも、武蔵新城にあるコミュニティスペースは、地元の大家さんが協力してくださっていて、地域の人が集まれるようにとみんなでDIYして、あえて手作り感のある、あたたかみあるスペースに作られているんですよ。

■同じ志をもつ仲間を増やすことが課題

―地元のさまざまな方たちと力を合わせて活動されているんですね。ところで「みどりなくらし」の活動に参加する方たちは、どこでこの活動を見つけてくるのでしょう?

堀:私たちは、地域子育て支援センターでもスタッフとして活動し、さまざまなワークショップなどを開催しています。そこでお知り合いになった方たちに「こんな活動をしていますよ」とお声かけしています。

―子育て支援センターに来る方たちは、やはり孤立した子育てをしていたり、悩んでいる方が多いのですか?

堀:そうですね。今のお母さんたちはものすごくまじめ。高学歴だし、なんでもネットで検索して、情報過多になっています。たとえば、こちらに来たお母さんで、赤ちゃんが泣いていて、口をパクパクしているから「おっぱいじゃない?」と声をかけたら「いや、まだ3時間経っていませんから!」とおっしゃる。情報がありすぎて選べないんですね。そういうお母さんたちに子育ての先輩として「大丈夫だよ」と言ってあげたいんです。そして、同時に、エコなことや、日本の伝統文化に触れていただいて、自然に、楽しみながら、ちょっと半歩踏み出したくらしを考えてみてほしいな、と。

―お母さんたちの悩みを解消しつつ、次世代の“語り部”を作ろうとしている、という感じでしょうか?

堀:そうですね。子どもたちのために、みどりあふれる地球を残せるようなくらし方をちょっとずつ、意識してくれたらいいな、と思います。そのために、たとえば、合成洗剤ではなく石けんを使うことなどをお伝えしています。

―ここに通われるうちに、悩んでいたお母さんたちは元気になっていきますか?

堀:はい、皆さん元気になって、友だちができてよかった、とおっしゃいますね。そうそう、パルシステムに加入される方も多いですよ。

―それはありがとうございます!NAYAでのランチ会にパルシステムから食材を提供させていただいたりもしていますね。

堀:そうですね。こちらからとくに宣伝しているわけではないのですが、集まっているお母さんたちがほかのお母さんに「いいよ」とおすすめされています。みどりあふれる地球を残せるようなくらし方をつきつめていくと、パルシステムにたどり着くというか。

―パルシステムのような宅配生協をつかうことがフードロス削減につながる、と六角さんもおっしゃっていました。

堀:はい。今の活動をしていても、私もパルシステムとそうやってつながり続けていますね。

―六角さんといえば、自分の役割は地域課題に取り組んでいる方たちをつなげることだから、みなさんがつながって、自分の役割がなくなり、究極セカンドリーグ神奈川がなくなることが目標、とおっしゃっていました。「みどりなくらし」のめざす目標はなんでしょう?

堀:六角さんは繋ぐ人だからみんながつながって自分たちの役割がなくなればよい、とお考えですが、私たちは繋がれる側ですから、なくなっては困ります(笑)。逆に若い人たちが自分たちで活動できるようになり、自分たちと同じ活動をする人が地域に増えていってほしいと考えていますね。

―Shinjo Gekijoの若いオーナーさんたちのようにですね。ここに来ている方で「みどりなくらし」の活動をいっしょにやりたいわ、という人が出てきていますか?

堀:それが、多くのお母さんたちは育休中なんです。みなさん仕事を持っているから、育休が終わると会社に戻っていってしまう。ですので、仕事に戻るまでの1~2年でゆたかなくらしにつながることを身に着けてほしいと思っています。

本江:働いていなくても、だいたいお子さんが2歳になると、みなさんプレ幼稚園や習い事に移行していきますね。同じ人がずっといることはないです。

堀:最初は活動に参加している方の中から仲間ができればいいな、と思っていたんですが、2年でメンバーが入れ替わってしまうので、今は参加されている方の中からいっしょに活動してくれる仲間を残したり、働きながらでも参加できるような活動を増やしていくことが課題ですね。

理事長の堀さんと副理事長の本江さん

右は副理事長の本江さん。NAYAのあたたかい雰囲気そのままの、優しい雰囲気の方でした。

―活動しているうちに、そんな課題がでてきたんですね。ほかに課題はありますか?

堀:先程お話ししました通り7月にNPO法人になることができたのですが、NPOになっても相変わらずの無報酬です。中心としている事業からは、そんなに利益が生まれないので、仲間を作って報酬を出すことがなかなかできず、継続性がないんです。そこで、行政から委託を受けて事業をしたり、あるいは企業と組んだ活動をして継続性を作っていく必要があると考えています。川崎市ができていないことで、私たちにできることを提案していきたいと考えています。例えば、今度、川崎市の助成金で映画上映会を開催します。会場は先程お話しした地元の大家さんが協力してくださっているコミュニティスペース「パサールベース」で、「いただきます」と「0円キッチン」という、食にまつわる映画を上映します。

本江:「0円キッチン」はオーストラリアのフードロスに関する映画です。まだきれいなお野菜などが大量に捨てられるシーンには衝撃をうけます。

―オーストラリアでもフードロスは問題になっているんですね。

堀:日本はもっとひどいですよ。コンビニ弁当の問題とか。恵方巻きもそうですけど、みんなが買わないものは作られないですから、私たちは節分に恵方巻きを自分たちでまくワークショップをしたりもしています。消費者がどういう買い方をするかで売り方も変わってきます。消費者が流通のことも、加工のことも考えて何を選ぶかを考えようと伝える。それも「みどりなくらし」の活動です。

先程もお話ししましたが、孤立した育児をするお母さんたちの悩みを解消すると同時に、そのような考え方もお伝えしているんです。

映画を見ることで食について考えていただくだけでなく、この上映会は小さい子ども連れで映画が見られる、ということも同時にめざしています。子どもを預けられないから映画を見られない、という子育て世代に映画をみる機会を与えたいと考えています。そのために、この上映会では後ろにちょっとした保育スペースを設け、同室保育しながら上映します。保育スペースを使用しなくても、子どもをお膝の上に座らせて見てもいいんです。

―たしかに、小さい子どもがいっしょだと、映画も外食もできなくて、不自由に感じることが多いですよね。子どもの預け先がない子育て世代の息抜きの場にもなりますね。

※上映会の情報はコチラ

https://kokucheese.com/event/index/535226/

 ―六角さんにお話をうかがった際も感じましたが、自分の利益ではなく人のために活動できるってすごいですね!

堀:すべて人のため、というわけでもないのです。自然環境が悪かったり、周りの人がしくしく泣いていたら、自分もくらしにくいし、悲しい。人のためは、結局自分や、自分の家族、周りの人のためでもある。誰かのために動いたことが、周りまわって自分のためにもなっていると考えているんですよ。

―「みどりなくらし」の活動に参加された方たちの中から、新しい活動の担い手が生まれて、半歩踏み出した活動をされる方が増えていくとよいですね!今日はありがとうございました。

編集部のひとこと

武蔵新城には商店街が複数あり活気もありますし、堀さん・本江さんのように地域の為にパワフルに活動されている方がたくさんいて、街全体がエネルギーにあふれているようでした。私も地域社会のために一歩踏み出そうと試行錯誤していましたが、ちょっと力みすぎていたかもしれません。できるところから、無理なく、半歩踏み出してみようかな。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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