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見る人に活力を与える!97歳まで絵を描き続けた中川一政さんの現役人生を語る真鶴町立中川一政美術館の学芸員 加藤志帆(かとうしほ)さんインタビュー

真鶴町立中川一政美術館学芸員の加藤志帆さん

真鶴町立中川一政美術館学芸員の加藤志帆さん

真鶴町立中川一政美術館は、今年で開館32年目を迎えました。

独学で芸術を学んできた中川さんは、21歳のころに描いた絵がきっかけで美術界から注目され、98歳目前まで絵を描き続けてこられました。

見る人をひきつける魅力のある中川さんの作品を展示している中川一政美術館の学芸員 加藤志帆さんにお話をお聞きしました。中川さんの発想には驚かされるばかりです。
ぜひ、お楽しみください!

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■独学で21歳から本格的に絵を描き始める

中川一政さんの生きざまを語る加藤さん

中川一政さんの生きざまを語る加藤さん

-はじめに、真鶴町に中川一政美術館が作られた経緯を教えてください。

加藤さん:昭和の終わりごろに中川一政画伯本人から真鶴町へ作品を寄贈いただいたことがきっかけです。

もともと自分の美術館を作るという夢をもっていたそうなのです。自分の作品の管理についても考えていたようです。

そして、1989年に真鶴町が中川一政画伯の作品を展示する美術館を開館しました。

-美術品は多ければ多いほど、保管は大変だとよく言いますよね。では、基本的に中川さんの作品はこの美術館で保管されているんですね。

加藤さん:全国各地の美術館でも中川画伯の作品を所蔵していますが、真鶴町と石川県白山市にある姉妹館の松任中川一政記念美術館にて多くの中川一政作品をコレクションしています。

-石川県に中川さんの美術館を作られたのには、何かゆかりがあるのでしょうか?

加藤さん:中川画伯のご両親が石川県の出身なんです。

姉妹館は、お母さまが生まれた松任という町に作られました。松任は中川画伯にとっても思い入れのある土地なんです。

-では、この真鶴町立中川一政美術館の特徴はどういったところですか?

加藤さん:いちばんの特徴は中川一政作品をコレクションし、中川画伯に特化した展示をおこなっているところです。

さまざまな作家の作品を展示しているのではなく、中川画伯の作品と画伯が大事にしていた美術品を展示し、その画業や功績を紹介しています。

そういった部分がほかの美術館との違いだと思います。

-ここには、「中川一政の作品」を見に来館されているんですもんね。死後もずっと愛されている作家さんなんですね。

加藤さん:そうですね。来館者にはリピーターの方が多いですね。

-見る人をひきつける魅力があるんでしょうね!では、中川さんが美術の世界で注目されるきっかけとなった作品やできごとを教えてください。

中川さんの97歳時の作品、書「飲中八仙歌屏風」1990年

型にとらわれないユニークな作品が多い
書「飲中八仙歌屏風」1990年(97歳)

加藤さん:中川画伯は美大のような学校に通ったり、師匠がいたりしたわけではなく、独学で自分の絵の道を切り開いてきました。当時の同世代の作家とは少し違った角度から絵を描いていたんです。

21歳から本格的に油絵を描き始めたんですが、その年齢のときに描いた絵が当時の有名な絵の展覧会で賞を受賞したんですね。

それをきっかけとして、さまざまな美術家との交流が始まっていき、少しずつ美術界で名前が知られるようになったようです。

-中川一政さんはエリート街道を歩んできたわけではなく自分の道を歩んでこられて、その展覧会から中川一政さんってすごいよね!って、広まっていたんですね。

加藤さん:そうかもしれないですね。独学のいいところは型にとらわれることなく自由な発想で表現できるところだと思うんです。

なかにはそれが自己満足だという評価を受けることもあるんでしょうけど、中川画伯はそうではなくて「おもしろい人がいるよ」と、仲間から注目されるようになったようです。

 

■元気をもらえる中川一政さんの作品

真鶴町立中川一政美術館の展示品

-中川さんは真鶴町にお住まいだったんですか?

加藤さん:そうですね、50代から真鶴にアトリエを構えて東京との2拠点生活を送りながら、晩年は真鶴で過ごされました。

-真鶴のことが好きだったんですね。

加藤さん:そうですね。真鶴半島の西側に福浦という港がありまして、その景色に魅了されたことが真鶴に来たきっかけのひとつでもあるんです。

実際に、福浦をテーマにしたシリーズの絵を何枚も描いていました。

-中川さんは、絵を描くときにこだわりはおもちだったんでしょうか?

加藤さん:風景画を描くときは必ず写生地に行って、その場で絵を描く「現場主義」だったそうです。

なので、絵や道具は毎回現場に持ち運んでいました。さらに、中川画伯は同じ景色の絵を同時進行で2枚描くこともあったそうです。

挿画を描くなど幅広い才能を発揮していた

-それはなぜなんですか?

加藤さん:絵を競わせていたようですね。理由は本人にしかわからないと思うのですが、2枚描くことで、より納得のいく絵が描けるということだったのかもしれません。

さらに、何年もかけてその現場に通って絵を描いていきますので、同じ場所なのに季節違いからなのか色彩が異なる絵もあります。これもとてもおもしろいなと感じますね。

-同時進行で同じ景色の絵を2枚描くことって、なかなか考えられない発想ですよね!加藤さんご自身が中川さんの作品を見られて、どういうところに魅力を感じますか?

加藤さん:すごく不思議な印象を覚えます。

これまで世界中の作家さんの作品を見てきて、なかには暗い雰囲気を覚えるような絵もあったんですが、中川画伯の作品はポジティブな気持ちになるものが多いと思います。

創作の勢いを感じますし、見て元気になりますね。どれも絵力がすごいんですよね!

中川さんの90歳時の作品、唐津陶板「われはでくなり」1983年

唐津陶板「われはでくなり」1983年(90歳)

-中川さんのパワーがそのまま絵に表現されているんですね!

加藤さん:そうです、エネルギーに満ちあふれているんです。

逆にそのパワーに圧倒される方もいらっしゃいますが、ちょっと気持ちが落ち込んでいるときに中川画伯の絵を見て元気になる方も多いと思います。

 

■本能のままに絵を描き続けた現役人生

中川さん97歳時の作品、「向日葵」油彩 1990年

額縁までもが作品の1部になっている
「向日葵」油彩 1990年(97歳) 

-加藤さんのお話を聞いていると中川さんってどんな方だったんだろうと、さらに興味がわいてきたんですが、加藤さんのなかで印象に残っている中川さんのエピソードはありますか?

加藤さん:中川画伯が20代のころに描いた「霜のとける道」(1915年)という作品は、じつは他人の絵の上に描いた絵であるというエピソードが印象に残っています。

-絵の上から絵を描いたとはどういうことですか?

加藤さん:当時は油絵、油絵の材料もなかなか手に入りやすいものではなかったんです。

そんな時代に絵を描いていた中川画伯は、あまり裕福ではなかったこともあり、絵を描くキャンバスが無くなったときは、すでに絵が描いてあるキャンバスに絵を描いてしまうことがあったようなんです。油絵であればできることなんですが、なかなか思い切ったことをするなと思うわけです。

そんなエピソードのなかで、「霜のとける道」は、自ら欲しいと言って友人からもらった絵の上に描いてしまっているんですよね。

その友人というのが岡本太郎さんのお父さんの岡本一平さんなんです。

びっくりしますよね、自分から欲しいと言ってもらった絵なのに、キャンバスが足りなくなったらその上から絵を描いちゃうんですから(笑)。

-自分の描いた絵ならまだしも、欲しくてもらった絵なわけですから余計に(笑)。でも、これはどうやって分かったのですか?言わなければわからないですよね?

加藤さん:中川画伯が80代になってから書いた『腹の虫』という自身のエッセイ集で暴露しているんです。

そういうところも画伯らしいなと思うんですよね。

その事実を聞いて岡本太郎さんは、「中川さんならやりかねないね」と言ったそうですからとくに不思議なことではなかったんでしょうね(笑)。

-どうしても絵が描きたいという欲が抑えられなくて本能のままに描いた絵が賞を取るって、こんな話が本当にあるんですね!この美術館に来たときにぜひ見てほしいなと思うポイントはどのようなところですか?

加藤さん:たくさんありますが、私個人的には作品をとおして中川一政という人間の生きざまを見ていただきたいなと思います。

中川一政画伯は97歳まで生涯現役で、亡くなる1カ月ほど前まで絵を描いていました。

歳を重ねてもなお自分の好きなことをやり続けていた画伯をもっとみなさんに知っていただきたいです。

そこから、これからの時代をどう生きていくか、生きるヒントをもらっていただければうれしく思います。

-では、最後に読者の方に向けて、加藤さんの言葉で中川一政美術館を紹介してください!

加藤さん:中川一政美術館は海と森に囲まれ、自然の中にある美術館です。館内だけでなく真鶴半島全体を含めて楽しんでいただきたいです。そして、静かでゆったりとした空間のなかで日常を忘れ、中川一政画伯の美術に触れてみてください。

また、当館は子どもからおとなまで楽しめる美術館だと思います。ふだんあまり美術に触れない方も楽しいひとときを過ごしていただければと思います。

-わかりました!私も中川さんの作品を見て元気をもらいました!今日はありがとうございました!

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

取材後、館内に展示されている中川さんの作品を見させていただきましたが、加藤さんがおっしゃっていたとおり、印象に残るダイナミックな作品ばかりでした。

それは美術作品としてだけでなく、明日からの生きる活力を与え、自然と気持ちまで明るくしてくれる、そんなパワーに満ちていました。

真鶴町の自然のなかで芸術に触れると、より感性が刺激されるように思います。
もし元気をもらいたいなと思ったときは、真鶴町にある中川一政美術館を訪れてみてください!

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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