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芸術と自然の調和を肌で感じてほしい!彫刻の森美術館 主任学芸員の黒河内卓郎(くろこうちたくろう)さんインタビュー

彫刻の森美術館の主任学芸員 黒河内卓郎さん

野外に美術品を展示するという美術館の常識を覆した彫刻の森美術館は、展示されている彫刻だけではなく、地形自体までも彫刻し箱根の風景の一部となっています。

今年で51年目となる彫刻の森美術館の魅力や見どころについて、主任学芸員の黒河内卓郎さんにお話をお聞きしました。

箱根の大自然と彫刻の調和が感じられる、すてきな写真とともにお楽しみください

 

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■地形も人間も彫刻の一部に

今年で51年目となる彫刻の森美術館の歴史を語る黒河内さん

彫刻の森美術館の歴史を語る黒河内卓郎さん 

-1969年にオープンされた彫刻の森美術館ですが、まずはこの美術館が創られた経緯や歴史について教えてください!

黒河内さん:彫刻の森美術館はフジサンケイグループに所属していますが、もともとここの土地をグループで所有していました。ここは温泉も出ますから、当時は温泉付きの分譲別荘地を作るという計画が出ていたようです。

しかし、フジサンケイグループの鹿内信隆(初代館長)やそのチームメンバーは、社会に還元できるような事業のためにこの土地を利用したほうがいいと考え、美術館の建設に着手されました。

-確かにここは三方が山に囲まれていて、一方は相模湾があり、自然が豊かでロケーションに恵まれていますよね。

黒河内さん:せっかくすばらしいロケーションがあるのだから、この土地を利用した社会的な事業にしようと構想が固まっていたころ、鹿内は美術に関心をもつようになっていました。

しかもそのころは、日本の財界人は絵画を収集することにはたけているけれど、彫刻という分野に関してはあまり愛好されていないという状況があったようです。

-鹿内さんはそこに目をつけられたんですね?

黒河内さん:そうなんです。鹿内はどちらかというと、ほかの人がやらないことに着目する人物でして、ここに日本初の彫刻専門の美術館を創ろうではないかと思い立ちました。

-なるほど!恥ずかしながら美術と聞くと、どうしても彫刻よりも絵画の方が先に思い浮かんでくるのですが、当時も美術といえば絵画みたいな事実があったんですね。

黒河内さん:そうですね。当時から美術といえば絵画でしたし、彫刻と比べても人気がありました。

ヨーロッパには当館と同じようなロケーションで彫刻庭園と呼ばれる例がいくつかありましたが、それでも彫刻はマイナーな存在でした。

-彫刻庭園とは何ですか?

黒河内さん:彫刻庭園はその名のとおり、広い庭園に彫刻が展示されている状態のものを指します。彫刻においては、展示場所が美術館の中から外へという動きや風潮が生まれてきた時期でもありました。

鹿内は、彫刻庭園を箱根のこの地に創ることにより、日本の美術界において彫刻のポジションの引き上げと社会への還元につながるのではないかと考えました。

とくに母親と子どもたちに向けて、ピクニック感覚で1日を開放的にゆったりと過ごしてもらいつつ、一流の芸術にふれられる場所になるといいなという気持ちが込められています。

そうして、だんだんと方針が固まり、日本で初めての野外彫刻美術館を開館することになりました。

ヨーロッパでは広まりつつあった彫刻庭園を自然広がる箱根のロケーションで作りあげた

屋外にさまざまな彫刻が展示されている

-この地の自然豊かなロケーションを最大限に生かすために、野外彫刻美術館は最適な手段だったんですね!では、この美術館を創るに当たって、まず始められたことは何だったんですか?

黒河内さん:美術館を創るに当たって鹿内は、若手のホープとして注目されていた彫刻家の井上武吉さんに依頼し、ランドスケープデザインという施設全体の環境や風景のデザインに着手しました。

彼は、彫刻家であったので、施設全体のデザインを考えていくうちに彫刻を展示するためのデザインではなくて、地形全体を彫刻として見せようと思い始めました。

-デザインを考えながらこのロケーションのすばらしさを感じていくうちに、彫刻家としての意地みたいなものが込み上げてきて、この地形全体を彫刻したくなっちゃったんですね(笑)!

黒河内さん:そうです(笑)。つまり、周りの風景がすばらしいので、それを見るための台座としてこの場所が機能すればいいんじゃないかと。

したがって、地形自体も彫刻の一部になっていて、丘があって起伏があったり、カーブをつけたりして立体的なデザインになっているのが特徴です。

地形をも彫刻している

-なるほど。常識にとらわれない考え方が反映されているんですね!

黒河内さん:若手の彫刻家を起用することで常識にとらわれないものを創るという狙いもあっただろうと思います。

 

■彫刻コンクールが彫刻家の登竜門になる

ユニークな作品も数多く展示されている

-では、彫刻作品はどのように集められたのですか?

黒河内さん:私立美術館といえば、オーナーが作品を集めてそのコレクションを展示するということが一般的だと思いますが、私たちはコレクションを持っていませんでしたので、当館がオープンしてから毎年彫刻コンクールを開催して彫刻作品を集めることにしました。

-1度のコンクールでどのくらいの応募が集まったのですか?

黒河内さん:世界中から400〜500点程度の応募がありました。

-すごい数ですね。審査はどのように行われていたのですか?

黒河内さん:まずスライド審査で完成予想図を見ます。第一次審査を通過したプランは、1m立方の大きさの模型を作ってもらう模型審査に進みます。

そこでだいたい20点ぐらいにしぼられて、最終審査では制作補助金を支給して実物大の作品を制作していただきます。

最終的には、最終審査に残った方全員に賞を贈り実物大の作品をすべて購入させていただき、それらを彫刻の森美術館のコレクションとして展示し始めました。

-展示品は、建物を作られたあとで毎年公募をして追加されてきたんですね!

黒河内さん:そうです。そうすると、世界中から良質な彫刻が集まってきますし、若手の彫刻家にとっては登竜門にもなり、作家自身のモチベーションにもつながります。

さらに、そこで世界からの注目も集まりますし、ヨーロッパやアメリカで当館の名前が知られるようになったのもそのおかげと思います。

-そういう背景があったんですね。今も公募はされているんですか?

黒河内さん:今はしていないです。コンクールを続けていくうちに作品のサイズも大きくなってきまして、展示スペースも手狭になり、諸般の事情で1995年にコンクールは一旦終了することにしました。

-年々規模が大きくなっていったんですね。では、現在展示されている作品はそのコンクールで賞をとったものがメインになっているんですね?

黒河内さん:展示品の多くはそうですが、開館前つまり公募を行う前の近代の作品に関しては系統立てて収集していきました。

-開館した1969年を境に、それまでのものは収集して、それ以降のものは公募で美術館独自に集めて、それらの作品を合わせて彫刻の森美術館は構成されているんですね。屋外で展示されている作品の数ってどのくらいなんでしょうか?

黒河内さん:120点くらいです。

作品の展示や収蔵スペースの拡大のために1981年に長野県の美ヶ原高原美術館という姉妹館も建設したのですが、所蔵数は姉妹館と合わせると2,000点余りになります。

 

■彫刻と同じ体験をしながら、自然と彫刻の調和を感じる

彫刻について語る黒河内さん 

-では、次に館内のことを詳しく教えていただきたいのですが、私がこの美術館の館内図を見たときにピカソ館の存在感が強くて印象に残っています!これは、ピカソの作品にフォーカスして展示されているエリアなのでしょうか?

黒河内さん:そうです。1981年にピカソの生誕100年を記念した展覧会をフジサンケイグループが主催したことがきっかけで、1984年に開館したギャラリーです。

生誕100年の展覧会は、ピカソの娘マヤさんが相続したピカソの作品で構成されたものでした。その展覧会の終了後に、マヤさんに作品を譲ってもらえないかと相談し、了承していただいた作品を中心に構成されています。

当館ではマヤさんから譲り受けた作品を合わせた319点のピカソ作品を所蔵しています。

-ピカソの作品をまとめて購入できるチャンスだったんですね!

黒河内さん:チャンスでしたけれど、正直、今では考えられないことです(笑)。

ピカソは何万点もの作品を遺していますから、遺族の方はたくさん相続しているでしょうし保管も大変であったと思います。

ですから、きちんと管理もされる美術館に託すことが良いと考えていただけたのだろうと思います。

319点もの作品を所蔵しているピカソ館

世界有数のコレクションを誇るピカソ館

-ピカソ館では、どのような作品が展示されているんですか?

黒河内さん:絵画や彫刻、版画、陶芸などさまざまです。ピカソといえば絵画のイメージがあるかと思いますが、彼はとても万能なアーティストでした。

-ピカソ館では、絵画だけではないピカソのいろいろな作品が見られるんですね。

黒河内さん:そうです。ピカソ館にある作品は世界でも有数のコレクションと思います。

-では、彫刻の森美術館でこれは必ず見てほしい!と思う、黒河内さんのおすすめスポットを教えてください!

黒河内さん:「ネットの森」と「幸せをよぶシンフォニー彫刻」は、ぜひ見ていただきたいと思っています。

ネットの森は、子ども向けの体験型アート作品ですが、ここはまさに「母親と子どものための美術館」という当館を象徴している作品でして、木組みの建物に設置されたネット作品を制作したのは堀内紀子さんという日本の女性アーティストです。

黒河内さんがおすすめするネットの森

「ネットの森」堀内紀子《おくりもの-未知のポケット2》

作家は「私の作品は安全です」と言っていまして、作品の安全面にこだわって作っているところがお母さん目線というか、男性にはない感性で母性を感じますね。

-ネットの森は、彫刻の森の開始当初の思いをいちばん表現しているような作品なんですね!では、幸せをよぶシンフォニー彫刻はどのような作品なんですか?

黒河内さんがおすすめする幸せをよぶシンフォニー彫刻

ガブリエル・ロアール《幸せをよぶシンフォニー彫刻》の外観

黒河内さん:それはフランス人作家ガブリエル・ロアールが制作した作品なのですが、モチーフは子どものころの思い出や情景をステンドグラスで表現しています。

ステンドグラスは、東南西北で春夏秋冬に4分割されていて、塔の中心にある螺旋階段を登っていくことで1年をめぐるしくみになっていまして、塔を登り降りしながら楽しかった子どものころの思い出を振り返ったりできます。

そこでは童心に帰れるので、この作品も当館の思いと親和性があるなと感じています。

幸せをよぶシンフォニー彫刻の内観

幻想的な世界が広がっている

-芸術やアートってすばらしいものだなと感じるんですが、一方でどこかむずかしさを感じてしまい、距離をおいたりしてしまうことってあると思うんです。アートをこれから見ていくにあたり、どういう気持ちでいればいいんでしょうか?

黒河内さん:アートって実際にわかりにくい面もあります。

私は外国語と同じようにひとつの言語だと思っていて、たとえば英語をすぐに理解できるかと言われてもむずかしいですよね。

言語にそれぞれのルールがあるように、アートにもルールがあってそれがわかると理解できる世界だと思います。

-アートも言語のひとつか。とてもしっくりきます。

黒河内さん:それなりに時間はかかるものですよ。ただ、多くのアート作品は見るだけですが、野外彫刻美術館のいいところは、肌で感じることができるんです。作品を見るだけでなく、暑かったり、風が吹いたり、雨が降ったりと、彫刻といっしょの環境に身をおいて、見ている自分も彫刻と同じ状況になれるんです。

-体験なんですね!

黒河内さん:そう、肌で感じるというのが彫刻の森なんです。

-たしかに屋外で彫刻に触れられる醍醐味ってそういうところなのかもしれないですね!では最後に、これから彫刻の森美術館に行ってみようと思っている方々へメッセージをお願いします!

黒河内さん:アートを理解するのはむずかしいと言いましたが、ここでは彫刻や自然に触れながらリラックスする時間を過ごしてほしいと思っています。オープンエアっていいね!という軽い気持ちでお越しいただければと思います。

空に浮かぶ彫刻 カール・ミレス《人とペガサス》

-ご家族で会話を楽しみながら見てまわっても、屋外だとそこまで気にしなくていいですもんね!

黒河内さん:むしろ、ご家族で他愛のない会話をしながらアートと自然に触れる非日常的なひとときが大事なんじゃないかと思っています。

そこで生まれる会話って彫刻とお客さまとの対話で、私はその対話がすごくいいなと思っています。

-これが正解ってことはなくて、見たもの感じたものをそのまま口に出してそれぞれの楽しみ方をすればいいということですね!本日はありがとうございました!

 

編集部のひとこと

ライター

せいくん

彫刻の森美術館が開館したことにより、間違いなく彫刻のすばらしさは世界に広がったと思いますし、この美術館にかかわるみなさんが開館当初の意思を受け継ぎながら、誰もが楽しめる場所を守り続けているんだなと感じました。

さらに、コロナウイルスの影響で外出にも制限がかかってしまったなかで、私自身もこれまでよりも日々をていねいに過ごそうと見直しましたし、このような場所が感情を豊かにする有意義な時間を過ごせる場所になっていくのではないだろうかと考えさせられました。

彫刻の森美術館に来たことがある方もそうでない方も、天候や季節に応じて表情を変える彫刻庭園のアートを肌で感じてみてはいかがでしょうか。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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