輝く女性インタビュー
- 伝統の継承とさらなる発展をめざして!800年の歴史をもつ鎌倉彫を伝承する株式会社博古堂 代表取締役社長の後藤尚子(ごとうなおこ)さんインタビュー
800年の歴史をもつ鎌倉彫を現代に継承し、家業として制作を続ける博古堂の後藤尚子さんに鎌倉彫についてお聞きしてきました。
長い歴史のなかでおとずれた鎌倉彫の衰退の危機に博古堂を創業し、国内外に鎌倉彫を広めていったという先人たちのお話は現代を生きる私たちに強いメッセージとなって聞こえてくるようです。
美しい鎌倉彫の写真といっしょにぜひお楽しみください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■日本の木彫り文化と中国の彫漆技法の融合によって生まれた鎌倉彫
-はじめに鎌倉彫の歴史について教えてください。
後藤さん:源頼朝が鎌倉に幕府を開いたことで、鎌倉が日本の中心地として栄えたわけですが、それをきっかけとして鎌倉には建長寺などの禅宗寺院が数多く作られました。
そのため、それらの寺院に納める仏像や仏具類を作る仏師たちが京都、奈良をはじめとする日本各地、さらには中国から鎌倉に集められました。
そのうちのひとりに仏師として有名な運慶がいたようです。ここから鎌倉彫の歴史は始まりました。
-鎌倉彫は、仏師たちから始まっているんですね。
後藤さん:そうですね。そして、家伝によると、後藤家は運慶を一代目としています。
鎌倉彫の像
-すごいですね!鎌倉初期ですから800年近い歴史があるわけですね。現在の後藤家の当主は何代目になるのですか?
後藤さん:現在は私の姉が当主で29代目になります。
-29代目ですか!?
後藤さん:家伝によるとですけどね。はっきりと遡れるところで室町時代くらいですかね。
-室町時代まで遡れるだけでもすごいことだと思います。
後藤さん:いえいえ。
-鎌倉時代の仏師たちから始まった鎌倉彫とは具体的にどのような技法で作られるのですか?
後藤さん:鎌倉彫は、木に彫刻をして漆を塗ります。中国から伝わった彫漆という漆の層を塗り重ねて厚みをつけて、その層を彫る技法に影響を受けています。
もともと、日本人が得意であった木彫りと、中国から伝わった彫漆を融合させてできたものが鎌倉彫なんです。
-なるほど、日本流にカスタマイズしたんですね。
後藤さん:そうですね。新しいものを受け入れて、新しいものを作り出したんですね。
■時代とともに変わってきた鎌倉彫
-私の印象では、鎌倉彫というと仏具よりも日用品の方が多いように思いますが、いつごろから日用品も作るようになったのですか?
後藤さん:江戸時代には茶道の発展にともなって、仏具だけでなくお茶道具類を作るようになりました。そして、徐々に火鉢や硯箱などの日用品も作るようになりました。
しかし、鎌倉彫にもっとも大きく影響を与えたできごとは、明治時代に出された神仏分離令や廃仏毀釈により、お寺の経営が非常に厳しくなったことで、仏師の仕事が激減したことです。
そのころから、仏具だけはなく日用品なども作るようになりました。
-仏師としての仕事に専念したいけど、自分たちの生活も考えないといけないですし、ものすごい葛藤があったんでしょうね。
後藤さん:そうだと思います。仏師として仏像を作るということがいちばんの自分たちの仕事ということは変わりませんが、生活の活路として鎌倉彫を工芸品として売り出したわけです。
そして、1900年に博古堂を創業し、国内外に向けての鎌倉彫の販売を本格的に始めました。
-鎌倉彫に活路を見出して、一気に事業転換をしたんですね。
後藤さん:そうですね。1889年のパリ万博をはじめ、国内外の博覧会に仏像とともに多数の鎌倉彫を出品しました。また、「一百年間保証券」というものを発行して、鎌倉彫を広めていったようです。
-「一百年間保証券」は、とても印象的なフレーズだと思いますが、それ以前に技術への自信もあったんでしょうね。
後藤さん:そうですね。とにかくたくさん彫って、たくさん塗ったという記録が残っていますから、鎌倉彫を作り販売することで、現状を必死に変えようとがんばったんだと思います。
-新しい挑戦をすることで、鎌倉彫を守ったんですね。
■伝統を受け継ぐことのプレッシャーが使命へと変わる
-現在はどのくらいの職人さんがいらっしゃるのですか?
後藤さん:職人は彫師が3名、塗師が8名います。
鎌倉彫は、木を彫る彫師と漆を塗る塗師が分業しています。私も鎌倉彫作品を作りますが、現在はとくに経営に加え、デザインからプロデュースなどの全体を見ています。
-後藤さんも彫られるんですね。
後藤さん:私はもともと大学で絵画を専攻していたのでよく絵を描いていましたが、家業の鎌倉彫を継ぐことを決めてから本格的に始めました。
-これだけ長い歴史のある家業を継いでいくということにプレッシャーを感じることはありませんでしたか?
後藤さん:私たちは3人姉妹で、29代目の当主が一番上の姉で、私が一番下なんですが、私たちは生活の中に常に鎌倉彫が当たり前にあったので、誰に言われるでもなく私たちが続けていかなければいけないという意識が自然と芽生えていたと思います。
やはり、若いころはちゃんと自分たちで受け継いでいけるんだろうかと不安を感じることはありました。しかし、今は自分たちがもっている力量でしかやっていけないので、何ごとも真面目に一生懸命にやり、次に繋いでいきたいと考えております。
-やはり目に見えない責任みたいなものは少なからずあったんですね。
後藤さん:そうですね。とくに一番上の姉はその思いは強かったと思います。
それに、鎌倉彫は鎌倉のなかでとても大切なものなんだと理解していましたし、私たち姉妹は自然とみんな美術の道に進みましたから、それぞれが鎌倉彫にかかわっていこうと考えていたと思います。
-でも、800年の歴史をもつ家業を継ぐということはとても大変なことだと思います。
後藤さん:とはいえ、若いころは何でこんな家に生まれちゃったんだろうって思ってました(笑)。
今思えば、800年の歴史も日本を見渡せばそんな長いわけではないと思えますが、そのころってそれをすごい圧力として感じましたね。
-きっと、昔からそうやって継承されてきているんですね!30代目は、どなたか決まっているのですか?
後藤さん:私の娘が30代目になる予定です。
-しっかりと継承されていくんですね。すばらしいです。
■表情豊かな鎌倉彫の未来予想図
鎌倉彫の仏壇
-代々受け継がれてきた鎌倉彫ですが、後藤さんはこの先のビジョンをどのように考えていらっしゃいますか?
後藤さん:今は、日用品を含めていろいろなものを作っていますが、根本に仏師の家系ということがありますので、祈りの形として一般家庭にも置けるような仏像や仏具にも力を入れたいと思います。
-原点に戻ってみるということですね。
後藤さん:そうですね。
あとは、新しくアクセサリーなど、ファッションの一部になるようなもの、設計からかかわれる室内装飾を掘り下げていきたいと思っています。
-今まで作っていなかったものを新しく作ってみることで、新しい価値が生まれる可能性は充分に考えられますよね。
後藤さん:その可能性はあると思っています。
ただ、鎌倉彫の「彫」と「塗り」にも伝統の技術があって、昭和時代には間違ったものを世の中に出してはいけないということで一定の塗り技法を定めて品質を保つために伝産法ができました。これにより、伝統は守られましたが、その枠組みをはみ出せなくなったんです。
-なるほど、守るべきものと変化を受け入れるべきものをうまく併存させていくことは、むずかしい問題ですよね。
後藤さん:はい、私の父がそうであったように、伝統を大切にしながらも枠にとらわれすぎず、挑戦的にいろいろやっていく方がおもしろいんじゃないかなと思っています。そこにこそ伝統の継承はなされるのかと。
-では、最後に鎌倉彫の魅力について教えてください。
後藤さん:鎌倉彫は漆芸や漆絵とは違い、木を彫ってできた凹凸のあるところに漆を塗っていきますので、長く使えば使うほど漆のつやとともに、陰影が際立ち味わいがすごく出てきます。
たとえ同じものを持っていたとしても、使う人によって表情がどんどん変わっていきますので、そういうところを感じて、楽しんでもらいたいと思います。
木製ですので、割れてしまうこともありますが修復もできます。これからはひとつのものを大切に長い間使っていくような時代になってくると思っているので、そこに鎌倉彫があればうれしいですね。
-使う人によって個性が出てくる鎌倉彫にとても興味がわきました。
本日はありがとうございました。
編集部のひとこと

ライター
せいくん
800年近い鎌倉彫を今に継承している後藤尚子さんのお話をお聞きして、感じたことは800年続くなかで変化に適応しながら継承してきたということでした。
変えてはいけないところと変えるべきところを見極めながら、挑戦を続けることが大切なのだと教えてもらったような気がします。
また、鎌倉彫は造形自体がとても美しく見ているだけでも楽しめますので鎌倉に行かれた際にはぜひお店に立ち寄られてはいかがでしょうか?
- 博古堂公式ホームページ:
- http://www.kamakurabori.org/
編集部メンバー
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