輝く女性インタビュー
- たったひとりから始まった挑戦が常識を超える?! “自分のどまんなか”で生きる世界を創るヒミツキチ森学園校長の宮下 千峰(みやしたちほ)さんインタビュー
ヒミツキチ森学園 校長の宮下 千峰(みやしたちほ)さん
前職で幼児教育に携わっていた宮下千峰さんは、教育の「当たり前」に疑問をいだいていたといいます。その疑問に明確な答えを得られないまま過ごすなかで訪れたデンマークで彼女はこれまでとは違う学校をつくることを決意しました。
前例のない挑戦に向かう彼女の情熱にたくさんの共感があつまり、300名のプロジェクトメンバーとともに創ったヒミツキチ森学園は2020年4月に開校しました。宮下さんの挑戦は今葉山町で始まったばかりです。
パワーあふれる宮下さんのお話は圧巻です。ぜひ、お楽しみください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■なぜ「当たり前」なのかがわからなくなってしまった
-ヒミツキチ森学園を創ろうと考えたきっかけを教えてください。
宮下さん:私は前職で幼児教育に携わる仕事をしていたんですが、先生として授業をしていくなかでみんなが同じものを使わないといけないとか、全員同じやり方で取り組まなくてはならないみたいな教育現場の「当たり前」がたくさんあるなぁと感じていました。
その当たり前をこれまで何も疑わずにやってきたんですけど、突然この当たり前って誰が決めたものなんだろう?と、疑問に思った瞬間があったんです。
なんで子どもたちってこれをやっちゃいけないんだっけ?なんでみんな同じじゃなきゃいけないんだっけ?と、思い始めたら授業ができないくらいにまでなってしまって、「なぜ?」をいろいろな人に聞いたんですけど納得のいく答えが返ってこなくてとても悩みました。
-「なぜ?」がうまく説明できない「当たり前」ってたくさんありますよね。
宮下さん:そうなんですよ。そして、いろいろな人になぜ?と聞いているなかで、教育の話にかかわらず「デンマーク」という言葉をとてもよく耳によくするようになったんです。
瞬間的に、これはデンマークに行くべきなんだと感じ、退職をしてデンマークへ行きました。
-学校教育といえばデンマーク!みたいなものが教育者の間で共通認識にあって、それで宮下さんもデンマークに行かれたのですか?
宮下さん:違います!直感ですね(笑)。でも、やっぱりデンマークで本当に欲しかったものをもらえました。
それは、シンプルに「人が人として幸せに生きることをちゃんと守り抜いて生きている」ということでした。
自分の心地よさをみんながすごく大事にしているんです。
-自分の心地よさですか?
宮下さん:デンマークではHYGGE(ヒュッゲ)という、暖炉の前でホットコーヒーを飲みながらホッとする感じの心地よさを意味するニュアンスの言葉があるんですが、そのヒュッゲの感覚がデンマーク人の心にしみついていて、学校の先生も子どもたちも大事にしたい心地よさは何だろうということを常に考えて授業をしているんです。
私は、フォルケスコーレと呼ばれる小中一貫校や森の幼稚園と呼ばれる所を中心にまわったのですが、その現場では失敗を含めさまざまな経験をし、その経験の延長線上に一人ひとりに合った幸せがあるんだよということを教えていました。それが私の心にすごく響きました。
-ずっと悩んでいたことが、デンマークに行ったことで一気に解決したんですね!
宮下さん:そうですね。今までバラバラだったパズルのピースがカチッとはまって疑問に思っていたことが解決しました。しかし、それと同時に、なぜ日本ではデンマークのように教育の本質を体現していくことがなかなか難しいのだろうという悔しさも込み上げてきました。
デンマークからの帰りの飛行機で、学校を創るということだけを決意しました。
でも、その当時は大きな資金があるわけでも仲間がいるわけでもなかったので、ワクワクすると同時に少し怖いなという思いが交差した複雑な感情が入り混じり、帰りの飛行機の中で日本に着くまで涙が止まりませんでした。
しかし、私ができない理由を並べて止まっている間に子どもたちは大きくなってしまうので心を奮い立たせて飛行機の中で決意しました。
-デンマークでいちばん印象に残っているできごとはありますか?
宮下さん:森の幼稚園でのできごとがいちばん印象的でしたね。
木登りをして遊んでいた子どもたちのひとりが友だちに結構な高さから落とされちゃったんです。もし、日本で同じようなことが起こったら、その子どもはおそらく先生のもとへ駆けつけて、先生が間に入り問題解決をさせると思うんです。
けれど、その子どもは先生を探すわけでもなく、近くでその状況を見ていた私に助けを求めるわけでもなく、こちらを見向きもしないで言わなきゃいけないこと、伝えたいことを自分で考えて、自分の口から「ちょっとやめてよ!」って木の上にいる友だちにまっすぐ伝えていたんです。
デンマークの子どもたちは自分で考えて自分たちで問題解決に向かうんだなぁって、その光景がすごく印象的でしたね。
■子どももおとなもみんなで「自分のどまんなかで生きる」世界を創る
教室の風景
-では、帰国してから実際に開校するまでのお話を教えてください。
宮下さん:学校を創るうえで、まず私にできることは私の思いやエネルギーをみんなに伝えることだと思い、まず仲間探しを始めました。
会う人会う人みんなに「私学校を創るんです!」と話をして周りましたが、私自身こだわりも強いためか簡単には見つかりませんでした。(笑)
-それはそうですよね!学校を創るって言われてもイメージがわかないですよね!
宮下さん:そうですね(笑)。でも2017年の大晦日にこの思いをぶつけたブログを始めたら、それがきっかけとなり少しずつ仲間が集まり始めました。
-では、そこから学校のプロジェクトが本格的に始まっていったんですね。
宮下さん:そうですね。私たちの学校は教育畑の人たちだけで創るのではなく、まったく違う分野の人たちを巻きこんでさまざまな視点の意見を取り入れたいので、プロジェクト化したいということを伝えたんです。
そして、2018年3月21日に「自分のどまんなかで生きる」をコンセプトにした、ヒミツキチ森学園プロジェクトチームが発足しました。
-ヒミツキチ森学園プロジェクトチームでは、どのようなことをされてきたのですか?
宮下さん:毎月「教育のミライ」というイベントを開催してきました。そこでは、教育についてだけではなく、「自分のどまんなかで生きる」とはどういうことかということをメッセージとして伝えることに注力しました。
このイベントを通して私たちの思いに共感してくれた300名の方が学校創りに協力してくれる仲間になってくれて、そこからいろいろな部活や季節スクールのチームが生まれていきました。
-すごいですね!宮下さんの思いに共感する方がこんなにもいたんですね!
宮下さん:そうですね。なんで仲間になろうと思ってくれたの?と聞くと、いっしょに学校を創りたいという人と同数くらい、「自分のどまんなかで生きる」っていうコンセプトに共感してくれた人たちがいました。
仲間になってくれたみんなは、私が統括しなくても舎づくり部、カリキュラム部、デザイン部、クラファン部などの部活を創って自走してどんどんおもしろいものを生み出していってくれました。
たとえば、裏庭を畑にする計画があって、Facebookの非公開ページに投稿すると「畑やるんだって?苗持ってきたよ」とか、ここが壊れた!と書くとメンバーが来て修理したりDIYをしてくれたりとか、みんなで集まって壁を塗ったりとか、本棚とかDIYもプロジェクトチームのみんなで作ったり、自分の好きな、どまんなかだって思ってることをみんなもち寄ってやってくれるんです。
-この学校は300名以上のおとなたちの自分を表現してどまんなかを生きるを実現する場でもあるんですね。
宮下さん:そうですね。みんな自分のどまんなかを生きたほうが楽しいんだと思います。
■2020年4月についに葉山でヒミツキチ森学園を開校
ヒミツキチ森学園の外観。葉山の古民家をプロジェクトメンバーでリフォームしたそうです。
-2020年4月に開校したヒミツキチ森学園は、コロナ禍での開校となったわけですが、スケジュールの変更などお考えになられませんでしたか?
宮下さん:私のなかで2020年4月の開校だけは絶対に譲れないことだったんですよね。2020年は私だけでなく多くの人の「意味のある1年」になるという確信があったので、時間をかけて準備したいとか、いろいろな意見もありましたがここだけは絶対に譲れませんでした。
だから、最後はもうバタバタでしたね(笑)。この場所もぎりぎりに決まりましたから。
-この場所にはこだわりがあったのですか?
宮下さん:学校を創ると決めたときに、漠然と海と森が近くにある場所がいいなと考えて、直感的に浮かんできた場所が逗子だったんです。
そして、紆余曲折があって葉山町に決まりました。最終的には、神奈川県の三浦半島から新しい教育のうねりが起こっているぞと注目してもらえるようになるといいなと思いますね。
-ヒミツキチ森学園はどんな学校なんですか?
宮下さん:「生きる力」を育むオルタナティブスクールです。ヒミツキチ森学園はオランダのイエナプランをベースにデンマーク教育の特色やエッセンスを交えて、自分のどまんなかで生きるための力を体感を通して学んでいくような学校です。
授業中の様子
-では、ヒミツキチ森学園に通いたいと思ったら、公立小学校に在籍せずに入学することになるのですか?
宮下さん:現在は週5日コースと週2日コースの2コースがあって、どちらも子どもたちの校区の小学校に在籍しながらヒミツキチ森学園に通うことが可能です。
それぞれの小学校の校長先生と信頼関係を築いて、公立小学校に在籍しながらヒミツキチ森学園に通いたい!と通いたい事情も伝えてもらい校長先生にも理解していただいたうえでこの関係が成り立ちます。
週2日コースの場合は、週3日はそれぞれ在籍している小学校に通いながら、週2日はヒミツキチ森学園に通うこともできます。
-なぜふたつのコースを作ったのですか?
宮下さん:子どもの成長過程において小学生年代の時間ってとても大切だと思っています。
いろいろな選択肢があっていいと思うし、公立の小学校やホームスクーリングと並行してヒミツキチ森学園に通えたりしたらいいなと。
-いろいろな選択肢を増やす意味でも週2日コースを作られたということなんですね。
宮下さん:そうですね!公立小学校にすてきな部分はたくさんあるし、ヒミツキチ森学園より公立小学校のほうが向いている子どもたちもたくさんいると思います。
私たちは公教育を否定してオルタナティブスクールを創ったわけではないので。
いろいろ融合しながら協力して進んでいけたらと思っています。
-お話を聞いていて気になったことは、既存の小学校のカリキュラムとは違うものを行っているんですよね?そうなると親御さんとしては心配かなと思ってしまいます。
宮下さん:そのことは、すごくよく聞かれます。でもじつはヒミツキチ森学園も公立の小学校と同じ学習指導要領を使っているんです。要はそれをどう使うかということ。学習指導要領を端から端まで読み解いたアプローチが違うだけなので、最終的には同じところにたどりつくように学習指導要領を使っているんです。
-でも、学習指導要領を使った新しいアプローチを考えるのはかなり大変だったのではないですか?
宮下さん:そこは、教育の専門家たちが集まったカリキュラム部のみんなが中心に作ってくれました。1年生から6年生までの学習指導要領をすべて読み解いて、再構築する作業は大変でしたが、オランダのイエナプランやデンマークの教育のエッセンスとの掛け合わせはとても楽しいものでした。
-カリキュラム部の方々も、それぞれが理想とする学習指導要領があったということですよね?
宮下さん:そうだと思います。だから、こんなのあったらいいのになと思うことは、どんどんカリキュラムに入れてもらいました。
大部分はメンバーに託しながら、私は「自分のどまんなかで生きる」といういちばん大きいコンセプトと、「共創」「対話」「リフレクション(振り返り)」という大切にしている要素がしっかりと織り込まれているカリキュラムになっているかを確認しました。
-最後になりますが、今後このヒミツキチ森学園をどのようにしていきたいですか?
ヒミツキチ森学園のビジョンを語る宮下さん
宮下さん:今後のビジョンについてキーワードはふたつあって、ひとつは何度も言っていることですが、“自分のどまんなかで生きる”ということ。自分の生きたい生き方ってこれだなって自分が思えることをみんながお互いに無理をしなくても選べる世界になったらいいなと思っています。
もうひとつは、抽象的でなかなか理解されにくいことなんですが、愛とギフトの世界を創りたいと思っています。
-宮下さんが思い描く愛とギフトの世界とはどのような世界ですか?
宮下さん:“自分のどまんなか”でやっていることが誰かのためになり、それに対してまた自分のどまんなかでお返ししたくなって、そういう共創の空気のなかでお互いが幸せな気持ちになる循環が生まれる世界です!
誰かの得意は誰かの苦手、誰かの苦手は誰かの得意。
みんな自分のどまんなかで生きることは、それだけで「ギフト」な生き方につながると思うんです。
でも、これを実現するのは途方もない道のりなので、まずはヒミツキチ森学園というベースキャンプにさまざまな人たちが集まってきて、ここがうねりの出発点になればいいなと思っています。
-宮下さんの冒険はまだまだ続きますね!本日はありがとうございました!
編集部のひとこと

ライター
ゆめちゃん
「当たり前」を変える挑戦を続ける宮下さんの情熱は、たくさんの人たちの心に火をつけました。三浦半島からはじまった彼女の挑戦が、本当に何かを変えるきっかけになるかもしれません。
未来はわからないからこそ、行動すれば良い方に変わるはずだと考えて行動する人たちの後ろに新しい道ができるのだとすれば、彼女たちの後ろにもすでに新しい道が少しずつできているのかもしれません。
ヒミツキチ森学園にご興味ある方は、一度見学に行かれてみてはいかがでしょうか?新しい学校の形に驚きますよ!
- ヒミツキチ森学園公式ホームページ:
- https://himitsukichi-school.com/
- ヒミツキチ森学園公式Facebook:
- https://www.facebook.com/himitsukichimorigakuen/
編集部メンバー
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