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輝く男性インタビュー

世の中は捨てたもんじゃない!子どもの問題に取り組む特定非営利活動法人子どもセンターてんぽ事務局長の高橋温(たかはしあつし)さんインタビュー

子どもセンターてんぽ事務局長の高橋温さん

子どもセンターてんぽ事務局長の高橋さんは、弁護士としてさまざまな子どもの事案を担当されてきたなかで、家庭に居場所がない子どもたちをたくさん見てきたそうです。そんな子どもたちの居場所をつくろうと平成19年から始められた活動についてお話を聞いてきました。

そして、高橋さんはこの活動をとおしてさまざまな問題と直面していく一方で、世の中への信頼が高まり、人の善意を信じられるようになったとおっしゃいます。

厳しい現実を変えようと活動するなかで、多くの人の助けがあってここまで来られたと語る高橋さんのインタビューです。

子どもの問題は考えさせられることが多いですが、最後は希望が見えます!
ぜひ、お楽しみください。

聞き手:たいせつじかん編集部

 

■活動を始めた理由は弁護士としての現実体験

弁護士としての体験からこの活動を開始したと語る高橋さん

-まずは、子どもシェルターてんぽの活動内容を教えてください。

高橋さん:子どもセンターてんぽは10代後半の子どもを対象とした「子どものシェルター運営事業」、「自立援助ホーム運営事業」、「居場所のない子どもの電話相談事業」の3つの事業をしています。

各事業の役割についてですが、家庭に居場所がない子どもがとりあえず逃げる場所となるのが「子どもシェルター」で、そのあと、落ち着いて新しい生活への道筋をつける場所が「自立援助ホーム」としています。

そして、それぞれの問い合わせ相談窓口となっているのが「居場所のない子どもの電話相談事業」となっております。

この活動はいつからスタートされたのですか?

高橋さん:子どもシェルターから始めたのですが、開所は平成19年4月ですね。その前に準備会として2年程度は準備をしました。

そして、シェルターを始めたことで入所希望者からの電話相談があるので電話相談を開始し、その後の生活援助のために自立援助ホームを始めたという流れです。

-実際は、高橋さんはどういう経緯でこの活動を始められたのですか?

高橋さん:弁護士として活動しているなかで、子どもの事案を扱うことが多かったんです。私の現実体験として、居場所がなくて困っている子どもを何人か見ていたんです。

一例として、私を含めて親御さんと子どもの3人で夜どおし話をして、夜中3時になっても親が子どもに家に帰ってくるなと言い続けている場面にであったとき、この子を連れて帰ってあげられる場所があったらどれだけいいだろうかと思った経験があります。

子どもの立場になって考えれば、その場から逃げて自暴自棄な生活をすることだってできたはずなんです。
でも、逃げなかったということは子どもはなんとかして、ちゃんとした生活をしたかったはずなんです。
でも、家には帰れないわけです。本当に可哀想ですよね。

しかし、当時は子どもシェルター自体が存在していなかったので、そういった子どもは行くところがなかったわけです。
なかには、夜の街に出ていき、犯罪の加害者になったり被害者になったりする子どももいました。これをどうにかして止めたいと思いました。

そんななかで東京に子どもシェルターがつくられたという話を聞いて、もうやるしかないと思いました。

子どもシェルターについて語る高橋さん

家に帰れない、居場所がない子どもがいるという問題を実感することが少ないように感じるのですが、現実問題として多く存在しているのでしょうか?

高橋さん:こういった問題を抱えている子どもが、私は家に居場所がないです、とプラカードをもって立っているということはありえないわけですから、一般の方が目にしたり話を聞いたりすることは少ないだろうと思います。

また、もうひとつ見えにくくしている理由として、家に居場所がない子どもの多くは親からなにがしかの虐待のような行為を受けている場合が多いわけです。

いちばん身近なおとなである親から傷つけられているわけですから、基本的におとなを信用していません。そうなれば、当然ですがこの問題を誰かに相談するのはハードルが高いわけですから、なかなか見えてこないんです。

私は、たまたまそういう問題を抱えている子どもが多く存在していることを弁護士として知ることができたので、シェルターを始めたわけです。

少年事件件数は減っていると聞きますが、そのこととこの問題の相関関係はありますか?

高橋さん:少年事件の件数は大幅に減っています。それは数字でも明確になっています。

具体的に見ても、最近は暴走族と言われるような集団は神奈川県ではほぼ存在しませんし、夜の公園でたむろっているような集団も減っています。
でも、一方ではそういった集団が帰る家のない子どもたちの居場所になっていたことも否定できない事実であったろうと思います。

別に悪いことをしている集団を肯定しているわけではありませんが、少なくとも、そういう子どもたちは家庭に問題を抱えているのかもしれないと認識しやすかったわけです。それが今はないわけですから、問題がもっと内側に隠れてしまったと思います。

ですから、少年事件が減ったからといって、並行してこの問題が解決に向かっていると考えることはむずかしいでしょうね。

では、実際にこういった問題に対する相談は増えていますか?

高橋さん:そうですね。電話相談の件数は増えています。
しかし、虐待や居場所のない子どもの問題が今になって増えたのかというとそうではないと思っているんです。

たとえば、私が子どものころにはそういう問題がなかったのかと考えると、なかったのではなく当事者の子どもが言えなかっただけなのではないかと思います。
今のように相談する受け皿が社会になかったのでがまんをしていただけだったんだろうと思います。

私は児童相談所の仕事にかかわることもあるのですが、加害者となった親御さんの話を聞くと、自分が子どものときはそんな助けはなかった、私だって大変だったとおっしゃることがしばしばあります。
その方が40代だとすれば30年前の話をしていることになるので、当時からあったと考えることができますよね。

なるほど、高橋さんのようにこの問題に焦点をあてた活動が広まってきたことで、問題が表に出てくるようになり数が増えているように見えているということですね。

高橋さん:そうだろうと思います。

 

■児童相談所との役割分担を考える

児童相談所との役割分担を重視すると語る高橋さん

-10代後半の子どもたちを対象にしているというお話でしたが、それはなぜなのですか?

高橋さん:ふたつ理由があります。ひとつめは児童相談所との役割分担をしているということです。ご存じのとおり、児童虐待が増加傾向にあるなかで、彼らの優先順位は必然的に命の危険性が高い方に向かうわけです。

0歳と15歳の子どもが同じ力で殴られたとしたら当然0歳の子どもの方が命の危険性が高いわけです。言い方は悪いですが中高生の相談に対してきめ細かいケアができていないという問題が現実としてあります。

ですから、民間の私たちが、中高生の問題を抱えている子どもたちに対してできることをやろうと考えているということですね。

もうひとつは、私たちのような民間団体が子どもの保護をする場合は本人の意思が非常に大事になります。
児童相談所は、行政権限がありますので親の承諾をとることなく子どもを保護することができますが、私たちは親御さんから子どもを返せと言われた場合に対応するすべとして、ご本人の意思のもとお預かりしているとしなければほかに明確な理由が立たないんですよね。

そういった理由から、10代後半の子どもを対象にしています。

親御さんがクレームを言ってくるようなことはあるのですか?

高橋さん:多いですね。てんぽの場合は、シェルターに保護した子どもひとりずつに対して基本的にふたりの弁護士が担当としてつくのですが、その弁護士に抗議があったり、それを飛び越えてシェルターを運営している私たちのところへ直談判にいらっしゃったりする場合などもあります。

ーなるほど、子どもが感じていることと親御さんが感じていることに差異があるんですね。

高橋さん:そうですね。

「ほかの家庭と比べても、親としてやるべきことをやっている。殴ったのは子どもが約束を破ったからだ。私は悪くない。なぜ、私だけが責められなければいけないのだ」という言い方をされる方は多いですね。

でも、そうなるとどちらが正しいのかという判断が必要ですね。

高橋さん:一般的に、ケンカをしている親子はたくさんいるわけです。1日くらい家出をすることがあったとしても、子どもは家に帰りますよね。それはどんなにケンカをしていても、家が安心で安全であてにできると子どもが思っているからですよね。

シェルターに来たいという子どもには、なぜ入りたいのか聞き、シェルターに入ると不便なことも増えるよと説明をします。シェルターに入ったからといってバラ色の生活が待っているわけではないということをしっかりと伝えます。

それでも親元に戻らないという子どもの決断には、計り知れない重さがあると思っています。親と子のどちらが正しいかというよりも、子ども自身のしっかりとした考えを尊重するという姿勢で運営しています。

なるほど、だから自分の意思をしっかりと口にできる10代後半の子どもである必要があるんですね。では、シェルターに滞在できる期間はどのくらいなのですか?

高橋さん:子どもたちには、入所するときに2カ月を目途に次に行く先を見つけようねという話をします。現実問題として、2カ月では見つからないという子どももいますので、その場合は見つかるまで延長します。

そうなんですね!でも、2カ月を目途にするとは意外と短いですね!

高橋さん:この話をすると多くの方がそのような感想をもたれますが、10代後半の子どもにとっての2カ月はとても濃密だと考えています。

私たちも、ようやく居場所を見つけた子どもたちをゆっくり休ませてあげたいと思う一方で、2カ月をシェルターという閉ざされた場所で過ごすということ自体がその子の成長を考えると、大きなロスになると考えているので、バランスをとってできるだけ早く次の生活を始められるように支援したいと考えています。

 

■国に働きかけることで制度を変えてきた

この活動は制度が何もない状態からのスタートだっという

この活動の資金はどのようにまかなっているのですか?

高橋さん:自立援助ホームはもともと児童福祉法の制度になっていましたが、子どもシェルターは最初は民間の活動でした。シェルターについて言うと、てんぽの場合は平成25年度から児童自立生活援助事業として認定されたので、行政から措置費が支給されています。
シェルターも自立援助ホームも足りない分の運営費は、NPO団体として会員のみなさまからいただいている会費や、企業・個人等からのご寄付、あとは入所する子どもから月額30,000円の利用料をお支払いいただくというルールにしています。

利用料もあるんですね。

高橋さん:ルール上はありますが、シェルターの場合は基本的には子ども本人から利用料を払ってもらうことはまずありません。貯金があったとしても、その後の生活のために必要な資金となりますのでそこから払ってもらうケースは少なく、行政と相談して生活保護をつけたり、そのほかの方法を探したりします。

スタート当初は資金集めに必死でした。全国で子どもシェルターを運営している団体が集まって、国に働きかけた結果、子どもシェルターが公的な制度になって、完全な民間事業だったものが、行政からの支援を受けられるようになりました。

今の状況は、全国の同じような活動をしている人たちの交渉の賜物なんです。

子どもシェルターを運営しながら国との交渉を続けて制度を作ってきたんですね!では、の現状は高橋さんが描く理想を100点とした場合に何点まで到達していますか?

高橋さん:そうですねぇ、60点くらいでしょうか。まだまだ、行政にやってほしいことはたくさんあります!

今現在で、この子どもシェルターと自立援助ホームはどのくらいの数があるのですか?

高橋さん:子どもシェルターは全国18カ所、自立援助ホームはおそらく全国150カ所以上だろうと思います。

子どもシェルターは、弁護士が活動を支える必要があるのでまだまだ数が足りていないです。せめて、都道府県にひとつは欲しいよねという話をしているところです。

神奈川県は、こういった活動については他県よりも進んでいるのでしょうか?

高橋さん:そうですね。全国平均と比較すれば進んでいると言えると思います。

 

■世の中は捨てたものではない。そのことを子どもたちに伝えたい。

高橋さんの描く未来は明るい

この活動は、つらく悲しい現実を見ることも多いかと思いますが、それでも続けられてきた今、子どもたちに伝えたいことはありますか?

高橋さん:私自身はこの活動をとおして、社会を信頼する気持ちが大幅に上がったと感じています。

そうなんですね!それはなぜですか?

高橋さん:この活動のお話をすると多くの方が関心を寄せてくれますし、ボランティアの応募も寄付もすごくたくさんの方からいただけているんです。多くの方が自分に何かできることはないのかと考えてくれていることが分かります。

その姿を見て、活動を始める以前よりも人の善意を信じられるようになりました。

すごくいいお話ですね!高橋さんが世の中は捨てたものではないと心から信じて子どもたちに伝えることができるわけですね!

高橋さん:そうなんですよね。この活動でもっとも大切なことは、子どもからおとなに変わっていく過程を生きている10代後半の子どもたちに、社会は信頼できる、世の中は捨てたものじゃないということをしっかりと伝えることだと考えています。

-高橋さん、今日はありがとうございました。

編集部のひとこと

ライター

ゆめちゃん

当たり前だと考えていた自分ではない誰かを信頼して、悩みを相談するという行為自体ができずに苦しんでいる子どもがたくさんいる現実を知りました。

高橋さんは、このことをもっと取り上げて欲しいとおっしゃいました。私自身もこのインタビューまでこの現実を知りませんでしたから、この記事が多くの方に届くといいなと思います。

インタビューの最後に高橋さんから世の中は捨てたものではないという言葉を聞けてとてもチカラが沸いたインタビューでした。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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