輝く男性インタビュー
- 横浜古参の靴修理店「ハドソン靴店」の店主 村上塁(むらかみるい)さんインタビュー
ハドソン靴店2代目店主の村上塁さん
「やってみないと分からない」という信念のもと、大学を中退して、紳士靴職人の世界へ挑戦した村上塁さん。
靴の専門学校時代にハドソン靴店の先代店主の佐藤正利さんと出会い、今ではハドソン靴店の2代目店主として奮闘中です。
靴職人として全国から寄せられるさまざまな靴の修理をされている村上さんに、靴修理の奥深さについてお話を聞いてきました。
先代の意志を受け継ぎながらこれからも歩み続ける靴職人の物語をぜひお楽しみください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■靴修理を断られた靴が全国に存在している
全国には修理を断られる靴が存在していることに気付いたという村上さん
-横浜古参の靴修理店【ハドソン靴店】について教えてください。
村上さん:ハドソン靴店は1961年に私の師匠である先代の佐藤さんが始めた紳士靴店です。しかし、佐藤さんの奥様のお話では1961年創業かどうかも定かではないようです。
身近な人にも自分の生い立ちをあまり話さない方が多い、職人さんらしいエピソードですよね。
店先には創業年である1961という数字が記されている
-村上さんはいつからハドソン靴店で働くようになったのですか?
村上さん:東日本大震災があった日からちょうど2カ月後の2011年5月11日に2代目として私が受け継ぎました。今年で10年目になります。
私は、もともと靴を作る仕事をしていましたが靴の修理は、ハドソン靴を受け継いでから始めました。世間では靴が作れれば修理もできるんでしょ?と思われがちですけれど、技術も道具もまったく別物なので最初の1年目は分からないことばかりの毎日でした。
-ここではどういう靴を修理することが多いのですか?
村上さん:最初はよく見かける靴修理店と変わらない値段で変わらない修理をしていました。ただ、靴の修理業界は立地9割、腕1割と言われるほど立地が大事なんです。
しかし、ここはお世辞にも立地が良いとは言えず、ましてやスニーカーブームもやってきて、どうしようかと考えた時期がありました。
そんなときに、修理を断られた靴って全国にどのくらいあるのかな?とふと疑問に思い、調べてみました。そうしたら、意外とあることがわかったんですね。
全国から修理依頼を受けている靴の数々
-靴修理って断られることがあるのですか?
村上さん:靴のメーカーさんはほかのブランドの靴修理を断ったり、靴修理店でも靴の種類によっては現場では対応できなくて断ったりするケースがあるんです。
たくさんの修理をしてもらえない靴があることが分かったので、ほかの修理屋さんで断られた靴を修理します!と打ち出すことにしてみました。
-それから反響はどうでしたか?
村上さん:少しずつですが、断られた靴を持ってきていただけるようになりましたね。
そして、「本当に修理してもらえたよ!」と、だんだんクチコミで広まっていったという感じです。
でも、断られるような靴の修理って時間も手間もかかるので、とても大変な作業なんです。ですから、少しずつ形態を変えて、今では日本で一番高い靴の修理屋さんになりました(笑)。
■とりあえずやってみる!それでダメだったらしかたがない。
信念を貫き靴職人業界に飛び込んだという村上さん
-今では靴職人が営む横浜古参の靴修理店ハドソン靴店の店主としてご活躍されていますが、なぜ靴職人になろうと思ったのですか?
村上さん:紳士靴の靴職人になる人は靴が大好きな人か、手仕事が好きな人が多いような気がしているのですが、私は後者です。
-靴が好きであったわけでなければ、なおさらなぜ靴だったんですか?
村上さん:大学生だったときに、さまざまな人たちと接して自分がやりたいことをやったらいいんだと気づいたんです。そこから、自分がこの先の人生で本当にやりたいことは何なのかを真剣に考えるようなったんです。
そんなときに、テレビで靴職人の映像が流れてきて、興味を持ったことがきっかけです。
初めはインターネットで調べてみたのですが、思ったように情報収集ができなかったので、やってみるしかないと思い、大学を中退して靴の専門学校に飛び込みました。
-大学を中退して飛び込んでしまったんですね!靴の専門学校では、どんなことを勉強するのですか?
村上さん:その学校のカリキュラムが企画・デザイナーを育成するものだったので、靴全般の製法や材料のレクチャーなどは浅く広くの基礎知識を学ぶようなものでした。
当時は専門学校に通いながら、ハドソン靴店でも修業をしていたんですけど、カリキュラムが合わなかったのとハドソン靴店に本腰を入れるために、結局専門学校も中退しました。
それから、佐藤さん以外の方にも教えていただいたり、中退した専門学校の講師をしたり、靴業界の企業に勤めたりして、現在に至ります。
-講師もされていたんですか?いろいろな経験を経てここにいらっしゃるんですね。
村上さん:講師をしていたとき生徒に「学校を辞めた方が先生みたいな職人になれますか?」ってよく質問されましたよ(笑)。
生徒からの質問で頭を抱えることもあったと笑う村上さん
-辞めた方がいいですか?という質問はなかなか斬新ですね(笑)。
村上さん:私と同じことをしたからって同じようになれるとは限らないですからね。ただ、自分の経験に基づいて、若い子たちには「とにかくチャレンジしてみなよ」とアドバイスはしていました。
もちろん、経験上やめた方がいいと思うことに関しては、別の道を示していましたけどね。
■月給3万円を経験したからこそ見える光があった。
ハドソン靴店を受け継ぐことを決意したころのお話をする村上さん
-先代の佐藤さんからは、直接継いでほしいと言われたのですか?
村上さん:先代は病気で亡くなられたので、直接ではなく奥様から跡継ぎを探していると言われました。私のほかにも兄弟子がたくさんいたのでその方たちにも相談したみたいですが、継いでもらえなかったみたいです。やっぱり、この立地ではむずかしいとみんなが思っていたんでしょうね。
-でも、その状況でも村上さんは継がれましたよね?立地については何も思わなかったのですか?
村上さん:もちろん思いましたよ。それに大震災があった年とも被っていましたからね。スタートする時期としては最悪だったと思います。
先代の佐藤さんが使われていた修理工具も受け継いでいる
けれど、そのころ勤めていた企業の月給が3万円前後という感じでした。
父にも心配されていて、このまま続けようか悩んでいた時期とも重なっていましたので自分の信念を貫いてとりあえずやってみよう精神で継がせてもらうことにしました。
-最悪な状態からのスタートであったにも関わらず、今でも続けていられる要因は何だとお考えですか?
村上さん:これまで辛い思いもたくさんしてきたので、簡単には辞めたくなかったんですよね。あと、初月の売上が3万円ぐらいだったんです。月給3万円のころから比べれば光しかないなと思いましたね(笑)。
-今もこうしてハドソン靴店があるのは、村上さんが信念を貫いて決断してきた賜物なんですね。
■ハドソン靴店の新しい挑戦は続く
専門学校時代の同級生とともに靴修理に励んでいる
-ハドソン靴店の今後の展開を教えてください。
村上さん:今は、「HUDSONS」という新しいブランドをスタートさせるために準備しています。このブランドは、伝統的な技術とモダンなものを融合し、ひとつのデザインで152サイズあるオーダーメイド靴の発信をしていく予定です。
152サイズ分の木型は作り終えたので、あとはサンプル靴を作るのみです。
-152サイズですか?頭がパニックです。詳しく説明してもらえますか?(笑)
村上さん:152サイズの靴を簡単に説明すると「24.0cm、24.5cm、25.0cm」これで3サイズとなりますが、これをひとつのデザインで152サイズ作るということです。
とくにフルオーダーメイドの革靴だと、足の形や大きさを測ってから作ったとしても、できあがりがイメージサンプルと違うということが起こることがあるんです。
なので、実際に履いてみて自分の足やファッションに合っているかどうかを確かめてから、納得して注文できるように152サイズのサンプル靴を作ることにしました。
カーボン材を使用した革製シューズ
これって、お金も手間もかかることなので、誰もやりたがらないと思います。でも、どうなるかやってみないと分からないのでやってみることにしました(笑)。
-これはとてもおもしろい発想ですね。このセミオーダーメイド靴はどのように注文できるのですか?
村上さん:このハドソン靴店から約100m離れた場所にHUDSONS販売用のお店を構えたので、そこで注文ができます。そのお店もすでに靴以外は準備が整っています。
-靴を最後に準備するのですか?
村上さん:靴づくりをするうえでやりがちなのは、最初に靴を作ってしまうことですよね。でも、必ずこれをどう売ろうかな?という問題がそのあとに出てくるんです。
しっかりとした、コンセプトを作ってから靴を作ることが大切だと思っています。そうすることで、流行りすたりに影響されない靴づくりができると思います。
ハイブランドや海外の老舗メーカーさんの凄いところはどんな新作を出しても、たとえデザイナーさんが変わったとしても、ひと目見るだけでどこのブランドの物か分かるんですよ。
なぜなら、コンセプトを主軸に置いて物づくりをしているからだと思います。幹が太いと枝を作ってもブレが少ないからです。
新店舗ではお客様の足に合った靴を注文できる
だから、私も”post traditionalmodern”という言葉をコンセプトに外堀から固めて最後に靴を作ることに決めました。
-HUDSONSの由来はハドソン靴店ですか?
村上さん:そうですね、HUDSONSはこのハドソン靴店から名付けています。私の次に誰かが継いだとしてもコンセプトはブレないですし、もし仮にブランド名に私の名前が入っていたりすると、受け継ぐ人にプレッシャーがかかるじゃないですか(笑)。
セミオーダー靴の新ブランドHUDSONS(ハドソンズ)
理想は、私がいなくなったとしても、誰かが意志を継いでずっと続いていくようなブランドになっていくことです。
-新しい挑戦が続きますね。今日はありがとうございました!
編集部のひとこと

ライター
ゆめちゃん
誰にでも思い入れのある靴ってありますよね。
もし、ほかの修理店で断られた靴があったら、ぜひ持って行ってみてください。
そして、村上さんやハドソン靴店の意志が詰まった、新店舗HUDSONSは9月OPENを目途に計画を立てていらっしゃるようです。
世界が苦しい状況のなか、みなさんに元気や希望を与えられるように日々奮闘されています。
2020年6月30日までクラウドファンディングもされているようですので、そちらも見てみてくださいね。
- ハドソン靴店公式ホームページ:
- https://www.hudsonkutsuten.com/
- 【HUDSONS】カーボン入り革靴のセミオーダー店:
- https://readyfor.jp/projects/hudsonkutsuten
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。 |
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好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。 |