輝く男性インタビュー
- 【後編】導かれるように歩みだした社会福祉の道。 子どもたちの居場所づくりを通して、福祉課題の解決に取り組む NPO法人サードプレイス代表 須田洋平さんインタビュー
横浜市鶴見区の子育て支援の場において、バイタリティに富んだその活動で存在感をしめすNPO法人サードプレイス代表 須田洋平さんへのインタビュー後編です。
前編では、法人が運営する地区センカフェへの思いや実践の話から、子どもの支援の現場では、“身近なおとなとの関係性”の構築がとても重要であることを知りました。また、須田さんが子どもにフォーカスした支援にたどり着くまでの経緯をうかがううちに、須田さんの人柄や物ごとの捉え方や進め方などが少しずつ見えてきました。
今回は、須田さんのソーシャルワークに注目しながら、新たにスタートさせた地域連携の取り組みについてお話をうかがいます。須田さんの思いや実践を通して、次世代のリーダーの姿が浮かび上がってきました!
■新たなステージへ―230(つみれ)プロジェクトの始動
―法人としては“新拠点を構える”という新しいステージへチャレンジが始まっていますね。
須田さん:はい。「鶴見の多文化・多世代の共創拠点」を作るために、“230(つみれ)プロジェクト”という実行委員を組織しました。2020年4月に、京急鶴見駅近くにカフェを併設した新拠点をオープンさせます。
―なぜ、これまでの活動拠点である寺尾ではなく、鶴見駅周辺に拠点を構えるのですか?
須田さん: じつは、230プロジェクトの新しい拠点ができる鶴見駅前地域は、地区センターがありません。地区センターでイベントを開催すると、この地域の子どもたちはバスに乗って参加しに来ていました。社協時代にそんな様子を見ていたので、「この地域には地区センターみたいな場所が必要だなぁ。」という思いは当時からありました。子どもがおとなと出会う場所、おとながイベントをうち、子どもの思い出に残る企画が開かれる、そんな場所が身近にあったほうがいい、それを作りたいと思い、鶴見駅の東口エリアで拠点を構えることにしました。
―この拠点の整備のために、まち普請コンテストにもチャレンジして、令和1年に提案が採択されたのですよね。まち普請コンテストは、自治会・町内会などとの信頼関係が重要だと聞きますが、須田さんは、もともとこの地域に地縁があり、地域からの理解や協力を得られたのですか?
須田さん:いいえ、特別な地縁や人脈、信頼関係があったわけではありません。社協の時代は、社協という看板だけで地域に入っていくことができたけれど、その看板がなくなったときに、わたしは“何者でもない”というところがわかりました。順を踏んで、紹介してくれる人がいるかいないかで、相手が自分の話の聞き方が全然違うことも実感しました。
何度か町内会長のところへ通わせていただき、プロジェクトについての説明やこんなことを実現したいという思いを話させていただきました。その後、町会の定例会にも参加させていただき、同じようにプロジェクトについての説明やこんなことを実現したいという思いを話させていただきました。しだいに、ご理解いただき、応援をいただけるようになりました。
―須田さんは人に思いを伝えるのが上手なのでしょうね。
須田さん:自分で自分のことを分析してみても、わたしは人と関わることがすごく苦手。こういう仕事をやっていますが(笑)。わたしのことをよく知っている人は「そうだよね。」というでしょうね。コミュニケーションが苦手で、取材などのように質問されれば答えられるのですが、雑談とかがほぼできない。
―ええ!そうなのですか?!気さくに話してもらっていると思ったのに、じつは完全にQ&Aモードでお話しされていたのですね・・・(涙)。
■「ソーシャルワーク」は、人との出会いの積み重ね
―「雑談ができない」「コミュニケーションが苦手」とおっしゃいますが、須田さんは人とのつながりづくりの名人だと思いました。
須田さん:“名人”は言いすぎだと思いますが(笑)。とにかく、場に参加すること、人に会いに行くことは惜しまずやっているつもりです。地区センター時代は、地域とつながりを作るのに、地区連合会にも顔を出していましたので、“なんかよく動いているやつ”という認識で、自治会長とか連合会長とかに知ってもらっていたと思います。だから、社協の職員を辞めた後も、いろいろなところで動いていると、「おお、須田君!」と地域の役員の方から声をかけていただけています。「あいつは地域で動くやつなのだな。」と認識してもらえているのかなと思っています。
―ふだん、地区センターの職員は、施設利用の受付などを行っているイメージがあるのですが、本来、地区センターの職員は、須田さんのように地域のイベントや会議など、外に出て活動しているものなのですか?
須田さん:基本的に、地区センターの業務は外に出る動きはありませんでした。わたしが中にいられないタイプだったということです(笑)。
―外に出て、何をしていたのですか?
須田さん:とにかくいろいろな人のところへ話を聞きに行きました。「この町はどういう町なのだろう?」というヒントを求めて、それこそ公園の赤ちゃんサークルとか、地区センター以外のところで集まっている老人クラブの集会や、市民農園のおじさんたちのところへ行って話を聞かせてもらっていました。
―“地域を知りたい!という動機があったようですが、そう思ったきっかけは何だったのでしょうか?
須田さん:自分ひとりの力って、たかが知れているなと思っていました。いっぱい協力者がいたほうがいい。ひとりの頭でイベントや企画を作っても限界があるから、ひとり、ふたりと、人が増えていったら、もっと楽しいことができるだろうという確信がありました。それを得るために人を探しに行った感じです。
―どんな人がいて、どんな協力を得られそうかという調査をしたのですね。
須田さん:はい。また、ニーズ調査の意味もありました。「この地域で何やったらいい?」と聞いて回りました。聞いた要望を形にしたら、その人たちにはニーズがあるわけですから参加するでしょう?そしたら、参加者数も稼げますよね(笑)。地域に必要なことは、地域の人が知っていると思っていますので。
―この地域がどんな地域で、どんなニーズを持っているのかということを調査する、まさにソーシャルワークですね。慣例に倣って業務を遂行するという選択もあったのかもしれませんが、自ら考え、経験と知識を生かして行動しているところがすばらしいですよね。
■「役割をデザインする」―これが、人が集まる場所の原点
―230プロジェクトは、NPO法人サードプレイスだけで運営しているのではないのですよね?
須田さん:はい。わたしたちの法人は、プロジェクトの事務局を担っていきますが、このプロジェクトの肝は、子どもの支援団体だけではなく、在留外国人や高齢者を支援する人、女性の活動団体、町内会、商店街、事業者など、さまざまな人が関わり、それぞれの思いを実現する場をみんなで作ろうとしているところです。
―人が増えるということは、思いの数も増えますよね。須田さんの“子ども支援”とは異なる支援のカタチを思い描く人も出てくるのではないでしょうか?
須田さん:だいたいの方向は同じでも、細かいところは多分違うでしょうね。たとえば、同じ子ども支援でも、わたしは支援が必要な子たちなどの個別支援(ケースワーク)をやりたいタイプなのですが、ほかのメンバーは、子どもたちが楽しんで参加できるイベントをやりたいという人もいます。同じ“子ども”という視点でも、いろいろなアプローチがあります。今回のように、地域とマッチするには、多世代に対する支援を求められます。子どもだけでなく、ママ、高齢者、若者など、特定の層の支援者と協働しながら、「多世代交流」を促していかなければなりません。ですから、仲間を募るとき、相手の活動をみて、こまかく自分と同じ方向性かどうかはあまり考えませんでした。
―「共創拠点」という共通の理念があっても、支援対象が多岐にわたると、ひとことで多世代交流といっても、誰にフォーカスを当てるかによって、支援のしかたも、交流のやりかたもずいぶん変わりますよね。
須田さん:わたしは正直、「多世代交流」という響きは好きではないのです。交流って促されてやるものかな?と思うのです。たとえば、「子どもたちが高齢者に歌を歌ってあげました」「高齢者といっしょにお菓子を食べて過ごしました」という活動は、一見、子どもたちと高齢者が交流しているように見えていますが、その後につながっているのかなと。子どもたち自身が望んで交流をしているのかなと、「動機」が気になっています。
―では、須田さんは、多世代交流はどうあるべきだと考えますか?
須田さん:そこにいる人に“役割”をデザインしてあげたら、交流は勝手に生まれると思っています。運営はこれからなので、あくまで想像ですが、多世代が同居するこの拠点のなかで、元気なおじいちゃんやおばあちゃんは、ちょっと子どもの面倒をみてもらう役割を担ってもらいます。赤ちゃんを抱っこしてもらうのでももいい。その間、ママたちはひと息つけますね。でも、じつは、視点を変えると赤ちゃんも“抱っこされるボランティア”という役割を担っていたりする。
どんな人でも、人の役に立つ機会を与える大切な存在になれるわけです。一人ひとりが役割をもつ、その役割がモチベーションとなる。これが、人の集まる場所の原点になり、相互に交流が生まれていくと思うのです。
―なるほど!拠点は、上手に役割をデザインする場所である必要があるのですね。
須田さん:はい。また、この拠点のなかで、“交流しにくる人”と“交流を作る人”の立場がずっと変わらないのも意味がない。お客さんで来ていた人が、いつのまにか「交流を作る人」になる逆転劇も生まれる場所になればいいと思います。
編集部のひとこと

編集長
かなさん
須田さんは、「人とのつながりを編みながら、目標へまっすぐ向かう活動家」。その軸にはいつも「確信」があります。この「確信」に刺激を受けて、たくさんの仲間たちが、須田さんのまわりに集っているのだなと思い、須田さんに次世代のリーダーの姿を重ねました。
きっと須田さんの「確信」通り、230プロジェクトの新拠点において、たくさんの人が自分の役割に出会い、新しい自分に気付く新たな居場所=「サードプレイス」になるだろうと思いました。
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。 |
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好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。 |