輝く男性インタビュー
- 【前編】子どもたちよ、「旅」に出よう! 旅を通して子どもの未来に世界の扉をひらく!NPO法人Connection of the Children代表 加藤功甫(こうすけ)さんインタビュー
2020年3月、全国の小中高校および特別支援校は、政府主導のもと緊急臨時休校に踏み切りました。学習機会の損失だけでなく、働く親は休業を余儀なくされるなど、経済的損失も広がっています。そんななか、横浜市西区東ヶ丘に拠点をおく、NPO法人Connection of the Children(以降、CoC [ココ])が、今回の休校措置で、子どもの預け先に困っているご家庭に対し、無償で子どもたちを預かるという支援を発表しました。
※CoCとは、「旅」をベースにした教育プログラムや国際交流プログラムを展開する団体で、「すべての子どもが広い視野をもち、だれもがやりたいことを実現できる社会」をめざしています。彼らの活動の中心には「CASACO(カサコ)」(横浜市西区東ヶ丘)という地域の“居場所”があり、2016年4月のグランドオープン以来、子ども、地域、世界が、「旅」というキーワードでつながり続けています。
今回は、CoCの代表である加藤功甫(こうすけ)さんに、CoCの取り組みや、その活動に至る原動力となった、加藤さんのパワフルでチャレンジングな経験についてお話をうかがいました!
聞き手:たいせつじかん編集部
※緊急臨時休校で子どもの預け先に困っている親のために打ち出した無料あずかり支援に関するお知らせ(https://www.facebook.com/150268172005865/posts/1126933667672639?sfns=1)
■社会を生き抜く力=「旅力(たびりょく)」を育てよう!
―本日はよろしくお願いします!
加藤さん:よろしくお願いします。
―さっそくですが、CoCには「教育事業」、「国際交流事業」、「糸つなぎ事業」と3つの事業の柱がありますね。どれもたいへん興味深いのですが、「教育事業」で展開しているサービス名称が非常にユニークで、聞いているだけでもワクワクしてくるのですが、どんな内容か教えていただけますか?
加藤さん:教育事業では、「知と挑戦の基地『ミライへのアソビバ』」、「タビノバ」、「タビターン」というプログラムを展開しています。これらは「子どもたちが「旅力(たびりょく)」を身に付けていくプログラムです。
―「旅力」ですか?
加藤さん:はい。旅力とは、旅することで身につく力で、「挑戦力」「適応力」「共感力」「教養力」「表現力」「解決力」に分類しています。
―確かに、知らない土地を旅すると、これらの力が必要な場面が絶対にありますよね。
加藤さん:旅をすると、自分の常識が通用しない世界の中で、自分のやりたいことをするにはどうしたらいいのか?言葉が通じない中で、ビザを取らないといけないぞ。飛行機が飛んでいないけど、明日までにあそこにいかないといけない!けんかじゃないけど、まくしたてられた!どうやってこの状況を打開すればいいのか!?・・・など、小さいところから大きいところまで、日々何かを解決しないといけないことが満載。インドとか、日本とはまったく違う文化圏に行くと、毎回「そうくるか・・・」ということが起きます(笑)主体的に旅に関われば、必然と旅力を発揮する場面に遭遇しますから、旅は、人を格段に成長させるのです。
―うーん、こうやって聞いていると、旅力って、旅先だけで発揮する力ではないように思えてきました。
加藤さん:はい。グローバル化、多様化が進む社会では、自ら考え、積極的に行動する力は不可欠です。つまり旅力は、社会を生き抜く力といえると思います。しかし、残念なことに、これらの力を学校の勉強だけで伝えきれません。だから、CoCのプログラムを通して、子どもたちにこの力を体感してほしいと思っています。
■ラテン民族はみんな陽気?!常識を疑う経験をしよう
CoCが運営するコミュニティスペース「CASACO(カサコ)」にて。2階は留学生が滞在するシェアハウス。
加藤さん:プログラムのひとつ「タビノバ」は、CoCに関わる旅人や留学生が講師となって教室を訪れ、ワークショップやゲームを通して学びと気づきを得るプログラムです。講師たちが実際の旅で得た経験を落とし込んだワークショップなので、子どもたちは講師たちが旅から得た学びを疑似体験します。
―具体的にどんな内容のワークショップがあったのですか?
加藤さん:タビノバは、横浜市の小学校で子どもたちの放課後の居場所として運営されている“はまっこふれあいスクール”や“放課後キッズクラブ”などで開催しているのですが、開催回によってテーマやゲストが違っているので、一例を挙げますね。たとえば、“海外からの旅行者向けのガイドブックを作る”という目的を設定した回もありました。実際に横浜駅西口を歩きながら、「どんなタイトルがいいのか」、「どんなことを紹介したらいいのか」など、子どもたちが海外から来た旅人の目線になってガイドブックを作り上げました。また、別の回では、イタリアの小学生との交流を通して、クリスマスカードや年賀状を送り合いました。年賀状には日本の文化として知られている“折り紙”作品を同封しました。
―折り紙は、世界ではアートとして捉えられていますよね。折り紙が、海外の人にはどんな風に映っているのかを知ると、子どもたちは、日常の中に日本が誇るべき文化がたくさんあることに気付きますね!
加藤さん:そうですね。また、言葉の通じない留学生たちと、言葉に頼らないコミュニケーション体験も重ねました。身振り手振りや表情だけで情報を伝えてミッションに取り組んだり、喜び・怒り・悲しみなどのさまざまな感情を外国語で伝えてみたり。日本語がわからない留学生とのコミュニケーションの中には、さまざまな気づきが生まれました。
―まさに旅先の体験ですね。海外で自分の気持ちや言いたいことが伝わった時は、とてもうれしかった記憶があります。
加藤さん:わかります(笑)。一方で、「タビターン」は実際の旅を通して旅力を磨くプログラムです。CoCの連携教育機関(ウズベキスタン・ウガンダ・アルゼンチン・タイ・ハンガリーなど)や国内の地域で、チームや個人でさまざまな取り組みを行います。とくに海外での活動では、多様な価値観のなかで、自ら考え、仲間と協力しながら、自分のミッションの達成をめざします。
―このタビターンではどんな経験が生まれましたか?
加藤さん:ある引っ込み思案の男の子が、高校生になって急に、「旅がしたい。」といってきたのです。「どんな旅がしたいの?」とたずねると、「コースケみたいにバックパックがしたい。」と言いました。そこでこのプログラムを利用して、タイの友人の家へ突撃したのですが、そこで彼は、現地の小学校で授業をさせてもらうことができました。
―すごい経験をしたのですね!!!
加藤さん:ふだんは授業を聞く側だった彼が、人に教えるという立場に立ってみて、いろんな試練もありました。そのたびに考えて、子どもたちの様子に合わせて、臨機応変に授業を変化させていきました。
―こんな大きな経験をした彼は、大きく変わったのではないですか?
加藤さん:そうですね。すごく変わったし、すごく話すようになりました。ただ、完全にアクティブになったのかというとそうではなくて、引っ込み思案の部分ももちながら、葛藤している様子も見えています。ただ、タビターンを通して、「自分の中にはこういう自分もいるのだな」と、知らなかった自分に気付くことができたのではないかな・・・と思います。
―ここでも「気づき」があるわけですね。
加藤さん:タビノバなど短い時間の講座や講演などで、人の考え方ががらりと変わることはあまりないと思うのですが、気づくというか、身の回りの常識に「疑い」をもってくれるということがあります。たとえば、初めて訪問する学校では「中国や韓国が嫌い!」という子がいます。わたしはそういうとき、敢えてその国の話をしたり、チャンスがあれば、その国からの留学生を連れていくようにしています。実際にその国の人から、「こんにちは」「がんばって勉強してるね、僕も日本語勉強しているよ。」「僕の国はこんな国だよ。」「日本のこういうところが大好きなんだ。」と聞くと、「ああ、そうなんだ。」とストンと伝わるところがあります。彼らとの交流を通して、ネットやニュースで聞いていたことが、「100パーセント正しくはない」かもしれない・・・と考えてみてくれるだけでもいいのかな、と思っています。
―本、映像、ネットニュースではくみ取れない「常識」に気付けるのでしょうね。
加藤さん:日本では「ラテン系の人は陽気」というイメージが強いですが、実際はみんなが陽気ということはない。日本人は生真面目といわれても、そうではない人もいるのと同じ。CoCのプログラムで、世界に触れる経験をしてみると、世界は意外に近くて、自分は世界の一員なのだということに気付くのです。
※CASACOについての記事はこちら
https://www.taisetsujikan.com/place/?p=149
■子どもが夢を見つける場所― 知と挑戦の基地『ミライへのアソビバ』
―教育事業の「知と挑戦の基地『ミライへのアソビバ』」について教えてください。
加藤さん:2019年4月からスタートした「知と挑戦の基地『ミライへのアソビバ(以降、アソビバ)」は、学童保育と捉えられる時があるのですが、どちらかというと塾の方が近い存在です。塾の目的が学力を上げることであるのに対して、アソビバは、子どもたちが夢を見つけ挑戦するのが目標です。
―具体的にどのような取り組みをしているのですか?
加藤さん:プログラムは、大きく“レクチャータイム”と“チャレンジタイム”“英語で遊ぼうタイム”で構成しています。レクチャーはちょっとかたい言い方ですが、いろいろな世界をみせる時間。単に話を聞くだけでなくて、体感する時間。タビノバでは、世界の“国”について中心的に話をしていますが、アソビバでは国の世界だけではなく、職業、経済、文化、宗教など我々が接しているすべてのモノを幅広くみせようとしています。ひとつでも、子どもたちの興味になればいいなと思ってやっています。
―これまでどのようなレクチャーがあったのですか?
加藤さん:そうですね、昨年は新天皇の即位があったので、「天皇って何?」という話をしました。子どもたちに質問します。「天皇がもっていて、国民がもっていないものは?」「では、その逆は?」とか。その次の回では、そもそも天皇のルーツって何なの?から日本書紀から古事記の話へ。歴代天皇を見てみると、ハチャメチャなことをしている天皇もいることがわかって、「こんな人が天皇でいいのか??」という話も出てきました。
また別の機会には、浜崎あゆみさんやいきものがかりなどを指導されている声楽の先生をお招きして、「声を出すとはどんなことか?」をテーマにレクチャーが進みました。子どもたちは、人間がいかにすぐれた楽器なのかということを体感した一日でした。
―なんてオモシロそうなのでしょう!おとなの私でも参加してみたい内容ですね!
加藤さん:そうですね(笑)。ボランティアの高校生や大学生も真剣に聞いています。いろいろな世界を知って、あれに興味がある、これに興味があるとなっていけばいいと思いますし、実際にこのレクチャーから夢の入り口をみつけた子もいます。その子は、ミャンマーで国際赤十字の人道支援をしているわたしの友人の話を聞いて、将来医者になって、アフリカの子どもたちを助けたいという夢をみつけました。
―このレクチャータイムで全員がやりたいことを見つけられるのでしょうか?
加藤さん:レクチャーで興味をもって突き進むこともありますが、話をしてだんだん性格が見えてきて、「これやってみたら?」と声をかけることもありますし、誰かがやっているのを見ていておもしろそうだな!となることもあります。そこで後半の“チャレンジタイム”に突入です。チャレンジタイムはアソビバでいちばん大事な時間で、自分が見つけた夢ややりたいことが、「どうしたらできるか。」「どうしたらなれるか。」を考えて実際に挑戦する時間です。このチャレンジタイムは毎回1時間ぐらいあるのですが、子どもたちも真剣、我々も真剣にサポートします。子どもたちには「失敗は誰も笑わない。でも、挑戦しないことをみんな笑うよ。」と伝えています。
―近頃、失敗を恐れて「失敗できない」子どもが多いと聞きます。ここでは失敗を重ねることが大事だと学ぶのですね。ちなみに、子どもたちはどんなことにチャレンジしているのですか?
加藤さん:以前、サバイバルのレクチャ―のときに全員で火おこしをしたのですが、次は自分たちだけで火打石で火をつけて、バーベキューまでやってみたいと企画をしてきた子がいます。結局それに引っ張られて、6人全員がその企画に挑戦することになりました。バーベキューをするのに必要な役割を考え、スーパーに行って値段調査をして予算を練り、もうけがどのくらい出るか計算する子まで出てきました(笑)誰かの夢や挑戦に便乗している中で挑戦する楽しさを感じることもあるし、自分では気づかなかった興味を見つけることもありますね。チャレンジタイムを見ていると、子どもたちが日々変わっていくのがよくわかります。チャレンジタイムのあと、“英語で遊ぼうタイム”で英語を中心に留学生とコミュニケーションをとって、アソビバの一日は終わります。
編集部のひとこと

編集長
かなさん
「旅」という、今までにない切り口で子どもたちと関わり続ける加藤さん。子どもたちは、「旅力」という力を手に入れ、その視線は自然と世界へ向いていくのでしょう。子どもたちが勇気をもってチャレンジができるのも、加藤さんたちおとなが、真剣にそのチャレンジと向き合ってくれているからなのだと思いました。後編では、加藤さんがCoCの活動をスタートさせた原点についてお話をうかがいます。
- CoCのホームページ:
- http://www.coc-i.org/
- CoCが運営するコミュニティスペース「CASACO」のホームページ:
- https://casaco.jp/
- CASACOのFacebookページ:
- https://www.facebook.com/casaco.azumagaoka
- ユーラシア大陸横断の旅の報告:
- http://coccoccoc.web.fc2.com/index.html
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。 |
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