パルシステムインタビュー
- 【後編】何をすればいいのだろう?一人ひとりができる「食」を通した支援とは フードバンクかながわ事務局長 藤田誠さん
前編では、公益財団法人フードバンクかながわ事務局長藤田さんに、フードバンクかながわの成り立ちや、その独自のフードバンク活動についてお話をうかがいました。この中で、団体が扱う食品量は驚くスピードで増加しているにもかかわらず、横浜の貧困率に対する必要量にさえ届いていないという現実も見えてきました。このような現状に対して、私たちができることはあるのでしょうか?
後編では、フードバンクというしくみを真ん中にして、私たち一人ひとりが取り組めることを明らかにしていきたいと思います。世界や日本の貧困問題を解消するために、私たちはどんな一歩を踏み出せばいいのでしょうか?
■「フードドライブ」がもたらすものは”気づき”
パルシステム横須賀センター祭でのフードドライブの様子(フードバンクかながわFacebookより)
―多くの事業者が、たくさんの食料を寄付しても、まだまだ必要量に足りないというお話でしたが、私たちが個人の力でできることは何かないでしょうか?
藤田さん:そうですね。フードドライブという言葉を聞いたことはありますか?
―フードドライブですか?
藤田さん:フードドライブとは、たとえば、安売りでまとめ買いしすぎてしまったもの、お中元やお歳暮のいただきものなどで、家庭では消費しきれずに余っているものを捨てずに持ち寄り、必要な人に届けるしくみをいいます。このフードドライブは個人で参加できますし、家庭の食品ロスを減らすこともできますので、ぜひ挑戦してもらいたいですね。
―聞いたことはありましたが、参加したことはありませんでした。確かに自宅で消費できずに保管してしまっている食品は思い当たりますね。
藤田さん:フードバンクかながわでは、フードドライブを去年からスタートしました。当初は年1回実施する計画でしたが、当時、事業者から想定していたよりも食料が集まらない時期があったので、食品の供給量を増やすため、計画よりたくさんのフードドライブを実施することにしたのです。その結果、去年はこのフードドライブで、もともと計画していた量の5倍の量の5トンが集ました。
―昨年の取り扱い食品量が46トンというお話でしたから、フードドライブで集まった食品は、全体の1割程度もあるということになりますね。
藤田さん:そうですね。今年は9月現在で、すでに7.4トンの食糧がフードドライブによって集まっていて、個人から集まる食糧は、全体の2割まで増えています。昨年フードドライブを始めた当初は、協同組合ユーコープ(以降、ユーコープ)の店舗でフードドライブを開催してもいいよという店舗に手あげ方式で募集しました。初めは5・6店舗程度を想定していたのですが、中型・大型店舗もあわせて20店舗が手をあげてくれました。現在はユーコープ店舗80店、生活クラブのデポ22店舗が参加し、フードドライブを常設するお店もあります。
―フードドライブの常設店舗があると、思い出したときにすぐにもって行けるので参加しやすいですね。
藤田さん:そうですね。でも、店舗をもたないパルシステム神奈川ゆめコープ(以降パルシステム)もフードドライブを行っているんですよ。しかも、このフードドライブで、我々の予想以上の食品量を集めているのです。
―店舗をもたないパルシステムは、どのようにフードドライブを実施しているのですか?
藤田さん:パルシステムの個人宅への配達時、「フードドライブ」という紙を貼って食品を返却するボックスに入れておくと、職員がフードドライブの食品として回収してくれます。こちらも参加しやすいしくみですよね。そのほか、さまざまな企業や団体が、イベントとしてフードドライブを実施する動きも出ています。今春はメーデーの横浜中央会場や、先日はイトーヨーカドーさんの店舗でも実施しました。このようなイベントでは、食料品を集めるのはもちろん目的のひとつですが、「フードドライブ」というアクションを知ってもらうこと、そして、その背景にある「食品ロス」や「貧困問題」が、自分の生活のすぐそばにあることや、自分たちが支援に関われることに気付いてもらうことも大切な目的だと思っています。
イトーヨーカドー店舗前で行ったフードドライブの様子(フードバンクかながわFacebookより)
―身近な店舗で開催していますし、非常にシンプルなしくみとなっていますから、「フードドライブ」はとても参加しやすいアクションだといえますね。この「フードドライブ」というアクションを、もっともっとたくさんの人が知ってほしいですね。
藤田さん;開催している団体やイベントによって、フードドライブで扱える食品の内容が変わることがありますので、開催団体などに確認して参加してくださいね。概ね、常温で保存できること、開封されていないこと、賞味期限が明示され、残り2カ月以上あることなどが謳われていると思います。
フードドライブを行っているユーコープ店舗について
https://www.ucoop.or.jp/info/2019/info_27530.html
■本当に必要な人に届いているのか?という疑問
―全体量として不足はしているとはいえ、事業者やフードドライブを通して大量の食品が集められていますよね。一方で、この大量の食品は、本当に必要な人のところに届いているのでしょうか?
藤田さん:フードバンクかながわでは、個人に対して直接食糧支援はしないということは前編でお話ししました。だから、私たちは、食糧支援が必要な人を支援する団体とつながっていく必要があります。食品を集める努力を重ねながら、食品を供給する相手も同時に増やしていかなければなりません。ここで食品を余らせることになってしまっては、本末転倒ですからね。
―両方を同時に増やしていくというのはとても大変ですね。
藤田さん:はい。しかし、食品を本当に必要な人のところに届けるには、しっかりと活動している支援団体に届けなければならないですよね。だから、私たちは、支援団体には一定の条件を提示して、そこが順守できる団体かを見極めるフェーズをもたせてもらっています。
―具体的にはどのような条件がありますか?
藤田さん:まず、少なくとも月1回以上の支援活動をされている団体で、食品をストックするスペースをもっていること。私たちが扱うのは常温保存ができる食品ばかりですので、冷蔵設備は不要です。また、食品を扱いますので、食中毒などの心配もあります。このような問題が発生した時は、フードバンク活動全体に影響を及ぼしますので、衛生管理担当者が配置されていること。また、私たちが準備している拠点まで、食品を取りに来られること、などがあります。活動場所の確認なども直接行って、これらの条件を守れる団体なのか面接も行っています。
―大切な食品ですから、本当に必要な人に届けられる団体に渡したいですよね。しかし、そのような団体の中でも、フードバンクというしくみは知っていても、どうやったらこのしくみを使えるようになるのかを知らない団体は少なくないのではないでしょうか?
藤田さん;おっしゃる通りかもしれません。神奈川県内に子ども食堂は200~300軒ほどあるのですが、フードバンクかながわに登録して食品供給を受けている団体はそのうち50団体ほどです。そのほかの団体は、このしくみの使い方をしらないのか、地域で独自に食品を賄えているのでしょう。
たとえば、相模原市では、年2回子ども食堂の連絡会を市が主催で開催しており、私たちも出席してフードバンクかながわへの利用方法の紹介をしていますが、それでも登録されない団体もあります。これは、団体自体で食品を集めるルートがきちんとできているのだと思います。
横須賀では全国でただ一軒、毎日開いている子ども食がありますが、ほとんどの子ども食堂の場合、月1回の開催です。食糧支援が必要な人のなかには、月に一度の支援では充分ではない人もいるでしょう。本当に必要な人に必要な量を届られるようになるには、食糧を届けられる団体や開催回数がもっと増えていかなえればならないでしょう。
フードバンクかながわを利用する団体の条件
https://www.fb-kanagawa.com/pdf/syokuhinteikyo.pdf
■「知る」からはじまる支援
フードバンク活動について学ぶ学生たち(フードバンクかながわFacebookより)
―必要な人に食料を届ける団体がもっと増えるためには、どういったことが必要でしょうか?
藤田さん;フードドライブもそうですが、「知る」ことは重要な支援です。貧困問題、食品ロス、そしてその対策としてのフードバンクかながわの活用方法について「知る」ことから始めてほしいと思います。ここフードバンクかながわでは、私たちの活動やみなさんができる支援内容を知ってもらうために、毎週研修を受け入れています。2時間くらいの研修のなかで、貧困・食品ロスの問題からフードバンク活動に関する講義を受け、精米や食品の仕分け作業なども実際にやっていただいています。
―毎週行っているのですか!?
藤田さん:はい。ホームページには掲載していませんので電話で問い合わせください。今年の夏休みも、小学5年生の女の子が、自由研究にフードバンクの活動を学びたいと電話をしてきました。そのときは、お父さんとふたりで研修を受けましたが、40名くらいまでの団体の受け入れも行っています。先日も、藤沢市の民生委員の団体が、40名ほどでバスを乗り付けてお越しになりました。私どもから供給した大量のお菓子が、社会福祉協議会を通じて配布されたのがきっかけとなり、「なぜこのような寄付がきたのか?」というのでみなさんで来られたそうです。
―行政とも貧困家庭とも近い距離で接する民生委員の団体さんでさえ、フードバンクの活用のしかたをしっかりとは理解できていなかったのですね。すると、一般的な市民団体には、もっと情報がいきわたっていないかもしれませんね。
藤田さん:フードバンクかながわがあるこの区域の中だけでいうと、この場所はアクセスしやすいというのもあって、近隣の方にうまく活用してもらっています。地区社協事務局長や町会長の集まりにも参加させていただいているなかで、並木地域ケアプラザで緊急支援のおねがいというのも来るようになりました。このように心配なご家庭や子どもの様子にいち早くつながる並木地域ケアプラザのような地域包括支援センターや地区社協の関係者が、フードバンクかながわとのつながり方を知り、地域の中で活用できるしくみができるといいなと思います。
―地域包括支援センターや地区社協など中間組織が、社会資源としてフードバンクかながわの活用方法を知ってもらうのは重要ですね。
藤田さん:そうですね。しかし、行政や中間組織のはたらきは重要である一方で、行政は組織が縦割りになる特徴があり、なかなかうまくいかない部分もあるのです。たとえば児童養護施設にお米を大量に寄付すると、この施設が受けている補助金が減らされるというのです。減らすのではなく、寄付によってまかなえた食費分を、ほかの予算に使ってもらったらいいじゃないか!と思うのですが、簡単にはいきません。こういった問題が表面化したときは、行政の中だけで解決することが難しそうなら、市会議員などへの働きかけも行っていきます。そういった活動を通して、川崎市では地域包括システムの中にフードバンクかながわが参加することになり、フードバンク活動をより周知しやすい環境が整えられたり、相模原センターに市の職員を配置できる関係性が築けたりしてきました。自治体によっていろいろ違いますが、フードバンク活動を浸透させるためのきっかけづくりは、フードバンクの役割だなとも思っています。
フードバンク活動のイメージ図。さまざまな機関が連携することで、無駄になるところであった食品が、必要な人の下で生かされています。
■「もったいない」を「分かち合い」・「ありがとう」へ
藤田さん:しかし一方で、支援の必要な人が、そのような組織とつながっていないケースもあるのです。生活困窮者支援法という法律はご存知でしょうか?この法律では、生活困窮者への支援をいくつか定めていますが、まずは行政なりがその対象者として本人を把握するところから始まります。しかし、日本人には、このような支援を申請することをためらう方が多く、本当に必要な方が支援に結び付いていないケースは少なくないでしょう。また、自分が支援を受ける立場だと理解していない方もとても多いと思います。
―そうすると、ご本人の周りにいる“地域の方”が気付いて、行政機関などへ相談していくことが大切ですよね。
藤田さん:おっしゃる通り、地域の方の目はとても重要になります。しかし行政につなげたとしても、本人が「自分に支援は必要ない」と感じて、支援を受けないケースも少なくありません。そこでここの地域でこんな話がありました。あるおばあちゃんがご主人を亡くされておひとりになってしまいました。もらっている年金の種類によっては、配偶者が亡くなることで、急激に生活困窮する場合があります。しかし、困っても役所に相談することはありません。「支援することない?」ときいてもほとんどの人が大丈夫といいます。このおばあちゃんといっしょの団地に住む主婦は、とてもこのおばあちゃんのことが気になっていました。そこで、「おばあちゃん、今度この団地で子ども食堂をすることになったの。人手が必要なので手伝ってくれないかしら。」とお願いしたところ、おばあちゃんは快くお手伝いに来てくれて、子どもたちといっしょに楽しくごはんを食べられたそうです。おばあちゃは支援を受けたつもりはないが、コーディネートした主婦は、子どももおばあちゃんもつなげていきたい思いがあったのです。こういった場を、フードバンクの食糧を使って広めてほしいというのがあって、フードバンクかながわのスローガンを、“「もったいない」を「分かち合い」・「ありがとう」へ”としました。食品だけでなく、支援を分かち合い、ありがとうにつなぎたいのです。
―このような場をつくるには、地域の力が本当に重要ですよね。
番外編 ~フードバンクかながわの使い方~
―子ども食堂の対象者は生活困窮者ばかりではないのですが、フードバンクから支援された食料を利用できるのでしょうか?
藤田さん:フードバンクかながわが支援するのは、経済的貧困を抱える人だけが対象ではありません。ひとり親家庭や独居のために、毎日の食事が孤食になりがちの人の中には、社会的、精神的貧困を抱える人もいらっしゃるでしょう。このような人々も支援の対象者といえます。しかし、運営する子ども食堂に営利が発生する場合は、フードバンクの支援対象とはなりませんのでお気をつください。
―食糧支援を受けるには、横浜市金沢区のフードバンクかながわがまで取りに行かなくてはいけませんか?
藤田さん:横浜市金沢区のフードバンクかながわに直接取りに来られる以外に、神奈川県下7カ所の中間拠点を設置しています。 中間拠点にはフードバンクかながわのスタッフはおりませんが、ユーコープなどその拠点の職員はいますので、箱の数だけ確認、荷渡しのサインを行って、食糧を受け取ってください。中身の確認は、持ち帰ってから行います。
中間拠点の一覧はこちら
https://www.fb-kanagawa.com/use.html
―支援していただく食料品はどのような内容になりますか?
藤田さん:団体登録の際に、どのような食品の提供を希望するかをアンケートさせてもらっています。子どもが多いようなら、お菓子を中心にすることもできます。また、生活困窮にある方には、ライフラインが止まっている方もいらっしゃいますので、お米も普通のお米以外に、炊飯器などを利用せずに調理できる災害備蓄米などを指定することも可能です。取りに来られる1週間くらい前までに必要な人数分をFAXで伝えてもらえたら準備をします。
編集部のひとこと

編集長
かなさん
大量の食糧、大量のお米。こんなにも食糧を余らせてしまっている現実と、これだけの食糧を前に、その必要量はまったく満たしていないという事実を目の当たりにして、「一人ひとりの行動で、なにかできることはないのか?!」と強く感じるインタビューでした。インタビュー中に藤田さんがおっしゃったひとことがあります。「ひとりがお米ひと粒残したら、横浜市全体で375万粒になるんだよ」375万粒のお米で、いったい何人の人がおなかいっぱい食事ができるのだろう。そういった想像が、たくさんの家庭の中で、当たり前にできる社会になるといいなと感じました。
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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