パルシステムインタビュー
- 【前編】食の安全に向き合ってきた私たちにだからこそできる食の支援がある! フードバンクかながわ事務局長 藤田 誠(まこと)さん
みなさんは、「フードバンク」という言葉をきいたことはありますか?フードバンクとは、「食の銀行」を意味する社会福祉活動で、食品取扱事業者が、さまざまな理由で自社では取り扱えなくなった商品をフードバンクへ寄付し、フードバンクが必要な人へ届けるしくみです。事業者は不要な食品廃棄を回避することが可能となり、フードロス対策としても大きな期待を寄せられています。
今回は、2018年4月よりフードバンク活動をスタートした公益財団法人フードバンクかながわ事務局長藤田誠さんに、昨今のフードロス(食料ロス)の問題をはじめ、フードバンクかながわの食の支援の在り方などお話をうかがうことができました。この記事が、みなさんの周囲にフードバンクの支援が必要な人が現れた時や、フードロスな生活に近づくためのガイドとなれば幸いです。
聞き手:たいせつじかん編集部
■まったく足りていません!食の支援
種類によって分類されている食品棚。どの棚も溢れるほどの食品が積まれています
―藤田さん、本日はよろしくお願いします。
藤田さん:よろしくお願いします。
―それにしても、すごい量の食料品ですね!
藤田さん:すごいでしょう?とくに今日は、先日の台風による堤防決壊で段ボールが濡れ、廃棄しなければならない食料品が大量に出たため、いつも以上に込み合っていますが、全体を通してみても、フードバンクかながわが扱う食品量は、当初の予想以上に広まっていると思います。2018年4月からはじまり、去年は46トン、2019年は今日現在(2019年9月現在)、つまり半年で46トンに到達しています。
―昨年の倍近いペースで伸びていることになりますね。これは、充分な量に近づいているということでしょうか?
藤田さん:いえいえ!まったく足りませんよ。
―ええ!?そうなんですか?
藤田さん:神奈川県は最低生活費は1,456,000円で、東京とほぼ同じで、日本の中では突出して高いです。この最低生活費を貧困線として、それ以下の人を貧困とした場合、貧困率は16.7%、153万人いる可能性があることになります。それに対して、このフードバンクかながわから支援できている人はせいぜい何千人。まったく足りていません。
―こんなにたくさん食料が集まっていても、必要量にはまったく届いていないのですね。
藤田さん:そうですね。またフードロスの視点からみても、まだまだこの活動が必要量に追いついていないことがよくわかります。たとえば、横浜市の家庭から出される食品廃棄が年間約10万トン超えているといわれています。でも、全国で100か所ほどあるフードバンクが扱っている食品量は、せいぜい年間7000トン~8000トン(藤田さんの推測)。横浜市の食品廃棄分にも及びません。日本全体での食品廃棄量が643万トンといわれていますから、日本全体のフードバンクで扱えているのは全体の0.1パーセントに満たないともいえます。
―フードバンクという言葉をよく聞くようになりましたので、食の支援やフードロスも充分な改善がされていると思いましたが、絶対量が足りていないという点には驚きました。
■私たちだからできるフードバンク活動がある
フードバンクかながわ成り立ちを話す藤田さん
―先ほどのお話から、食の支援の社会的な必要性がわかりました。そのうえで、フードバンクかながわが食支援に携わることになったきっかけを教えてください。
藤田さん:はい。フードバンクかながわは、県生活協同組合連合会(以降、生協連)、生活協同組合ユーコープ、県労働者福祉協議会など12団体で組織した団体です。食を扱っている団体が多く属していますが、じつは、最初からフードバンク活動をするために組織されたわけではないのです。
―そうなのですか?!
藤田さん:JAを含め神奈川県内の生活協同組合は、この40年間の歴史の中で連携が蓄積されていて、これまでも神奈川県の生協連でさまざまな活動をしてきました。そのひとつとして貧困問題への取り組みを考える場面があり、当初は、多重債務者に対応するためのマイクロクレジット(少額貸付)という支援の検討をすすめていたのです。しかし、お金の支援というのはかなりハードルが高かったため、もうひとつ検討をすすめていたフードバンクについて研究をしていこうということになりました。これが4年前の話です。半年ほど検討し、1年間準備をして、昨年4月(2018年4月)にフードバンクかながわがスタートしました。
―食を扱う組織がたくさん集まってできた団体ですから、食の支援にはメリットがたくさんありそうですよね。
藤田さん:そうですね。全国にフードバンクは100くらいありますが、そのフードバンクが困っていることというのは、ほとんどがお金と物流にあり、安定してこの活動を継続するには、ある程度の資源(お金)と物流を確保することが課題でした。しかし私たちは生協の物流インフラを使わせてもらえることができたので、非常に大きなアドバンテージとなりました。
―フードバンクで扱う食品を生協の物流に乗せるということですね。
藤田さん:ええ。フードバンクかながわでは、集まった食品を拠点倉庫に取りに来てもらいますが、その拠点倉庫までの配送に物流業者を使うと、段ボールひとつが1000円としたら、1カゴ(10ケース)送るのに10,000円もかかってしまいます。とてもそんなお金はありません。そこで、普段生協で配達しているトラックの空便を使って、各拠点倉庫に食品を届けることにしました。フードバンクかながわは、1カゴ800円の実費だけお支払いしています。
―カゴ満載で物流業者を使用した場合と比べたら10分の1~20分の1の費用で物資を運搬できることになりますね!!
藤田さん:また、資金の問題についても、生協という大きな組織があるので、「申し訳ないけれどもしばらくの間だけたくさん会費をだしてほしい」と各団体におねがいして、主要団体だけで1500万円の資金を集めることができました。
―トントン拍子で話が決まっていくのは、40年の歴史の中で築いた信頼関係あってこそですね。
藤田さん:もちろんそれもありますが、この事業を始めるに当たって、生活協同組合ユーコープ(以降、ユーコープ)、パルシステム神奈川ゆめコープ(以降、パルシステム)、生活クラブ事業連合生活協同組合連合会(以降、生活クラブ)の3団体には、意思決定権のある人にこの団体への参加をお願いしました。だからこそ、さまざまな問題に対して迅速に対応をすることができたので、フードバンクかながわがの活動がはやいスピードで動き始めたのだと思います。
―この活動にかける思いというものを感じますね!
藤田さん:私たちはフードバンクとしては後発団体になりますが、私たちだからできるフードバンク活動があると思っています。たとえば、神奈川県にはいくつかのフードバンクがあります。考え方はみな同じで、余剰の食品を必要な人に届けることです。しかし、ほかの組織との大きな違いは、私たちは個人には提供しないという点です。また、多くのフードバンクは、地域密着型であり、たいてい拠点周辺の地域が対象地域となっていますが、私たちは神奈川県全域を対象とし、食の支援を行う団体や、それこそ各地のフードバンクそのものに食料提供を行っています。
―フードバンク組織そのものを支える力を発揮しているということですね。神奈川県下に広い物流網があり、また、団体を構成する主要組織が、食を扱う大きな生協だからこそできるフードバンク活動というわけですね。
■食の大切さを知っているからこそのプライドと理念―「おいしい」を届けたい
お米を再計量するスタッフ。1パック1.5キロと、配布しやすく食べきれる少量パックに再計量している
藤田さん:この場所、お米屋さん状態でしょう。ここにはお米が毎月1.5トンから2トン入ってくるのです。
―確かに。あちらでずっと精米や袋詰めの作業をされているのが気になっていました。
藤田さん:そもそもユーコープなどは、お米はお店で精米して3週間以内で売り切るという販売基準があって、その基準日までに売れ切れなかったお米や予備品のお米などがフードバンクに寄付されてきます。予備だけでも毎週200キロ、毎月800キロほどあるうえに、ミツハシライスさんからも毎月600キロの寄付をいただいています。たくさんのお米を寄付してくれる協力組織があり、私たちのところは、本当にたくさんのお米が集まってきます。
―フードバンクがなかったら、それだけのお米が無駄になってしまうともいえますね。
藤田さん:いえいえ。じつは、ミツハシライスさんはこれまで、古いお米はなんらかの商品として再加工していたので、お米があまって廃棄するということはなかったのです。今回はそんななかで、社会貢献としてフードバンクにお米を寄付してくださっているんです。
―本来は商品の材料になるものを寄付してくださっているんですね。ありがたいですね!
藤田さん:そうですね。ミツハシライスさんでは精米して3日以内にスーパーや生協に送ることになっていますので、ここに寄付されるお米は3日を超えたものですが、じっさいには店舗にあるお米より新しいものが多いのではないでしょうか。また、ユーコープから寄付されるお米も、新米でほとんどがこしひかり。だから、フードバンクかながわのお米はおいしい!といわれています。
―新米コシヒカリ、そして精米して間もないお米!なんだか温かいごはんを食べる笑顔の食卓の様子が目に浮かんできます!
藤田さん:そうですよね。温かでつやつやのごはんをしっかり食べたら、笑顔になりそうですよね。私たちは、食を安心と安全を扱う団体として、生活困窮の方への支援だからなんでもいいやとはできない、できるだけおいしくて安心して食べられるものを提供したい、食べてもらいたいという思いがあります。だからこそ、ここフードバンクかながわではお米の品質管理にとても気を配っています。
■ここまでするの!?フードバンクかながわ!!
藤田さん:ここに集められたお米は、全部再精米しています。じつはお米は、玄米の状態で、常温14度で保管すると3年程度もつのですが、一旦精米すると米の膜がはがれて保存きかなくなるのです。時間と共に表面が酸化して味が落ちていきます。しかし、もう一度再精米して磨いてあげると味が復活するんです。
―そうなんですね!でも、ただでさえお米の取り扱い量が多いのに、もう一度すべてのお米を精米するなんて、たいへんな作業ですよね。
藤田さん:ユーコープやミツハシライスだけでなく、さまざまなところからお米が寄付されてくるため、いろんな状態のお米が来ますので、やはりおいしく食べてもらうために再精米しようと決めました。今はだいたい5分づきくらいで磨いています。しかし、普通に精米すると割れてしまうので、ミツハシライスの品質管理責任者の方に来ていただいて、いろいろと技術指導もいただいたんですよ。
―ここまで手をかけたお米なんですね。
藤田さん:また、お米は1.5キロの袋に小分けし、真空パックしています。みなさんの手元に行っても、きちんと食べきれる量であることも大切ですし、また、お金も時間もかかりますが、虫対策としても真空パックが必要と考えました。
―寄付されたお米もきちんと14度に温度管理された冷蔵設備に保管されていますね。寄付してもらったお米を、おいしい状態で必要な人へ届けようとする理念とプライドを感じました。
前編はここまでです。後編もお楽しみに!
編集部のひとこと

編集長
かなさん
インタビューをしている間に、さまざまな団体が食品を取りに来られました。そのたびに、笑顔であいさつを交わし、食材が運ばれるのをじっと見送る藤田さん。食品の安全を扱ってきたからこそ、どんな組織の形となっても、安心しておいしい食品を提供するプライドをもって活動されているのだと思いました。一方で、所狭しと並べられた食品を乗せたカゴや、途切れることのないお米の精米や袋詰めする音によって「異常なほどに食べ物が余っている様子」を感じているのに、必要な人に必要な量が届いていないという事実を思うと、とても複雑な気持ちになりました。
次回の後編では、もっと必要な人に食の支援を届けるために、私たち一人ひとりができることにクローズアップしていきます。
- フードバンクかながわ公式ホームページ:
- https://www.fb-kanagawa.com/
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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