輝く男性インタビュー
- 宇宙を見ることは、未来を見ることになる!プラネタリウム・クリエーター大平貴之(おおひらたかゆき)さんインタビュー
プラネタリウム・クリエーター大平貴之さん
川崎市出身の大平貴之さんは、小学生のころからプラネタリウム作成を始め、今ではプラネタリウム・クリエーターとしてさまざまな場で活動されています。だれも挑戦したことのない世界へ挑み続ける大平さんに、これまでのお話とこれからのビジョンを聞いてきました。
趣味から始まったプラネタリウム作りが、どのように仕事になっていったのか。そもそも、存在していなかった仕事を作り上げるうえでの苦悩はどのようなものであったのか?そして、プラネタリウム・クリエーターとしての立場を確立した大平さんは今、何を考えているのか。
宇宙をめぐる壮大なお話をお聞きすることができました。ぜひ、お楽しみください。
聞き手:たいせつじかん編集部
■プラネタリウムを小学生から自作し始める
小学生のころのお話をする大平さん
-小学生のころから、プラネタリウムを自作し始めたとお聞きしたのですが作り始めたきっかけを教えてください。
大平さん:きっかけについては、よく覚えていないのですよね。初めて見たプラネタリウムがとてもきれいだと感動したことを覚えているんです。私は川崎の生まれなのですが、あまり星が見えないのでなおさらそう感じたのかもしれません。
-感動したからといって簡単に作れるものではないと思いますが、そもそも何かものを作ることが好きだったんですか?
大平さん:そうですね。とくに、自分で展開図を描いて紙工作を作ることが好きでしたね。完成形を想像して展開図を描くという感じです。
-プラネタリウムは作りたいからといって、簡単に作れるものではないですよね。大平少年はどのように自作を始めるんですか?
大平さん:まずは、百科事典で自分で調べるところから始めたんですよね。あとは、隣にエンジニアの方が住んでいたので、相談したりしていましたね。
-えっ、「プラネタリウムを作っているんだけど」と相談したんですか?その方も驚いたでしょうね!
大平さん:まあ、こちらは子どもですからわかることは教えてあげるよという軽い感じだったと思いますよ。
でも、それ以外はすべて自分で学んで、作るということですよね。
-大学生のころには、個人が作ったプラネタリウムとしては前代未聞の作品として「アストロライナー」というプラネタリウムを発表されたお聞きしたのですが、これはどのような作品だったのですか?
大平さん:すごく簡単に言うと、巷にあるプラネタリウムと同じレベルのものを個人で自作したということです。
-小学校から続けてきた趣味としてのプラネタリウムがプロが作るものと同じレベルになったんですね…本当にすごいですね。
大平さん:でも、実際には学生でもチームであればいいものを作っている人たちはたくさんいますよ。私は、個人で作ったというところを評価されたんだと思います。
プラネタリウムは、エンジニアリングの塊なので個人でゼロから作るとなるとかなり幅広い知識が必要ですから、それなりに大変なんですよね。
-そうですよね。実際に、どのような分野の知識が必要なんですか?
大平さん:機械工学、電気工学、光学、コンピューターに関する知識、プログラミング、数学、化学、物理学、天文学ですかね。
私は、大学で機械工学を先行していたのですんなりといけましたが、電気工学やコンピューターについてはかなり苦戦しました。
-これだけの分野の知識をプラネタリウムを作るという趣味のために独学で学ばれたのはすごい以外の言葉が浮かびません。
大平さん:大変であったと思いますが、プラネタリウムを完成させるということの全体像が見えたときからは楽しさしかありませんでした。当然、作る過程も楽しいからやっているわけですからそれまでもつらさしかなかったわけではありませんよ。
■まさか、プラネタリウムが仕事になるなんて思っていなかった
現在のMEGASTAR
-その後はソニーに入社されたとお聞きしたのですが、そこからプラネタリウム・クリエーターになるまでのお話をお聞かせください。
大平さん:プラネタリウムは趣味で作っていましたし、いつかは卒業しないといけないとわかっていましたら、大学を卒業後ソニーに入社しました。
しかし、プラネタリウムに変わる新しいテーマがなかなか見つからなかったんです。
そんな中、大阪で開催されたプラネタリウムの国際大会に、私のプラネタリウムを出品したのですが、そのプラネタリウムが海外の方たちから大変褒められたんですよね。
褒められれば褒められるほど、自分の中でのプラネタリウムに対する情熱が戻ってきたんです。
-社会人になってプラネタリウムに変わる何かを探していたけど、プラネタリウムへの情熱が戻ってきちゃったんですね!
大平さん:そうなんですよね。でも、プラネタリウムではごはんは食べられないと思っていたのでどうしたものかなと思っていたので、ソニーで働きながらプラネタリウム作りを続けていました。
でも、「MEGASTAR(メガスター)」という新しいプラネタリウムをもって、ロンドンで開催された国際大会に出品してたら、それが大絶賛されて、少しずつイベントなどに呼ばれるようになったり、テレビや雑誌などで取り上げられるようになって少しずつですがプラネタリウムでもお金をもらえるようになったんです。
でも、その時も一時的なブームだと思っていたので、プラネタリウムが生業になるとは思わず、ソニー社内でプラネタリウム事業をやろうという話になっていたんです。
しかし、それがうまく実現できずに、なし崩し的に独立して目の前のイベントやお仕事をこなすために独立ということになっちゃいました。
-じゃあ、独立するぞと決意して独立されたわけでなかったんですね。これはいけるかもと思ったタイミングはあったんですか?
大平さん:あえて潮目が変わったタイミングをあげるとすればMEGASTARが「世界で最も先進的なプラネタリウム」としてギネス認定を受けて、さらに毛利衛※さんが館長を務めるお台場の日本科学未来館のプラネタリウムにMEGASTARを採用したいと言ってくださったことなどが重なったに少し景色が変わったような気がしましたね。
それまでは、イベントなどで短期的に私のプラネタリウムが使われることはありましたが、公共施設で常設されるなんて考えたこともありませんでしたからね。
私のような個人に近い事業者が選ばれるなんて、当時の常識では考えられませんでしたが、毛利さんが絶対採用したいと粘り強く交渉していただいたようです。
※北海道出身の宇宙飛行士
-なんか、すごい劇的なお話ですね。趣味として作ったプラネタリウムが世界一になったんですね。そこまで突き抜けて、職業としてのプラネタリウム・クリエーターが生まれたんですね。
大平さん:そうですね。でも、プラネタリウムを作ることはできるようになりましたが、会社経営は非常にむずかしいですけどね(笑)
■3・11以降に夜空にはせる思いとは
今後のビジョンについて語る大平さん
-プラネタリウム・クリエーターとしての今後のビジョンについてお聞かせください。
大平さん:プラネタリウムの技術革新はめざましいものがあります。たとえば、先日は西武ドームにプラネタリウムを映しました。これまでの技術では、ドーム球場のような大きな場所にプラネタリウムを映し出すことは不可能でしたが、今ではそれが現実になりました。今後も、どんどんスケールアップしていくでしょう。
また、映し出せる星の数も増え続けています。今では、私たちのプラネタリウムよりもたくさんの星を映し出せる他社のプラネタリウムも発売されています。
しかし、こういった技術革新はめざすべきものとしては本質的ではないと考えています。
今は、人々の生活にプラネタリウムがどう役立てるのか、役立つプラネタリウムとはどういったものであるのかを考えて活動しています。
‐人々の生活に役立つプラネタリウムですか。むずかしいですね。
大平さん:そうなんです。私は学生のころからプラネタリウムが人々の前からなくなったとしても誰も困らないなとずっと思っていたんです。それでも若い頃は、自分の知的好奇心に突き動かされるようにして熱中していたのですが、職業になるとそのことがずっと胸の中にもやもや残っていました。
‐プラネタリウムを作ることの意義はなんであるのかの答えがない状態が続いていたということですね。
大平さん:しかし、この思いを変えたできごとが、東日本大震災後の原発事故だったんです。
あの日以来、エネルギー・環境問題に関する問題意識が世間的にも自分の中でも一気に盛り上がりましたよね。
そんな中、ある人からこう言われました。
「私利私欲にまみれた挙句、たいへんな被害が出るような事故を起こした大企業に働く人たちに比べて、壮大な夢を追いかけてものづくりを続けている大平さんは本当にすばらしいですね」
おそらく、その方からしたら褒め言葉だったのだと思いますが、素直に喜べませんでした。
彼らは、人々の生活を支える電気を作る仕事を続けてきた人たちなんですよね。それに比べて私は、プラネタリウムというなくなっても誰も困らないものを作り、CMに出演し世間的にすばらしい人と絶賛される。
このことに負い目を感じました。こんなことを続けていていいのかとも思いました。
‐そんなことがあったんですね。しかし、ここから答えを見つけることになるんですね。
大平さん:そこから、私なりにエネルギー・環境問題や、地球の生態系について調べられる範囲で調べた結果、どれも考えている以上に深刻であることがわかりました。
今の生活を100年後は続けていられないという説もあるほど、さまざまな問題に対して真剣に取り組まなければいけないという現実があることを知りました。
でも、誰も経験をしたことのない未来が訪れようとしているのですから誰も答えをもっていないんです。
でもあるとき、地球には答えはないが、ほかの星には答えがあるのではないかと思い至りました。宇宙には無数の星があるわけですよね。今の技術では、見ることができないですが地球と同じような星がいくつもあったとして不思議ではないわけです。
SFみたいな話に聞こえるかもしれませんが、そういった星をみつけることができれば、地球が抱えている問題の答えがあるかもしれない、ヒントがあるかもしれないと思うんです。
‐なるほど、地球がたどるであろう歴史をすでに経験している星があればそこからどう対処すればよいのかを知ることができるかもしれないということですね。
大平さん:そうなんです。そういう問題提起をするためにプラネタリウムはもっとも最適なツールだと思うんです。
どこで誰にどのようにプラネタリウムを見せるのかがとても大切で、夜空を見上げて、夢やロマンを感じることも大切ですが、あわせて現実を見て行動を起こそうということをメッセ―ジとして伝えていくことが私のミッションだと思っています。
‐とても興味深いお話ですね。しかし、プラネタリウムを見ながら目の前の問題を考えるというのはとてもいい試みである感じます。無数の星が存在する宇宙の中にある私たちの地球という視点をプラネタリウムを見ながら考えると地球の問題を自分ごととしてとらえやすい気がします。
■「人間は可能は証明できるが、不可能は証明できない」
‐最後に、過去のインタビューで「人間は可能は証明できるが、不可能は証明できない」とおっしゃっています。この言葉の真意についてお聞かせください。
大平さん:これは、不可能がないと言っているわけではないんです。
ライト兄弟の例を挙げることがわかりやすいのですが、彼らが空を飛んだころは、人間が空を飛ぶことは不可能であると言い切られていたんです。しかし、ライト兄弟が空を飛んでしまった。可能を証明してしまったんです。
誰にも未来にどんな技術があるかは予測できませんから、すべてのことにおいて、絶対に不可能であるとは言い切れないんです。
‐これは、ポジティブにとらえていいんですよね?
大平さん:うーん、ふたつの側面があると思います。人間は、不可能を証明できるほど賢くないともとらえられるし、できないと決めつける必要はないともとらえられるんです。
‐でも、この先の未来を明るいものに変えられるようにたくさんの可能をみんなで見つけられれば未来を変えられると考えることもできますね!
大平さん:そうですね。しっかりと現実を見つめて行動を起こしていければ可能であることは増えるはずですから、未来も変えられると考えることができますね。
‐今日はありがとうございました。
編集部のひとこと

ライター
せいくん
「夜空にある星や月は、空想の世界ではなく実際に存在しているんです。現実なんですよね」と大平さんはおっしゃいました。そして、そこにはこれからの人類に対するたくさんの示唆があるはずだというお話をお聞きして、私自身が地球に対する問題意識を強くするインタビューとなりました。
SFのようなお話が現実になってしまうかもしれない。そうならないようにみんなができることを少しずつ行動していかなければいけないなと強く思いました。
大平さんの淡々とした口調で語られるお話には、とても引き込まれました。また、別の企画でぜひ続きのお話をお聞きしたいです。
- MEGASTAR オフィシャルサイト:
- https://www.megastar.jp/
編集部メンバー
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ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。 |
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