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輝く男性インタビュー

【後編】モノだけじゃない!ヒトもまちもあたためる!株式会社スリーハイ 代表取締役男澤誠さんインタビュー

株式会社スリーハイの皆様

横浜市都筑区東山田の準工業地域―株式会社スリーハイが中心となって、地域いちがんで取り組んでいる「こどもまち探検」に熱い視線が注がれています。2013年からはじまった「こどもまち探検」プログラムが、今の輝きを放つには、大きな苦労があったことを前編でうかがいました。

後編では、この「こどもまち探検」プログラムになくてはならない存在の株式会社スリーハイ自身が、地域活動を自分ごととして捉え、名実ともに「地域のリーダー的企業」となるまでのお話。男澤さんを中心に、社員たちがどのように心を通わせていったのか!?会社のなかだけでなく、親子関係、友達関係の中でも通じる、深~いお話です!

聞き手:たいせつじかん編集部

■男澤社長、地球に帰還する!

―では、今の従業員のみなさんとの信頼関係ができたのには、どんなできごとがあったのでしょうか?

男澤さん:2代目社長になって経営塾に行き始めたときの話なんですが。そこで聞く話は、非常に魅力的な内容の話ばかりなものですから、わたしは会社に帰ってすぐに実践したくなるわけです。理念を作り、大きなビジョンを掲げてみんなに示し、「今日からスリーハイはこっちに行くぞ!」と先導しようとしました。しかし、そのときのスリーハイは、お客様からオーダーをいただいて、それを正しく作って出荷するのが仕事。あたりまえですよね・・・。そこに急に、きらきらと輝く理念やビジョンをもってこられた社員たちは、「この社長は何言っちゃってんだろう・・・???」となってしまったわけです。私が大きなビジョンをかかげて話せば話すほど、社員との距離が大きくなっていくのを感じました。

―まさに、孤独ですね・・・。

男澤さん:そのとき、自分なりに悩みました、なんでなんだろうな・・・て。だって学んできて正しいことを言っていると思っているから。会社も発展させたい、どうしても会社を未来につれていきたい。思えば思うほど口調が強くなっていきました。どうして?なんでわかんないんだよ!これだけじゃないよ、仕事は!!!

そしたらあるとき、ある人に言われたんです。「そりゃだめですね」って。「男澤さんは金星みたいな遠いところに行っていて、社員はみんな地球にいるんです。社長はその金星から、地球にいる社員たちを引っ張って、自分のところへ寄せようとしているんです。社長と社員はゴムでつながっているから、ゴムが伸び切っちゃうと切れるでしょ。そうなったら会社はおわりだから、みんなのもとに戻って、ゴムをゆるめろ」といわれました。

そういわれて初めて気づきましたね。自分が正しいことをやっているつもりなのは勘違いで、じつはちゃんと社員を導いてはいなかったのだと。

―具体的にはどういうことをしたのですか?

男澤さん:会社にいるようにしました。外で勉強すればするほどそれが楽しくなっちゃって、朝からいないことが多かったから。

―松本さんは、そこに気づいていましたか?

松本さん:ええ。最初は深い意味まではわかりませんでしたが、感じていました。

■社長の思いが見え始めた瞬間

株式会社スリーハイ 松本さん

―社長が会社にいるようになったあと、社長のやりたいことがわかってきたのはどんなときでしたか?

松本さん:見えてきたというよりは、いろんな活動を自らやられていたので、そういう姿を見ていると、一度自分も行ってみようかなと思って。行ってみたら一気に理解が進んだ場面がありました。言葉で聴いてもあまりイメージできなかったことが、実感しないとなかなかわからないものなんだな・・・と思いましたね。

―松本さんはどういった実感があったのですか?

松本さん:スリーハイが「こどもまち探検」の地域活動をはじめる当初、社長の方からいろんな集まりに行ってこいちわれて、行政やCSRの集まりに行っていたとき、ある言葉が気になってこの活動が自分軸になったように思います。それは、「首都圏の子どもたちが将来に対して夢が持てない」ということでした。自分ができることを考えていると、「こどもまち探検」がストンと自分の中に落ち着いたんですね。私自身も社会に出たとき自信がないとか、こわいなと思ったときがありました。考えてみたら、自分が子どものときも、知らないおとなと接することなんてほとんどなかったですしね。だから、子どものときに町工場の社長さんや社員さんを見れば、こうなりたいなというきっかけになったりするのかなと思いました。わたしたちが「こどもまち探検」で、キラキラとした働く姿を見せてあげれば、そのときの記憶が、子どもたちが働く将来に対して、夢や希望をもつきっかけになるんじゃないだろうか思いました。

■東山田モデル ~なぜ地域活動か。これからの思い~

―「こどもまち探検」を中心に、男澤さんはさまざまな地域活動、地域づくりネットワークなどに参加されています。男澤さんが地域づくりに目を向けた理由はなんでしょうか?

男澤さん:もともとここは準工業地域。お話しした通り、住宅と工場が混在する中で仕事をさせてもらっていますが、このような地域は全国でもトラブルが多発しているところが多いんですね。この問題とは別で、自分たちの問題をもっと大きな視点に置き換えると、製造業って先細りしているという課題を抱えています。人口減少による担い手不足、人手不足、技術の流出。わたしたちのような手作りの製品を作っている町工場というのは何年後かになくなってしまうという危惧もあります。だから、わたしたちのこの経験や技術といった財産や資源を、この地域を使って魅力にしていきたいと考えました。あるときから、魅力を作るときに、次の世代の子どもたちに技術を残していくというのがひとつの生き方のように感じるようになり、今の活動につながっています。

―自分たちの地域にある町工場群が、子どもたちの宝物の場所、自慢の場所、つまりは地域の魅力になっていくということですね。

男澤さん:この東山田のフィールドを使って、自分たちの魅力も作り、東山田の魅力もよりいいものにしていく。経済を支えている小さな町工場を知ることで将来の選択が増えるのはいいことです。わたしたちは、いずれ子どもたち自身が、自分たちの町を守り、魅力を伝え残していってくれることを願っています。

―最後に、男澤さんが今後やろうとしていること、教えてください。

男澤さん:準工業地域は、その地域がもっている特性を生かしてすてきなところになるということをほかの地域に発信していけたらなと思っています。それには、地域とつながるいる以外に、具体的にどういうことをしていったらいいのか・・・これをまとめていきたいですね。

準工業地域って地域のハブになるんじゃなかと思っているんです。

―ハブですか?

男澤さん:準工業地域は、住宅と工場が隣接していて、多世代の人が近隣に住んでいる。じつは働きたい人がすぐ働ける場所、子どもはすぐ近くに学べる場所がある、シニアが次の働き口や地域のために力を発揮する場所―職住近接。準工業地域は、あっちこっちで揉めてる、裁判になっているケースも少なくありません。それってどうなんだろう?工場で働く人も、地域の人ともっと顔見知りになって仲良くなる。学校のみなさんといっしょになって地域を見ていけたらいいですね。東山田でいろんな実験を行ったプログラムを、東山田モデルにして全国に広めたい、そう思っています。

番外編

今回のインタビューで、「町工場」や「準工業地域」に対するイメージを「すてきに」裏切ってくださいました。これは男澤さんをはじめとする、株式会社スリーハイのみなさんの魅力が、「町工場」や「準工業地域」の新しい価値を生み出しているのだと思います。ここからは番外編として、町工場である株式会社スリーハイの魅力についてお伝えしたいと思います。みなさんの地域にある町工場、または住んでいる近くに町工場がなくても、日本の経済を支える町工場にも、いろいろ魅力があるのだと思います。

■工業用ヒーター???・・・って人にこそ知ってほしい!

わたしたち一般人にとって「ヒーター」といえば、エアコンなど室内をあたためるものが思い浮かぶのではないでしょうか?株式会社スリーハイが手掛けるのは「工業用ヒーター」。わたしたちにとっては、どこでそれらが活用されるのかがさっぱりわかりません。しかし、じつはわたしたちの生活に密着しているのが工業用ヒーターなのです。たとえば、キャラクターシールが転写されたマグカップ。このシールをしっかりと張り付けるには、ヒーターによる加熱が欠かせません。また、冬季に水道管などが凍結するのを防ぐために、配管に巻き付けるタイプのヒーターも使われています。このように、生活の中で必要なさまざまな用具に対して、その形や用途に合わせた温度をオリジナルで製造しているのが株式会社スリーハイだということです。

■製造業の魅力をチラリ

GOEMON-150の命名秘話を話す松本さん

GOEMON-150の命名秘話を話す松本さん

工業製品に限らず、食品でもなんでも、商品には名前があります。製造業の魅力であり、非常にむずかしい工程のひとつに「製品名をつける」というものがあります。製品名がすぐれていることで、爆発的ヒットを巻き起こした商品も思い浮かぶのではないでしょうか?大企業ともなると、製品名をコピーライターなどの専門家に依頼することもあるとか。しかし、株式会社スリーハイでは、非常にユニークなネーミングセンスをもつ松本さんという社員がいらっしゃいます。

GOEMONは、ペンキなどの一斗缶をあたためるヒーター。その名の通り、五右衛門風呂のように缶をあたためます。工業製品ではA-100やN-SSCなど、記号で製品名をつけることが多かったそうですが、男澤社長に「こんなのダメダメ!」と言われた松本さんが、練りに練り、満を持して命名したのがこのGOEMON-150とのこと。

GOEMON-150の製品カタログ

GOEMON-150の製品カタログ

また、株式会社スリーハイでは世界最小の工業用ヒーターMASANORIも製造しています。

1円玉より小さい世界最小ヒーター MASANORI。その命名秘話を聞いてみると・・・

「この製品はね、セラミックでできているんですよ(どや顔)」のひとこと。

「え?」

「この製品はね、“セラミック”でできているんですよ(どや顔ふたたび)」

「??」

「この製品はね、“セラ”ミックでできているんですよ(少々不安げ)」

「“セラ”ミック??“セラ”?セラ・・・世良・・・・」

いかがですか?MASANORIの命名秘話、わかりましたか?

■会わなくても、会った気がするHP

産業界では、株式会社スリーハイの開発力、製品力もさることながら、同社のホームページの秀逸性が取り上げられることが多いそうです。見ればわかる、その魅力。インタビュー前に少しのぞかせていただいたのですが、インタビューでうかがったとき、初めて会ったとは思えないほどの親近感があったのは、人柄だけでなく会わなくても会った気がするこのホームページのおかげだったのかもしれません。

みなさんも、ちょっと覗いてみませんか?工業用ヒーターなんて、直接自分たちには関係ないと思いがちですが、地域活動をすすめる同社のホームページには、地域や日本の未来について役立つ情報がたくさん掲載されていますよ。

 

編集部のひとこと

編集長

かなさん

ショールームであるDENに入ると、お店の人ではなく、作業着を着た人たちが「いらっしゃいませ」と笑顔であいさつをしてくれました。どこから見ても文句なしのおしゃれなカフェに、文句なしのおもてなしの笑顔がある。そんなアンバランスな雰囲気を、カフェの、会社の、地域の魅力として作り上げた男澤さん。社員が、地域が、カフェのお客様がとてもいい笑顔ですごせるのは、男澤さんが、近くから、遠くから、いろんな方法で「あたためて」下さっているからなのだろうなと思いました。こんなふうに、子どものこと、地域のことを思い、魅力的な活動をされている事実を知って、日本の未来の明るさを感じずにはいられない、清々しいインタビューとなりました。

編集部メンバー

編集長
かなさん

ふたりの子どもがいるワーママ。お酒が好き。とにかく声が大きい。

ライター
せいくん

家事全般、特に料理が得意な新人ライター。気も声も小さい。

ライター
ゆめちゃん

好奇心旺盛。食べ歩きや女子会が大好き。いつもTシャツ。

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